Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2021/10/08
Update

【藤井愛稀インタビュー】映画『Cosmetic DNA』大久保健也監督に見いだされた理由と作品の魅力を語る

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『Cosmetic DNA』は2021年10月9日(土)よりK’s cinemaほかにて全国順次公開!

大久保健也監督が脚本・撮影・照明・美術・編集を自ら手がけ、ユニークで大胆な完全オリジナルストーリーを完成させた映画『Cosmetic DNA』。

現代を生きる女性たちを取り巻く社会の不条理と理不尽を、パワフルに描き出した本作は、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020」で北海道知事賞を受賞し、SNSを中心に大きな反響を巻き起こしました。


photo by 田中舘裕介

主人公アヤカを演じるのは、『血を吸う粘土~派生』(2019)や『黄龍の村』(2021)などに出演している藤井愛稀(ふじいいつき)。

『Cosmetic DNA』の出演にいたった経緯や自身の演技のモチベーション、同世代の仲間と共に築き上げた作品に対する想いなど、貴重なお話を伺いました。

大久保健也監督からの出演依頼


(C)穏やカーニバル

──『Cosmetic DNA』に出演されたいきさつをお聞かせください。

藤井愛稀(以下、藤井):ある日突然、大久保健也監督から「はじめまして」メールが届き、こういう作品を撮っていますと、それまで撮られた作品が載っているYouTubeのチャンネルを送って下さいました。それから今度、撮影にあたる長編映画に出演していただきたくて、というお話を伺いました。

その後、大久保監督の作品を拝見したところ、知人やお世話になっている方々も出演されていました。そのこともあり。知人たちに大久保監督のことを聞いてみたところ、「作家性を凄い大事にする人だよ」というプラスな反応をお聞かせいただき、お会いして今回の作品のことなどを伺い、一度ご一緒してみようかなと思うようになりました。

──自分で脚本を書いたという大久保監督が、藤井さんに声をかけたと言うわけですね。

藤井:お話によると、大久保監督は私が出演した作品を見て下さって、オファーしてくださったみたいでした。私が以前に出演した映画では、アヤカとはかけ離れた役を演じていました。『ファミリー☆ウォーズ』(2018)という映画のサキっていう女の子だったのですけれど、ちょっと天然というか、でも悪いヤツじゃなくていい子、みたいな役でした。そこからよくアヤカ役に引っ張てきて下さったなあと思います。凄く人をよく見ていらっしゃるんだなあと感心しました。

大学で学んだ演技することの面白さ


photo by 田中舘裕介

──京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)で演劇を学ばれたと伺いましたが、どのようにして俳優になりたいと思われたのでしょう。

藤井:きっかけは、高校生のときに舞台で出演したアマチュアの劇団で、すごく自分の好きな芝居をされる方と出会ったこと。その方の経歴を調べると大学で演劇を学ばれたというのがあり、ハッとしました。自分がこの作品に出たいとかそいうこうとではなくて、芝居についてを知りたいというか、人を見たいというか……。今までそういうモチベーションでお芝居をしていたので、この方法が自分にはあっているのかもしれないと思いました。

いろいろな大学のオープンキャンパスに行ったり、ワークショップを受けたりする中で、肌にあったところが、今は京都芸術大学に名前が変わりましたけれども、当時の京都造形芸術大学でした。始めは舞台芸術学科に行こうと思っていたものの、短篇映画を映画学科で撮るAO入試を体験し、そこで映画撮影って面白いなと思いました。

映像のお芝居は、それまで再現ビデオの経験ぐらいしかありませんでした。短篇映画撮影に参加して、芝居だけじゃなく、監督がいて、撮影、照明のスタッフがいて、その方々の全てが加わって一つの作品ができることが初めてわかり、これも面白いかもと感じました。

映画科に進むといくつかの選択コースに別れていましたけれども、俳優コースと製作コース、どちらの授業も受けることができました。映画の歴史や評論とかを学ぶ授業だとか、カメラの授業も受けたりしつつ、ゼミでは毎年1年次に短編、2年次に短編、3年次に中編、そして4年の卒業制作で長編を撮るというシステムがありました。

3年生の時には、芝居よりも映画そのものを知りたくなり、映画を自分で撮ってみたりしたこともありました。芝居について思うところがあったので、自分の「監督」体験を活かしつつ、いや今活かせていたらいいなと思いながら、今にいたっております。

監督と俳優の立場からの演技を知る


(C)穏やカーニバル

──人と人との関わり合いでモノが出来るということは、大学で実感されたのですか。

藤井:大学では映画の作り方や歴史も学んでいきました。その中で、各部署の方が映画について真剣に考えてよりいい演出を取り込んだものが、一つの作品としてずっと残るということに気がつき、それはとても素晴らしい感じました。

──実際に「監督」と「俳優」の視点を踏まえて、演技をする上でどういう風に演じ分けようかと心掛けていらっしゃいますか。

藤井:「監督」については、まだ全然本当に一度させてもらったみたいな感じなので、そんなに大層なことは言えませんが、自分の感情を優先して芝居をするべきところと、画面に映るものとして、どういう風に映ったらいいのかを考えながらやるところを分けていました。

『Cosmetic DNA』でいうと、「シャネル、愛してる」と呟くところもそうです。クラブに行く階段の上り下りで足をとられているシーンとかでも、気持ちだけでいったらこういう風に歩きたいけど、でも映りとしてはこういう風に行った方が見映えもいいのだろうと、考えながら演じていました。

どこかで監督の視点を常に置いていることを意識しました。俳優の皆さんが考えてらっしゃるかもしれませんが、私は自分が監督をしたことにより、そういうことを考えるられるようになったのです。もちろんその視点はいらないっておっしゃる監督だったら、そこは置いといてお芝居だけに集中もします。

でも今回の場合は、ほぼ大久保監督が一人でカメラを回されている現場で、自分の持っているもの全てを注ぎながらやるみたいな状況でした。持っている武器は全部見せて、これだけありますけれどどうしますっていう感じで進めていく状態であったので、今回は特にいろいろ考えながら作品に挑みました。

アヤカの心情と作品全体の流れとを見ながらそこを調節していく感覚は常にあります。アヤカは強烈なキャラクターで、なかなか普通にいないキャラクターですから。でも、アヤカは私とは表向きには全然違うタイプですけれど、どこかしら共通するところがあるなとも思っています。

それは、自分が決めたことに対して突き進んでいくところです。私も一つのことがあってそれが最善と思ったルートは、歩もうとしています。モテようとメイクをするのではないし、おしゃれをするわけでもなく、自分がしたいからそうするんだというアヤカの意識。そこはすごく共感できます。

アヤカの表面に出てきているものは私とは違っていても、根底で持っている行動を起こすまでの元の種みたいなものには、自分でも近いモノがあるなと思ったので、キャラに近寄りやすかったです。監督はそこを見て下さって、アヤカに抜擢されたのだと思います。

全力投球の撮影現場から観る人へ訴える


photo by 田中舘裕介

──藤井さんの素敵な笑顔があったので、『Cosmetic DNA』撮影現場は楽しかったのかと思えました。

藤井:苦痛を共演の女の子3人で乗り越えたという感じの撮影でした。演技そのものもきついものがありましたけど、現場では大久保監督VS女子みたいな構図ができあがっていました。スタッフも少ない中で監督が撮られていて、いろいろな配慮はできない大変な状況でした。

こちらが聞いていた話と違う状況になったときが現実面として厳しかったです。そうなったときでも、監督は自分には見えているものがあるから、誰に対してもこうしてください、とおっしゃいました。こちらとしては、言われたからには全力でやるしかありません。

先にある完成形は大久保監督にしか見えてないから私たちにはわかりませんが、「全力でやるからいいもの作ってください。お願いします」みたいなモチベーションで。それも一人だと心が折れちゃいそうになりますけれど、3人いてみんなで支え合いながら頑張りました。


(C)穏やカーニバル

──みんなで頑張ったというこの作品は、どういう方に観てもらいたいですか。

藤井:この作品は、人は自分がされたら嫌なことを他の人にしている可能性がすごく多いとわかる映画になっています。自分の本当に大切な人にはもちろん見て欲しいですし、描写が過激なところが苦手だと思う人でも見て頂きたいです。過激な描写自体もすごく素晴らしい映像もあるので、そういうものが好きな方やバイオレンスだったり、ポップな映画が好きな方にはぜひ観て頂きたいですね。

主人公と同じ若い女性に共感していただきたいのですが、男性にも共感していただけるところはおおいにあります。人間みんな誰しもが欲求というものは持っていますから、若い女性に限らず、人の欲求から始まる話だと思います。女性目線の作品ですが、いろいろな人間の欲が入り乱れて、そこから始まっている物語ですので、全ての方に観ていただきたいと思っています。

