Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2021/08/21
Update

『あらののはて』舞木ひと美インタビュー|映画を作る本当の意味と女優としてダンサーとして表現を続ける“核”

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『あらののはて』は2021年8月21日(土)より池袋シネマ・ロサ他にて全国順次公開!

『カメラを止めるな!』の女優・しゅはまはるみ、『イソップの思うツボ』の俳優・藤田健彦、舞台演出やアニメ作品制作に携わってきた監督・長谷川朋史が結成した自主映画制作ユニット「ルネシネマ」。

第2作となる映画『あらののはて』は、高校時代に感じた“ある感情”を8年経っても忘れられずにいる女性と、そのきっかけとなった元同級生の間に残り続ける“青春”を描いた作品です。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念して、主人公・野々宮風子役を演じ、本作のプロデューサーも務めた女優・ダンサー・振付師の舞木ひと美さんにインタビュー。

主人公・風子を演じるにあたってこだわった演技、髙橋雄祐さん演じる荒野と風子の関係性、自身の「表現」や映画に対する想いなど、貴重なお話を伺いました。

スポンサーリンク

「この主人公は、舞木さんだから」


(C)ルネシネマ

──映画『あらののはて』の企画について、長谷川監督からは当時どのようなご説明をお聞きになったのでしょうか?

舞木ひと美(以下、舞木):この映画の企画書を渡された時、長谷川監督には「この主人公は、舞木さんだから」と言われたのはよく覚えています。そして私が「この子、私なんですか?」と尋ねると、「そう、舞木さん不思議ちゃんでしょ?この子もそうなんだ」と返されました。実はその時にはじめて、「自分は不思議ちゃんなのか?」と意識して考えるようになったんです。

ただ改めて考えみると、自分はいわゆる「天然」とは違うと思う一方で、人に「不思議」と思われるのも何となく分かる気がしました。そう思うと長谷川監督の言葉は、自分自身の自覚していなかった部分に気づくきっかけになったのかもしれません。

こだわった風子の「歩き方」


(C)ルネシネマ

──本作の主人公・風子を演じられるにあたって、特にこだわられた演技はありますか?

舞木:作中、風子が学校の渡り廊下で荒野にガムをあげた後、荒野が男友達と一緒にどこかへ行くのを見届けてから、その場を去ってゆく場面があるんですが、あの場面での風子の「歩き方」はとてもこだわりました。

風子は決して明るくはない性格で、その影響もあって胸を張って歩かないんです。猫背とまではいかないものの、胸筋を動かさないわけですから、どうしても歩き方やその後ろ姿にも変化が生まれます。「太陽に胸を張っていない感覚」と言えばいいんでしょうか。一方で彼女は暗い性格でもないので、その微妙な気質の加減と身体への表れ方は、とても細かいですがこだわった点です。

そもそも「歩く」や「走る」は、ほとんどの人ができる動作だからこそ、それぞれの心身の特徴が一番よく表れている動作だと私は思っています。その動作が好きでこだわるのは、自分がダンスをやっているからなのかもしれませんが、映画や舞台などで他の役者さんの演技を見る際も、その人の歩き方などをよく見ていますね。

スポンサーリンク

あまりにも不器用な風子と荒野


(C)ルネシネマ

──主人公・風子を演じられた他、プロデューサーとしても本作を見つめられてきた舞木さんには、風子と荒野の関係性はどのように映ったのでしょうか?

舞木:「お互いの相手へのアプローチの仕方が、本当に不器用だな」「でも、惹かれ合うんだろうなあ、この二人は」と思いましたね。先ほど触れた風子が荒野にガムをあげる場面も、本当に相手への言葉や接し方が回りくどい。二人はずっと、絶妙なラインで噛み合っていないんです。

ですがそれは、「好きだから恥ずかしくて想いを伝えられないから」というわけではなく、お互いが根っからそういう気質の人間だからなんだと思います。

もしもっと器用な人が恋愛をするとしたら、一個先の小さな目標を立てては達成し、それを繰り返す形で相手にアプローチを続けて「付き合う」という最大のゴールへと進んでいくはずです。ですが、風子と荒野は常に小さな衝動で行動をしていて、小さな目標もその先にある大きなゴールすらも見えずにお互いが進んでいるんです。


(C)ルネシネマ

舞木:そもそもこの二人には、「この人と付き合いたい」という欲求も明確にはなくて、ただどこか似ている部分がある相手に何となく惹かれ合っているだけなのかもしれないです。

