ホラー映画ファンならお馴染みの殺人鬼と学園を舞台にしたスラッシャー映画。
イケてるけど自己チューで高飛車な、実に性悪女であるツリー。当然ながら彼女は、お約束の様に仮面を着けた殺人鬼に殺されます。
ところが!殺された直後にツリーは目覚め、同じ一日を繰り返してまた殺されます。そして、また目覚めて同じ日を来る返し…。
彼女は何と“殺人ループ”に陥ったのです。果たしてツリーは殺され続ける“殺人ループ”から抜け出せるのか。
そして彼女を何度も殺害した、犯人の正体とは…。
CONTENTS
映画『ハッピー・デス・デイ』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Happy Death Day
【監督・脚本】
クリストファー・ランドン
【キャスト】
ジェシカ・ローテ、イズラエル・ブルサード、ルビー・モディーン、レイチェル・マシューズ、チャールズ・エイトキン
【作品概要】
ホラー映画の定番、学園を舞台にしたスラッシャー映画に、ループものの要素を加え話題となった、新機軸ホラームービー。
シャイア・ラブーフ主演のサスペンス映画、『ディスタービア』の原案・脚本を務め、その後多くの映画の脚本を手がけ、『パラノーマル・アクティビティ 呪いの印』で、監督も手掛けたクリストファー・ランドン。彼が本作の監督と脚本を務めました。
『ディスタービア』がヒッチコックの名作、『裏窓』にインスパイアされていたように、本作も過去の映画への、オマージュに満ちた作品です。
主演のジェシカ・ローテは、あのアカデミー受賞作『ラ・ラ・ランド』で、エマ・ストーンのルームメイトの1人を演じた女優。
また共演のイズラエル・ブルサードは、ソフィア・コッポラ監督作『ブリングリング』で、エマ・ワトソンやタイッサ・ファーミガと共に、セレブたちの豪邸に盗みに入った少年を演じています。
なおスマッシュヒットを飛ばしたこの作品は、続編『ハッピー・デス・デイ 2U』が製作され、日本では2作品続けてのロードショー公開となりました。
映画『ハッピー・デス・デイ』のあらすじとネタバレ
18日の朝、皆からはツリーと呼ばれている女子大生・テレサ(ジェシカ・ローテ)は、スマホの音で目を覚まします。
そこは大学の男子寮の見知らぬ男の部屋。
昨日は前後不覚に酔ったらしく、頭痛に苦しみながら起き上がるツリー。
部屋の主である、酔って頼ってきた彼女を世話した男子学生、カーター(イズラエル・ブルサード)の心配を他所に、ツリーは当然の様に頭痛薬を要求します。
この事は内緒よ、とカーターに口止めしたツリーは、昨晩のてん末を聞きたがる、彼のルームメイトと出くわしながら、部屋を後にします。
男子寮から出た彼女を、不審げに見るサングラスの男とすれ違い、環境保護の署名を求める女を全く無視して歩くツリー。
校庭の散水スプリンクラーから水が噴き出し芝生でくつろぐ人が濡れ、車の警報音が鳴り響きます。
シゴキにあった男子学生が倒れたのをわき目に、ツリーは先を急ぎます。
彼女は敬遠ぎみの相手ティムから、何故メールに返事しないと責められますが、アンタとのデートは最低だったと言い返すツリー。
ようやく女子学生寮に戻ったツリーは、寮の女子会を仕切るダニエル(レイチェル・マシューズ)に朝帰りだと指摘されますが、適当に返事すると彼女は自室に向かいます。
自室ではルームメイトのロリ(ルビー・モディーン)がいました。
今日はツリーの誕生日と知っていたロリは、彼女に手作りのカップケーキをプレゼントしますが、そんな高カロリーなものは食べないと、彼女の前でケーキをゴミ箱に捨てるツリー。
ツリーはロリの好意を無視すると荷物をまとめ、グレゴリー教授(チャールズ・エイトキン)の授業へと向かいます。
授業の後、ダニエルの開いた女子会に参加したツリーは、ダニエルと共にイケてない女子、ベッキーを馬鹿にして追い出します。
ところがベッキーは現れたカーターとぶつかり、ツリーにココアをこぼします。
カーターはツリーが忘れたブレスレットを届けにきましたが、礼を言うどころか、女子会の面々の前で渡す行為に、恥をかかされたと不機嫌になるツリー。
大学病院に向かったツリーは、そこで看護師として働くロリと出会います。彼女はツリーにこんな事をしていたら、必ず報いを受けると忠告。
しかしツリーは余計なお世話と答え聞く耳を持ちません。
病室の前に座る警官をわき目にして、彼女が向かったのはグレゴリー教授の部屋でした。
ツリーは妻のある教授と不倫関係でした。彼女から迫った時に、教授の妻がやって来て、2人は慌てて取り繕います。気まずい空気の中、部屋を後にするツリー。
夜になり部屋に戻ったツリーを、ダニエルがパーティーに誘います。辺りは一瞬停電になりますが、すぐ回復し彼女はパーティーに向かう事にします。
誕生日の今日、ツリーの父は食事に誘っていましたが、彼女はそれを無視して、夜道をパーティーへと向かいます。彼女は大学の、フットボールチームを応援していた一団とすれ違います。
一団の中の、チームのマスコットキャラ“ベビー・マスク”を被った男が、じっと彼女を見つめていました。
夜道を進むツリーは、工事用の照明で飾られた路上に置いたオルゴールを目にします。「誕生日の歌」が流れ、オルゴールを手に取ろうとしたツリー。
いきなり彼女は、“ベビー・マスク”の男に襲われます。必死に抵抗しますが、ツリーは男の持つ大きな刃物で刺されます…。
