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Entry 2018/12/12
Update

『来る』ネタバレ結末解説。原作内容のぼぎわんと痛みを活かしたホラー映画の分析と考察

  • Writer :
  • 白石丸

あの中島哲也の4年ぶりの作品が、来る…!

話題沸騰、新感覚のホラーである映画『来る』を原作『ぼぎわんが、来る』との比較もしながら解説していきます。

なぜタイトルを変えたのか、そして一体何がやって来るのか。

怖くて面白くて、議論をよぶこと間違いなしの注目作です。

映画『来る』の作品情報


(C)2018「来る」製作委員会

【公開】
2018年(日本映画)

【原作】
澤村伊智『ぼぎわんが、来る』

【脚本・監督】
中島哲也

【企画・プロデュース】
川村元気

【キャスト】
岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡、青木崇高、柴田理恵、太賀、志田愛珠、蜷川みほ、伊集院光、石田えり、西川晃啓、松本康太、小澤慎一朗

【作品概要】
『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『告白』など日本映画界を揺るがす作品を作ってきた鬼才、中島哲也監督が、「第22回日本ホラー大賞」大賞作品の傑作ホラー小説『ぼぎわんが、来る』
を映画化。

小松菜奈、松たか子、妻夫木聡ら中島作品経験者に加え、初参加の主演の岡田准一や黒木華も、今までにないダークな人物像に挑戦します。

2018年を締めくくる必見のホラーエンターテインメントです。

映画『来る』のあらすじとネタバレ


(C)2018「来る」製作委員会

会社員の田原秀樹は、実家で行われる祖父の13回忌に、婚約者の香奈を連れて現れます。

生い立ちが原因で、まともな親戚の集まりというものに参加したことのない香奈は宴席でも居心地が悪そうでした。

騒ぐ子供たちに年寄りが「悪い子は“ぼぎわん”に連れて行かれるで!」と怒鳴っています。

祖母が宴席を抜け、縁側で1人で誰もいない場所を見つめていたので、秀樹が何をしてるのか尋ねると、彼女は「呼ばれたんや」と暗闇を指さしました。

秀樹は子供時代を思い出します。

幼なじみの女の子が野山で遊んでいた時に「“アレ”に呼ばれてしもてん」と言い出したこと。

そして「あんたも呼ばれるで…」と言われたこと。

その後、家族で話をしている際にもその女の子の話題が出ますが、秀樹を含め誰も名前を思い出せません。

彼女は小学校の時に行方不明になっていました。

秀樹はさらに、寝たきりの祖父と留守番をしていたときに、家の前に奇妙な影が現れ「ヒデキさん…いらっしゃいますか」と言われたこと、そして磨りガラス越しに見えたその影が人間ではないように見えたことも思い出します。

香奈は秀樹に結婚することへの不安を語りますが、秀樹は彼女に大丈夫と言ってキスをします。

数ヶ月後の結婚式で秀樹は大はしゃぎし、「俺絶対欲しいよ、2人の子供!」と叫びます。

みんなから祝福されますが、何人かは秀樹の悪口や、香奈が借金を抱えていてそれを秀樹が払ったという噂をします。

香奈の母親も来ていましたが、やつれた彼女は「面白くないから」と帰ってしまいます。

秀樹の親友の民俗学者・津田大吾も招かれ、香奈と仲良くなっていました。

数ヶ月後、香奈が妊娠したため、秀樹は思い切ってマンションを購入し、パパ友ママ友をたくさん作ってブログも開設します。

予定日が近くなり赤ちゃんは女の子だとわかった頃、実家の祖母が亡くなりました。

そしてある日の勤務中、後輩の高梨が秀樹に「チサさんの件で」という来客があるといいます。

“知紗”は子供に付ける予定の名前でしたが、まだ誰にも教えていなかったので、秀樹は不審がりながら来客を迎えに行きます。

しかしそこには誰もおらず、高梨に聞いても何故か顔が思い出せないと言われます。

すると突然、高梨の肩から血が流れ出し、彼は苦悶の表情を浮かべて倒れ込みます。

病院送りになった高梨は一度復帰するも、また入院してしまいました。

知紗が生まれ、お見舞いがてら報告に行くと、高梨は人が変わったようにやつれ、恐ろしい形相で秀樹への嫉妬や恨み節をぶつけてきます。

そして高梨は会社を辞め、その後死亡しました。

彼の流血した傷口は、巨大な歯を持つ何かに“噛み付かれた”ような跡だったと聞きます。

2年がたち、知紗は成長し、秀樹のイクメンブログはパパ友からも好評でした。

しかし、ある夜帰宅すると家の中が荒らされ、親からもらったお守りなどが切り裂かれていました。

香奈と知紗は部屋の隅で怯えており、何があったのかと思っていると、電話が鳴り「ヒデキ…さん…?」ととぎれとぎれの声が聞こえてきます。

“アレ”の存在を思い出し不安になった秀樹は、学者の津田に相談し、彼からオカルトライターの野崎と霊能者の比嘉真琴を紹介してもらいます。

真琴の家に行く途中、一緒に来ていた津田は野崎が編集者だった妻と別れた話をします。

野崎は黙って聞いていました。

真琴は詳しい話を聞く前から「原因は分からないが対処法はわかる」と言い、秀樹に「奥さんと子供に優しくしてあげてしてください」と告げます。

「家族を守ろうとしている自分がなぜそんなことを言われなければならないんだ」と怒り帰ってしまう秀樹と、それを追いかける津田。

真琴は野崎に「津田って人も嫌な感じがする」と漏らしました。

真琴と野崎はその日から定期的に秀樹の家にやってくるようになります。

知紗は真琴に懐き、香奈も楽しそうなので秀樹は2人を渋々受け入れます。

真琴と野崎は恋人同士でしたが、野崎は子供が嫌いなようでした。

ある日、再び“アレ”が家を襲い、彼らの目の前で食器が割れ、お守りがブチブチと裂けていきます。

真琴は必死に呪文らしきものを唱えてなんとか撃退しますが、その直後、真琴の携帯に彼女の姉から電話が入ります。

真琴よりはるかに強力な霊能者らしい姉は事態をすべて把握しているようで、秀樹に「“アレ”は想像以上に凶悪です」と説明し、知り合いのベテラン霊能者を紹介します。

野崎と秀樹は、逢坂という女性の霊能者と中華料理屋で面会。

彼女は「いまここに“アレ”が来ます」と言い出します。

慌てる秀樹の携帯に着信が入り、逢坂は「聞くだけで返事をしてはいけません」と指示をします。

野崎とイヤホンをシェアして応答すると、電話口から香奈、知紗、祖母、結婚式で悪口を言っていた人たち、高梨、など秀樹の知っている人の声が次々聞こえてきます。

そして秀樹自身の声が。

「たかが一人生んだくらいで偉そうに…」

秀樹が「俺はそんなこと言っていない!」と狼狽していると、突然呻き声が。

逢坂がいつの間にか右腕を切断され虫の息になっていました。

周りが大パニックになる中、何者かが血まみれの手形を残して店を出ていきます。

“アレ”が家族のもとに向かったとわかった秀樹はその場を野崎に任せ、香奈に電話して今すぐ知紗と家を出るように言い、タクシーで自宅に向かいます。

道中で真琴の姉から、“アレ”を撃退する方法があると携帯電話で教えられます。

秀樹は恐怖を押し殺し、家族を守るために戦う決意をします。

秀樹は家に戻ると彼女の指示通り、鏡を全部割り、刃物を縛って引き出しにしまいました。

「アレを迎え入れます。ここからは私の仕事です」という彼女に秀樹は望みを託します。

ところが、そこで家の固定電話が鳴り、留守録になったあと真琴の姉の声で「田原さん、“アレ”の罠です。今すぐ家を出てください。間に合わないなら“アレ”が嫌う鏡のそばに行ってください」と聞こえてきます。

今まで携帯で話していた相手は“アレ”のなりすましでした。

対処法の鏡も刃物もなく、“アレ”が家に入ってきます。

それは少女の姿をしており、秀樹は昔遊んだあの子のことを思い出します。

彼女の名前が「知紗」だったことも。

「あんたも呼ばれるで…、だってあんた嘘つきやから…」

抵抗も虚しく、秀樹は胴体を真っ二つにされ死亡します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『来る』ネタバレ・結末の記載がございます。『来る』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

秀樹の死から1年、香奈はかつて在籍していたスーパーに復職し、知紗を育てていました。

秀樹が死んで香奈は清々していました。

秀樹は無神経でイクメンブログの更新にしか興味がなく、家事も子育ても手伝わないくせに、自分がいいパパだと勘違いしていたからです。

香奈が秀樹を見限ったのは、知紗が頭を打って病院に運ばれた時。

秀樹は痛がっていた知紗を運ぼうともせず「触ったらまずいかも知れないから」と平然と言い放ちました。

さらに待合室でも呑気にブログを更新しているので香奈がその態度を責めると、「たかが一人生んだくらいで偉そうに…」と嘲ったのです。

しかし一人での子育ては大変でした。

知紗は病気がちで、職場を抜けて保育園に迎えに行かなければならないことも多く、上司からは小言を言われ、香奈はどんどんストレスを溜めていきます。

香奈はかつて男にだらしなく自分を虐待していた母親のように、自分が知紗を疎ましく思い始めていることに気づきます。

彼女は秀樹の生前から、津田と不倫関係になっていました。

津田は、仕事も家庭も何もかも捨てて自由になりたがる香奈を、ひたすら肯定してくれます。

野崎が、まだ“アレ”の脅威が去ったかは分からないからと田原家を訪れます。

彼は一番最初にお守りが切り裂かれた時と、二度目にお守りが破れた時と切り口が違うことを話します。

それもそのはず、一度目にお守りを切り裂いたのは香奈自身でした。

秀樹への不満、無邪気に騒ぐ知紗へのイライラが頂点に達して手あたり次第に家のものを壊して回ったところ、秀樹が“アレ”の仕業と勘違いしてくれたんです。

香奈はそのことを野崎に話すと、彼は「あの人は不器用ながらも家族を守ろうとしているように見えました。ちゃんと父親でした」と語ります。

しかし香奈はその後、「アレ」を思い出すような恐ろしい夢を見、仕事も辞め家事育児も放棄して好きなことをやり始めます。

その3日後、久しぶりに田原家に訪れた真琴は知紗と楽しく遊びます。

真琴に知紗を任せ、香奈は着飾って家を出ていき、津田と逢瀬を重ねます。

「知紗なんかいなければいいのにって思う事がある」と話す彼女を抱きしめる津田。

「知紗ちゃん邪魔なん…?」

津田の背中に傷が出来始めます。

その後調査をしていた野崎から電話があり、津田が香奈に送った御札が魔除けのモノどころか、不吉なものを呼び寄せる“魔導封”なので真琴に処分するように指示してきます。

魔導封のせいで“アレ”が再び迫ってきていました。

真琴は秀樹の霊を目撃、知紗は「パパと一緒に”おやま”に行こう」と言われたと話します。

帰ってきた香奈に真琴は除霊活動で無理をしすぎて子供が産めない体だということを話し、知紗という可愛い子供がいることを羨ましがりますが、香奈は「じゃあ、あげるよ」と笑顔で言い放ちます。

