世界的なホラーキャラクターとなった貞子による、新たな恐怖を描いた映画『貞子』。
映画『リング』で貞子を生み出した、中田秀夫監督が、新たな貞子の恐怖を描いた本作をご紹介します。
映画『貞子』の作品情報
【公開】
2019年5月24日(日本映画)
【監督】
中田秀夫
【脚本】
杉原憲明
【原作】
鈴木光司
【キャスト】
池田エライザ、塚本高史、清水尋也、姫嶋ひめか、桐山漣、佐藤仁美
【作品概要】
小説『リング』シリーズで知られる小説家、鈴木光司の小説『タイド』を原作に、呪われていると噂される動画や、謎の少女を絡めた、貞子が巻き起こす恐怖を描くホラー映画。
主演は、モデル出身の人気女優、池田エライザ。
映画『貞子』あらすじ
マンションのある一室。
クローゼットに閉じ込められている少女は、灯油を部屋に撒き散らす母親の姿に恐怖を感じます。
少女の母親、祖父江初子は、少女の事を「貞子」と呼びます。
灯油に火をつけようとする初子、その時、謎の力が働き初子は動けなくなります。
クローゼットの鍵が破壊され、中から出てきた少女は、何かを睨みつけています。
すると、蛍光灯が割れ、摩擦で灯油に火がつき、部屋中が炎に包まれます。
炎の中で初子は、少女が髪の長い女と立っている光景を目にします。
心理カウンセラーである秋川茉優は、警察に保護された、記憶を失った少女のカウンセリングを担当する事になりました。
警察の説明では、少女には不可解な点が多く、母親と思われていた祖父江初子とも、親子である証拠が確認できていないとの事でした。
一方、茉優の弟である秋川和真は、自身のサイトを開設し、動画を投稿していました。
マーケティング会社に勤める、石田祐介のアドバイスを受けながら、再生数を稼ごうとしますが、なかなか結果が出ません。
焦った和真は、5人の被害者が出た、マンションの火災現場に侵入し、心霊動画の撮影を開始します。
それから数日後、音信不通になった和真を心配する茉優は、祐介と会います。
祐介も行方を知りませんでしたが、数日前に、和真がマンションで撮影した心霊動画を投稿し、警察に厳重注意され、強制削除になった事を聞きます。
祐介は和真を止めましたが、和真は聞く耳を持たず「もっと凄い物が撮れる」と興奮しており、祐介の忠告も聞かない状況でした。
帰宅した茉優は、和真が撮影し削除した後も、拡散され続けている心霊動画を見ます。
動画の後半にはノイズが走り、不気味な映像が紛れていました。
茉優は、何度も心霊動画を見ていくと、動画が不気味な映像に変化し、その中には、何かに怯えているような和真の姿がありました。
夜の病院、帰宅しようとした茉優は、担当している患者である倉橋雅美と会います。
雅美は、一方的な好意を茉優に押し付け、それが受け入れられないと分かると発狂を始めます。
雅美に恐怖する茉優、そこへ少女が姿を見せます。
その時、病院のオープンスペースにあるテレビが、古井戸を映し出します。
古井戸から姿を現した髪の長い女は、テレビから抜け出して雅美へ接近します。
雅美は震える声で「貞子」と女を呼びます。
茉優は、少女を連れて逃げ出そうとしますが、貞子に腕を捕まれ逃げる事が出来ません。
茉優はその場で気を失い、倒れてしまいます。
映画『貞子』感想と評価
中田秀夫監督が『ザ・リング2』以降、約14年ぶりに『リング』シリーズを制作した本作。
内容は、1998年に中田監督によって制作された『リング』を、現代風にリメイクした印象です。
映画『貞子』を語るうえで、1998年の『リング』も不可欠となる為、まず「『リング』は何故ヒットしたのか?」という部分を重点的に考察したいと思います。
終末論が流れていた時代のホラー映画『リング』
映画『リング』が公開された1998年は、ノストラダムスの「1999年7の月に人類が滅亡する」という大予言や、2000年に世界中のコンピューターが一斉に誤作動を起こすという、いわゆる「2000年問題」が流れていた時代です。
両方とも都市伝説に近い話で、皆が信じていた訳ではありませんが、共通する事は「得体の知れない何かに、人類は滅ぼされるらしい」という、いわゆる終末論でした。
そんな時代に公開されたのが映画『リング』です。
「見た者は、1週間以内に死ぬ」と噂される「呪いのビデオ」は、得体の知れない何かと言えるでしょう。
そして、呪いのビデオを見てしまった者の前に出現する貞子。
小説版『リング』では、映画と呪いの表現が違っており、読者の想像力を掻き立てるような、小説ならではと言える描写となっています。
そこで、貞子がテレビから抜け出してくるという、映像的な表現に挑んだのが中田監督です。
実は、中田監督自身「笑われてしまうのではないか?」と不安だった事を後のインタビューで語っていますが、この演出が怖かった要因は「傍観者から、当事者になる」という点ではないでしょうか?
