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Entry 2019/07/13
Update

【野村奈央監督インタビュー】映画『からっぽ』で描いた私の輪郭と創作活動のはじまり

  • Writer :
  • 河合のび

ちば映画祭2019にて上映された野村奈央監督の映画『からっぽ』

「初期衝動」というテーマを掲げ、数々のインディペンデント映画を上映したちば映画祭2019

そこで上映された作品の一つが、ユーモアを交えつつも“私”という存在が孕む空虚さと真正面から向き合った野村奈央監督の映画『からっぽ』です。


©︎Cinemarche

PFFアワード2018にてエンタテイメント賞を、第12回田辺・弁慶映画祭TBSラジオ賞を受賞した本作。

新進気鋭の映像作家として注目され、今後の活躍が期待されている野村奈央監督に今回インタビューを行いました

野村監督にとっての映画制作の始まりや、映画『からっぽ』を通じて描こうとしたテーマについてお話を伺いました。

【連載コラム】『ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り』記事一覧はこちら

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偶然の出会いから始まった映画制作


(C)NAO NOMURA

──映画制作を始められたきっかけは何でしょう。

野村奈央(以下、野村):私は元々、小説やエッセイを主に書いていたんです。何かを創作することが好きで、武蔵野美術大学に編入する以前は、日本大学芸術学部の文芸学科に通っていました。

高校中退してフリーターをしていたある日、バイト先のお姉さんに大規模花見に駆り出されまして。そこで、“好きな作家”という共通点で、学生運動が盛んだった時代の香りがする大学生のお兄さんとお話をしていて。

その方の「お前は何になりたいんだ?」という問いに私が「小説を書いています」と答えると、「映画を撮れ!」と言われて、あ、私映画撮るんだって。

元々映画は好きで、ぼけっと映画館にいることが多かったんですが、その方の言葉をきっかけに、試しに脚本を一本書いてみることにしたんです。書いたら自分で撮りたくなって、撮ったら楽しくなって、現在まで続けてきました。

──映画制作はどなたとともにされていたんですが?

野村:大学一年生の頃から、所属していた学内の映画サークルで自主映画を作り始めました。

サークルメンバーの殆どは、日本大学芸術学部の映画学科に在籍していました。ただその中でも、スタイリストを目指している子や、私が原宿に行った際に知り合ったヘアメイクの女の子など、色んな場所での出会いを通じて、色んな方とともに映画を作ってきましたね。

“赤い気持ち”を描く


(C)NAO NOMURA

──『からっぽ』劇中では、“赤”という色彩が非常に強調されていました。その理由は何でしょう。

野村:人間には、“赤い気持ち”と“青い気持ち”というものがあるじゃないですか。

悲哀や落胆などの感情を表す時に、“ブルーな気持ち”と表現することがありますよね。その対義語と言える表現として、嫉妬など、身近な生活の中で生まれるどうしようもない感情を表す“赤い気持ち”が存在すると私は考えています。

そして本作の物語のように、ポジティブもネガティブも綯い交ぜになった“激情”にどんどん覆い尽くされていく状態を表すには、やはり“赤”という色がぴったりだと感じたんです。

また、「画面を真っ赤にする」という演出をしたかったというのもありました。それに、物語の終盤で雪山を描くこともすでに予定していたので、一面の“白”の中で映える色は“赤”だろうとも考えていたんです。

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人間の“からっぽ”さを強調するアイテム


(C)NAO NOMURA

──パペット・アニメーションによる演出にも非常に目を惹かれました。そのような演出をした理由は何でしょう。

野村:本作の主人公・まちが抱えている「朝昼晩、21種類のアルバイトを掛け持ちしている」という秘密を、どうしたらダークに、そしてポップに描けるかと考えた時に、「全部人間で描いても面白くないな」と感じたんです。そこで、人間とパペットを織り交ぜた演出を採用しました。

そもそも、まちには「21種類のバイト先で一緒に働いている男全員に惚れられている」という裏設定があるんです。

その裏設定は、まちという女がそれぞれのバイト先でぴったり好かれる“私”を演じられる人間であることを意味しています。ですがそれは同時に、まちという“周り”に合わせられる存在、まちが合わせようとする“周り”という存在は別に人間でなくてもいいことも意味しているんですよ。

その結果、まちだけを人間として、“周り”を表情の乏しい、或いは無表情な人形として描くことで、“からっぽ”というまちの状態を面白く表現できるかなという考えに行き着いたんです。

それに、パペット・アニメーションが単純に好きなんですよね。『プリンプリン物語』などが凄く好きで、いつか自作でも用いてみたいなと思っていたんです。

キャスト陣の魅力


(C)NAO NOMURA

──まち役の打越梨子さん、由人役のカワチカツアキさんの魅力をお聞かせ下さい。

野村:打越さんは個人的に大好きなんですよ。アイドル的な“カワイイ”では決して捉え切れない、わけの分からない魅力と言いますか、いわゆる日本映画特有の“しっとりした色気”を持っていますよね。

見れば見るほど惹きつけられてしまう“顔”をしていますし、表情や声も非常に良いんですよ。

画面上での支配力が非常に強い女優さんだと私は思っていて、そういうところが好きですね。

カワチさんは何というか…うまく表現できないんですよね、あの人の魅力は。

彼は、自分の“空気”を常に纏っていられる人なんですよ。

そもそも、彼が演じた由人という役にはモデルとなった方がいて、その人も超マイペースな性格で自分の“空気”を纏っている人なんです。

一方で、まちは自身の“空気”をコロコロ変えてしまうどころか、自分の“空気”を持っていないじゃないですか。その対比をより明確に描くためにも、すでに自分の“空気”を纏っているカワチさんをキャスティングしたんです。

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一貫して描き続けてきたテーマ

──映画制作以前から続けられているご自身の創作活動の中で、一貫して描いてきたテーマなどはありますか?

