映画『愛のまなざしを』は2021年11月12日(金)より渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、イオンシネマほかで全国公開。
強烈な自我を持つ女性を軸に、狂気ともいえる愛を描いてきた万田邦敏監督。本作ではカンヌ国際映画祭でW受賞した『UNloved』、比類なき傑作『接吻』に続き、共同脚本・万田珠実と3度目のタッグを組みました。
それが映画『愛のまなざしを』です。
このたびの劇場公開を記念して、仲村トオルさんが演じる精神科医・貴志の息子・祐樹役を務めた藤原大祐さんにインタビュー。
オーディションで役を掴み、本作でついに映画デビューを飾った藤原さん。本作にて演じられた役、そして将来の夢について語ってくださいました。
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俳優としての初芝居は「映画初出演」
──本作は藤原さんにとって初の映画出演作となりました。出演を通じて感じられたこと、そして実際の撮影現場の雰囲気について、改めてお聞かせください。
藤原大祐(以下、藤原):僕にとってこの作品は、映画初出演というだけでなく初めてのオーディションで獲得した初芝居となりました。2年前に撮影しましたが、右も左もわからない状態で演じていたと思います。
この作品の撮影を経てからドラマに出演する機会もいただき、そうした経験を通じて感じたことは、万田組の現場は「ものづくり感」がとてもあるということです。現場でキャストが一緒に座って待ち、照明やカメラなどのセッティングが終わったらスタッフとともに作品を作っていく……。
またとても印象的だったのは、大御所の俳優さんたちも現場で一緒に座って話をしていることでした。僕は役者として最初の作品でしたから「『役者』ってこういう感じなんだ」と思ったのですが、ドラマに出演した時は待機部屋があり、セッティングが終わったら呼ばれるという感じだったので、本作との違いを感じました。
本作は「闇」の印象がある作品だと思いますが、現場自体はすごく温かくて、僕だけ新人で若いということもあり、息子のように可愛がっていただきました。シリアスな場面を撮影したあとは、楽しく笑いが生じる現場でしたね。
「こう演じる」と決めていくのではなく
──本作で藤原さんは、仲村トオルさん演じる貴志の息子・祐樹を演じられました。難しい役どころだったのではないかと思いますが、演じる上で意識されたことはありますか?
藤原:「こうやって演じたい」と役作りができるのは、役者として経験があってこそだと思うんです。僕にはそれがなかったので、自分の中で「こう演じる」と決めていくよりは、監督の色に染まる気持ちで、そしてキャストの皆さんに身をゆだねるつもりで現場に向かいました。もちろん役について考え続けることはしましたが、時には現場で柔軟に対応することも必要だと感じました。
──ご自身の中で、祐樹と似ていると感じる部分はありますか?
藤原:僕は役を演じるにあたり、全く別人になることはできないと思っています。自分の中の特徴をデフォルメして、その枠を大きくし、演じる役と重なった時にその役になれると考えています。
祐樹に関しては、思春期らしい葛藤だったり母親に対する想いだったり、そういうことの一つひとつが置き換えられる範囲で表現できていると思います。もちろん本来の僕と違うところはありますが、似ているところもあります。
ただ、普段の僕は感情をあまり表に出さないので、大きな声で叫んだりしないんです。なので、祐樹が父親に大きな声で想いを伝える場面は少し大変でしたね。
対等に接してくれた万田邦敏監督
──祐樹を演じられるにあたって、万田監督からはどのようなアドバイスがありましたか?
