映画『ホゾを咬む』は2024年1月22日(月)より高円寺シアターバッカスにて3ヶ月ロングラン上映!さらに同館では髙橋栄一監督特集上映も同時開催!
2023年12月の封切り後、横浜ジャック&ベティで2024年1月20日(土)〜1月26日(金)、元町映画館で1月27日(土)〜2月2日(金)と全国で順次公開される髙橋栄一監督の長編デビュー作『ホゾを咬む』。
そして本作が3ヶ月ロングラン上映される高円寺シアターバッカスでは、3月30日(日)、31日(月)の2日間、髙橋監督の特集上映の開催も決定。『ホゾを咬む』に至るまでの過去作も併せて観ることで、映画監督・髙橋栄一の「過去・現在・未来」をさらに掘り下げていく企画となっています。
Cinemarcheではロングラン上映&監督特集上映を記念し、全3回にわたる髙橋栄一監督への連載インタビューを敢行。
連載第3回となる本記事では髙橋監督の“未来”にフォーカスし、超現実映画の豊かさ、映画の種となる日々の“発見”など、これまで語られてこなかった貴重なお話をお伺いしました。
CONTENTS
「苦しいものが美しい」を胸に
──髙橋監督は、映画監督としての未来をどのように見据えているのですか。
髙橋栄一監督(以下、髙橋):僕の中で大きく分けて、外的なところと内的なところの2つが、構想としてあります。
外的なところで言えば、いかにより多くの人々に届く映画を生み出すかということ。それがジャンル映画なのか、作品のテーマなのか、海外というマーケットなのか。自分が映画監督として今やれることを見据えて、今後進んでいく道を見極めていかねばと思っています。
『ホゾを咬む』を制作したことで、自分の描きたい世界観を一つ生み出せたと感じています。そうすることで映画制作に対して、今はフラットに考えられるようになりました。映画文法を自分の中で積み上げ、どうやったら人々に届くのかを考え続けた駆け出しの頃。そして、『ホゾを咬む』で“叫ぶ”映画を存在させられた現在。そこからもう一度人々に「届ける」映画へ。自分の中で2巡目の挑戦に入っています。
また、それに付随して、大切にしていきたいのは内的な部分。つまり、映画作家としての自分の価値感の確立です。自分が何を見ているのか、何に豊かさを感じるのか。そう言った自己との対話、内省を大切にしていきたいとも考えています。
──髙橋監督の感じる「豊かさ」について、もう少し教えていただけますか。
髙橋:僕の中では、まだ「豊かさ」はおぼろげなんです。ただ、よく思い出すのは、ファッション系の専門学校に通っていた時、あるスタイリストの方に教えて頂いた‟苦しいものが美しい”という言葉です。
今、高円寺シアターバッカスさんで、『ホゾを咬む』と同時上映するための、映像作品を制作しているところです。それは実験的なワークショップを数日にわたって開催し、時間をかけて、俳優と共に映画や演技への学びを深めながら、最終日に短編映画を撮影する企画です。
まだ詳しくはお話しできませんが、僕がこのワークショップで大切にしているのは、俳優たちの演技において、ある制限や不自由さを設けて、そこから生まれる豊かな表現を突き詰めていくアプローチなんです。
例えば、ワークショップ参加者同士でインタビューをしてもらうと、とても皆さん活き活きと話されていて、人柄や人物の魅力が伝わってきます。それも一つの豊かさであると感じている反面、僕が映画の中で切り取りたいモノは別のものだと考えているんです。それは、もう少しシュールで、超現実な豊かさ。
王道の映画やドラマのような、キラキラとしてナチュラルな作品を、素直に受け入れられない自分だからこそ、感じる豊かさ。僕からすると、活き活きしすぎている表情が映画に映ると、どうしても作品の本質的な部分が見えなくなってしまう気がするんです。
超現実の生み出す“豊かさ”を求めて
──髙橋監督の中で新たな映画文法やアプローチを構築している段階なのですね。
髙橋:例えば、ロイ・アンダーソン監督作品『さよなら人類』(2014)が、僕にはすごく豊かな映画だと感じます。登場人物たちはほとんどリアルな動きをしません。台詞の話し方もすごく違和感を覚える演出をしているんです。
それが僕にはすごく面白くて、そんな超現実の世界に、登場人物の豊かさ、そして映画表現の本質を感じます。しかし、そんな映画や演技が完成していくプロセスは未知なんですよね。今回、僕が特集上映への決意を固めるきっかけになった、濱口竜介監督にも濱口監督独自の豊かさへのアプローチがある。その独自のプロセスを僕自身も自ら構築している最中なんです。
『ホゾを咬む』でも、あえて古めかしい台詞にしたり、完全に会話が嚙み合うことを避ける演出をしています。無意識的にも、意識的にもそこから生まれる超現実、シュール的な何かを探求し続けて今があるんです。
原点は塚本晋也監督の“発想力”
──髙橋監督の想い描く超現実、シュール的な何かは、塚本晋也監督のもとで制作に関わっていたことからも影響を受けているのでしょうか。
髙橋:塚本組にいた時は、映画業界や現場のことは右も左もわからない若造で、本当に毎日必死でした。最初は塚本監督への憧れが強すぎて極度に緊張してしまい、ミ―ティングの場で、ほとんど話せなかったほどです。
