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Entry 2023/10/02
Update

【イシザキマサタカ インタビュー】映画『GREEN GRASS生まれかわる命』俳優として人間として“魂が喜ぶ”芝居×監督との“説明し難い”出会い

  • Writer :
  • 河合のび

映画『GREEN GRASS 生まれかわる命』は2023年9月22日(金)より池袋HUMAXシネマズ他で全国順次公開中!

日本・チリ修好120周年記念事業として製作が開始され《映画界史上初》の日本・チリ合作映画となった『GREEN GRASS 生まれかわる命』。

ニューヨーク在住の俳優・イシザキマサタカと、様々な作品に出演し続けるベテラン俳優・西岡德馬がW主演を務めた本作は、東日本大震災により死後の世界に旅立った青年と、青年を失ったその父親の2つの視点で物語を描き出します。


(C)Cinemarche

今回の劇場公開を記念し、死後の世界へと旅立った青年・誠役を演じられた俳優のイシザキマサタカさんにインタビューを行いました。

企画・脚本開発の段階から本作をともに制作していったイグナシオ・ルイス監督との唯一無二の出会い「迷わずに“今”を演じる」という芝居の在り方そして芝居における“魂の喜び”など、貴重なお話を伺えました。

会った瞬間から“友だち”だったイグナシオ監督

イグナシオ・ルイス監督とイシザキさん


(C)Cinemarche

──本作は2010年に、イシザキさんとルイス監督がカンヌ国際映画祭で出会われたことが制作のきっかけとなったと伺いました。ルイス監督と初めて会われた際の第一印象はどのようなものだったのでしょうか。

イシザキマサタカ(以下、イシザキ):当時のことはよく覚えていて「ここで初めて会った」という感じがしなかったんです。会った瞬間から「彼とは友だちなんだ」という感情が当たり前のように浮かんで、本当に説明のしようがない感覚でした。

初対面なのに加えて、生まれ育った国も言語も違う。なのに、「もう、一緒に遊ぶしかないよね」と思えた。彼と出会ったカンヌ国際映画祭には様々な国籍や境遇の映画人が集っていましたが、そんな感覚を抱いたのは彼だけでしたし、今まで生きてきた中でも初めての出来事でした。

また日本とチリは、地球上だとほぼ反対側の場所に位置していることもあり、本作を制作を続けてきた13年間でも直接会える機会は限られていたのですが、久々に会った時でも「久しぶり」という印象は持たなくて、まるで昨日ぶりかのように言葉を交わせていました。


(C)Cinemarche

イシザキ:僕もイグナシオも、相手といると子どもの頃の感性へと戻ることができて、その時に持っていた純粋なエネルギーを増幅し合えるのかもしれません。そのくらい、本来の自分に戻れるような関係だと感じています。

──イシザキさんから見た、ルイス監督の作り手としての魅力をお教えいただけますでしょうか。

イシザキ:一言でいえば、嘘をつけない不器用さ。少し恥ずかしがり屋で繊細な心の持ち主でもあるのですが、面白いものを発見し、より面白いものへと発展させることに、どこまでも誠実に取り組める人間だと考えています。

そして俳優として、そんなイグナシオの「面白いものを作りたい」「人の心を動かせるものを作りたい」という真っ直ぐな心に答えたいと思わされるのです。

迷わずに“今”を演じることで楽しめる


(C)2022「GREEN GRASS 生まれかわる命」上映実行委員会

──イシザキさんが演技をされる上で、特に心がけられていることは何でしょうか。

イシザキ:やっぱり一番大事なことは、脚本を読んだ上で自分自身が何を感じとったのかだと思います。

昔は脚本をとにかく読み込んで「自分の役はどんな役割を担っているのか」「自分の役の存在意義は何か」と色々考えることが多かったのですが、今では「キャスティングをしてもらえた時点で、自分自身が持つ雰囲気自体が作品にハマっているんだ」という信頼のもと、考え過ぎないようになりました。

自分が脚本から何かを感じとった上で、迷わずに演じる。撮影現場で「アクション」と声がかかった瞬間から、カメラの前でしっかりと立って、そこにある“今”をただ演じる。そうしなくてはリアリティは宿らないでしょうし、そのためにも絶対にリラックスすることが重要なんです。


(C)2022「GREEN GRASS 生まれかわる命」上映実行委員会

イシザキ:どんな仕事でも、リラックスすることで失敗への不安を乗り越えられるし、その仕事を楽しめるようになる。それは仕事以外の日常の場面にも、同じように当てはめられるはずです。

神経質になって不安で悩む時間はもちろん大事かもしれませんが、それで実際に何かが大きく前進したことは自分の経験上、あまりありませんでした。それなら、自分が直面している“今”を大事にした方がいい。集中力を“今”へと向けて、それを楽しもうとする心へと切り替える。すると、より演技が面白くなるんです。アメリカの俳優・アラン・カミングがあるインタビューで言っていたようにある意味、俳優にとって考えすぎることは罪かもしれません。

そんな俳優の仕事との向き合い方は、日本での撮影で西岡德馬さんの演技を目の当たりにした時にも、同じものを感じとりました。ちょっとした仕草の演技それぞれに、西岡さんの集中力が伝わってきた。撮影の間には多くのことを学ばせてもらえました。

芝居をする瞬間に感じる“魂の喜び”


(C)2022「GREEN GRASS 生まれかわる命」上映実行委員会

──イシザキさんが俳優を目指されたきっかけは何でしょうか。

イシザキ:中学生の頃、ある年の文化祭での出し物で「刑事」の役を演じることになったんです。

大きい声で「お前を逮捕するぞ!」と言うだけの役だったのですが、稽古の時にはそこまで一生懸命練習していなかったはずなのに、いざ本番になってみると「次が出番か」「前のセリフは何だっけ」と妙にドキドキした。そしてついに出番がきた時、緊張しながらも「お前を逮捕するぞ!」と舞台上で叫んだんです。

すると急に、観客席に笑いと歓声が起こった。自分の普段のテンションと大声とのギャップがおかしくて笑ったらしいのですが、その反応がとても気持ちよくて、舞台に立つ緊張感も相まって「演技で面白いな」と感じられたのです。

ただ高校に入ると「俳優なんて夢見てないで」と勝手に思ってしまい、元々好きだったゲームの開発に携われる仕事を目指そうと1度は考えました。そのために一生懸命受験勉強にも取り組んだのですが、どうにも成績が伸びなかった。


(C)2022「GREEN GRASS 生まれかわる命」上映実行委員会

イシザキ:それでもがんばって関西大学へ進学したのですが、すぐに学内の演劇サークルに入り、そこで「自分はやっぱり、芝居が好きなんだ」と改めて実感しました。あれだけ苦労していた受験勉強と違って、心の底から集中してのめりこめる。その気づきが、俳優としての本当のスタートラインとなりました。

──イシザキさんにとっての、演技の面白さや魅力とは何でしょうか。

イシザキ:芝居をしている瞬間瞬間に、肉体がすごく喜んでいると感じられるんです。

受験勉強をしていた時には、風邪を引いたりと体調を崩すこともしばしばあったのですが、芝居をしている時にはむしろ健康になっていると体感できる。そして心も、とにかく楽しくてしょうがないんです。

「芝居のここが好きなんだ」と具体的には表現できないのですが、芝居をしていると心も肉体も活性化していると自分自身で理解できる。魂そのものが、喜んでいるのかもしれません。

国同士の記憶、“13年間の映画制作”の記憶


(C)2022「GREEN GRASS 生まれかわる命」上映実行委員会

──13年の月日を経てついに劇場公開を迎えた本作ですが、2023年現在のイシザキさんのご心境を最後にお聞かせください。

イシザキ:これはイグナシオと同じ感想かもしれませんが、「やっとここまで辿り着けた」という一言に尽きますね。撮影当時には「本作をどう公開するのか」を考えられていなかった中で、多くの方々の尽力によって劇場公開を迎えられた。本当に感無量です。

また本作では、日本とチリという国同士の“記憶”によるつながりが根底にありますが、そこには僕とイグナシオの間にある「13年間の映画制作」という記憶によるつながりも重なっています。そうした意味でも、多くの方にこの映画を届けられたらと思っています。

また本作は、2023年9月30日から第七藝術劇場での公開も迎えました。大阪は僕が育った場所であり、演劇サークルの仲間を含んだ古くからの友人・知人が多くいるので、その方たちにもぜひ観ていただきたいですね。

インタビュー/河合のび
撮影/出町光識

イシザキマサタカ プロフィール

アメリカ俳優組合「SAG-AFTRA」正会員。マサチューセッツ州ボストン出身、大阪府高槻市育ちの俳優。

現在、ニューヨークにて映画・テレビだけでなくナレーターとしても活動。またマーシャルアーツ。詠春拳を習得中(ミゲル・フェルナンデス師事)。

映画『GREEN GRASS 生まれかわる命』にてニューヨーク国際映画アワード、フランスのレッドムービーアワードにてベストアクター特別賞を受賞。

自身の活動をプロモーションするために自主制作も行い、映画『NO REASONS』はロサンゼルスアジアン映画アワード、ニューヨーク人権映画祭、シリコンバレーアジアンパシフィック映画祭などアメリカ各所で入選・上映。

映画『GREEN GRASS 生まれかわる命』の作品情報

【日本公開】
2023年(日本・チリ合作映画)

【監督・脚本】
イグナシオ・ルイス

【キャスト】
イシザキマサタカ、西岡德馬、小澤征悦、ヒメナ・リバス、ダニエル・カンディア

【作品概要】
日本・チリ修好120周年記念事業として製作が開始され《映画界史上初》となった日本・チリ合作映画。東日本大震災で死後の世界に旅立った青年と、青年を失ったその父親の2つの視点のもと、死後の世界での人々との出会いを通じて青年が成長していく姿と、父親の亡き息子への悼みの姿を描く。

自らも監督として活動するニューヨーク在住の俳優・イシザキマサタカと、ドラマ・映画・舞台など様々な作品に出演し続ける名優・西岡德馬が父子役としてW主演を務めた。また清の秘書・福永役を国内外で活躍する小澤征悦が演じる。

監督・脚本は、アニメーターとしても作品を数多く手がけ、本作で第32回シネセアラー映画祭・コンペ部門で撮影賞を受賞したイグナシオ・ルイス。またサンダンス映画祭でワールドシネマ審査員賞を受賞した経歴を持つダニエル・カンディア、チリの代表的な女優ヒメナ・リバスなど世界的に有名な俳優も共演。

映画『GREEN GRASS 生まれかわる命』のあらすじ


(C)2022「GREEN GRASS 生まれかわる命」上映実行委員会

見知らぬ土地で目覚めた近藤誠は、死後の世界にいることに気づいていない。

経営をしている会社のことを気にかけて早く帰国したいと願う誠だが、誰も自分がどこにいるかを教えてくれない。

一方、息子である誠を失った近藤清は、生前の誠に何もしてあげられなかったことを悔やみ、息子と幼少時代にともに過ごした町に戻り、弔うように思い出を辿り始める。

彷徨い続ける2つの想いは、あの世とこの世を交錯しながら、再びめぐり会えるのだろうか?

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche



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