藤原:万田監督は「作品の中で『役』を生きる」ということが一番大切だとおっしゃっていました。その中で監督が注目されていたのが「人間の動き」です。
しゃべっているときに手を動かしたり、歩きながらしゃべったりという、人間のふとした時に出る特徴が大事だと万田監督に教えていただいて、台本に書かれていないト書き以上のことを現場では求められました。動きながら芝居をすることが多かったので、それをリアルに見せなければいけないことが難しかったです。
実は初めて万田監督のお写真を見たときには「怖い人なのかな……」と思ったのですが、全然そんなことはなく、ニコニコ僕のことを見てくださる、すごく温かい方でした。
また監督は、僕に対して対等に接してくださいました。僕は役者の経験がないので、監督に求められたものを一つ一つ全うすべき……というふうに考えていましたが、「祐樹を演じる上でどう思う?」と演じる僕自身に意見を求めてくださいました。だからこそ僕も作品に携わっていると思えたので、非常に楽しかったです。
撮影に入る前には万田監督の作品も改めて拝見しましたが、ご自身の色がすごくある監督だなと思いました。今回も監督の色を大切に、その色に自分が染まるような意識でいました。完成した作品を観たときには、自分が万田監督の色に染まれたと思えたし、監督の色に携われたというのがうれしかったです。
本当の父親のようだった仲村トオル
──祐樹の父親にあたる貴志役の仲村トオルさんと共演された感想はいかがでしょうか?
藤原:トオルさんに最初にお会いした時、これまでテレビで見てきた方とお会いできて光栄だったことはもちろん、背がとても高い方なのでそのことにも驚きました。大人の男性としての背中の大きさを一番感じましたね。
トオルさんは「自由に役を生きていいよ」とおっしゃってくださり、本当にのびのびとやらせてくださいました。撮影現場では「学校はどうなの?」とか「高校生の間では何が流行っているの?」という他愛もない会話をしてくださるなど、本当のお父さんのように感じていました。
ただ役柄上ではあまり仲が良くない親子だったので、トオルさんに激しく怒りをぶつける場面では「ごめんなさい。こんなに怒ってしまって」と思いました(笑)。ですが、だからこそ仲良くさせていただけたのかもしれません。
世界中の人に楽しんでもらえるエンターテイナーに
──2021年現在、藤原さんは現役の高校3年生でもありますが、お仕事と学校生活との両立の難しさを感じられるということはありますか?
藤原:やはり睡眠時間がないのが大変ですね。仕事がある日はだいたい夜23時頃に帰宅して、それから学校の課題を済ませ、気づいたら夜中の2時ということはよくあります。2時間だけ寝て朝には起きて……というのを繰り返しているので、体力的には正直きついんですが、登校して友だちの顔を見ると気持ちがとても和みます。
「眠いな」と思う時はありますが、このお仕事は楽しいからやっているので、苦痛に思ったことはないですし、最近移動中に上手に寝る方法も見つけたので、上手くコントロールできるようになりました!(笑)
学業との両立は決して楽ではありませんが、僕が携わる作品を観て一人でも多くの人が幸せになったらいいなという思いがあるので、皆さんにこの気持ちが届いたときの喜びを楽しみに続けています。
──今後チャレンジされたいこと、あるいは将来の夢はなんでしょうか?
藤原:幅広い演技ができる役者になりたいと思っています。僕は明るい役、等身大の役を演じさせていただくことが多いんですが、だからこそ少し変わった役や、それこそ今回の作品でトオルさんが演じたような闇に落ちていく役もチャレンジしてみたいですね。
夢は大きく持っていて、世界中の人に僕の出演する作品やエンターテインメントを観て楽しんでもらうことです。そこに向けて、じっくり一段ずつ階段を登っていきたいです。今自分にできることは何かを考え、お客さんに楽しんでもらう気持ちを忘れずに、エンターテイナーとしてがんばっていきたいです。
僕は先のことを考えてビジョンや戦略を立てるタイプですが、それと同時進行に「現在」へ100%の力を注げるような人間でありたいです。
「初めて」が詰まった作品を楽しんでほしい
──最後に、作品の見どころをお教えいただけますでしょうか?
