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Entry 2023/01/11
Update

【GONインタビュー】映画『コーンフレーク』が生んだ俳優としての成長×演技に立ち返ることのできる“あらゆる芸術”

  • Writer :
  • タキザワレオ

映画『コーンフレーク』は2023年1月21日(土)より池袋シネマ・ロサにて劇場公開!

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭初の3年連続受賞など、国内外の映画祭で多数受賞し、注目を浴びている磯部鉄平監督のオリジナルラブストーリー『コーンフレーク』。

2016年から制作が開始され、2017年の冬に磯部監督と主演キャストのGON、高田怜子の地元・大阪で撮影された本作は、多くの映画祭・イベント上映で評価を集め続け、遂に待望の単独劇場公開が決定しました。


(C)Cinemarche

2023年1月21日(土)からの池袋シネマ・ロサでの劇場公開を記念し、Cinemarcheでは音楽の夢を捨て切れず自堕落な生活を送る主人公・裕也を演じたGONさんにインタビューを敢行。

失敗を繰り返しながらもGONさんが編み出した、“表現者”ならびに“今の自分”としての学び方。そして、俳優とともに様々な芸術に触れ続けているその意味など、貴重なお話を伺いました。

“今の自分”でこそできる役作りを


(C)Cinemarche

──GONさんが俳優を目指された経緯をお教えいただけますでしょうか。

GON:もともと家族が映画好きで、その影響から自分も映画監督になりたいと思うようになり、10代のときは映画をたくさん観ていました。

当時からマーロン・ブランドの『波止場』(1954)やジェームズ・ディーンの『理由なき反抗』(1955)が好きだったんですが、俳優ごとに出演作を観ていくうちに、ひとりの俳優がそれぞれの作品で全く異なる芝居を見せている姿に興味が沸いてきたんです。

そのうち、どうしても自分でも演技がしたくなって俳優養成所に入りました。国内のハリウッドのメソッド演技を学べる所を探し、『ラスト サムライ』(2003)や『バベル』(2006)などでキャスティングディレクターを務めた奈良橋陽子さんが主宰するアップスアカデミーで演技を学びました。

卒業してから、自分は日本だと三國連太郎さん、原田芳雄さん、萩原健一さん、緒形拳さん、 渥美清さん、川谷拓三さんに憧れていたのですが、そうした方々が当時の自分の年齢のときに何をしていたかを思うと「ここからはどうあがいても、あのレベルの演技はできない」と悩むようになりました。

養成所でも一番下手くそで、演技も俳優としての立ち位置も分からなくなり、芝居を娯楽として楽しめなくなった時期もこれまで何度かありました。


(C)belly roll film

──芝居を娯楽として楽しめなくなった時期に陥っても、それでもGONさんが映画を観続けられた理由とは何でしょうか。

GON:単なる観客としてではなく、表現者として感受し続けたかったんです。自分も表現と交わりたいから勉強して、盗めるものがあるなら盗みたい。どんな形でもいいから、作品作りには関わり影響を受け続けていきたいと思っています。

そして常に「その時の自分に、何が一番響いたのか」は確かめるのは重要だと思います。

吸収しようと意識せずとも、観ていたら段々と影響を受けるものですし、続けていると多少なりとも自然と演技に対しての理解が深まっていきます。ただそれだけでは不十分なので、脚本や構成を学び、他の部署のことを知ったり、良い脚本と巡り合うまで待つだけでなく、自分なりに作品を面白くする方法も模索する。他の人とは全然違うかもしれないですが、自分なりの方法を考え、今の状態でこそできる役作りを考えています。

俳優として挑戦できた『コーンフレーク』


(C)Cinemarche

──磯部監督の初長編監督作品となった映画『コーンフレーク』では、裕也という役をどのように捉えられた上で芝居に臨まれたのでしょうか。

GON:磯部監督とは初めの現場から、お互いに似た部分があったのか、お互いが求める芝居の感覚の擦り合わせは自然とできていました。

また裕也は、素の自分と重なる一方で、磯部監督自身も投影されている役でもあります。そのため裕也を演じる上では、自分自身でもあり磯部監督でもあるような、線引きの曖昧なグラデーションを意識していました。

実は「外で収録した雑音を、部屋で裕也がひとり聴いている」という感傷的な場面がクランクアップだったんですが、その場面の脚本のト書きには「大泣きする裕也」と書かれていました。

ただ、「“何%”の泣き方をするのか」表現の出力がわからなかったので磯部監督に聞いたところ「120%で」と返されたので、全力で「大泣き」しました。カットがかかったら、自分の頭の中まで真っ白。指示した磯部監督も想像以上のやり過ぎぶりに引き、結局そのテイクは使われず、より抑えた表現に留めて撮り直しました。


(C)belly roll film

GON:演技を始めたての頃の自分では、『コーンフレーク』でできたような自然な喋りも、相手役の台詞を聞くという演技さえもままならなかったと思います。画面の中に自分が存在すること自体が不可能に近かった…。

昔の自分は自己の意識が強過ぎて、感情を出し過ぎるだけの演技に走ってしまいがちでした。監督や共演者の方とうまくコミュニケーションをとらないと、それもできない状態でした。それでも芝居を続けて行くうちにマシにはなっていきましたが。

そうして演技の成長の循環を繰り返すうちに、ある時できないことばかり気にし過ぎてしまう自分だけの葛藤なんて、どうでもいいやと思えたんです。自分にとって、本当に大きな気づきでした。

