連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第1回
映画ファン毎年恒例のイベント、今回が10回目の開催となる「未体験ゾーンの映画たち2021」が、2021年も1月22日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷で始まりました。
傑作・怪作、歴史に残るトンデモ映画まで上映する「未体験ゾーンの映画たち2021」、全42作品を見破し紹介しすることで、埋もれかねない貴重な映画を応援させていただきます。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら
第1回で紹介するのは韓国発のエクソシストホラー、本国で初登場No.1を記録し180万の観客を動員した『メタモルフォーゼ 変身』。
韓国が舞台のキリスト教神父による悪魔払い、と聞いて意外な感じを受けるかもしれません。しかし悪魔は人の弱みに付け込み、誰の心にも忍び寄るもの。その恐怖をホラー映画ファンの期待に応える、凄惨な描写で描いた作品です。
そして本作に登場する悪魔、思いもよらぬ方法で神父を、犠牲となる一家に迫ります。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『メタモルフォーゼ 変身』の作品情報
【日本公開】
2021年(韓国映画)
【原題】
변신 / Metamorphosis
【監督】
キム・ホンソン
【キャスト】
ペ・ソンウ、ソン・ドンイル、チャン・ヨンナム、キム・ヘジュン
【作品概要】
悪魔に憑りつかれた少女を救えなかった1人の神父。自身を喪失した彼は、一家を救うために再度立ち上がります。邪悪な悪魔との対決を血生臭く描く、本格派エクソシスト映画です。
監督は臓器売買の闇を描いたサスペンス『共謀者』(2012)、クライムアクション『技術者たち』(2014)を手掛けたキム・ホンソン。主演は『奴隷の島、消えた人々』(2015)や『ザ・キング』(2017)、『スウィンダラーズ』のペ・ソンウ。
『探偵なふたり リターンズ』(2018)など、ドラマや映画で演技派として幅広く活躍するソン・ドンイル、『ある母の復讐』(2012)のチャン・ヨンナム、『未成年』(2019)のキム・ヘジュンらが出演した作品です。
映画『メタモルフォーゼ 変身』のあらすじとネタバレ
神父で神学校の教師のパク・ジュンス(ペ・ソンウ)は、悪魔に憑依された少女を救おうと悪魔払いを行います。
しかし少女は部屋の窓から身を投げます。少女を救おうとその手を掴むジュンス。
少女に憑りついた悪魔はジュンスに、必ずお前の家族に災いをもたらすと告げ彼の手を払います。
そして少女の体は地に落ち、無残な最期を遂げました…。
ジュンスは兄パク・ガング(ソン・ドンイル)一家と暮らしていましたが、少女の母がジュンスが娘を殺したと世間に訴えたため、兄一家も好奇の目に晒されます。
その結果一家は引っ越しを余儀なくされました。ガングの妻ミョンジュ(チャン・ヨンナム)はそれを不満に思っていました。
それでも夫婦は長女のソヌ(キム・ヘジュン)、次女のヒョンジュ、幼い息子のウジョンと共に新居に向かいます。
新たな家で初めての夜を迎えた一家は、怪しげな隣家から響く物音で眠ることができません。
翌朝、畑仕事をしていたジュンスに、父を見送った甥のウジョンが電話をかけました。ウジョンは悪魔祓いの一件の後も、叔父のジュンスを信頼しており、また一緒に暮らすのかと尋ねます。
甥の問いに彼は言葉を濁します。悪魔祓いの失敗を悔やみ、今は信仰を棄て1人離れて生きることすら望んでいるジュンス。
家からの上がる悲鳴を聞き、ウジョンは電話を切ります。母とソヌの元に駆け付けると窓の外の木の枝に、皮を剥がれた猫の死体が吊るされていました。
遅れて来たヒョンジュはそれを見て倒れます。次女の運ばれた病院に父も駆けつけます。
一家は容態が安定したヒョンジュを連れ、家に戻ります。しかし臨家の軽トラックが道をふさぐように停まっていました。
しかもトラックは、ウジョンが大切にしているイスをひき潰しています。昨晩の騒音で娘が体調を崩したこともあり、臨家に抗議に向かうガング。
門を入ったガングは、家の庭に散らばる動物の白骨や死骸、逆さに掲げられた十字架、崖に彫られた禍々しい顔に圧倒されます。
