幼い娘の異常性に侵される母親。20年越しに明かされる「怪物」の正体とは……
水泳インストラクターのヨンウンは、幼い娘ソヒョンの奇妙で危険な行動に悩まされていました。止めようとしてもエスカレートしていくばかりで、ヨンウンは心身ともに疲れ果てていきます。
それから20年後、特殊清掃の仕事をするミンの元に、彼女と同じく施設育ちだという新人のへヨンが入ってきます。二人は互いに暗い過去を抱えていますが、何かとソリが合わず、逃れられない狂気が二人を侵蝕し始めます。
娘の奇妙な言動に悩まされる母役に、ドラマ『ムービング』(2023)のクァク・ソニョン、その娘・ソヒョン役を『私たちのブルース』(2022)キ・ソユが演じました。
またミン役をアイドルグループ「少女時代」のユリ、へヨン役を『D.P. 脱走兵追跡官』(2021)のイ・ソルがそれぞれ務めます。
映画『侵蝕』の作品情報

(C)2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.
【日本公開】
2025年公開(韓国映画)
【英題】
Somebody
【監督、脚本】
キム・ヨジョン、イ・ジョンチャン
【キャスト】
クォン・ユリ、クァク・ソニョン、イ・ソル、キ・ソユ
【作品概要】
共同で監督、脚本を務めたのは、本作が初長編監督作となるキム・ヨジョン、イ・ジョンチャン。
キム・ヨジョンは、チャン・リュルとリュ・スンワンが共同監督を務めた『慶州 ヒョンとユニ』(2014)や『アワ・ボディ』(2018)、イ・ジョンチャンはナ・ホンジン監督作『哀しき獣』(2010)に製作チームとして携わっています。
本作は第29回釜山国際映画祭「コリアンシネマトゥデイパノラマ」部門に公式招待され、話題となりました。
映画『侵蝕』のあらすじとネタバレ

(C)2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.
水泳インストラクターとして働くヨンウンは、離婚後は一人で7歳の娘ソヒョンを育てていました。そんなヨンウンを心配した彼女の母は家を尋ね、一緒に住むと言い出します。
ソヒョンは奇妙な言動を繰り返し、学校を転園したり、病院でカウンセリングを受けたりしていました。
ヨンウンは、学校から電話が来ることに怯えていましたが、学校でソヒョンが他の子に対して危険なゲームを強要し、怪我をさせたことが明らかになり、転校を余儀なくされます。
ヨンウンは他の子を傷つけないために……と養鶏場に出向き、鶏の首を絞めるから見ないでくれとお金を渡して頼みます。そして、ソヒョンの好きなように鶏を殺させます。
ソヒョンの危険な行為はおさまるどころか、さらにエスカレートしていきます。
ヨンウンはソヒョンを学校が終わったら自分が働きているスイミングプールに通わせます。スイミングスクールに通う同じ年のジヘとソヒョンは仲良くしていますが、ヨンウンは次第にジヘの様子がおかしいことに気づきます。
ヨンウンに怯えている様子のジヘに話を聞くと、ソヒョンが嫌がるジヘに危険な行為をさせたり、首を絞めたりしていることが分かりました。
その話を聞いたヨンウンはその話を他の誰かに話したか聞きます。ジヘは誰にも話していないといいます。
「ソヒョンはきちっと叱っておくから誰にも話しちゃダメよ」とヨンウンはゆっくりとジヘを諭します。そして、ソヒョンのもとに向かいます。
ヨンウンが怒っていることに気づいたソヒョンは暴れますが、ヨンウンは抱き抱え「どうして悪いことばかりするの」とソヒョンを倉庫に閉じ込めます。
ソヒョンは倉庫で暴れ、物音に気づいた他の職員が鍵を開けてしまいます。ソヒョンはそのままヨンウンのいるプール教室にやってくると、ジヘを連れてどこかに行こうとします。
ソヒョンがジヘといることに気づいたヨンウンは、ソヒョンを止めようと駆け出します。すると、ソヒョンはそのままジヘを深さのあるプールへ突き落とします。
水が怖いジヘはそのまま溺れてしまいますが、緊急措置で何とか息を取り戻します。
ヨンウンは追い詰められ、疲弊し切って別れた夫に電話をします。「嘘よ、本当は育てる自信なんかない」と、ソヒョンの目の前で言ってしまいます。
それを聞いたソヒョンは、怒って一人でどこかに行ってしまいます。ヨンウンは追いかけなければと思いつつも、呆然と立ち尽くしたまま動けません。
慌てて追いかけた時には遅く、ソヒョンが一人で家に帰ってきたと母から連絡があります。ヨンウンが帰ると、母の手からは血が流れていました。
「ソヒョンがやったのね」とヨンウンは言い、怒った様子でソヒョンの部屋に向かいますが、鍵がかかっています。無理やり鍵を壊し部屋に入ったヨンウンに、ソヒョンは「嘘つき」「大切だって言ったのに、追いかけなかった」と怒って絵を包丁で切り刻んでいます。
「ごめんね、それを渡して」と手を差し伸べるヨンウンの手を、ソヒョンは包丁で切ります。血が止まらないヨンウンに、母は病院に行くようにと言いますが「今日はソヒョンのそばにいてあげなきゃ」とヨンウンは言います。
深夜、ヨンウンはソヒョンを連れてスイミングスクールに向かいます。いつもと様子の違うヨンウンに、ソヒョンは怯えた様子です。
ヨンウンはジヘのようにソヒョンを深いプールで手を離し溺れさせ「怖いでしょ、ジヘも怖かったの」と言います。「ごめんなさい、もうしません」とソヒョンは泣きながら言いますが、ヨンウンはソヒョンを抱き、もう終わりにしようと無理心中を試みます。
ソヒョンはかろうじて逃げ出し、スロープに掴まります。一方のヨンウンは、プールの底へと沈んでいくのでした。
映画『侵蝕』の感想と評価

