韓国ホラー映画『コンジアム』は、2019年3月23日(土)より全国公開!
2012年にアメリカのテレビチャンネルが発表した「世界7大心霊スポット」。なかでも韓国から選出された廃病院の昆池岩精神病院(コンジアム)は、最恐と噂された禁断の地。
若者を中心としたネットユーザーが肝試しに訪れては、その内部を動画サイトで配信する行為が横行しました。
世間で飛び交かう噂は奇怪なものばかり。多くの患者が死を遂げたことや、院長の謎の失踪のほか、病院というのは名ばかりで実は刑務所や生体実験をしてたなどと囁かれていました。
そんな実在する心霊スポットを舞台にした、新感覚ホラー映画『コンジアム』の劇場公開に先立ち、韓国で大ヒットを飛ばしたチョン・ボムシク監督にインタビューを行いました。
ホラー映画『コンジアム』を制作するに至った背景や貴重な秘話、またボムシク監督の映像作家としての原点を大いに語っていただきました。
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映像作家としての原点
──映画監督になられたきっかけは?
チョン・ボムシク(以下、ボムシク):14歳の時に、友人と映画館に行ったのがきっかけです。その時に映画とはこんなにも面白いものなのかと思いました。
15歳の時には映画館に棲みついているような状態でした。(笑)1度お金を払ったら何度も見られるような劇場を探して、朝から晩まで映画を見て、どんどん映画の魅力にはまっていました。
ソウルのチャムシル総合運動場の近くの劇場に通っていました。その当時は、ジャッキー・チェンやハリウッド映画、特にスティーヴン・スピルバーグ監督の映画をよく観ていました
憧れの巨匠監督との同日公開
──スピルバーグ作品を少年時代によく観ていたということですが、今回、本国韓国では『コンジアム』と同日公開のスピルバーグ映画『レディ・プレイヤー1』を抑えて、公開日に1位になりました。その時の気持ちはいかがでしたか?
ボムシク:同日封切りでしたね。その日、実は僕は『レディ・プレイヤー1』を観に行っていたんです(笑)。映画を見終わって劇場を出たら、友だちから大ヒットを知らせるたくさんのメッセージが届いていました。
初日の観客動員数がスピルバーグの映画よりも多かった。もちろん勝ち負けの問題ではありませんが、同じ日に封切りできたことがとにかく嬉しかったです。
──その日の夜は、仲間たちと祝杯をあげたのではないのですか?
ボムシク:いいえ、その日は家に帰って『レディ・プレイヤー1』のチラシの写真をFacebookにあげてました(笑)。
──スピルバーグ監督の映画はどのようなところが好きですか?
ボムシク:スピルバーグ作品は、アルフレッド・ヒッチコック監督や黒澤明監督と似ていて、視覚的、聴覚的なマッチングさせることを通じて、観客の情緒の動きを正確に理解しているというところに魅力を感じています。
シネフィルなボムシク監督
──今、ヒッチコック監督の名前が出ましたが、ボムシク監督の『ホラー・ストーリーズ』の初話「太陽と月」なども、ヒッチコックと同様にユーモアとホラーのバランスが絶妙だと感じました。その点についてはいかがですか?
ボムシク:もともと先天的にふざけたことが好きで、ホラー映画の中にもふざけた部分を入れ込みたくなってしまうんです。
ホラーを撮る監督は、昔からホラー映画のファンというイメージを持っていることが多いと思うんですけれど、僕は大学院で映画を専攻しましたが、ホラー映画が好きということではなくて、むしろ1950年代ごろのヨーロッパ映画や、1960〜70年代の日本映画が好きなんです。
──具体的にどのような監督の映画ですか?
ボムシク:イタリアンネオリアリズモや、フランスのヌーヴェルヴァーグ作品、日本では小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男、増村保造、鈴木清順、岡本喜八、吉田喜重、寺山修司監督などです。
社会との現実の接点にこそ恐怖がある
──鈴木清順監督といえば、ボムシク監督の作品『1942奇談』では似た雰囲気を感じました。監督のホラー映画は、政治的な要素や時代背景がミックスしているのがとても興味深いですね。
ボムシク:例えば、ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画三部作は、共産主義者に関する隠喩が入っていることで話題になりました。
怖い映画とは、その時代が象徴している怖さが入っていないといけないという考えが自分にもあります。
──今回、コンジアムという実在の場所を選んだ意図は何でしょう。
ボムシク:まずは現実感を表現したかったという思いがあります。あとは、コンジアムが世界7大恐怖に選定されたことにあります。
あとは実際にある怖い場所と、自分が作った虚構のストーリが合わさった時にどんな作品ができるのかということに興味がありました。
これまでにはない斬新な撮影方法
──『コンジアム』は韓国映画の多くがそうしているように、絵コンテを使っての撮影だったのですか?
