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Entry 2020/06/20
Update

映画『リトル・ジョー』内容解説と考察。エミリー・ビーチャム主演で女性監督が手掛けるサイエンススリラー

  • Writer :
  • 山田あゆみ

映画『リトル・ジョー』は2020年7月17日(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

幸せになる香りを放つという新種の植物がもたらす不安を描いた異色のスリラー。

主演のエミリー・ビーチャムが第72回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞した映画『リトル・ジョー』が公開されます。

共演に007シリーズのベン・ウィショー、監督はミヒャエル・ハネケの助手を務め、『ルルドの泉で』で注目を集めたジェシカ・ハウスナーです。

映画『リトル・ジョー』の作品情報


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

【日本公開】
2020年(オーストリア・イギリス・ドイツ合作)

【監督】
ジェシカ・ハウスナー

【キャスト】
エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、ケリー・フォックス、キット・コナー他

【作品概要】
監督のジェスカ・ハウスナーは長編初監督作『Lovely Ritaラブリー・リタ』(2001)と続く『Hotelホテル』(2004)『AMOUR FOU(原題)』(2014)がカンヌ国際映画祭ある視点部門に出品されている、カンヌ常連者。また、『ルルドの泉で』(2009)がヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞。本作で長編5作目で、初の英語作品です。

本作の演技が評価され、第79回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞したエミリー・ビーチャムは、マンチェスター出身で、アメリカ人の母とイギリス人の父親の間に生まれた女優です。映画『28週後…』(2007)、『ヘイル、シーザー!』(2016)などに出演。今後の作品としては、ディズニーの『101匹ワンちゃん』の実写映画化『Cruella(原題)』への出演も決定しています。

主人公の同僚のクリス役を務めたのは、ベン・ウィショー。TVミニシリーズ「英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件」(2018)の演技が評価され、第76回ゴールデングローブ賞ドラマ部門助演男優賞を受賞。映画『パフューム ある人殺しの物語』(2006)、『ロブスタ―』(2015)など数多くの作品に出演しており、007シリーズのQ役としても有名です。

映画『リトル・ジョー』のあらすじ


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

シングルマザーのアリス(エミリー・ビーチャム)は息子のジョー(キット・コナー)と二人暮らしをしつつ、新種の植物を開発する研究者として目まぐるしい日々を送っていました。

アリス率いる研究チームが作り出した「リトルジョー」は、暖かい場所で毎日水をやり愛情をもって育てると花を咲かせる植物で、幸せになれる香りを放つのが特徴でした。

アリスは自宅にリトルジョーを一鉢持ち帰り、息子のジョーにプレゼントしました。

その日から息子の様子が変わり、それまでとは別人のような行動をとるようになっていきます……。

映画『リトル・ジョー』の感想と評価


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

特異なカメラワークと音楽が引き立てる不穏さ

日本人作曲家の故・伊藤貞司による音楽が本作の世界観には欠かせないものだと感じました。

尺八や琴が使われた和の独特な音の響きが、妖艶な中に狂気を孕んだような怪しげな雰囲気を作り出しています。

物語のはじめは耳鳴りのような音が、張り詰めた緊張感を漂わせていて、展開が進むごとに太鼓の音や犬の吠える声などが予期せぬ形で重なり合うことで、どうしようもなく不安感を駆り立てられるのです。

そして、特徴的なカメラワークがその不気味さをさらに際立たせます。

登場人物同士が会話をしているシーンでゆっくりとカメラが近づいていくのですが、アップした先には物語と関係ないと思われるものを捉えていたりするのです。

意味深かつ奇妙な動きに見えない何かがそこにあるような錯覚に陥ります。

シングルマザーの女性が息子への愛に迷う


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

本作の肝である「リトル・ジョー」という植物の生態は、香りによってオキシトシン(別名母親ホルモンといって母と赤ん坊の絆を深めるホルモンのこと)の分泌を促して、人々に幸せを感じさせるというものです。

作中では、「リトルジョー」のことを「子どものように愛することができる植物だ」とアリスが語ってます。

そこからも分かるように、母親として息子のジョーへの向き合い方に悩んでいたアリスが自分を肯定するために作り出したような植物ではないかと解釈することもできるでしょう。

しかしあるきっかけから、息子の人格が変わってしまい、それが「リトルジョー」のせいなのではないかという本末転倒な事態に陥ってしまうのです。

愛に迷い、生命を自ら管理しようとした者の破滅的な行く末は、現代社会で愛をはき違える人々への警鐘とも捉えることができるのではないでしょうか。

ラストに関しては賛否が分かれそうですが、感染モノとしての面白さは、徐々に「リトルジョー」の生態が明らかになり、周囲に影響を及ぼしていく前半に詰まっています。

二度目の鑑賞時にも、また新たな発見があって楽しむことができるでしょう。

演技派俳優のベン・ウィショーの危うげかつ繊細な演技にも注目です。

まとめ


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

本作はパステルカラーの衣装をはじめ、アリスの部屋のインテリアや照明が醸し出す非現実感がポイントの一つになっています。

研究所で着用している作業着はミントグリーンで、ロッカールームの色合いやアリスの私服までその色彩トーンが統一されていて、色彩を楽しめるのではないでしょうか。

その美しさと裏腹に残酷な生き物「リトルジョー」のギャップがさらに恐怖心を掻き立てます

『リトル・ジョー』は2020年7月17日(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー


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