藤原:この作品は、初のオーディションで獲得した役、そして初の芝居など、僕の初めてがつまった作品です。この作品を撮影してから2年間、いろいろな作品を通して僕を知ってくださった方がいると思いますが、これからの僕の役者人生の中において「初めて」の作品はこの作品だけなので、ぜひその初々しさを楽しんでもらいたいです。
今の僕の芝居に比べたら下手で技がないかもしれませんが、だからこそこの作品の中で「祐樹」として生きたという感覚を僕自身は感じられたし、実際に作品を観ても恥ずかしさはありませんでした。
パズルでいえば、最後のピースはお客さんにはめてもらう作品だと思うので、年齢や性別、生活している環境によって見え方が変わるとはずです。そういう意味では、いろいろな人にこの作品を楽しんでもらえたらと感じています。
インタビュー/咲田真菜
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/時田ユースケ(ECLAT)
藤原大祐プロフィール
2003年生まれ、東京都出身。特技は歌・ジャズピアノ・サッカー。
2019年に現事務所に所属し、間もなく「栄光ゼミナール」のWebCMに抜擢されデビュー。その後、アミューズ所属若手俳優によるファン感謝祭「ハンサムライブ」に最年少で出演し、そのルックスと力強いパフォーマンスで注目を浴びた。
2020年には、dTVchドラマ『中3、冬、逃亡中。』で両親を殺して逃亡する訳ありの少年役を演じきり、その後読売テレビ系・日本テレビ系連続ドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』で地上波連続ドラマ初レギュラー出演を果たし、その後もTBS系連続ドラマ『恋する母たち』やフジテレビ系連続ドラマ『推しの王子様』など立て続けに話題作に出演している。
映画『愛のまなざしを』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
万田邦敏
【脚本】
万田珠実、万田邦敏
【キャスト】
仲村トオル、杉野希妃、斎藤工、中村ゆり、藤原大祐
【作品概要】
強烈な自我を持つ女性を軸に、狂気ともいえる愛を描いてきた鬼才・万田邦敏監督。カンヌ国際映画祭にてW受賞した『UNloved』、比類なき傑作『接吻』に続き、共同脚本・万田珠実と三度目のタッグを組み、「愛」の本質を見つめ、人間の性とエゴをあぶりだした愛憎サスペンスが『愛のまなざしを』です。
精神科医・貴志を演じたのは、『UNloved』『接吻』でもキーパーソンを好演した仲村トオル。貴志からの愛を渇望する綾子役は、監督・プロデューサーとしても精力的に活動する杉野希妃。死んだ姉に焦がれ、綾子の登場により翻弄されるも真実をつかもうとする内山茂役には、監督・プロデュースなど肩書を超えて活躍する斎藤工。映画やドラマ・舞台でしなやかな演技力が光る中村ゆりが、六年前に亡くなった貴志の妻を演じています。
貴志の息子・祐樹役として十代の繊細な心の揺れ動きを表現した藤原大祐は、オーディションで役を掴み、本作で映画デビューを飾っています。その他、片桐はいり、ベンガル、森口瑤子など、ベテランが脇を固めます。
映画『愛のまなざしを』のあらすじ
貴志(仲村トオル)は、患者の話に耳を傾けてくれると評判の精神科医だが、6年前に亡くした妻・薫(中村ゆり)のことを想ってはむせび泣き、薬で精神を安定させる日々を過ごしていた。
患者としてやってきた女・綾子(杉野希妃)は、治療関係を超えて貴志と気持ちが通じ合い、やがて貴志に寄り添うようになる。
しかし綾子は、貴志の亡き薫への断ち切れない思いや薫との子供・祐樹(藤原大祐)の存在を知るや猛烈な嫉妬心にさいなまれ、独占欲がふくらむ。
そして、前妻の弟・茂(斎藤工)に近づき……。
執筆者:咲田真菜プロフィール
愛知県名古屋市出身。大学で法律を学び、国家公務員・一般企業で20年近く勤務後フリーライターとなる。
高校時代に観た映画『コーラスライン』でミュージカルにはまり、映画鑑賞・舞台観劇が生きがいに。ミュージカル映画、韓国映画をこよなく愛し、目標は字幕なしで韓国映画の鑑賞(@writickt24)。