ボムシク:最初は絵コンテを用いて、撮影を開始しました。でも、形を決めたものを撮っていると、どうしてもドキュメンタリーっぽくならなかったのです。
そこで俳優にフェイスカムをつけたり、あとはカムコードを使用したりするなど、1人に3台のカメラを設置して、まるでアクションシーンをとるように工夫をしました。
普通は分けて撮るのですが、そういうのではなく6名が一度に一つの空間にいて5分なり10分なりを撮影した、という特徴があります。
──撮影は非常に特徴がありました。特に俳優のフェイスリアクションを主軸にホラー映画を見せ方がとても素晴らしかったです。俳優の顔から映像編集がつながっていくのが面白かった?
ボムシク:この映画の撮影の原則がありまして、韓国はテレビのバラエティ番組が非常に人気があるのですが、「コンジアム」を一つの空間として捉えることもできますが、私は「キャラクター」として捉えました。
つまり「コンジアム」というキャラクターと「ホラータイムズ」というキャラクターが織りなすリアルとして捉えてもらえるといいかな。
また、自分たちの原則として、観客が実体験しているような、第八番目のメンバーとなるように撮りたいと思いました。
──撮影監督のユン・ジョンホさんは、監督の撮影案についてどのような意見を持っていましたか?
ボムシク:もともと絵コンテを作っていたんですが、ある時ご飯を食べながら「コンテをなくして、俳優たちに撮らせないといけない感じですよね」と言ったら、一瞬固まっていました。(笑)
最初はカメラマンのジョンホさんの反応としても、「まあ、そうは言っても監督、それは少しってことですよね?」って聞き返されたのでその時は「ああ、そうですよ」って言ったんです。でも撮影段階で、「やっぱり、俳優が全部撮ります」って(笑)。
コンジアム撮影秘話
──キャストもスタッフになっているところが面白いですね。
ボムシク:だから、俳優たちが「自分たちが撮影したのだから、スタッフ欄にもクレジットを入れて」と冗談で言ってきました。それで実際に俳優たちの名前を入れたんですよ(笑)。
映画冒頭のiPhoneで撮影しているシーンは、実は僕の息子と甥っ子たちなんです。
最初、演技してもらったらギコちなくて。スタッフを排除して、自分が言った通りにその場でセリフを言わせて、僕がiPhoneで撮ったんですよ。
──そうだったんですね。撮影もさることながら編集技術に感服しました。
ボムシク:撮影期間は7週間、編集作業は13ヶ月間かかりました。普通の映画と比較して約3倍の映像量がありました。
性格的な問題もあって、自分は全部のショットを見ないと気が済まない。どこをどのように使い、つなぎ合わせるかを考えながら編集しました。
──日本のボムシク監督ファンに向けてメッセージをください。
ボムシク:韓国ホラー映画の停滞期に『コンジアム』が出来ました。有名な俳優や、特徴的なBGMは使わないなど、もともと韓国映画にある既存の表現方法を排除したような映画を作りました。
編集やサウンドに至るまで、残忍さやBGMを乱用するなどの韓国映画のイメージがあったと思います。
『コンジアム』は、古典的な手法だけど、一つ一つの音にこだわり、磨きあげながら作品へと昇華させました。
美術をやっている友だちが、日本の刀職人の話をしてくれました。刀の仕上げの際、熟練の職人は刀に小麦をふりかけ何度も何度も磨くのだ、と。君の映画はまるで刀職人のようだと言っていました。
今回『コンジアム』は観るというよりは、体験してもらうたことに重点を置いています。体験する映画として楽しんでほしいと思います。
映画『コンジアム』の作品情報
【公開】
2019年(韓国映画)
【原題】
Gonjiam: Haunted Asylum
【脚本・監督】
チョン・ボムシク
【キャスト】
イ・スンウク、ウィ・ハジュン、パク・ジヒョン、パク・ソンフン、オ・アヨン、ムン・イェウォン
【作品概要】
アメリカのニュース番組が「世界7大心霊スポット」として選出した韓国の廃病院「コンジアム精神病院」。そこではかつて複数の患者たちが謎の死を遂げた場所で、7人の若者たちが心霊スポットの侵入する姿を描くホラー作品。
POV形式を中心とした撮影には、出演者に小型カメラを待たせたり、身体に装着して撮影させた手法をとり、臨場感あるリアリティを演出しています。
映画『コンジアム』のあらすじ
YouTubeで恐怖動画レポートを配信する人気チャンネル「ホラータイムズ」。
主宰者ハジュンは一般参加者を募り、都市伝説の噂の絶えない心霊スポットで知られる廃病院「コンジアム精神病院」からのライブ中継を計画します。
カンナム地区にあるカフェに主宰者ハジュンを隊長とともに集まった男女7人。
たくさんのカメラやドローン、電磁検出器といった機材を持ち込み、深夜のコンジアムに侵入します。
100万ページビューを目標に掲げるハジュンが仕掛けた演出も功を奏し、サイトへのアクセス数は順調に伸びていきます。
しかし、院長室、シャワー室と浴室、実験室、集団治療室を探索するうちに、ハジュンの想定を超えた原因不明の怪奇現象が続発。
やがて悪夢の迷宮と化した病院内を泣き叫んで逃げまどうはめになった隊員たち。
ついに世にもおぞましいコンジアムの真実に触れることに…。
まとめ(なぜ7人のメンバーなのか?)
