『リング』(1998)高橋洋&『アパートメント』(2007)イ・ソヨンの共同脚本で“日韓”都市伝説ホラーが誕生!
韓国・ソウルに実在する地下鉄「オクス駅」。駆け出し記者のナヨンは、オクス駅の地下にある廃駅で起きた自殺事件について、駅で働く友人ウウォンから情報を得て記事にします。
しかし「廃駅に子どもがいた」という情報を聞き取材を進めるにつれて、ナヨンとウウォンの周りでは怪死が相次いで起こり始め……。
『整形水』(2021)などを生み出した韓国のウェブトゥーンに、ミステリー短編漫画として発表されたのが『オクス駅お化け』。
同漫画を原作に、『リング』(1998)の高橋洋と『アパートメント』(2007)のイ・ソヨンが脚本を務め、『貞子vs伽椰子』(2016)の白石晃士が脚本協力として加わりました。
『人形霊』(2005)のチョン・ヨンギが監督を務め、日韓のホラーの名手が都市伝説のようなミステリー小説に、戦後間もない日本で起きた事件を取り入れて映画化しました。
CONTENTS
映画『オクス駅お化け』の作品情報
【日本公開】
2023年(韓国映画)
【原題】
The Ghost Station
【監督】
チョン・ヨンギ
【脚本】
高橋洋、イ・ソヨン
【脚本協力】
白石晃士
【キャスト】
キム・ボラ、キム・ジェヒョン、シン・ソユル
【作品概要】
駆け出し記者のナヨンを演じたのは、ドラマ「SKYキャッスル」シリーズで注目を浴びたキム・ボラ。
ナヨンとともに事件の真相を追う友人役には、韓国出身の5人組バンド「N.Flying」のドラム担当であり、ドラマ「君と世界が終わる日に」シリーズのキム・ジェヒョンが務めました。
監督を務めたのは『人形霊』(2005)や「家門」シリーズなど、ホラーからコメディまで幅広く手がけるチョン・ヨンギ。
映画『オクス駅お化け』のあらすじとネタバレ
オクス駅の終電に間に合ったとある男性は、酔っ払っているのか、様子がおかしい女性をホームで見かけます。そして、その様子を写真に撮ってSNSにアップしてしまいました。
そのまま実況中継のように投稿していると「その女、幽霊ではないのか」というコメントを見かけてハッとした男性が顔を上げると、ホームに女性の姿がありません。
突如ホームのドアが開き、不審に思った男性は身を乗り出して線路を覗きます。するといきなりドアが閉まり、男性は首を挟まれ亡くなってしまうのでした……。
その1ヶ月前。駆け出しのウェブ記者のナヨンは、綺麗な女性に見えた相手をある駅のホームで声をかけ、写真を撮ると記事に掲載しました。ところが、その相手は女性ではなく男性で、ナヨンは記事の訂正と賠償金を要求されます。
困ったナヨンは社長に報告すると「掲載許可はきちんと取ったのか」「なぜ取材対象の連絡先も知らないのか」と問い詰められます。
ナヨンは同意は得ていたし、記事を掲載したのは会社なのだから会社が払うべきだと主張しますが、社長は相手にせず「ナヨン自身で解決すべきことだ」と言うばかりです。
取材した相手を見つけ謝罪した上で要求を取り下げてもらうか、ヒットする記事を書いて“穴埋め”をするかしろと言われたナヨンは、友人のウウォンに何かないかと相談します。
ウウォンはオクス駅の廃駅であった自殺事件の話をします。「単なる自殺事件ではない」と言うウウォンは、そこで小さな子どもを目撃したと証言し、死体を処理する湯灌師も同じものを見たとのことでした。
ナヨンは事件や駅について調べ始めます。「自身の父親には霊力があり、オクス駅には強い怨念を感じると言っていた」と湯灌師から聞いた後、ナヨンは男性が電車で自殺した際に運転していた運転士にインタビューします。
運転士はどこか様子がおかしく「ずっと何かが離れない」と同じ数字を繰り返し話していました。インタビューした内容を基に記事を書いた結果、記事は見事にバズり、閲覧数が増えて上司は大はしゃぎです。
しかしナヨンは、人が亡くなっている記事を出して喜ぶべきではない、不謹慎だと複雑な顔を浮かべます。そんな時に社長へ呼び出されたナヨンは、インタビューをしたという時間に運転士はすでに自殺していたと言われてしまいます。
そこで当時の監視カメラの記録映像を見ると、運転士と二人で話していたはずのその映像には、ナヨン一人しか映っていませんでした。
映画『オクス駅お化け』の感想と評価
日韓“ハイブリッド”なホラー映画
日韓共同で製作された『オクス駅お化け』は、脚本に高橋洋が携わっていることもあり、『リング』(1998)の影響や、1990年代の邦画ホラーの影響を色濃く感じる映画になっていました。
しかし社会性を取り入れ、現代の若者をターゲット層にしたメッセージ性は韓国映画らしさを感じるところであり、まさに『オクス駅お化け』は日韓の“ハイブリッド”なホラー映画なのです。
本作の製作は、必ずしも順調にいったわけではありません。構想から製作、公開まで9年近くかかっています。最初にウェブトゥーンで公開され大反響を呼んだ『オクス駅お化け』の内容は、そのまま映画の冒頭に流れた不思議な動きをしている女性についてSNSで投稿していたら、実はその女性はお化けであった……という都市伝説のような内容でした。