『コーンフレーク』はそうしたことを経て、自分を捨てて皆んなにいい演技をしてもらえるように努力し挑戦した作品でした。

相手が良くなれば自分も自然と良くなるので、『コーンフレーク』では美保役の高田怜子さんに良い演技をしてもらえたからこそ、それに応える形で自然と自分も良くなったと思います。それは他の共演者の方の場合も同じで、みんなそれぞれに力の籠った一瞬があり、受けるモノが大きくて感動しましたし、一体感があり嬉しかったです。

あらゆる芸術活動が、自分自身を広げてくれる


(C)Cinemarche

──映画『コーンフレーク』の着想の一つには、GONさんがギターの練習を始められたことが深く関わっているとお聞きしました。

GON:俳優の仕事は、脚本をもらうことから始まります。その中から表現を探ることも楽しかったのですが、俳優という活動だけだと自分そのものが受身になってしまう気がしたんです。そこで、自己から発信できる表現の第1段階として、遅まきながら音楽を始めてみました。

色んなことをやりたいんです。映画も作りたいし、絵も描きたいし、音楽もやりたい。

また違う芸術を深めると、意外な共通点に気づくこともある。例えば音楽の楽譜は演技における脚本と近い部分があったり。例えばリズムだけとっても意識してしまうと他のことが疎かになったり、意識しすぎて逆に上手く行かなかったりしますし。そういったつながりを自分で発見して深めるきっかけになればいいなと思いますし、恥ずかしい失敗をしても、上手くなりたいと努力するようになるんです。

絵を描くのは、単純に楽しいからですね。演技も音楽も全部そうなんですけど、やりだすと一心不乱に没頭してしまうんです。特に写生は、よく物を見つめないと上手く描けない。いろんな見方を養えることが興味深くもあり、ストレス発散にもいいんです。

──多様な芸術に触れることが、いくつもの意味において、「仕事」という側面を持つ俳優を続けるための糧になっているのですね。

GON:俳優の仕事は、演じる役柄によってはとてもダークな精神状態にならざるを得ないときもあるので、精神的にも肉体的にもすり減ってしまうことはあります。そんなときこそ、他の芸術や毎日している練習で発散したいと思っています。

例えばメトロノームのBPMを40にしてギターを1弦ずつ、正確に押さえてポンポンと鳴らす。できるだけ綺麗に正確に鳴らし、そして自分が出した音をちゃんと感じる。セーハもある程度できたら簡単に弦を押さえられると思いがちですが、1弦ずつ鳴らしてみると肝心の音が鳴らないなど、当たり前にできていることも、実はよく聞いたり見たりするとできていなかったりします。

そして、それを演技の練習に反映させ、同じようにBPM40でゆっくりとしたテンポでリズムに乗ってしまわないように、セリフを一音一音無機質に発声練習することに一時期ハマったりしました。そういう風に他の芸術に触れることで、演技に生かすことができるんだと思います。

芸術活動が好きというよりも、自分はつい表現をやりたくなってしまうんです。何を目指しているのかは自身でも全く分からないですが、何かに没頭できること自体が救いになっているからこそ、いろいろな表現を通じてこれからも少しずつ自分の幅を広げようとしています。

インタビュー/タキザワレオ

GONプロフィール

映画主演作に中村祐太郎監督『ぽんぽん/PONG PONG』『アーリーサマー』、滝野弘仁&高畑鍬名監督『FUCK ME TO THE MOON』、黒田将史監督『バカドロン』、中濱宏介監『SORROWS』、磯部鉄平監督『コーンフレーク』 下社敦郎監督『kidofuji』等があり、国内外の映画祭に出品・受賞に導く。

他メディアの出演作は湘南乃風『GAMES SHONAN PLAY』MV、THE ORAL CIGARETTES『エイミー』CM、 町あかり『電球を替えてくれた人』PV、ヨーロッパ企画のブロードウェイラジオ『どこかに帰りたくなる日々』ラジオドラマなどがある。

また、俳優だけではなく絵、漫画、音楽制作、映画制作にも挑戦し、活動の幅を広げている。

映画『コーンフレーク』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【監督】
磯部鉄平

【脚本】
磯部鉄平、永井和男

【撮影・照明】
佐藤絢美

【音楽】
kafuka(江島和臣)

【挿入歌】
「パンプス」(作詞・作曲:すのう/歌:小林未奈)

【主題歌】
「コーンフレーク」(作詞・作曲・歌:すのう)

【キャスト】
GON、高田怜子、日乃陽菜美、手島実優、木村知貴、南羽真里、土屋翔、ひとみちゃん、時光陸、白井宏幸、松本真依、皷美佳、岩本守弘、五山智博、石井克典、谷口慈彦、小林未奈、すのう(特別出演)

映画『コーンフレーク』のあらすじ


(C)belly roll film

保険外交員として働く美保は、音楽の夢を捨てきれずに自堕落な生活を送る裕也との暮らしに居心地の良さを感じながらも、このままでいいのかと自問していました。

職場の後輩は美保を頼るばかりでなかなか独り立ちしない。そのせいで上司からねちねちと嫌味を言われ疲弊する毎日です。

疲れて帰宅した美保は、裕也がバイト先の後輩・朱里と連絡をとっていたことに気が付きます。口論となった末、美保は裕也を家から追い出してしまいます。

行き場を失った裕也と、ひとりになった美保。2人は、この日別々の夜を過ごすことになり……。




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