インタビュー/星野しげみ
撮影/田中舘裕介

藤井愛稀プロフィール


photo by 田中舘裕介

1996年生まれ、京都府出身。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科卒業。

出演作に『嵐電』(鈴木卓爾監督/第11回TAMA映画祭最優秀作品賞、第34回高崎映画祭最優秀作品賞) 、『特撮ドラマシリーズ FUGA』(タケウチユーイチ監督/田口清隆監督主催 「第11回自怪選」優秀賞)、主演作に『血を吸う粘土〜派生』(梅沢壮一監督/シッチェス映画祭正式出品作)、『West End Girls』(片岡大樹監督/国際短編映画祭SSFFアジア2020観客賞)がある。その他、多数のMV出演や商店テーマソングのメインボーカルも務める。

映画『Cosmetic DNA』の作品情報

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本・撮影・照明・美術・編集】
大久保健也

【プロデューサー】
大久保健也、西面辰孝

【キャスト】
藤井愛稀、西面辰孝、仲野瑠花、川崎瑠奈、吉岡諒、石田健太

【作品概要】
14歳から映画制作を続けてきた大久保健也監督が、撮影当時24歳で作り上げた劇場デビュー作。2020年に「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で北海道知事賞を受賞したほか、ドイツのハンブルク日本映画祭ではジャンル映画特別賞を獲得した。

主人公アヤカ役には『血を吸う粘土~派生』などで知られる藤井愛稀。現代を生きる女性たちを取り巻く社会の不条理と理不尽を、ヴィヴィッドな映像美でパワフルに描いた注目の一作です。

映画『Cosmetic DNA』のあらすじ


(C)穏やカーニバル

コスメを愛する美大生・東条アヤカ(藤井愛稀)は、ある時「自分の映画に出演してほしい」とナンパしてきた自称・映画監督の柴島恵介(西面辰孝)に薬物を盛られ暴行されてしまいます。

泣き寝入りせざるを得ない状況に追い込まれ精神的に病んでいくアヤカでしたが、大学院生のサトミ(仲野瑠花)、アパレル店員のユミ(川崎瑠奈)と出会ったことで少しずつ自身の心を取り戻していきます。しかし、柴島の次なる標的がユミであると知ったアヤカは突発的に柴島を殺害してしまうのでした。

愛と友情、そして破壊の先の未来とは?アヤカ・サトミ・ユミの「私たちの未来」のための革命が始まろうとしていました……。





関連記事

インタビュー特集

【深田晃司監督インタビュー】映画『よこがお』女優・筒井真理子と観客の想像力を対峙させたい

映画『よこがお』は角川シネマ有楽町・テアトル新宿ほか全国順次公開中 『ほとりの朔子』『淵に立つ』など、日本国内外の映画祭にて高い評価を得てきた映画監督・深田晃司。 そして、『淵に立つ』にてその名演が評 …

インタビュー特集

【小沢まゆインタビュー】映画『夜のスカート』喪失を経験した人々に“よくがんばりました”と声をかけられる作品へ

映画『夜のスカート』は2022年12月2日(金)より、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』にて公開!ほか全国にて順次公開予定! ⺟を癌で亡くして間もない独⾝アラフォーの実佳(⼩沢まゆ)は、⼩学校の同級⽣ …

インタビュー特集

【レイス・チェリッキ監督インタビュー】映画『湖上のリンゴ』トルコ伝統文化から描く“語り”の意味と恩師との約束

第32回東京国際映画祭・コンペティション部門上映作品『湖上のリンゴ』 1960年のトルコで実際に起きた干ばつを背景に、「アシュク」と呼ばれる伝統音楽の奏者を目指す少年の淡い恋、そして伝統文化と信仰の意 …

インタビュー特集

【永瀬正敏インタビュー】映画『名も無い日』写真がうつす心という“真”、己に問い続ける“永遠”になってしまった目標

映画『名も無い日』は2021年5月28日(金)よりミッドランドスクエアシネマほか愛知県・三重県・岐阜県の東海三県での先行ロードショー後、6月11日(金)より全国順次公開予定。 愛知県名古屋市を舞台に、 …

インタビュー特集

【川瀬陽太インタビュー】『激怒』“映画の記憶”がそこかしこに現れている、日本映画の一つの形が見える作品

映画『激怒』は2022年8月26日(金)より新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサ、テアトル梅田、京都みなみ会館にて、9月3日(土)より元町映画館にて全国順次公開! アートディレクター・映画ライターの高橋ヨシ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学