そんな状態だったので、正直何かを得られるほどの余裕はありませんでした。今になってみると、本当に悔やまれるところなんです。「もっと学んどけよ」ってあの頃の自分に言ってやりたいくらいに(笑)。
それでも、僕が塚本監督と過ごした時間の中で感動したのは、その“発想力”でした。映画を生み出していく過程では、どうしてもロジカルに考えてしまうことが多くなります。それが論理立ててあればあるほど、成り立ちが分かりやすければ分かりやすいほど、その作品の面白みは失われていってしまう。
その点、塚本監督の発想は、誰も思いつかないような意外性が常にあり、あの頃何も知らない僕からしたら、予想だにしないアイデアの連続でした。そういう意味で言えば、今試みている超現実世界へのアプローチは、僕が塚本監督に憧れた原点なのかもしれません。
映画は日常の「発見」から生まれる
──髙橋監督の映画作品の中にも、その表現やテーマの意図を探りたくなるような発想が多く散りばめられているように感じます。
髙橋:実は、僕の中でもう一つ重要なテーマに据えているのは「発見」なんです。しかも何気ない日常にある「発見」。例えば、先ほど話した、祖母の死に直面して感じたことだったり、家族との時間だったり、人と分かり合えない違和感だったり……。
映画『言ってくれよ』の制作現場でも、「娘に美味しいものを食べさせるために何をするか」というテーマで話し合ったことがあったんです。その時に出た意見で、僕が驚いたのは「本人に好きなものを聞く」というもの。その答えは僕の世界にはあまりに無さ過ぎて、「あぁ、聞けばいいのか」って僕には大きな発見だったんです。
その一つの発見が、僕の価値観に入り込むだけで、僕がこれまで作り上げてきた世界の正当性がかなり揺らぐんですね。そういう、新しい発見はとても大切にしていて、日常から見つけた発見を基に作品を構想し、制作現場でブラッシュアップを繰り返す。その先でさらなる発見がある……。
気が付けば僕はいつもそんな風に映画制作と向き合ってきました。自分が何を感じて、発見し、見出していくのか。そんな自分自身の中の豊かさを見つめていきながら、超現実な映画世界を人々に届けていきたいです。
《髙橋栄一監督連載インタビュー記事・第1回の記事はコチラ→》
インタビュー・撮影/松野貴則
髙橋栄一監督プロフィール
岐阜県出身。建築・ファッションを学んだ後に塚本晋也監督作品『葉桜と魔笛』(2010)『KOTOKO』(2011)に助監督として参加。以後ショートフィルムやMV、広告、イベント撮影、テレビ番組などの制作を手がける。
監督作品に『華やぎの時間』(2016/京都国際映画祭2016C・F部門入選、SSFF&ASIA 2017ジャパン部門入選&ベストアクトレス賞)『眼鏡と空き巣』(2019/SeishoCinemaFes入選)『MARIANDHI』(2020/うえだ城下町映画祭・第18回自主制作映画コンテスト入選)『さらりどろり』(2020/SSFF&ASIA 2021ネオ・ジャパン部門入選)『鋭いプロポーズ』(2021/福井駅前短編映画祭2021優秀賞)『サッドカラー』(2022/PFFアワード2023入選)がある。
映画『ホゾを咬む』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
髙橋栄一
【プロデューサー】
⼩沢まゆ
【撮影監督】
⻄村博光
【キャスト】
ミネオショウ、⼩沢まゆ、⽊村知貴、河屋秀俊、福永煌、ミサ・リサ、森⽥舜、三⽊美加⼦、荒岡⿓星、河野通晃、I.P.U、菅井玲
【作品概要】
短編映画『サッドカラー』がPFFアワード2023に入選するなど、国内映画祭で多数の賞を獲得し続けている新進気鋭の映像作家・髙橋栄一による⻑編映画。
主⼈公を演じるのは、主演作『MAD CATS』(2022)から『とおいらいめい』(2022)など幅広い役柄をこなすカメレオン俳優・ミネオショウ。主人公の妻役には、映画『少⼥〜an adolescent』(2001)にて国際映画祭で最優秀主演⼥優賞を受賞した⼩沢まゆ。主演作『夜のスカート』(2022)に続き本作でもプロデューサーを務めた。
また撮影監督を、『百円の恋』(2014)など武正晴監督作品に数多く参加し『劇場版 アンダードッグ』(2020)で第75回毎⽇映画コンクール撮影賞を受賞した⻄村博光が担当した。
映画『ホゾを咬む』のあらすじ
不動産会社に勤める茂⽊ハジメは、結婚して数年になる妻のミツと⼆⼈暮らしで⼦どもはいません。
ある⽇、ハジメは仕事中に普段とは全く違う格好のミツを街で⾒かけます。帰宅後聞いてみるとミツは、⼀⽇外出していないと⾔いました。
ミツへの疑念や⾏動を掴めないことへの苛⽴ちから、ハジメは家に隠しカメラを設置します。
⾃分の欲望に真っ直ぐな同僚、職場に現れた⾵変わりな双⼦の客など、周囲の⼈たちによってハジメの⼼は掻き乱されながらも、⾃⾝の監視⾏動を肯定していきます。
ある⽇、ミツの真相を確かめるべく尾⾏しようとしますと、⾒知らぬ少年が現れてハジメに付いて来ました。そしてついにミツらしき⼥性が、誰かと会う様⼦を⽬撃したハジメは……。