唖然とする真琴。

次の瞬間、知紗が秀樹の声で「2人で育てるって言っただろ?」としゃべりだします。

“アレ”が来ている、一体どこから?ふと見ると窓が空いていました。

真琴は香奈に、知紗を連れて逃げろと言ってベランダに飛び出し窓を閉め、直後に彼女は“アレ”に攻撃され深手を負います。

香奈は知紗を抱えて駅に向かいました。

野崎から電話が入り、うろたえる香奈に「あんた母親なんだろ!しっかりしろよ!」と叱咤します。

しかし、今さら実家にも帰れず、途方に暮れた香奈はレストランに入ります。

津田に電話しても応答はありません。

美味しそうにオムライスをほおばる知紗を見て、香奈は母親として娘を守る気持ちを取り戻しました。

しかしその後駅のトイレに入っていたところを“アレ”が襲撃してきます。

そして知紗が再び別人の声で「お前がどっかいけ」と香奈に叫び出します。

“アレ”は香奈が大嫌いな母親の姿に化けており、知紗は連れ去られ、香奈は全身を切り裂かれて絶命しました。

「その子を返せ」それが彼女が最期に聞いた言葉でした。

3日後、野崎は奇妙な夢を見ていました。

別れた元妻がどこかの川に浸かってこちらに語り掛けます。

「あなたがいらないって言うから堕ろしたの。私は産みたかったのに」

野崎は赤ん坊を抱いていました。

別れる前、彼女に中絶させた子供を。

いつの間にか野崎も川の中にいて、その周りをたくさんの赤ん坊が泣きながら流れていきます。

ふと見ると抱いていた赤ん坊は消え、手が血にまみれています。

飛び起きると、そこは真琴の病室でした。

真琴は田原家で血まみれで倒れていたのを野崎が発見、今まで意識不明のままでした。

病室に真琴の姉、比嘉琴子が来ていました。

彼女が吸っていた煙草の煙を真琴の体に吹きかけると、しばらくして真琴が意識を取り戻します。

日本最強という琴子の霊能力は本物のようです。

真琴は知紗を助けに行かねばと、野崎が止めるのも聞かずに起き上がろうとしますが、琴子は「死ぬわよ。あなたにだってわかるでしょ。それがただの噛み傷じゃないことぐらい」と諭します。

琴子は“アレ”を祓うために、既に全国から強力な霊能者を呼び寄せていました。

後一日でカタをつけるという彼女は、警察上層部ともつながっているようで、田原家があるマンションから住民を退去させ、そこを除霊の場にすると決定します。

琴子は沖縄のユタという霊媒師の力を生まれつき持っていましたが、彼女に憧れた真琴は独学で霊力を身に付けて中途半端な祓いをしていると話します。

野崎は知紗を取り戻してくださいと頼みますが、琴子に「本当に取り戻したいですか?子供なんてお嫌いでしょう」と返され、反論できません。

琴子はあくまで“アレ”を祓い、異界との均衡を保とうとしているだけのようです。

琴子は秀樹のブログの更新が3日前から再開されているといいます。

「とても素敵なブログ。現実は反映していないけど、美しいことしか書かれていない。知紗の魂は案外今この辺りにあるのかも」

見てみるともう誰もいないはずの田原家で、クッキーを作ったと嬉しそうな秀樹の文章が載っていました。

野崎は津田を問い詰めようと彼の研究室に行きます。

津田は“アレ”に襲われたのか血を流し弱っていましたが、魔導封を渡した理由を問われると「俺は秀樹の好きなもん全部奪うのが趣味なんや」と笑います。

野崎が非難すると「秀樹みたいな薄っぺらい人間が家族作って一人前の顔して、しょーもないブログ書いて吐き気するわ!お前も俺と同類やろ?だから子供も堕ろさせた」と津田は嘲ります。