家の扉を叩くガング。返事が無く家に入ると、室内は血に汚れ解体された動物の死骸が並び、無数の十字架が逆さに吊るされ、怪しげな儀式を行った雰囲気を漂わせていました。
突然この家に住む男が現れます。驚きながらも抗議するガングに何も言わない男。やむなくガングは家を後にします。
その夜も前夜同様、怪しげな音が響きます。ミョンジュは夫に文句を言ったのかと訴え、子供たちも眠れないと騒ぎます。
一家の通報で警察が現れます。警官には物腰低く、機器を使った反物を織る作業の騒音が、近所に迷惑をかけたと謝る臨家の男。
窓の外に猫の死骸を吊るしたのもこの男だ、とのガング訴えに警官は共に家に入りますが、庭に怪しい物は何一つありません。
家の中もごく普通で、ガングが目にしなかった反物を織る機械が動いていました。隣人を注意すると、近隣トラブルとして処理する警官たち。
しかし臨家の屋根には、無数のカラスが群れていました。同じ夜ジュンスの夢の中に、あの悪魔が現れます。
その夜眠りについたヒョンジュの前に、突如父が現れます。いやらしい目つきで体を見つめる父に怯えるヒョンジュ。
翌朝、家族の食卓に現れた父は、次女の前でもいつもと変わらぬ様子でした。
ところが母のミョンジュが家族に口もきかず、ヒステリックに振る舞います。
むさぼるように食事をとり、料理が塩辛いと指摘するウジョンを怒鳴りつけるミョンジュ。いつもと違う母の言動に家族は動揺します。
ジュンスは神職を棄てるべきか悩んでいました。神学校の校長は悪魔祓いで死んだ少女の母が現れ、娘の遺品の十字架の付いたペンダントを託されたと伝え、彼に渡します。
母親は怒りからジュンスに死の責任を求めたと詫び、訴えを取り下げていました。しかし校長の説得にも、自分の去就を決めかねているジュンス。
その夜ガングが帰宅すると、妻はいつもと変わらぬ様子でTVを見て笑っていました。夫に今朝の振る舞いを指摘されても、彼女には何のことか判らぬ様子です。
ソヌがシャワーを浴びていると、突然ヒョンジュが現れます。姉に対し自分と弟は邪魔者で、殺したいと思っていると叫び、姿を消したヒョンジュ。
不審を覚えたソヌは妹の部屋を尋ねますが、ヒョンジュに先ほどの様子は無く、逆に姉に一緒に寝て欲しいと訴えます。
父の様子がおかしいと訴える妹の言葉を、ソヌは信じることができません。しかしその言葉を聞きつけたのか、部屋にガングが現れました。
カッターナイフを手にして迫るガングは長女を投げ飛ばします。身を隠したヒョンジュを、ハンマーを手にして探すガング。
意識を取り戻したソヌに襲いかかる父の頭を、ヒョンジュはフライパンで殴ります。ところが別の場所から何事かと尋ねる父の声がします。
殴られた父はハンマーを棄て、姿を消しました。改めて現れた父を見て逃げる娘たち。しかしガングには事態が理解できず、騒ぎで起きた息子のウジョンも現れました。
するとミョンジュが姿を現します。彼女は落ちていたハンマーを掴み、夫に殴りかかります。娘をかばうガングの腕を、ハンマーで殴って部屋に姿を消すミョンジュ。
そこに騒ぎを知ったミュンジュが、別の場所から現れます。ガングは自分に襲った妻が入った部屋の扉を開けますが、そこには誰もいませんでした。
一家は姿を変える何者かが、自分たちを翻弄し傷つけようとしていると悟ります…。
映画『メタモルフォーゼ 変身』の感想と評価
韓国のエクソシスト映画、と聞き意外に思う方もいるでしょう。実はキリスト教系の信者が人口の3割近くを占め、仏教信者より多い韓国では、想像以上に身近なテーマかもしれません。
ホラー映画ファンなら、本作の見どころが気になるでしょう。本作は宗教的テーマ以上に、数々の残虐シーンが登場する作品です。ジャンル映画ファンは安心してお楽しみ下さい。
冒頭から凄惨な死の描写があり、エグいアイテムが並ぶシーンも度々登場。残酷描写に関して、韓国ホラー映画のサービス精神を油断してはいけません。
無残な死体の姿はグロテスクを越え、ルチオ・フルチの手掛けた80年イタリア製ホラー映画の様な、もはや汚いと呼べるレベルに到達。この手のシーンが大好きな方は必見です。
という映像が登場しながらも、ストーリーの軸は家族のすれ違いと、それより深い絆と愛。最後には涙腺を刺激してくれますから、泣けるホラー好きにもお薦めしましょう。