インタビューに応えてくれたチョン・ボムシク監督は気さくな方でした。
取材の終わり、茶目っ気たっぷりに「何故?ホラータイムズの男女7人のメンバーなのか、聞かないの?」と締めくくります。
「映画好きなボムシク監督のことだから黒澤明監督の『七人の侍』ですよね」と言い返すと、「もちろん、そうですよ」と笑って答えてくれました。
何気のない会話のように思われるこのことは、映画『コンジアム』を理解するうえでの真髄を突く言葉であったと気付かされます。
『七人の侍』の終幕で、戦さの後に作られた無数の墓場を前に、俳優の志村喬が演じる勘兵衛が、「今度もまた、負け戦だったな。勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない」という名台詞があります。
ボムシク監督は、時代性や政治的な要素をアイロニーとして作品に活かすことを特徴としています。劇中のコンジアムで謎の失踪を遂げた女性院長は、韓国で最も有名政治家のメタファーとして存在させたのでしょう。
その証拠に、1963年から1979年まで韓国大統領を務めた朴正煕(パク・チョンヒ)の書いた額入りの書が出てくる下りからも理解ができます。
禁断の地への潜入レポートして、YouTubeで課金を集めようとした裕福な若い主人公たち。それに対してボムシク監督がインタビューで答えたように、彼らに対峙させた「コンジアム」がキャラクターであるとすれば、本作にどのようなメッセージが隠されているかが分かります。
ホラー映画は韓国ではヒットしないと言われた映画業界で、韓国ホラー映画歴代2位という快挙成し遂げた現在。チョン・ボムシク監督は今後の活躍が大いに期待される映像作家だといえるでしょう。
インタビュー/ 出町光識
チョン・ボムシク監督のプロフィール
チョン・ボムシクは東国大学校を卒業後、中央大学校の映画学科に進学して修士号を取得。
映画監督としてのデビューは、2007年の『1942奇談』というホラー映画。ボムシク監督はチョン・シクとの共同制作を行います。
植民地時代を表現したセットや個性的な演出が認められたこの作品で、韓国映画の中でも作品性の力強いホラー映画だと評価を得ました。
2012年にボムシクは、コ・ヒョンジョンの主演を務めた『ミスGO』の脚本を担当。また同年にボムシク監督は、オムニバス作品である『ホラー・ストーリーズ』の初話「太陽と月」の監督を務めます。
これを機に単独での監督を果たし、翌年には、『ホラー・ストーリーズ』で再び単話「脱出」の演出を担当。いずれの作品もポップな雰囲気と恐怖を与える演出でホラーとコミックの融合が称賛されました。
ボムシク監督は、2015年始めに長編作品『ワーキングガール』を発表。これは、チョ・ヨジョンと期待の若手女優クララを主演俳優とした女性称賛型のセックスコメディであったが、地元の劇場で公開しました。
2018年には『コンジアム』で公開15日で観客動員数256万人を記録を打ち立てます。
【映画祭キャリア】
2009年:第10回全州国際映画祭韓国短編競争部門審査委員
2013年:第17回プチョン国際ファンタスティック映画祭プチョンチョイス短編部門審査委員
【受賞歴】
2007年:第10回ディレクターズカット授賞式、新人監督賞
2014年:第32回ブリュッセルファンタスティック国際映画祭審査員特別賞
2018年:第39回青龍映画賞編集賞
第8回釡山映画評論家協会賞新人監督賞
第27回韓国映画評論家協会賞新人監督賞
【フィルモグラフィー】
『1942奇談』監督、脚本
『ひとりぼっち』脚色
『ミスGO』脚本
『ホラー・ストーリーズ』「太陽と月」監督、脚本
『ホラー・ストーリーズ2』「脱出」監督、脚本
『ワーキングガール』監督、脚本
『昆池岩コンジアム』監督