野崎は津田に掴みかかりますが「奥さん言うてたで、お前は死人やて!」と言われ、否定できず、その場を離れます。

東京に向かっていた霊能者たちは“アレ”の妨害に合い、既に半分がやられていました。

そしてその夜、真琴が病院から姿を消しました。

琴子は「“アレ”がここに来たようです。真琴は今こちら側の世界にはいません」と語ります。

彼女は狼狽する野崎に、田原家に行って部屋を掃除するよう頼んできます。

“アレ”を迎え入れるために必要だからと。

彼女は語ります。

「私とあなたは似ていますね。失うのが怖いから最初から抱え込まないし、人を愛さない」

翌12月24日、街がクリスマスで浮かれる中、警察、科学者、霊能者が集まり、近隣地域とマンションを封鎖して大規模な祓いの儀式の準備が始まっていました。

朝のニュースで、津田が変死体で発見されたと報道されていました。

琴子からもらった警察上層部の名刺でマンション内に入れた野崎が田原家に行くと、そこでは怪我から復活した逢坂が家にいる秀樹の霊を成仏させようとしています。

楽しく家族のことを話している秀樹の手に、突然ナイフを突き立てる逢坂。

刺されても痛みを感じなかった秀樹は自分が死んだことに気づいて「知紗に会いたい」と泣きながら姿を消しました。

逢坂は野崎に「ここからは闇になります。信じられるのは“痛み”だけです」と話し、部屋を出ていきます。

野崎は戸惑いながらも部屋を掃除し、終えた頃は夕方になっていました。

秀樹と香奈の結婚式のDVDを見ていると突然電話が鳴り、出ると相手は死んだはずの津田でした。

電話口の津田もDVDに映っている津田も野崎に向かって「こっちに来いよ。お前まだ生きてるつもりなんか?死んで、腐りきっとるわ!!」と叫びます。

「黙れ!」野崎がパニックになってナイフを振り回していると、いつの間にか琴子が来ていました。

彼女は室内に祭壇を作ると野崎に出て行くように言いますが、彼は真琴が心配で残ります。

儀式が始まり、マンションの外でも霊能者たちが経文を唱え、舞いをしていました。

“アレ”が来たようで、マンション自体がガタガタ揺れ、霊能者たちは血を吐いて倒れ、儀式のための櫓も崩れ出します。

儀式を見ていた野崎は、突然何者かに部屋の一室に引きずり込まれます。

真琴でした。

彼女は知紗を助けなきゃと言いますが、様子がおかしく、知紗のことを“私たちの子”と呼んでいます。

「あの人は私に知紗をあげるって言ったの。あんな奴ら死んで当然!」

真琴の腹部を見ると何故か妊婦のように膨れ上がっていました。

怯える野崎に真琴は「いらない?また殺すの?」と言って腹部に鏡の破片を突き刺しましす。

真琴の血を浴びて野崎がパニックで部屋を飛び出すと、いつの間にか琴子が祭壇の横に真琴を寝かせて儀式を続けていました。

真琴は呪文を聞いて血を吐きます。

「真琴は“アレ”に取り込まれていたんです。弱くて脆いから」

祭壇には縛られた知紗が寝かされていました。

野崎は知紗に駆け寄ろうとしますが、「邪魔をしないでください」と琴子にナイフで刺されてしまいます。

彼は激痛で叫び、逢坂が言っていた“痛み”を思い出します。

「恐ろしい子。“アレ”を手なずけて呼び寄せた。この子は異界に返します。」

しかし真琴は知紗を抱きしめて守り、野崎は体から決死の思いで抜いたナイフを琴子に向けて止めようとします。

「やめましょう、ただの子供のいたずらに!この子は親の愛がなくて寂しがっていた。そりゃバケモノとだって遊びますよ!」

琴子は「どれだけの犠牲が出たと思ってるの!」と魔除けの鏡を知紗に向けますが、野崎はそれを奪って割り、ナイフを彼女の眼前に突きつけます。

途端に琴子は血を吐きました。

彼女にも“アレ”がついていたのです。

「あんたも弱くて脆いってことじゃないか」

そうこうしているうちに知紗が目を覚まし、途端に部屋中がひび割れて血が吹き出し、意志をもって野崎達に襲い掛かってきます。

「チィ…サァ…」

野崎は知紗を抱きしめ離しません。

真琴は「みんな嬉しかったんだよ!あなたが生まれてきて!」と知紗に叫びます。

少しだけ血の動きが鈍ります。

野崎の脳内に夢で見た赤子を流す川がよぎりますが、今度はしっかりと抱きかかえていました。

琴子は「そんなに大事ならしっかり抱えていなさい!」と知紗と野崎をベランダから落とし、下の物置に落下させます。

知紗は無傷、野崎も生きていました。

「こんな無様な祓いは初めてだわ」

姉妹は無言で視線を交わし合いました。

血が琴子を取り囲みます。

「来なさい!」

しばらくして“アレ”の悲鳴と共にマンションの壁を突き破り、大量の血が飛び出します。

外の霊能者たちは逢坂も含め、凄惨な死を遂げていました。

真琴は野崎と知紗を見つけると、介抱しそのまま逃げます。

午後10時、野崎は血まみれのままコンビニに行きお菓子とお酒を買います。

体に走る痛みが彼に生きている実感を与えていました。

公園のベンチに座り、真琴と酒を飲みます。

知紗は真琴の膝で嬉しそうな顔をして寝ていました。

野崎が「どんな夢見てんだ?」と聞くと真琴は霊能力で知紗の夢を見て笑い出します。

知紗は大好物のオムライスに囲まれた「オムライスの国」の夢を見ていました。

知紗は笑顔で歌っています。

「オ~ムライスの国に いってみた~いな お~もちゃも せんせいも ぜ~んぶ オムライス」

それを聞いた野崎は「何だソレ」と苦笑しました。

映画『来る』の感想と評価


澤村伊智「ぼぎわんが、来る」(角川ホラー文庫)

