Amazonオーディブル『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―』が2022年7月15日(金)より配信開始!
豪華キャスト陣による朗読作品やPodcastなど、多種多様な音声コンテンツを楽しむことができる「Amazon オーディブル」。映像メディアとは異なる「音」ならではの親しみやすさから、近年さらに関心が高まっています。
そして2022年7月15日(金)より、世界的作家・村上春樹の著作『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―』が配信されます。
いずれも日本語原文としては初のオーディオ化となる作品であり、『神の子どもたちはみな踊る』を仲野太賀さん、『東京奇譚集』をイッセー尾形さん、『ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―』を藤木直人さんが朗読を担当しています。
このたびの配信開始を記念し、『東京奇譚集』の朗読を手がけたイッセー尾形さんにインタビュー。村上春樹作品に「シンパシーを感じた」と語るイッセーさんに、文芸作品を声で吹き込む難しさ、Amazonオーディブルに感じた可能性を伺いました。
CONTENTS
村上春樹作品にシンパシーを感じられた現場
──Amazonオーディブルは、朗読作品ともラジオドラマとも違う新しい音声コンテンツです。今回、オーディブルでの朗読収録を体験されてのご感想を、改めてお聞かせいただけますでしょうか。
イッセー尾形(以下、イッセー):オーディブルでの朗読には、雑多な世界がありません。非常に純粋な世界です。収録では自分の声と対話し、村上春樹さんが書く作品世界とも対話しながら、一人でテキストに向かい合います。水上を飛んでみたり潜ってみたりと、ドラマティックで濃い体験でした。
対話に、正解はありません。毎回の収録が、その都度違う経験になると思っています。絶対にこうしなきゃならないというものはなく、言うなれば自由な世界です。その反面、束縛がないことは疲れてしまいます。むしろ、束縛が少しあった方が楽。束縛がない分、自分から「自由」を作っていかなくてはならない点では、体力が必要でした。
──今回の収録にて村上春樹作品の世界と対話をされる中で、作品のどのような魅力を感じられましたか。
イッセー:自らが自分自身の「パイオニア」になっている点です。村上さんの全ての仕事が、人から借りものをしていない。自分で開拓していくストイックな取り決めをしているんだと思います。
その点において、村上さんの作品にシンパシーを感じられた現場でした。
「へま」という魅力
──『東京奇譚集』には5編の物語が収録されています。それらの物語に登場する、饒舌な人物、寡黙な人物など様々なキャラクターを演じられる感覚は、どのようなものだったのでしょうか。
イッセー:村上さんの世界の住人たちを、自分が一人芝居において演じている市井の人々の世界へと引きずり込むようなことはしていたと思います。
私の芝居では基本的に、「当人だけがそのことに気がついてない人物」を立ち上げます。幸せを手にしているのに「自分はそれを手にしてない」と思ってしまう人たちといった、自分に対して「へま」をしてします人たちを演じるのに憧れるんです。
──「ご自身が演じるのを憧れている人々」という点から、今回の『東京奇譚集』においてイッセーさんが親しみを感じられたキャラクターはいらっしゃいましたか。
イッセー:「品川猿」の猿に親しみを感じられました(笑)。あの猿は、純粋に「他者」といえる存在でした。例えば、おばあさんの役なら「こうやればできるだろうな」と自己の延長線上にいるんです。けれど、猿は延長線上にいない(笑)。延長しようがない存在だからこそ、惹かれるものがあります。
その上で『品川猿』を演じるための突破口は、「へま」しかないと感じました。誰かがへまをするんじゃなくて、自分に対してへまをしてしまう。「ミス」ではなくて「へま」。そこにユーモアが宿るんだと感じています。
ミスだと、笑えないんです。へまはキャラクター、ひいては人間の魅力です。数年前から、自分のテーマは「へま」だなと思っています(笑)。
朗読と一人芝居、通底する即興性
──今回のAmazonオーディブルでの朗読では、演じる上でどのような点を意識されたのでしょうか。
イッセー:「記録係」のように読んだことです。村上さんの作品でいえば、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)の感覚ですね。
村上さんの作品を、声に出して吹き込む。自我を全て捨てて「記録係」に徹するわけです。役者という生き物は「こうやってやろう」と企むものですが、今回はそれらを一切排除して、魚拓のように喋り写しています。