(C)2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.
もし幼い娘が包丁で自分を傷つけたり、友人を傷つけるようなことをしたら……親はどう思うでしょうか。
そのような行為をする理由を探そうとしたり、親としての自分に原因があるのではないかと考えるのではないでしょうか。それだけでなく、自分自身が傷つけられるという恐怖も拭えません。
ソヒョンから逃げた父親とは違う、自分はソヒョンを見捨ててはいけないと思い詰め、ヨンウンは限界に来ていました。離婚したことを知り手伝いにやってきたヨンウンの母は、ソヒョンの素顔を知りません。可愛い孫で病気とは思えないと言います。
ソヒョンは人に合わせて態度を変え、幼い可愛らしい子供のふりをします。そんなソヒョンに追い詰められ、ソヒョンを止めることはできないと思い詰めたヨンウンは、ソヒョンと共に死ぬことを決意します。
しかしソヒョンは死なず、その経験によって「愛を得られないと感じたら容赦なく殺すようになってしまった」とも言えます。
「人は苦痛を感じる時に素直になる」「苦痛が好きなの」
愛が分からないソヒョンにとって、唯一確かなものが苦痛であり、人の弱みでした。20年という歳月でソヒョンは“普通”に馴染む術を十分すぎるほど身につけていました。
そんなソヒョンにとって思い通りにならない、自分を警戒しているミンの存在は目障りでした。
妊娠していること、そして相手の男性のことを知ったソヒョンは、相手の男性を排除することでミンの弱みを握ったつもりでしたが、ミンはなかなかソヒョンの思う通りにはならず、彼女の過去を調べ本名まで辿り着いてしまいます。
ソヒョンの正体を見抜き、そこまで辿り着いた人物はもしかしたら初めてだったと言えるかもしれません。
同じ孤児で母親に殺されかけたという経験を持つ2人。その違いは何だったのでしょうか。ミンは親に捨てられた経験から他者に心を開かず信用していません。
しかし、そんなミンをそのままで受け入れてくれる存在に出会います。一方でソヒョンは世間に馴染み、他者を支配しようとします。
それはソヒョンが、自分自身の性質が世間にとって受け入れられない「怪物」だったからなのでしょうか。ソヒョンのような存在の生きる道は、どこにあるのでしょうか。
本作はそこまでは描かず、あくまでも侵蝕するものと侵蝕されるものとしての構図を描いています。ピュアな悪という恐怖を描いたサスペンススリラーであればエンタメとして享受できますが、社会的な性質としての問題として見た時、そこに難しい問いがあることにも気づかされるのです。
悪魔など「この世のならざる者の存在だから、退治すべき」とみなすのは簡単です。しかし、現実社会はそうはいかないのです。
まとめ

(C)2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.
ホラー映画やサスペンススリラーで、子役の凄まじい演技が観客の恐怖を誘う映画がいくつもありますが、本作もその一つと言えます。
何を考えているのか分からない怖さがソヒョン役のキ・ソユにはあります。自分の娘で愛したいけれど、恐怖を拭いきれないヨンウン役のクァク・ソニョンの演技も見事です。
また、本作は途中で20年後に移り変わりミンを中心に描くことで、あの少女が大人になったのがミンだとミスリードを誘うという面白い仕掛けもあります。
しかし、次第に裏に何かある、そこに狂気を見せ始めたへヨンが実はソヒョンであることが明らかになっていきます。
種明かしの後、狂気が加速していくソヒョンの姿は、前半の何を考えているのか分からない子供から、容赦なく手を下すサイコパスへと様変わりします。
その姿にソヒョンが生きてきた20年間が表れていると言えます。容赦ないサイコパスと対峙するミンの姿は手に汗握る展開です。
呆気なくソヒョンがやられるわけはないと思っていたところにエンドロールが映し出され、観客を最後まで安心させず恐怖が残ったまま映画が終わっていくのです。


