スマホの音で目を覚ますツリー。今日は誕生日の18日の朝でした。さっき見たのは夢かと思うツリー。しかし彼女は、カーターが頭痛薬をしまっている場所を知っていました。
カーターの部屋の玄関の扉に掲げられた、「今日は、残りの人生の最初の日」との言葉が、ツリーの目に入ります。
部屋から出た彼女は、今まで見た夢と同じようにサングラスの男、署名集めの女とすれ違い、全てが同じ様に繰り返されます。デジャブの様な感覚に襲われ続け、その不安をルームメイトのロリに訴えます。
グレゴリー教授の授業に遅れると気付き、彼女の用意したカップケーキを置いて部屋を出たツリー。その後も夢と同じ事が続き、彼女の不安は募ります。
夜になりパーティー会場に向かうツリー。警戒しながら進む彼女は、フットボールチームを応援していた一団の、“ベビー・マスク”の男がこちらを見ている事に気付きます。身を固くするツリー。
しかし男は仲間に呼ばれて去って行きます。ほっとしたのもつかの間、目の前の路上にオルゴールが現れます。ツリーは恐怖に駆られ、道を引き返します。
ようやくパーティー会場に着いたツリー。しかし扉が開きません。焦る彼女の前に、“ベビー・マスク”を付けた男が現れます。
驚いて男を殴ったツリー。ところが相手は、彼女も知る人物ニックでした。皆は誕生日を迎えたツリーの為に、サプライズパーティーを用意していたのです。
気を取り直しパーティーに参加し、皆と盛り上がるツリー。彼女はニックとイイ雰囲気になり、彼の部屋に招かれます。そこで盛り上がる2人。
ツリーのスマホに、今どこ、彼といるんでしょ、とのメッセージが送られてきます。彼女は誤魔化した返事を送りますが、相手は2人で死ねとの、きつい返事を送ってきました。
そのやりとりの間に、ニックは“ベビー・マスク”の男に殺されていました。次はツリーに迫ってくる男。
殺人犯とベットでもみ合うツリーは、学友に助けを求めますが、性行為の最中と思われます。
救いを得られず悪態を付くツリー。今度は男が握る、割れた水パイプで体を刺され…。
またしてもスマホの音で目を覚ますツリー。同じ一日が始まったと確信し、逃げる様にカーターの部屋からでた彼女は、同じように繰り返される光景を目にします。
女子寮に戻りルームメイトのロリに、既に今日を2回生きて、今夜また殺されると訴えるツリー。その言葉をロリは信じる事が出来ませんが、今日は1日部屋で休むようアドバイスします。
その言葉に従ったツリーは、思い立って窓を打ち付け、玄関を塞いで部屋に立てこもります。
ダニエルがパーティーに誘いに現れ、またしても停電が起きますが、今度は外出せず部屋で過ごすツリー。
テレビのリモコンが見当たりません。部屋を物色したツリーは、自分宛ての誕生日カードを見つけます。カードの中に“ベビー・マスク”の顔がありました。
すると勝手にテレビが切り替わります。TVでは連続殺人犯のトゥームズが、銃撃戦の末逮捕されたと報じていました。
何者かが部屋にいるかも、と部屋の中を探し始めるツリー。果たして部屋の中には“ベビー・マスク”を付けた男が潜んでいました。男はツリーに襲います。
自ら塞いだ部屋から逃れる事は出来ません。今回も大きな刃物でツリーは体を貫かれ…。
スマホの音で目を覚ますツリー。また同じ誕生日の朝が始まります。今回は目の前にいるカーターに、自分の置かれた状況を打ち明けます。
半信半疑の彼もツリーの説明に納得し、犯人探しに協力します。カーターは容疑者は、ツリーの誕生日を知っていて、彼女に恨みのある人物だと推測します。
ところが女子寮ライフを送るツリーの誕生日は、誰もが知っており、彼女の性格では大学以外の人物を含め、恨みを持つ者は数知れず。それでも彼女は容疑者をリストアップしていきます。
何度も死ねるなら、何度でも犯人探しが出来るとのカーターの指摘に、何度も殺されるのかと怒るツリー。しかし“殺人ループ”から抜け出るには、これしか手はありません。
こうして犯人探しに乗り出したツリー。まずメールに返事しないと責めたティムの部屋を覗き、実は彼はゲイだと知って容疑者から除外しますが、その直後彼女は殺されます。
次はダニエル教授の妻、ステファニーを夜間、完全装備で監視しますが彼女もシロ。と判明した直後、いきなり襲われ溺死させられるツリー。
彼女以上に高飛車なダニエルを調べたツリーは、彼女がバースディ・カードの送り主だと知ります。
てっきり犯人だと思い、2人は路上で取っ組み合いを始めますが、その結果2人共バスにひかれて死亡。今回は犯人の出番はありません。
どうせ殺されて、同じ日を繰り返すならば、と開き直ってカーターの部屋から全裸で出るツリー。やはり犯人は見つけられず、今度はバットで殴り殺されます。
同じ日の朝を繰り返し目覚めたツリー。彼女と違い白紙状態のカーターに、アンタの計画はクソよと呟き倒れた彼女は、大学病院に担ぎ込まれます。
今度は病室で一日を過ごしますが、やはり“ベビー・マスク”の男が現れ、やはり殺害されるツリー。
またしてもツリーは同じ誕生日の朝を迎えますが、今までと異なり、体の不調を覚え倒れます。
大学病院に運び込まれた彼女を、グレゴリー教授が診察しますが、彼は思いもよらない結果をツリーに伝えてました。
映画『ハッピー・デス・デイ』の感想と評価
ビッチな彼女に“殺人ループ”は命がけ?