──「朗読」と「一人芝居」の間には、通底するものがあると感じられました。
イッセー:「共演者」からの反応が返ってこない意味では、演じる上での出力のあり方は似ています。また、村上さんが紡いだひとつひとつ言葉のニュアンスを瞬時に発見していく即興性は、舞台と同じです。
──舞台の場合は、客席に座る人々の反応を見て、芝居を即興的に変化させていくということですね。
イッセー:舞台では、お客さんに笑ってもらえると安心します。それが「意味」ではなく、意味以外のものによって通じている反応だからです。もし客席が黙って芝居を聞いているままだとしたら、それは意味だけのやりとりになってしまっている証拠です。
意味だけのやりとりは一番ナンセンスな、つまらない関係だと思っています。意味をどれだけ壊すか。これは、「へま」とひとつの双璧です。
村上春樹が描く世界との新たな出会い
──Amazonオーディブルのようなオーディオ作品を聴いていると、日常に広がる風景が変わるように感じられます。それは「声」だからこそ気づくことのできる世界が確かにあり、「声」だからこそ伝えられるものがあるからだと感じています。
イッセー:オーディオ作品では、リスナーが文芸作品の中にいるような感覚になると思っています。オーディオ自体に、そういった力があるのか。あるいは作品を聴いたリスナー自身が、その力を呼び込むのか。その力がどこまで存在するのかはまだ分かりませんが、だからこそ可能性を感じられます。
村上さんの作品ではその力が、より強力だと思います。日常の中で異次元に誘われ、そこから自分を見つめ直すことができる。人は生きていると、色んなことを思いついたり、思い出したりします。それは泡(あぶく)のようなもので、ぱっと生まれては消えてしまう。人生は、そういうものの集積だと捉えています。
けれど、この『東京奇譚集』の朗読では、泡のようには消えないと思うんです。聴いている最中に浮かんだことや思いつきが、しばらくは残り続ける。それこそが村上さんのメッセージなんだと思いますし、私の声が村上さんの世界の運び手、いや「運び屋」になれたらといいなと感じています。
おそらく村上さんの世界には、目を凝らしただけでは読み切れないものがある。目で読めない村上さんの世界が確実にある中で、今回収録した『東京奇譚集』は声を通じて、「耳」の世界で聴くことができる。村上さんの世界を耳に乗せることで、目だけでは気がつかなかった新しい世界に出会えると思います。
インタビュー/加賀谷健
撮影/出町光識
イッセー尾形プロフィール
1952年生まれ、福岡県出身。
1971年に演劇活動を開始。1980年、ひとり芝居を始め、独自の芝居スタイルを確立。1985年、文化庁芸術選奨新人賞大衆芸術部門受賞。現在フリーとなって新ジャンルに挑戦中。
主な映画出演作は『ヤンヤン 夏の思い出』(2000、監督:エドワード・ヤン)、『トニー滝谷』(2004、監督:市川準)、『太陽』(2006、監督:アレクサンドル・ソクーロフ)、『先生と迷い猫』(2015、監督:深川栄洋監督)、『沈黙-サイレンス-』(2017、監督:マーティン・スコセッシ)、『ふたりの旅路』(2017、監督:マーリス・マルティンソーンス)、『漫画誕生』(2019、監督:大木萠)、『太陽の子』(2021、監督:黒崎博)など。
Amazonオーディブル『東京奇譚集』の作品情報
【配信開始日】
2022年7月15日(金)
【原作】
村上春樹
【ナレーター】
イッセー尾形
【作品概要】
俳優・イッセー尾形による、世界的作家・村上春樹の連作短編小説集の朗読作品。豪華キャスト陣による朗読作品やPodcastなど、多種多様な音声コンテンツを楽しむことができる「Amazon オーディブル」にて配信される。
なお2022年7月15日(金)には本作のほか、同じく村上春樹の著作の朗読作品『神の子どもたちはみな踊る』(朗読:仲野太賀)、『ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―』(朗読:藤木直人)が配信開始される。
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Amazonオーディブル『東京奇譚集』のあらすじ
親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却……。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。
孤独なピアノ調律師の心に兆した微かな光の行方を追う「偶然の旅人」。サーファーの息子を喪くした母の人生を描く「ハナレイ・ベイ」など、見慣れた世界の一瞬の盲点にかき消えたものたちの不可思議な運命を辿る5つの物語。
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