映画『マーダー・ミー・モンスター』は2019年11月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷にて、【WEC2019ワールド・エクストリーム・シネマ2019】作品としてロードショー!
ヒューマントラストシネマ渋谷で開催される、【WCC ワンダーナイト・シネマカーニバル2019】。
その中でも選りすぐりの、ガツンとくる映画を集めた特集が、【WEC2019ワールド・エクストリーム・シネマ2019】です。
その中の1本として登場するのが、アルゼンチンを舞台にしたモンスター映画、『マーダー・ミー・モンスター』です。
殺人事件から始まった物語は、謎が謎を呼ぶ展開が繰り広げられ、見る者を予測不能の恐怖へと突入していく…。
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映画『マーダー・ミー・モンスター』の作品情報
【公開】
2019年11月15日(金)(アルゼンチン・フランス・チリ合作映画)
【原題】
Muere, monstruo, muere / MURDER ME, MONSTER
【監督・脚本】
アレハンドロ・ファデル
【出演】
ビクトル・ロペス、エステバン・ビリャルディ、タニア・カスチアーニ
【作品概要】
カンヌ国際映画祭の“ある視点部門”に正式出品された、異色のモンスター・パニック映画。スペイン・ポルトガルとその旧植民地の南米諸国の映画を集めた、テンビート映画祭で上映された『獣たち』を監督した、アレハンドロ・ファデルの最新作です。
残虐なシーンやモンスターの登場する映画が大好きだった監督が、様々なメッセージを込めて描いた、様々な仕掛けを持つホラー映画です。
映画『マーダー・ミー・モンスター』のあらすじ
アンデスの山中で、首を切断された女性の遺体が発見されます。
地元警察の刑事クルス(ビクトル・ロペス)は、殺害現場付近にいた言動の怪しい男、ダビド(エステバン・ビリャルディ)を容疑者として捕えます。
遺体の切断部には謎の粘液は付着しており、また犯人がどうやって首を切断したのかは、クルスには謎でした。
夫ダビドの身を案じる妻、フランシスカ(タニア・カスチアーニ)とクルスは関係を持っていました。しかしダビドは釈放される事になります。
ところが次は、フランシスカが首を切断され殺害されます。状況から連続殺人の犯人として逮捕されるダビド。
今回も遺体からは粘液が、そして動物のものとも思えない巨大な牙が採取されます。クルスは署長に真犯人は別にいる可能性を指摘しますが、署長は耳を貸しません。
精神的に不安定な状態であると判断されたダビドは、病院に入院させられます。そこを訪ねたクルスは、診察した女医とダビドとの面談を記録した、音声データを手に入れます。
そこには、幻聴に苦しめられ、それに心を支配されると訴えるダビドの声が記録されていました。
3つの単語が、繰り返し聞こえていると語るダビド。その単語の頭文字にヒントを得たクルスは、真犯人がパターンに従って犯行を行っていると推理します。
クルスの考えも捜査方法も現実離れしたものでしたが、彼の予想通りに、またしても女性が殺害されます。
その事実を前にした署長はダビドを連れ、クルスや部下と共にアンデス山中の、荒野の中にある殺害現場へと向かいます。
そこに現れた真犯人の正体とは。クルスの目の前に、想像を越えた光景が現れますが…。
映画『マーダー・ミー・モンスター』の感想と評価
ホラー映画を愛するアレハンドロ・ファデル監督
幼い頃からホラー映画が好きだった、と語っているアレハンドロ・ファデル監督。
ホラー映画好きの少年がそうであるように、彼は登場する怪物や、残虐シーンにまず興味を持ちましたが、徐々に恐怖映画の持つ様々な要素に気付かされます。
ホラー映画を彩る“恐怖”は、それを通じて社会や政治に潜む問題を露わにする力がある、と気付かされたと彼は答えています。そんな力のある作品を生んだ人物として、ジョン・カーペンター、デビット・クローネンバーク監督の名を挙げています。