野村:人と人との一番密な関わりって、恋愛関係なんじゃないかと私は考えているんです。だからこそ、“私”という存在の輪郭も浮かび上がりやすいとも考えています。

私は物語のテーゼとして恋愛ものを描くことが多いんですが、実際は、恋愛ものの皮を被った“私”という存在、或いは“女”という存在“の物語を描いているんですよ。人間関係の中での“私”の輪郭が浮かび上がっていくうちに、次第にその関係も“私”の輪郭も崩壊に至ってしまうような物語と言えばいいんでしょうか。

人間関係の中から浮かび上がってくる“私”という存在に、ずっと興味があるんですよ。そしてその延長線上にある、“女”という存在にもです。

それは映画においても、映画以前の創作においても描き続けていることだと感じていますね。

現在進行形の次回作


©︎Cinemarche

──野村監督は武蔵野美術大学を卒業後、フリーランスの映像作家として活動されています。今後の映画制作はどのようにお考えですか?

野村:実は、すでに次回作の制作は決まっているんです。本年度の「MOOSIC LAB」への出品を目標に現在制作の準備をしている最中で、今年9月のクランクインを予定しています。

──その次回作とは、どのような内容なのですか?

野村:端的に言えば、「恋愛体質ピュアピュア女VSいっぱいの男」ですね(笑)。

主人公の女の子が男たちに騙され続けた果てに、“虹”になるという結末にするつもりです。コメディタッチの、90分程度の長編作になる予定ですね。

ただ、別に“美しいもの”になろうとするために“虹”になろうとするのではなく、あくまで“一瞬の本当”になろうとするために。

ここ数年の中で、他人を信じられなくなった出来事が結構あって。それこそ、“私”も“周り”も全部一つになってしまえばいいんじゃないかと感じてしまうほどにです。

ですが、それでも結局ひとりの人間として、“私”として生きていきたいのが人間ですし、誰かを愛したいし誰かに愛されたいのが人間なんじゃないかと思って。

そして、そうやって個別の存在として苦しみながら生きていく中で、“一瞬の本当”を感じとって、それを誰かとやはり“一瞬”だけでもいいから共有したい思いが多分まだあって。嘘が多過ぎる、他人を信じられない世の中においても、“一瞬の本当”は存在するはずだと。

世界を再び愛するために、私は次回作を撮っています。そして、人間関係の重みに押し潰されそうになっている方が、その映画を観ることで少しでも心が軽くなってくれたらいいなと願いながらも撮っているんです。

毎日自分と話しながら作っているので、公開される11月には、内容まるっきり変わっているかもしれませんが(笑)。楽しみにしていてください。

野村奈央監督のプロフィール

1994年生まれ、東京都出身。

18歳の頃に出会った知人から脚本の執筆を勧められたのきっかけに、その後は監督や編集作業も行うようになります。

2019年現在は武蔵野美術大学を卒業後は、フリーランスの映像作家として活動を始めました。

監督作品には2016年の『道子、どこ』などがあります。

インタビュー・構成/河合のび
撮影/出町光識

映画『からっぽ』の作品情報


(C)NAO NOMURA

【公開】
2018年(日本映画)

【脚本・監督】
野村奈央

【キャスト】
打越梨子、カワチカツアキ、須田暁、木村知貴

【作品概要】
365日、朝昼晩といくつものバイトに明け暮れるフリーターの女性が、画家の青年と出会ったのを契機に曖昧な自己に囚われてゆく姿を描いた長編映画。

野村奈央監督が武蔵野美術大学の卒業制作として手がけた作品であり、監督にとっては劇場公開映画デビュー作でもあります。

自主映画の祭典・PFFアワード2018に選出されエンタテインメント賞を獲得したほか、数々の映画祭で上映されて注目を集めました。

映画『からっぽ』のあらすじ

365日、朝昼晩といくつものバイトを渡り歩くスーパーフリーターである渡良瀬まち。

ある日、バイト先の居酒屋で彼女をモデルに絵を描きたいという画家・由人と出会います。

由人のスケッチに心を奪われたまちは、由人と暮らし始めながら彼にのめり込んでいきます。

しかしながら、彼女は由人のキャンバスに描かれた自分に違和感を抱くようになり、それまで続けていたバイトにすら身が入らなくなっていきました。

そして芸術専門のライター・糸川洋と出会ったことで、まちのそれまでの生活は更なる崩壊へと向かってゆきます。

映画『からっぽ ー特別増補版ー』の上映情報


(C)NAO NOMURA

映画『からっぽ ー特別増補版ー』がテアトル新宿にて二夜限定レイトショー公開中!

7月13日(土)・14日(日)の21時より上映!

【連載コラム】『ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り』記事一覧はこちら

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