連続殺人の死にまつわる不可思議な秘密を解き明かす者は死ぬ、ホラー映画『フッテージ』。
『フッテージ』は、家族連続殺人事件の真相を探る為に、殺人現場の家に引っ越して来た犯罪小説家が、家に残された前代未聞の衝撃的な連続殺人事件の手がかりを見つけ、事件の顛末を探すホラー映画です。
『NY心霊捜査官』(2014)のスコット·デリクソンが、監督と脚本を担当しました。
『ガタカ』(1998)のイーサン・ホークが犯罪小説作家エリソン役を熱演し、『ジュラシック・ワールド』(2015)のヴィンセント·ドノフリオ、『フッテージ デス・スパイラル』(2015)のジェームズ·ランソンなど、実力派俳優陣が出演しています。
この映画は、実話犯罪に執着する小説家が5家族連続殺人事件の顛末を知るという前代未聞な設定です。予想を越える衝撃的な結末まで、緊張感は続き一瞬も目が離せません。
映画『フッテージ』の作品情報
【公開】
2013年公開(アメリカ映画)
【原題】
Sinister
【監督】
スコット・デリクソン
【キャスト】
イーサン・ホーク、ジェームズ·ランソン、ジュリエット・ライランス、フレッド・ダルトン・トンプソン、マイケル・ホール・ダダリオ、クレア・フォーリー、ヴィンセント・ドノフリオ、ビクトリア・リー、ニコラス・キング、ロブ・ライリー
【作品概要】
実話犯罪を扱う作家が、一家族が残忍に殺された家に引っ越して来ますが、その家で悪魔的存在による恐怖を経験するようになるストーリーを描いています。
米国で公開されると同時に、興行収入1位を占めたこの映画は、制作費の16倍に昇る収益を突破し、興味深いテーマと衝撃的な結末で、高い評価を得た作品。
300万ドルの低予算で制作し、7700万ドルを超えるヒットを収め、低予算でありながら『フッテージ』は、2015年に続編が公開されました。
映画『フッテージ』のあらすじとネタバレ
古いフィルム映像が映写されます。そこには顔に覆面を被った4人が立っています。
全身は縛られており、首には縄がかかっています。その縄は大きな木の枝に繋がっています。すると、木の枝が折れ始め、重力によって、4人の首にかかった縄は上って行きます。宙吊りになった4人の首が絞められ、死を迎えます。
実際の犯罪を基に「ケンタッキー・ブラッド」というベストセラー小説の作家エリソン·オズワルトと妻トレイシー、そして2人の子供トレヴァーとアシュリーの家族は、引っ越しの真っ最中。
そんな彼らの前に、エリソンのファンである副保安官は、本にサインを貰う為に待っていました。そこへ現れた保安官は、「イカレてる」と、副保安官に冷たく言い放ちます。
一方、娘のアシュリーは、自分の部屋の壁に絵を描いています。この家が気に入らないアシュリーに、エリソンはまた元の家に戻ると約束しました。
そしてエリソンは、保安官の元へ挨拶しに行きます。しかし、保安官はエリソンに早く引っ越しするよう勧めて、去って行きます。
家の裏庭には、映画の初めの映像に出て来た木があります。つまり、この家は昔の殺人現場だったのです。この事実はエリソンだけが知っており、その事件について小説を書く為に引っ越して来たのです。
エリソンは、屋根裏部屋に荷物を運ぶと、フィルムと映写機が入っている箱を発見しました。
その夜にエリソンは、この家で起こった事件について掘り下げます。事件は、5人家族の中で4人が殺され、1人の娘ステファニーが行方不明になっています。エリソンは、昼に発見したフィルムを映写機に繋げて、1本目の映像を見ます。
『Family Hanging Out(2011年ペンシルベニア)』……5人家族が裏庭で和やかに遊んでいる姿が見えます。しかし、画面が切り替わり、映画の初めに出て来たように、木の枝に繋がられた4人家族の首吊りの場面が出ました。
酒を呑み、落ち着いたエリソンは、再度映像を見ながらメモをし始めました。
“この映像は誰が作ったのか? ステファニーは何処にいるのか?”