そうした短編の物語から広げてほしいと高橋洋に脚本を依頼したところ、原作からさらに怖さがパワーアップし、日本的な要素も強かったため、なかなか韓国側で資金集めがうまくいかず、さらにはコロナ禍などの影響も受けた中で、ついに製作・公開される運びとなったのです。
高橋洋は、戦後間もない日本で起きた凄惨な幼児虐待事件「寿産院事件」をベースに、本作の脚本を構想したと言います。寿産院事件とは、助産院に預けられた大勢の嬰児が悲惨な環境下に置かれ、大量に殺されていたことが発覚した事件です。
その事件をベースに臓器売買・都市開発など「弱きものが犠牲になり、その犠牲が隠蔽されていた」という社会性を織り交ぜた点は韓国映画らしさが表れていると言えるでしょう。
名作Jホラー『リング』との共通点
韓国映画らしさもありながら、本作は『リング』との類似点も随所に感じられます。大きな類似点は言わずもがな“井戸”が登場することでしょう。日本では、怨霊・貞子が井戸から這い上がってくるイメージはよく知られています。
本作では井戸から怨霊が這い上がってくるわけではありませんが、「井戸に捨てられた多くの子どもが証拠隠滅のため生き埋めにされた」というおぞましい事件が描かれており、ナヨンとウウォンは井戸から子どもたちの白骨を見つけるのです。
さらに『リング』との大きな類似点は、“呪い”を生きている人間の尺度で“供養”しても解くことはできない点、そしてその“呪い”は誰かにうつすことだけはできるという点でしょう。
生き埋めにされた子どもたちは、不特定多数に“呪いをかけます。その“呪い”の方法は、自分が施設に預けられた際に付けられたタグの“番号”を読ませることでした。
「番号を呼んで」……それは、井戸に入れられた子どもたちが唯一知っていた“助かる方法”だったのです。“番号”を呼んでしまった者は呪いにかけられ、爪の跡が体中に広がり怪死を遂げます。
そして“呪い”をうつす方法は、たとえ“呪い”を信じていなくても、事件を知る人物に番号を言わせること。友人によって呪いをうつされてしまったナヨンは、とある人物にうつすことを決意するのです。
映画ラストのナヨンの“服装”も注目
映画ラストでのナヨンの“呪い”に対する決意は、後味の悪さを感じさせる『リング』の主人公の選択とは違う、本作が若者に向けられた現代的なメッセージのある映画だと理解できる描写でもあります。
過去に起きた凄惨な事件を描くとともに、その事件を隠蔽してきた人々が再びナヨンを抑えつけ、都合の良いように隠蔽しようとするという社会の理不尽さを浮き彫りにします。ナヨンは自身の信念を貫くため、最初は従っていた社長に反旗を翻し、社長に呪いをうつすのです。
また最後の場面では、ナヨンの服装が大きく変わっていることにも注目です。
それまでナヨンは、無造作に束ねた髪に、スニーカーとラフであまり服装に気を使わずに会社に出勤していました。そんなナヨンの姿に「もう少しまともな格好を」と社長が注意する場面もありました。
しかし、最後の場面でナヨンはスーツにハイヒール姿で、髪を下ろしメイクもしています。全身から自信に満ち溢れるナヨンの姿にスカッとした観客も多いでしょう。
ホラー映画といえば、事件が終わったかのように見えて実は……と不穏さを残して終わるものも多くありません。しかし後味悪いラストではなく、スカッとしたラストにした点からも、本作が現代を生きる若者へ向けられた映画であることがうかがえるのです。
まとめ
本作では、駆け出しのナヨンが自分の信念を貫く姿を描くとともに、駆け出しだからこそ上司に逆らえず「自分が書きたいものではなく、世間が求めているものを書かなくてはいけない」という背景も描かれています。
そこには、消費社会の加速の影響で“バズり”が第一になってしまった現代社会の世相もうかがえるのです。
人の死や呪いを茶化してSNSに載せて良い意味でも悪い意味でも「バズればいい」という承認欲求は、人々の倫理観をも変えてしまっているのかもしれません。
また韓国社会では、やっと就職した仕事が自分にとって大変なものでも、次の仕事がすぐ見つかるわけではなく、今の仕事に何が何でもしがみつかなくてはいけないという現状もあると言います。
ナヨンにとって、オカルト絡みの記事を書くことは本意ではありませんでした。何かネタがないかとウウォンに相談し、オクス駅の話題が出てきた際にナヨンは「なりたくなかった記者になってきている気がする」とぼやく場面もありました。
それでも訴訟になったり、クビになるわけにはいかない。そんなナヨンでしたが、隠された事件の真相に近づいていくにつれ、「子どもたちの無念を、私が記事にして晴らしてあげたい」という自身の信念と社会正義を思い出し始めるのです。
最初は不本意でしたが、次第に記事を書く目的を見つけたナヨンは自分がなりたかった記者に近づいていきました。自分の信念を貫くため、社長への復讐の意味も込めて最後ナヨンは呪いをうつすことを決意するのです。