映画の1つのジャンルとして、すっかり定着した感のある“ループもの”。
何度も死んだ映画の主人公と言えば、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のトム・クルーズや、『ドクター・ストレンジ』のベネディクト・カンバーバッチが思い浮かびます。
両者ともトンデモない数の死を経験して地球を救った、自己犠牲の鏡のような人物です。
しかし『ハッピー・デス・デイ』で“殺人ループ”に遭遇するのは、ハリウッドスターでもマーベルヒーローでもなく、ホラー映画のビッチな人物。
それゆえか17回の殺人ループで、心身ともにもう限界でした。
という指摘はさておき、『ハッピー・デス・デイ』は紹介した2作品より後に製作、公開されました。“ループもの”が多くの観客に認知された後、その設定をホラーに持ち込んだ作品といえます。
参考映像:『恋はデジャ・ブ』(1993年日本公開)
しかし劇中でセリフに登場する様に、この映画に一番影響を与えたのは、今や“ループもの”の古典的名作の1つ、『恋はデジャ・ブ』です。
ループを繰り返す内にヤケになり暴走し、やがて自分の態度を改め、人々から尊敬される存在になる展開は、将にそのものです。
監督クリストファー・ランドンとは
本作を監督したのはクリストファー・ランドン。あの『大草原の小さな家』の一家の大黒柱、チャールズ・インガルスを演じたマイケル・ランドンの息子です。
B級映画からキャリアを重ね、世界的人気を誇るドラマでスターとなったマイケル・ランドンは、同時に監督・脚本家でもありました。
その影響を受けたのか、クリストファー・ランドンも脚本家としてデビュー後、B級映画で実績を積み重ねている人物です。映画に対する膨大な知識を背景に、作品を生み出しています。
『ハッピー・デス・デイ』に影響を与えた作品として、多くのタイトルを挙げています。しかし単純に、その焼き直しに終わる作品ではありません。
多くの映画、特にホラー映画の鉄則は「ヒロインは優しく、無垢で、好感の持てる人物」。しかし彼はあえてこの映画に「利己的で、性悪なヒロイン」を与え、その人物の成長の姿を物語にする事を選んだと語っています。
この掟破りの設定で、想像外の笑いと感動を生み出す事に成功しています。
同じ日を繰り返すループの表現は、繰り返される日の同じ時間は、同じ明るさで表現するという事を、徹底して意識した撮影環境で生み出されています。
その一方、当初安定したカメラワークと、明るい映像で描かれた画面は、ループを繰り返す内に手持ちカメラになり、色味が足されていくという表現で、徐々にヒロインの世界が混乱してゆく様を表現しています。
これは単純な様で、撮影現場では緻密を要する複雑な作業であったと、クリストファー・ランドンは振り返っています。
まとめ
実はこの映画、当初は異なるエンディングが用意されていました。
折角ループを抜け出したツリーですが、大事をとって入院させられます。しかしその前に、彼女に恨みを持つもう1人の人物が現れて…というバットエンドでした。
これはテスト試写で観客に披露されましたが、支持を得られない結果となりました。
そこで新たに作られたのが、この公開版のエンディングです。
完成までにこの様なテスト試写、その上での更なる変更が加えられるのも、ハリウッド映画らしいエピソードです。
さて、劇中で散々ビッチと言われた、ヒロインのハートを掴む事が出来たカーター。映画の中では中々の好青年。
しかし自室に貼ったポスターを良く見ると、『ゼイリブ』に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『レポマン』に『ミステリー・サイエンス・シアター3000』。
オタクな彼は、あの性格の彼女と上手くやっていけるのでしょうか? でも、だからこそ彼女の“タイムループ”の説明を、あっさり理解し受け入れたとも言えます。
2人の関係は、果たしてこの後上手くいったのか?それは無論、続編の『ハッピー・デス・デイ 2U』を見て確認するしかありません。