エリソンは裏庭まで行き、その木を見つめました。家へ入ると、アシュリーがトイレを見つけられず、彷徨っていました。アシュリーをベッドまで送り届けたエリソンは、再び映写機で2本目の映像を見ます。
『BBQ(1979年サクラメント)』……一緒に釣りをしてキャンプをしている家族の和やかな姿が見えます。しかし画面が変わり、全身を縛られたまま、車の中に閉じ込められた家族の姿が見えますが、突然車に火が点けられ、家族は燃やされます。
エリソンは警察に電話をかけますが、自分の昔のベストセラー小説が目に入り、電話を切ってしまいます。フィルムが保管された箱には、それぞれタイトルがついてあり、全部で5つのフィルムでした。
そして3本目の映像を見ようとすると、突然音が聞こえました。家中を確認するエリソンの目の前で、ダンボールからトレヴァーが出て来ます。
エリソンは、夜驚症を患っているトレヴァーを抱きかかえ、一時的外へ連れ出します。翌朝、トレイシーは子供達を学校へ送ります。1人になったエリソンは、3本目の映像を見ます。
『Pool Party(1966年キングカウンティ)』……ある家族が、プールで遊んでいます。しかし、突然暗闇になったプールで、家族それぞれがサンベッドに横になったまま、縛られました。すると、サンベッドに繋がっているロープが、次々と引っ張られ、家族が溺死する場面に変わりました。
恐ろしい現場を目撃したエリソンは、驚愕を隠せません。
そこでエリソンは、映像の中で、プールの中にいる不気味な人体を見つけます。一時停止して画面まで近付いて行くと、突然映写機に火が点き、映像が見れなくなりました。
その時に、家族が帰って来ました。しかし、トレヴァーとトレイシーが言い争っています。トレヴァーが、黒板に4人が首を吊った木の絵を描いたのです。
その日の夜、フィルムとビデオカメラを通じて、4本目の映像を見るエリソン。
『Sleepy Time(1998年セントルイス)』……一人称視点で、家族の部屋に入って行きます。部屋には、口を塞がれ、手足を縛られている男女がいました。隣で犬が吠えているにも関わらず、起きない男女の首を包丁で切りつけます。
次に子供部屋で、同じく縛られている子供の首を切りつけます。エリソンは目をそらし、酒を呑み心を落ち着かせていると、映像が切れました。
エリソンは、フィルムをパソコンに繋げて、再び映像を確認します。すると映像の中で、ある文様を発見して、エリソンは文様をプリンターで印刷しました。
そして今度は、家の名称を見つけます。ネットで名称を検索して、出て来たニュースによると、そこの家では13歳の長男が行方不明になり、両親と次男が殺されていました。
その時、物音が聞こえ、作業室の電気が消えます。エリソンは、屋根裏部屋まで行くと映写機が入ってた箱の蓋を発見します。
蓋の裏には、映像での殺害場面の絵が描かれていました。エリソンは戻ろうとしたときに、屋根裏部屋から落ちて足を怪我してしまいます。
副保安官を呼んだエリソンに、彼の小説執筆で自分が役に立ちたいと副保安官は要望します。エリソンは、映像に出ていた事件に関する情報を調べてくれるよう頼みました。
映画『フッテージ』の感想と評価
どんでん返しに見たものとは?
本作の原題は『Sinister』で、”邪悪”という意味が込められています。
殺人事件の裏面を探る論理的なスリラーの雰囲気で始まった本作は、中盤を過ぎるにつれて、悪霊と呪いの雰囲気を描いたオカルト的な映画に変化します。
衝撃的などんでん返しが露出した結末は、ある点で上手く積み重ねて来た話の展開を一挙に崩す程、奇怪で鳥肌が立ちます。
作家が一軒家に引っ越すという設定は、従来の映画でも度々登場しています。
しかし、この映画は実話犯罪専門小説家という独特の職業を前面に出し、小説家である主人公は徹底的に殺人事件が起きた現場を自分の足で探し出しています。
これは正義や生存の為ではなく、新しいテーマ(題材)に対する本人の好奇心だけがそうさせている。映画が進行するにつれ、執拗になって狂気溢れる主人公の心理の奥底もまた同じだといえます。
イーサン·ホークの演技力
実話犯罪小説家に扮したイーサン·ホークは、優しい父親であり夫ですが、殺人事件を追跡する小説家の姿では180度違う冷徹さを見せています。
普段から優しい家長と小説家として、自分の成功の間で人間的な苦悩を見せる姿、事件を必死に追う狂気に満ちた小説家の姿、疲労感と息苦しさまで、多彩な演技をイーサン·ホークは見事に演じていました。
スコット·デリクソン監督はイーサンへの賛辞として、「観客の目を離せなくする吸引力と深い葛藤に包まれる内面演技を表現するのに、これより完璧な俳優はいない」と述べており、スリラーが持つ迫力溢れる展開の中、イーサンの演技は観客に対して大きく緊張感を与えるものになっています。
真意のホラー要素
殺人鬼は本来からサイコパスなのか、あるいは超自然的現象の悪霊なのかという、曖昧さがある中、本作は映写されたフィルムの映像を通じて、超自然的現象の恐怖を与えました。
これはホラー映画が作品として、2重構造をもった映像となり、観客が主人公のように好奇心への感情移入や、恐怖を同一で体感させるものです。
ここには超自然的悪霊の存在を強く掲げ、作家としての利己的な欲望と、家族との暮らしの間で迷うことなく、ますます狂っていく小説家という存在を通じて、原作者スティーブン·キングの小説の特徴を興趣させたものです。
真の恐怖の正体は殺人事件の秘密にあるのではなく、信念と現実の間で葛藤する主人公が直面した実態にあるという映画の手法に一貫性があります。
作家としての信念を守ることは、作家としての自尊心を守ることですが、現実に妥協した瞬間、それは作家としての可能性(才能)が終わってしまうからなのです。
また、もうひとつの作品性の特徴として、犯人がMr.ブギーであること、つまり超自然的現象が原因であることも目新しい要素になっています。
まとめ
ホラー映画の慣習に従い、劇的な面白さを与えるため、スコット·デリクソン監督が選択したのは、作家としてのエリソンの葛藤に溶け込んでいる家族の経済的危機、逃げられない家族の絆、また家族殺人事件の中で行方不明になった子どもたちの姿などを、ミステリーに仕立てたものです。
何よりもフィルムで見せた殺人現場は、先に述べて映画の2重構造によって、観客にゾッとするような陰鬱な恐怖を与えてくれます。
またどんでん返しによって、都合よくまとめた結末のハッピーエンドではなく、バッドエンディングだからこそ、さらに現実味を加味させた怖さに鳥肌が立ちます。
スコット·デリクソン監督が、“実際に見た悪夢”を基にした4人家族の首吊りの場面を活かし、作品の域にまで演出にまとめた力量、そして、恐怖心溢れる臨場感を感じさせてくれたイーサン・ホークをはじめとするキャスト陣に、ホラー映画ファンのひとりとして賞賛したい作品です。