SNSの恐怖と不条理を描き、若者世代が抱える心の闇を表したスリラー『スプリー』。
2020年、サンダンス映画祭でNEXT部門として初上映され、演出は新進気鋭のユージーン・コトリャレンコ監督で、脚本と製作も兼務しています。
キャストには、Netflixドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016〜)シリーズのスティーブ・ハリントン役で知られるジョー・キーリーが長編映画初主演を飾り、ライドシェアドライバーのカート・カンクル役を演じています。
また、カートに立ち向かうコメディアンを『サタデー・ナイト・ライブ』のサシーア・ザメイタが務めるほか、デビッド・アークエット、ミーシャ・バートン、ララ・ケント、フランキー・グランデらも出演。
ソーシャルメディアで人生の一発逆転を狙う狂気のライドシェアドライバーをカートが、乗客を殺害する様子を生配信するという、‟フォロワー至上主義”から生まれる新たなる恐怖を描いています。
映画『スプリー』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Spree
【監督】
ユージーン・コトリャレンコ
【キャスト】
ジョー・キーリー、サシェア・ザマタ、デヴィッド・アークエット、カイル・ムーニー、ミーシャ・バートン、フランキー・グランデ、ララ・ケント、ジョシュア・オーバル、サニー・キム、ライナス・フィリップス、ジョン・デルカ、ジェサリン・ギルシグ
【作品概要】
『スプリー』は、ソーシャルメディアのスターになるため、大量殺人をして注目されることを切望する青年の物語です。
監督・脚本・製作は、新進気鋭のユージーン・コトリャレンコ。主演は、Netflixドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016~)シリーズのスティーブ・ハリントン役で知られるジョー・キーリー。
無邪気なスティーブ役とは一転、狂気に満ちた青年を演じるジョー・キーリーの怪演ぶりに注目です。
『インフィニット』(2016)のサシェア・ザマタ、「The.OC」シリーズ(2003〜)のミーシャ・バートン、ダンサーのフランキー・グランデ、『スクリーム』(1996)シリーズで知られるデヴィッド・アークエットらが出演しています。
映画『スプリー』のあらすじとネタバレ
カート・カンクルは明るい性格の23歳の青年。彼は、過去10年間、ソーシャルメディアのスターとして成功したいと努めてきました。
しかし、世の中には何十万人ものフォロワーを持つ人もいるのに、カートは2桁の数のフォロワーも持っていません。
やがて、カートは独創的なアイデアを思いつきます。それは、相乗りアプリ”Spree”でドライバーとして働くことをSNSに投稿するというものでした。
カートは、視聴者に車内の全体像を見せることが出来るように、車の中に8台のカメラを取り付けます。
さらに有名になる方法を視聴者に教える、”The Lesson”というタイトルの新しいライブストリーミングも始めました。
「僕を知らない人へ。アプリの準備して。だって僕を知ることになるから」カートは、視聴者に向けた言葉を発し、車で出発します。
1人目の乗客を迎えに行き、フレデリックという男性を後部座席に乗せたカート。フレデリックに車内でカメラを回してることを説明します。
彼らは他愛もない会話をしながら車は走り出します。その時に、ライブストリーミングで表示されるコメントを読むカート。それは、唯一彼をフォローしているボビーのコメントでした。
ボビーは、カートがベビーシッターをしていた少年です。今ではインターネット上で頻繁に”@BobbyBaseCamp”という名前でライブストリーミングを行っていますが、視聴者数が多いため、カートは嫉妬心を抱いています。
カートがボビーの名前を出して話しをすると、フレデリックはボビーを知っているようでした。
するとカートは不機嫌になり、悪ふざけのつもりか、左右から車が迫る十字路を急加速して通過しました。最初は驚いたフレデリックですが、カートのドライビングテクニックは上手いと笑い出します。
それからカートは、フレデリックに車内に置いてあるペットボトルの水を飲ませようとしました。水を飲んだフレデリックは、突然咳き込み始め、倒れてしまいます。
そのペットボトルには、吸入すると死に至る防水剤が入っていました。カートは事前に、水の入ったペットボトルに防水剤を入ていたのです。
倒れたフレデリックを見て、カメラに向けて不気味な笑みとピースサインを見せるカート。「自分自身を動画に記録しなかったら、僕は存在しないということなんだよ」と言います。
フレデリックを処理したカートは、次の乗客を乗せるために再び出発しました。