映画『リング』の呪いのビデオは、無規則な映像が流れ、最後に古びた井戸が映し出されます。
いつの時代の何処の古井戸か分からない為、不気味な印象を持つ程度でしょう。
しかし、呪いが発動した時、その古井戸から長い黒髪の白装飾の女が出てきて、ゆっくりとこちらに近づいてきます。
ここまでは、まだ映像内の出来事ですが、この映像内の不気味な現象が、テレビを抜け出してきた瞬間に、映像を見ていた者は呪いの当事者となり、絶命します。
都市伝説としか思われていなかった事が、突然現実となり、そして命を奪われる。
これは当時流れていた、ノストラダムスの予言や「2000年問題」と共通する部分があります。
その時代の空気が、映画『リング』が話題になった背景ではないかと考えられます。
『リング』の恐怖は、今の時代でも通用するのか?
『リング』の公開から21年が経過し、新時代の『リング』とも言える映画『貞子』。
中田監督は「時代の変遷を経て、どう貞子を描くか悩んだ」と語っている通り、『リング』という作品の持つ骨組みが、21年経過した現代でも通用するのか?という事に挑んだ、実験的な作品になっています。
「呪いのビデオ」は動画に変化し、『リング』では生命に異常な執着を見せていた貞子が、今作では人の繋がりを引き裂く存在になっています。
SNSなどで、人との繋がりが重視される時代に合わせたアレンジと言えるでしょう。
現代風にアレンジされてはいますが、恐怖部分は『リング』同様、CGなどを多様しないシンプルな演出となっています。
人によっては、映画『貞子』はホラーとして、古い印象を受けるかもしれません。
しかし、前述したように、ホラー映画は時代の空気が大きく反映されます。
『リング』という恐怖の骨組みをそのままに、現代の空気に挑戦した作品『貞子』。
長く続いたホラーシリーズだからこそ、時代の変化を感じる事もできる、貴重な作品です。
まとめ
『リング』から21年が経過し、今や日本を代表する有名キャラクターとなった貞子。
バラエティのコントなどでパロディにされたり、始球式に登場するなど、ホラーのキャラクターを越えた活躍をしています。
映画『貞子』では基本に戻った、静かにジワジワと迫る貞子の恐怖を描いていますが、ハリウッド版のように派手な貞子や、『呪怨』の伽椰子と戦った、2016年の映画『貞子VS伽椰子』のように、どんなスタイルのホラー映画にも対応できる万能さが、魅力のキャラクターになっています。
そこには、貞子の持つ、根本的なキャラクターの強さと、認知度の高さがあり、多少設定をいじっても、作品が問題なく成立するという強みがあります。
今後、さまざまなクリエイターが、貞子というキャラクターに挑戦していくでしょう。
小説版の『リング』シリーズでは、貞子は生命への凄まじい執着を見せていましたが、小説同様、永遠に世界で活躍するキャラクターになってしまった所が面白いですね。