それに、二人が惹かれ合い続けるのが決定的になってしまったのも、「早朝の誰もいない教室、二人きりで描き手/モデルとして絵を描く」という非日常的な出来事にたまたま身を置いてしまったことで、お互いが感じたことのない感覚に至ってしまったという偶然の結果なんです。

「早朝の誰もいない教室」という舞台も、それが「デッサンに集中できるちょうどいい時間と場所」だったからというだけで、「早朝なら教室には誰もいないから、何か特別な感覚を味わえるかもしれない」という欲もなかった。結果的に、そういう環境に身を置いてしまっただけなんだと私は感じています。

自分自身の「可能性」を引き上げる表現を


photo by 田中舘裕介

──舞木さんが女優という仕事をしたいと思われたきっかけは何なのでしょうか?

舞木:実は「女優という仕事をしてみたい」と最初に思ったのは幼稚園の年少組の頃で、オードリー・ヘップバーンさんの『ローマの休日』を観て「こういう仕事をしてみたい」と思ったんです。

一方で3歳の頃からダンスをずっと続けていたんですが、「女優」と「ダンサー」というそれぞれの仕事がリンクしたのは、京都造形大学(現・京都芸術大学)に入ってからでした。

そこでお芝居はもちろん、「表現とは、エンタメとは何か?」について学んでいく中で、「ダンスも、歌も、芝居も、殺陣も、表現としては全て繋がっているし同じなんだ」「形式や手法、アプローチの仕方が違うだけで、“核”の部分は一緒なんだ」と気づいたことで、女優もダンサーもどちらも続けていきたいと思い立ったんです。

──舞木さんにとっての、あらゆる表現の「核」にあたるものとは一体何でしょうか?

舞木:どんな表現においても、「何をとっても、“自分自身”だな」とは常に突きつけられます。

例えば女優の仕事をする時には、演じる役と自分自身との距離感を測るわけですが、その中心にはまず自分自身が存在します。またキャスティングなど映画の裏方の仕事をする際も、その映画を客観視する必要があり、そのためには自分自身の位置を確認する必要があります。何をやるにしても毎回、本当に「自分って何なんだろう」と突きつけられます。

これまで私は、自分の考え方やボキャブラリー、あるいは言葉だけでは表せない自分の「可能性」を引き上げていく作業を続けるような感覚で仕事をしてきました。その過程の中で「核」になっているものも一緒に成長している気がするので、それはやはり「自分自身」なんだと感じています。

スポンサーリンク

「残していく」という映画の本当の良さ


photo by 田中舘裕介

──現在の舞木さんにとって、「映画」とは一体何でしょうか?

舞木:プロデュースをする立場として今後制作に携わっていく山本透監督の新作映画『有り、触れた、未来』も控えていて、そうして映画の仕事に取り組み続けている中で、その答えが見つかりつつあるとは感じています。

実はその映画は、宮城県で撮影をする予定なんです。2011年の東日本震災から10年が経つにあたって企画されたんですが、企画にあたって実際に多くの方々へ取材しお話を伺っていく中では、やっぱり「心の復興」はまだまだ先で、やっと生活できるように街自体は再建されたけれども、そこに住む方々の心はようやく「ふう」と一息がつけた段階なんだと実感しました。一息はつけたけれど、じゃあ今度は自分の心そのものと向き合っていかなくちゃいけない。今から「心の復興」を始めていく段階なんだと。

また2020年から続く新型コロナウィルスによる混乱の中でも、社会の風景や在り方、そこで暮らす人々やその心など多くのことが変化してしまい、同時に失うものもたくさんありました。

ただ映画の中では、その時のすべてが生き続けているんです。役者さんも、協力してくださったエキストラさんも、その背後に映っている風景もです。10年・20年後にそこへ訪れた時にはもう出会えないかもしれないけれど、画を通じて「確かに、そこに生きていた」と伝えられる。それが映画の本当の良さなのかもしれません。

また映画作りでは、いろんな部署や役目を持った人たちが集まって、何人ものクリエイティブな目線でその場所を見つめ、最も何かを伝えられる一つの画を決めていきます。たった一つの画のために、あらゆる細かい演出や見せ方をみんなで考え抜いて、みんなのクリエイティブな思考や想いが凝縮されていく。そして映画を撮った「当時の現在」が、未来にも続いていくんです。

『あらののはて』の作中で名前が出てくる『カサブランカ』のように、自分が生まれるよりも前に亡くなった名優たちも、映画を通して今も生き続けています。「残していく」ということこそが映画の良さであり、私が映画を好きな理由なんだと感じています。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

舞木ひと美プロフィール

1989年生まれ、宮城県出身。BABEL LABEL所属。

3歳からモダンバレエを始め、多数の作品に出演。大学時代には日本最大のダンスコンテスト「JAPAN DANCE DELIGHT」において優勝を果たしたJINの元でロックダンスを学び、その後もNYへ留学をし、多数ジャンルのダンスを学ぶ。その頃から舞台のダンス振付やダンス指導を始める。

主な映画振付作品は藤井道人監督作『⻘の帰り道』(2018)、深川栄洋監督作『そらのレストラン』(2019)、福田ももこ監督作『おいしい家族』(2019)など。

映画『あらののはて』の作品情報

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本・撮影・編集】
長谷川朋史

【キャスト】
舞木ひと美、髙橋雄祐、眞嶋優、成瀬美希、藤田健彦、しゅはまはるみ、政岡泰志、小林けんいち、山田伊久磨、兼尾洋泰、行永浩信、小谷愛美、才藤えみ、佐藤千青、藤井杏朱夏

【作品概要】
『カメラを止めるな!』の女優・しゅはまはるみ、『イソップの思うツボ』の俳優・藤田健彦、舞台演出やアニメ作品制作に携わってきた監督・長谷川朋史が結成した自主映画制作ユニット「ルネシネマ」による第2弾企画・製作作品。高校時代に感じた“ある感情”を8年経っても忘れられずにいる女性と、元同級生の間に残り続ける“青春”とその顛末を描く。

主人公・風子役を女優・ダンサー・振付家とマルチに活躍し、本作のプロデューサーも務めている舞木ひと美が務めた他、『無頼』『僕たちは変わらない朝を迎える』で注目を集める髙橋雄祐、眞嶋優、成瀬美希らが出演した。

映画『あらののはて』のあらすじ


(C)ルネシネマ

25歳フリーターの野々宮風子(舞木ひと美)は、高校2年の冬にクラスメートで美術部の大谷荒野(髙橋雄祐)に頼まれ、絵画モデルをした時に感じた理由のわからない絶頂感が今も忘れられない。

絶頂の末に失神した風子を見つけた担任教師(藤田健彦)の誤解により荒野は退学となり、以来、風子は荒野と会っていない。

8年の月日が流れた。あの日以来感じたことがない風子は、友人の珠美(しゅはまはるみ)にそそのかされ、マリア(眞嶋優)と同棲している荒野を訪ね、もう一度自分をモデルに絵を描けと迫るが……。

映画『あらののはて』は2021年8月21日(土)より池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!





関連記事

インタビュー特集

【上埜すみれインタビュー】映画『歌ってみた恋してみた』西荻ミナミ監督&大島薫らと“祝祭的な映画”を作りあげた

映画『歌ってみた 恋してみた』は2019年7月6日(金)より絶賛公開中 東京・高円寺を舞台に、小心者でニートなサブカル女子と奇妙な仲間たちが繰り広げる日常を描いた西荻ミナミ監督のファンタジードラマ映画 …

インタビュー特集

【ジョー・バリンジャー監督インタビュー】映画『テッド・バンディ』現代を生きる娘たちへ警告する“裏切り”と“偽り”

映画『テッド・バンディ』は2019年12月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー公開中! 1970年代アメリカ、30人以上の女性を惨殺したとされるテッド・バンディ。 IQ16 …

インタビュー特集

【園子温監督インタビュー】映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』次への橋渡しとなったターニングポイント的作品

映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』はTOHOシネマズ日比谷ほかにて絶賛公開中! 数々の問題作を作り続け、唯一無二の個性を発揮する映画監督の園子温。以前からハリウッドで映画を撮りたいと熱望してい …

インタビュー特集

【ウディ・ノーマン インタビュー】映画『カモン カモン』で乗り越えた“壁”と役者として忘れてはいけない“記憶”

映画『カモン カモン』は2022年4月22日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー! 『ムーンライト』『ミッドサマー』など数々の話題作を生み出す気鋭の映画会社「A24」が、『JOK …

インタビュー特集

【中川奈月監督インタビュー】映画『彼女はひとり』女の子の感情を描いた物語と今後の活動

ちば映画祭2019にて上映された中川奈月監督の映画『彼女はひとり』 「初期衝動」というテーマを掲げ、数々のインディペンデント映画を上映したちば映画祭2019。 そこで上映された作品の一つが、SKIPシ …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学