現実に足を踏み入れたホラー映画
くだけた紹介から始めましたが、キム・ホンソン監督はインタビューに対し、リアリティを求めた本作はCGの使用を最小限にとどめたと語っています。
いかにも作った角の生えた悪魔の姿は登場させず、生身の人間の姿の中に邪悪を描こうとした監督の意図が、本作をありがちなエクソシスト映画と異なるレベルに引き上げています。
グロテスクなシーンをルチオ・フルチの映画だ、と表現しましたが、CGよりも血のりや特殊メイク、そして「本物」を登場させたシーンの数々が、そんな印象を抱かせたのでしょう。
監督は主人公のトラウマを描く、天井から血が降る悪夢のシーンは、アラン・パーカー監督の『エンゼル・ハート』(1987)のオマージュと話していますので、ファンは注目して下さい。
『共謀者』や『技術者たち』など、犯罪ものなどのスリラーの演出を得意とするホンソン監督。本作も悪魔が家族の中に潜む、スリラーを好む自分らしさが現れたと語っています。
家族間の緊張感を見事に表現した出演者たちに、監督は繰り返し感謝の言葉を述べています。主演のペ・ソンウは自分の会った中で、もっとも熱心に現場で働く俳優だと紹介しました。
監督は本作を、いかにも韓国的なホラー映画『箪笥』(2003)とは異なる、欧米のホラー映画の要素を含むジャンル映画として、そして家族の物語として楽しんで欲しいと語っています。
韓国は“悪魔映画”ブーム?
参考映像:『哭声 コクソン』(2016)
エクソシスト映画と言えば、人間に憑りついた悪魔と神父が対決するもの。ところが本作の悪魔は、何者かに変身し人を惑わす存在として描かれています。
たしかに伝説や民話に登場する悪魔の行動で、それを描いた映画も存在します。これが『メタモルフォーゼ 変身』に、他の悪魔祓い映画と異なる印象を与えました。
本作に先立って韓国で製作されたホラー映画『哭声 コクソン』にも、人の姿をして人を惑わす悪魔が登場します。その悪魔の正体をあえて深読みしましょう。
因習と外国から流入した思想、伝統的な暮らしと現代の物質主義、多様な宗教など韓国人を翻弄する、様々な価値観が生む混乱を突く存在、それが悪魔だったのかもしれません。
韓国で大ヒットした『哭声 コクソン』は、優れたホラー映画は常にそうであるように、國村隼が演じた悪魔が魅力的なキャラクターとして人々に記憶され、高く評価されました。
本作に登場する、変身して人を惑わす悪魔像は、國村隼演じる悪魔をエンターテインメント的に発展、進化させたものと言えるでしょう。
また少しうがった見方ですが、本作の魔を倒すために助っ人が呼ばれ、その道中に命を落とす展開などは、中島哲也監督の『来る』(2018)を彷彿とさせます。
韓国の映画界は、ヒットした作品から良い部分を積極的に吸収し、発展させより面白い物を産み出す積極性と、それを完成し提供する実力を備えています。
こういった熱量が日本映画界に欠けているように思われます。ホラー映画のようなジャンル映画には、製作陣にこのような貪欲な姿勢が無ければ、面白い物は中々生み出せないでしょう。
まとめ
エクソシスト映画の1本と侮るなかれ、残酷・加虐シーンに溢れつつ、家族愛を描いた映画『メタモルフォーゼ 変身』。ホラー映画ファンなら必見です。
悪魔祓い映画としても、主人公が信仰に疑問を抱く姿、自らを犠牲にするラストと、このジャンルの始祖にして不朽の名作、『エクソシスト』(1973)のツボもしっかり押さえています。
悪魔に翻弄される男の姿を演じたソン・ドンイル、また新人俳優離れしていると評された、若手俳優陣の演技も見どころの一つです。
悪魔を倒したといえ、犠牲者が多すぎる展開が酷いと感じる方もいるでしょう。でも私のようなホラー映画ファンは、それもサービスだとありがたく感じるはず。
ともかく悪魔に翻弄されたい方や、汚いまでに無残なものを見た上で、最後には泣ける贅沢な映画(?)をお求めの方は、ぜひご覧下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回の第2回は人口知能を搭載したロボットに、亡き妻を蘇らそうと試みる科学者を描くサイエンススリラー、『アーカイヴ』を紹介いたします。お楽しみに。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら