ちば映画祭2019にて上映された亀山睦実監督の映画『恋はストーク』
「初期衝動」というテーマを掲げ、数々のインディペンデント映画を上映したちば映画祭2019。
そこで上映された作品の1つが、第2回岩槻映画祭の短編コンペティション部門にて審査員特別賞を獲得した亀山睦実監督の短編映画『恋はストーク』です。
5分という短い時間の中に凝縮され洗練された、危険な“スキ”と“キライ”の物語である本作。
今回、映画監督として、映像ディレクターとして第一線で活躍されている亀山睦実監督にインタビューを行いました。
映画『恋はストーク』の制作秘話をはじめ、亀山監督の映画制作に対する思いや今後の活動への展望についてお話を伺いました。
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映画制作への思い
──まず最初に、『恋はストーク』の制作経緯をお聞かせいただきたいのですが。
亀山睦実監督(以下、亀山):本作の全体観そのものは、大学2年生の頃から、イメージだけではありますが何となくあったんです。そしてそれを実際に形にしたのは、卒業してから2年ほど経った頃でしたね。
そもそも、私は基本的に、何か明確なテーマをカッチリと構築してから映画を制作するのではなく、「こういうものを撮りたい」という思いを一番の主軸に据えて映画を制作しています。
元々、私は日本大学芸術学部映画学科・監督コースで学んでいたんですが、中学の頃にはすでにオーディオドラマを制作していましたし、高校の頃には放送部に入部して、そこで知り合った部員たちとともに映像制作を行っていました。そうして「映画を撮りたい」という思いを抱き続けてきたその延長線上で、日芸に入学した感じですね。
映像ディレクターとして
──亀山監督はご自身のことを“映像ディレクター”と呼ばれていますね。
亀山:これまで映画の制作を続けてはきたんですが、実は短編しか撮ったことがないんですよ。長編はまだ撮ったことがなくて。
それゆえに「“映画監督”と名乗るなんて、おこがましいんじゃないか」と感じてしまうことがあって、自分では現在の職業柄も踏まえて“映像ディレクター”と名乗っています。
そこには、あくまで“映像ディレクター”として“映像”制作をしているのであって、“映画監督”としての“映画”制作そのものでは、そこまでのお金をもらえるほど活動をしているわけじゃないという思いも含まれています。
ただ、「映画を撮りたい」という思い自体がなくなったことは一度もないですし、“映像ディレクター”と名乗っている一方で“恋愛映画監督”という自称を用いたりもしてますけどね(笑)。
“スキ”を彩るピアノの旋律
──『恋はストーク』における“ギャップ”を生み出すことに最も貢献しているのは、やはり映画前半部を彩るピアノの旋律だと感じています。あのピアノ曲は、どのような経緯によって生まれたのでしょうか?
亀山:本作の制作にあたって、映画前半部で描かれているモノローグを最初に考えついていたんです。ただそれを映画として表現してゆくには、モノローグの魅力を、或いは主人公の女の子が抱く“スキ”の、可愛さと危うさをともに孕んだ魅力を最大限に引き出してくれるような音楽が必要だと感じたんです。
実はあのピアノ曲って、ショパンの「子犬のワルツ」をアレンジする形で作っていただいたんですよ。そして「非常にテンポが良い曲」「聴き心地が良い曲」「ピアノ曲」という3つの要望に沿って、どなたかにアレンジをお願いしようとした時に、以前自身の卒業制作にて音楽を担当して下さった今村左悶さんに当初はお願いするつもりでした。
ただお願いした際に、今村さんから「そういうクラシック系は僕よりもっと得意な人がいるよ」という話を聞かされたんです。そして、同じく作曲家として活動されている野村知秋さんという方をご紹介して下さったんです。
その野村さんにお願いした結果、本作にピッタリな素晴らしいアレンジ曲を作って下さりました。
即興詩としてのモノローグ
──文字通り“止め処なく溢れてくる”主人公のモノローグは、どのような方法で書かれたのですか?
亀山:モノローグもそうなんですが、本作の物語はあまり“脚本”という形では書いていないんですよね。「主人公の女の子に、何を言わせたいか」をとにかく追求したと言いますか、それこそ即興的に、詩を書く感覚でバーっと書き切りました。
そもそも、大体の人間は、自分の頭の中で浮かんでくる言葉全てを自分の口を通じて全て話せているわけではないんですよ。だからこそ、頭の中で浮かんでくる言葉を全て書こうと試みた結果が本作のモノローグなんです。ただ、そのせいなのかは微妙ですが、本作に対して「これは映画じゃない」と言われることがよくあるんですよ(笑)。
私が元々早口であるということも影響しているかもしれませんね。自分で喋られるスピード感で脚本のセリフを書いちゃった結果、役者さんが言えないということが結構あるんです(笑)。
主演・福永朱梨
──本作のみならず、ちば映画祭2019にて同じく上映された中川奈月監督の映画『彼女はひとり』でも主演を務めたのが、女優の福永朱梨さんです。亀山監督は、今後もその活躍が期待されている彼女のどのような演技を見てみたいですか?
亀山:今回のちば映画祭のおかげで、私は自身が監督した『恋はストーク』における福永さん、中川監督が制作された『彼女はひとり』における福永さんを並べて観ることができました。そしてその二人の福永さんは、両方とも、人間の“暗い”部分を他者に向けて表出しようとする役柄を演じられていることに改めて気付かされました。
だからこそ、その“暗い”部分をもうちょっと抑えた役と言いますか、単純に、もっと年頃らしい明るい役もやってほしいなと思いましたね。
また、私の作品に度々出演して下さっている、女優の森累珠さんが参加された『L♡DK〜ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』にも彼女は出演されていると聞いたので、その映画の中ではどのような役柄を演じているのかを確かめるためにも、作品を観なきゃいけないなぁとは感じています。
短編と長編、2つの次回作
──今後の映画制作はどのようにお考えですか?
亀山:現在、短編と長編それぞれで、新作映画を制作しています。
短編については、『追いかけてキス』というYouTubeでの公開を前提としたショートムービー・シリーズのことですね。すでに2019年の2月から3月にかけて、つまりバレンタインデーからホワイトデーの期間にかけて第1シーズン全話を公開しましたが、現在は第2シーズンの公開に向けて制作を進めている真っ最中です。
そして長編については、『追いかけてキス』のような恋愛映画、それまで撮り続けてきた恋愛映画とは少々異なるテーマを描こうと考えています。
それは今までの作品とはかなり違って、凄く堅いテーマではあります(笑)。けれども、ただそれを堅く描くのではなく、もっとポップに、もっと観やすい作品として提示できたらと考えています。
亀山睦実監督のプロフィール
東京都葛飾区生まれ、日本大学芸術学部映画学科卒業。
主な作品は、『好きなんかじゃない!』(2012)、『恋はストーク』(2014)、『ゆきおんなの夏』(2016)、『何度でも大好きだって君に言うよ』(2017)、MV『人生の美しさfeat.DOZAN11』などです。
卒業後は映像ディレクターとして、ウェブCM・TV・MV・イベント映像など様々な映像作品を監督・企画し、2018年5月には、西尾維新原作の人気小説『十二大戦』の舞台化作品で映像演出等を担当しました。
2019年には、「キス」をテーマにした全5話のショートムービー・シリーズ『追いかけてキス』を監督し、作品はYouTubeにて動画配信されました。
現在は『追いかけてキス』第2シーズンの製作中、新作長編映画の準備中です。
インタビュー/河合のび
撮影/出町光識
映画『恋はストーク』の作品情報
【公開】
2014年(日本映画)
【脚本・監督】
亀山睦実
【キャスト】
福永朱梨
【作品概要】
「スキ」を追い求め、「スキ」に執着してゆく少女の末路を描いた短編映画。
監督は、初監督作『好きなんかじゃない!』で第一回池袋映画祭準グランプリを、『ゆきおんなの夏』でTOKYO月イチ映画祭グランプリ、第十回田辺・弁慶映画祭入選を獲得した亀山睦実。
そして「スキ」に執着する主人公を、同じくちば映画祭2019で上映された中川奈月監督の映画『彼女はひとり』でも主演を務めた、女優の福永朱梨が演じました。
本作は第2回岩槻映画祭の短編コンペティション部門にて、審査員特別賞を受賞しました。
映画『恋はストーク』のあらすじ
「ある日ふと、あなたのことを想い出したら、こんなところまで来てしまいました…」
少女の恋のドキドキときらめきと、その末路…ーー
(*監督本人による、YouTube公開中の『恋はストーク』動画説明文内のあらすじから引用)
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