大胆な原作改変

原作の『ぼぎわんが、来る』は2015年に発表され、ぼぎわんという謎の怪物の正体を探るミステリー要素すれ違う田原夫妻厭世的なライター野崎のリアルな人物描写、小説ならではの章立ての視点の切り替えによって側面を変える斬新なストーリー、ラストの琴子とぼぎわんの霊能力バトルというストレートなエンタメ要素も盛り込んだ傑作ホラー小説として評判を呼びました。

日本ホラー小説大賞受賞作として世に出た本作は初稿のタイトルは『ぼぎわん』というものでした。

そこから迫り来る怪異を表す意図で『ぼぎわんが、来る』に変わり、映画化されるに至ってタイトルは『来る』というシンプル極まりない物になっています。

このタイトルはインパクトがありますがただの興味引きではなく、この作品のスタンスを表すものになっています。

原作では、終盤で野崎が「ぼぎわん」の正体を探るというミステリー要素があり、それによって「ぼぎわん」を倒す手段を見つけるという展開になっていくのですが、映画版ではその「ぼぎわん」の正体が何かという謎解きはほとんど省略されています。

「ぼぎわん」という単語も数回序盤に出てくるだけです。

タイトルから「ぼぎわん」を取ったのは正体不明の何かが来るという恐怖要素を先鋭化して描く映画になっているからなのです。

それを象徴するのが、比嘉真琴が初登場時に放つ「どうしてかはわからないけどどうすればいいのかはわかる」というセリフです。

姉の琴子も同じような事を言います。

映画は小説と違い、アクションの連続で見せていくもの。

作り手たちは理由を探るよりもとにかく状況に対処するソリッドな物語にするという決断を下したのです。

原作の謎解き部分に惹かれた人たちからはこの改変に不満もあるようですが、原作者の澤村伊智はインタビューで本作のアイデアの源流として「昔、祖母の家に訪問販売員が来た時に祖母はドアも開けずに追い返した。その磨りガラスに浮かんだ人影がもし「お化け」だったら…。という単純な思いつきなんです」と語っているので、物語本来のシンプルな形に戻ったとも言えます。

本作のプロデューサー川村元気も「原作の“何かはわからないけど確実に何かが迫ってきている”感覚に惹かれた。中島哲也という日本一の映像作家が“目に見えないもの”を描いたらどうなるのか見たかった」と語っています。

ただ、この映画は登場人物たちが謎を解こうとしていないだけで、「アレ=ぼぎわん」の正体につながるヒントは映像として提示されているのが巧いところでもあります。

あらすじでは書ききれなかったんですが、時々挟まれる子供の霊の存在や野崎が夢で見る流される赤ん坊、幼虫、「お山」というキーワード、“アレ”が言う「ちが…つり…」という謎の言葉などなど。

あれは何かと考え解釈したくなりますし、原作も読みたくなります。

ちなみに原作では、野崎や琴子の調査で

「ぼぎわんという名前の由来は西洋のお化けの総称表現“ブギーマン”が南蛮人の渡来によって伝わり、訛って“ぼぎわん”になった。」

「田原家が“ぼぎわん”に狙われるのは、秀樹の祖母シヅが夫の銀二に子供を2人虐待死させられたために、夫への恨みで魔導封を入れたお守りをずっと飾っていたから

「“ぼぎわん”の正体は昔の貧しい農村で口減らしのため殺された子供の霊の集合体」

野崎がたどり着く仮説で断定的ではないものもありますが、原作では謎が明かされています。

ぼぎわんという呼称はほぼ使われず、祖母のストーリーも描かれませんが、原作にあった「女性を支配し蔑ろにする男」「子供を犠牲にする親」という要素は映画にも入っています。