2人目の乗客は、キャリアウーマンのアンドレアでした。彼女を後部座席に乗せたカートは、一方的なアンドレアの話を聞きながら運転をしてます。
その後、目の前にあったペットボトルの水を飲んだアンドレアは、案の定、倒れてしまいました。
人の気配がない場所に車を止めたカートは、彼女のスマートフォンを開きます。そこで相乗りアプリ”Spree”で自分の運転手評価を星5つにしました。
ソーシャルメディアでの注目を欲するカートの行為は、さらにエスカレートします。
3人目の乗客となったマリオを乗せたカートは、彼の目的地を無視して、別の乗客を迎えに行きました。
そこで待っていた乗客は、ソーシャルメディアでファンが多いコメディアンのジェシー・アダムスです。
車に乗ろうとしたジェシーは、マリオが乗っていたので最初は断りますが、説得するカートに押されて渋々乗車。
カートはジェシーに畏敬の念を抱いていますが、いざ車が出発すると、彼女はカートと彼のフォロワー獲得への執着に感動せず、途中で車を降りてしまいました。
それから更に、目的地と違う山の奥の方へ進むカートに、マリオは怒り出します。言い争いになった挙げ句、車から降りたマリオをカートは何の躊躇いもなく轢き殺します。
これらは全てカメラの前で行われました。
時間が経つにつれて、より独創的になり、もっと多くの視聴者を集めたいと益々激しくなるカート。
それにも関わらず、彼はボビー以外の視聴者を得ることはありません。ボビーは殺害はニセモノだと思い混んでおり、カートの行動を見ているほとんどの人も、全てが作られた行為だと信じていました。
その夜の帰り道で、ジェシーのインスタグラムによって、ジェシーが何百万人もの人が見る生中継のコメディ番組に出演することを知るカート。
映画『スプリー』の感想と評価
ソーシャルメディアの世界
本作はデジタル時代の『アメリカン・サイコ』(2000)のような作品です。
ソーシャルメディアがもてはやされる世界では、フォロワー数や「いいね」の数によって、自身の価値が決まってしまうような錯覚を持つ人も少なくないでしょう。
ソーシャルメディアが与えた影響により、‟インフルエンサー”と呼ばれる世間へと拡散力を大きく持つ人物も生まれています。
本作は、ソーシャルメディアの世界に生きるという人々の考え方や、フォロワー数を獲得したい人々にとって、どれほど重要なのかを視覚化しています。
ジョー・キーリーが演じた主人公カート・カンクルは、犯罪を犯してまで、より多くのフォロワーを得ようとしますが、観客はソーシャルメディアでの名声を得るために、そこまでするのかという“人の心の闇”に疑問を持つことでしょう。
日常で何気なく依存しているネット上のソーシャルメディアですが、本作を観るうちに、“過激な依存にに陥らない節度と健全とは何か”。その恐ろしいをまざまざと見せつけられます。
サイコパスに扮したジョー・キーリー
ジョー・キーリーは、この作品で不気味で狂気に輝きながらも、悲壮感に溢れた殺人という世界への導き手を演じ切りました。
ジョーの演技の最も素晴らしいところは、フォロワーを集めたいがために、お祭り気分で殺人を犯す人物の欲求に隠された“人間の本性”を視覚化した点であり、誰もがその怪演に釘付けになることでしょう。
カートにとっての“スター性”
ジェシーの行動によって、SNSは最終的に急上昇し、今ではハリウッドでとても有名になっていることが明らかになりましたが、一方でカートの犯罪は世間に知れ渡り、カートは成りたがっていた有名人として、もてはやされています。
では、カートは憧れであったスター性を獲得できたのでしょうか。答えは「YES」。まさに自分が望んでいたものを手に入れたのです。
フォロワーの数を増やそうと必死になっている人間の業は、犯罪行為におよんでしまう“挑戦する道の結末”を教示したのです。
まとめ
映画『スプリー』は、日常生活に不要不可欠なインターネットのライブストリーミングによって、世界中に自分を見せる青年カート・カンクルにとっての“日常(非日常)”の姿を描いていました。
インターネットのマイナスな道徳観を披露し、その暴力行為はリアルで衝撃的なものです。主人公カートは倫理観を失い、人々と関わる方法を真のコミュニケーションの喜びを理解することはできませんでした。
「いいね」の数という承認欲求のみに支配され、殺人を過激なゲームのように扱います。また誰かの言葉を客観的なものとして、他者理解することなくフォロワー数のカウントのみを“信仰した信者”でもあります。
主人公カートの笑みを浮かべて獲物を仕留めるという行動は極端なように見えますが、その裏に隠された欲求は決して彼だけのものではありません。
人間の持つ欲望の末路とは、その行動によっては、誰にでも大なり小なりの悪夢のようなことが起こり得といるでしょう。