『マーダー・ミー・モンスター』に登場する被害者は女性。ホラー映画にありがちな、男性優位な視点を秘めた描写ですが、ファデル監督は意図して本作に取り入れています。
『エイリアン』のクリーチャーデザインで有名な、H・R・ギーガーの例をあげるまでもなく、映画に登場するモンスターのデザインには、時に性的な側面が強調される事があります。
それを本作の脚本の構想段階から意識していたファデル監督。登場するモンスターのデザインが、“アレ”や“ソレ”を思わせるのは、意図して行われたのでしょう。
アンデスの山中を舞台に深まる謎
参考映像:『獣たち』予告編(2012年・第9回ラテンビート映画祭上映作品)
『マーダー・ミー・モンスター』はアンデス山中の寒村を舞台に、そこで暮らす人々と地方の警察官を舞台に、物語が展開されます。
広大かつ荒涼とした自然を背景に、劇的な人間のドラマを扱うのはファデル監督の前作、『獣たち』と同じ構造です。
少年院から脱走した若者たちが凶行を繰り返す、ホラーとは異なる惨劇と恐怖を描いた、ジャンル映画的な作品である『獣たち』。彼らが逃げ込み根城とする場所が山中、というところに監督の描く恐怖の根源を見る事ができます。
広大かつ過酷な自然に包まれ、そこに住む人々には閉鎖的・孤立的な環境であるアンデスの山中。都会から離れたその地の住民の生活や行動は、古くからの価値感に縛られている。
『マーダー・ミー・モンスター』は、日本や他の国々の、遠隔地を舞台にしたホラー・スリラー映画と同じ構造を持っています。
そして怪事件を追求する主人公は、様々な謎に気付きます。それが物語の中で露わになってくると、映画のオープニングでは大きな意味を持ち始めるます。
『ツイン・ピークス』?それとも『X-ファイル』?
容疑者を逮捕し猟奇事件は解決したかに見えましたが、主人公は事件の現場にある証拠、そして容疑者が医師に語った証言から、他に犯人が存在する可能性に気付きます。
やがて彼の考えは常識を越え、その捜査手法も常軌を逸したものになります。タイトルとなった3つの言葉の意味が露わとなり、ストーリーは急転し謎を秘めた展開になります。
なんとも奇妙な捜査に没頭する主人公の姿は、『ツイン・ピークス』のクーパー捜査官、『X-ファイル』のモルダー捜査じみてきたと感じたのは、私だけでしょうか?
そして映画はモヤっとしたラストを迎えます。この展開には海外の評価も賛否両論の模様。『X-ファイル』の奇妙なエピソードの様な作品が、『マーダー・ミー・モンスター』だと紹介しておきましょう…。
まとめ
アレハンドロ・ファデル監督が、アンデス山中の寒村という閉鎖的環境で、男性優位の古い価値観に縛られた社会を描きながら、深い謎を仕掛けた映画が『マーダー・ミー・モンスター』。
社会風刺的側面と同時に、モンスターの出現・正体に関する謎を映画に盛り込んだ結果、奇妙な余韻を残す映画になっています。
ひとつ紹介すると劇中に3台のバイクが登場しますが、その解釈を巡って見た者の意見は割れ、3つの言葉と同じ意味で使われたと解釈しますが、説明的な描写は一切ないので、そこは観客の解釈に委ねられるのでしょう。
この奇妙な雰囲気を産んだのは、監督自ら描いた脚本の成果だけではありません。
アンデスの山中のロケで撮影された広大な自然の描写だけでなく、高地という空気が薄く寒い環境で、その中で夜間や雨の中、時には裸に近い姿の悪条件で、俳優に演じさせた結果であるとも、監督は認めています。
映画からにじみ出る荒涼とした世界は、このような撮影環境で生まれたのです。
その世界に登場するモンスターの姿には、スーツ系モンスターのファンは、思わずニヤリとさせられるでしょう。
映画『マーダー・ミー・モンスター』は2019年11月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷にて、【WEC2019ワールド・エクストリーム・シネマ2019】作品としてロードショー!