むしろ原作より強烈に盛り込まれていると言えます。

”痛み”にまつわる人間ドラマ

中島監督が原作から取り出したエッセンスは「人の闇が魔を呼ぶ」という部分です。

中島監督は原作の登場人物たちのキャラクターに惹かれ、あくまでも人間の面白さを描きたかったと語っており、原作よりも人物像をかなり負の側面が増した「人間の怖さ」を現すキャラクターに改変しています。

“アレ”は人の心の闇が生まれた結果として襲ってくるものとして描かれています。

この映画で“アレ”の正体を探らないのはある意味当然なんです。

そしてこの映画では“闇”を生む理由を、「痛みを知らないから」という風に描いています。

秀樹は過去に傷を抱え育児に疲れる香奈の痛みも、自分に嫉妬して“アレ”に襲われた高梨の痛みも、怪我をした知紗の痛みも知ろうとせず、理想の家族像を詰め込んだ自分のブログに逃げ込みます。

香奈は親の愛を受けない知紗の痛みも、子供を持てない真琴の痛みも理解せずに、自分の生きたいように生きる道を選んでしまいます。

田原家を窮地に追い込む津田は、痛みを避けるどころか他人に痛みを与えることが生きがいになってしまっています。

その結果彼らは“アレ”に殺されてしまいました。

原作では香奈は死なないんですが、一度知紗を完全に見捨ててしまう描写がある分、よりシビアな話になっています。

秀樹が子供時代に野山で“知紗”と一緒に虫を殺すシーンがあったり、“アレ”を呼び寄せる元となる存在として幼虫が描かれるのも示唆的です。

なぜなら虫は痛みを知らないからです。

ただ、秀樹も香奈も死ぬ直前には痛みを厭わずに知紗を守ろうとする描写があり、ただの酷い人間の物語に終わっていないのもバランスが取れています。

一方、真琴は劇中で唯一、子供を産めない体でありながら知紗と向き合い、身を呈して田原家を守るなど“痛み”を受け入れる存在です。

野崎も親になるという責任から逃れ、面倒なことを避け、真琴の痛みも見ないふりをしていましたが、最後は自分で痛みを受け入れて他者である知紗を守り成長します。

原作ではほぼ完璧な存在である琴子も、“アレ”につけ込まれるシーンがあるということは、彼女本人のセリフにもあるように痛みを避けてきたが故の隙がある人物ということでしょう。

それもあって、映画の中では最後に“アレ”と戦った琴子が生き残ったのかどうかもわかりません。

そして劇中で一番の「魔を呼ぶ」存在であり、父親のイクメンブログのように自分の理想である「オムライスの国」に逃げ込んだままの知紗は、観客に不安を与えます。

彼女は両親の愛の不在を味わった“痛み”は知っていますが、まだ他者の“痛み”は理解していません。

いずれ彼女が再び“アレ”や別の魔の存在を呼び寄せてしまう可能性も消えていません。

“アレ”も知紗の心の闇も取り払われたのかわからないまま終わってしまう本作ですが、それゆえに見た人の心に残るんではないでしょうか。

中島監督らしい、計算された意地悪な作りです。

まとめ

観客の心にモヤモヤしたものを残す映画ですが、それ以上に中島監督のスタイリッシュな映像センス、細かい人物描写が光る作品でもあります。

特に序盤の葬式と結婚式の中で、細かく人間関係の嫌な感じを積み重ねていく手腕は流石です。

のちの展開を示唆するようなセリフや描写もあり、是非、2回観ることをおすすめしたい映画です。

気になった方には観る前でも観たあとでもいいので、原作も是非読んでいただきたいです。

ちなみに原作の『ぼぎわんが、来る』は“比嘉姉妹”シリーズの一作目であり、後に刊行された『ずうのめ人形』『ししりばの家』『などらきの首』も負けず劣らずの傑作ホラーとなっています。

いずれもタイトルに耳慣れない不気味なワードが入っていますね。

その謎は読んでのお楽しみです。

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日本映画大学