映画『ダーク・アンド・ウィケッド』は2021年11月26日(金)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー公開!
病床に伏せる父親の身を案じて帰郷した姉弟に起こった恐怖の体験を描いたホラー映画『ダーク・アンド・ウィケッド』。
ホラー/スリラー映画で高く評価される作品を作り上げてきたブライアン・ベルティノ監督が手がけた本作は、シッチェス・カタロニア国際映画祭で2部門を受賞しました。
マリン・アイルランド、マイケル・アボット・Jrらを中心とした個性的な俳優陣が名を連ね、物語の恐怖感を見事に表現しています。
CONTENTS
映画『ダーク・アンド・ウィケッド』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
THE DARK AND THE WICKED
【監督・脚本・製作】
ブライアン・ベルティノ
【キャスト】
マリン・アイルランド、マイケル・アボット・Jr、ザンダー・バークレイ、ジュリー・オリヴァー=タッチストーン、マイケル・ザグスト
【作品概要】
父親の病気を心配し実家の農場に帰郷した姉弟が体験した恐ろしい出来事を描きます。監督は『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』(2009)や『ザ・モンスター』(2016)などのブライアン・ベルティノ。
キャストには『エンプティ・マン』(2020)などのマリン・アイルランド、『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』(2020)などのマイケル・アボット・Jrのほか、ザンダー・バークレイ、ジュリー・オリヴァー=タッチストーンらが名を連ねています。
映画『ダーク・アンド・ウィケッド』のあらすじ
農場を営むテキサスの実家から離れ、別々に暮らすルイーズ(マリン・アイルランド)とマイケル(マイケル・アボット・Jr)の姉弟は、病気で寝たきりだった父親の具合が良くないと聞かされ、長らく留守にしていた実家に戻ってきました。
ところが父親を見守っていた母親は、帰省した姉弟に対して「来るなと言ったのに」とのたまい、喜ぶそぶりすら見せません。そんな母の態度に、姉弟は不信感を持ちます。
そしてその夜、母親は納屋で首をつって死んでしまいます。
母親の突然の自殺にショックを隠せない姉弟。それ以降姉弟には、母親の死をも超えるほどの恐ろしく奇妙な出来事が次々と降りかかっていくのでした。
映画『ダーク・アンド・ウィケッド』の感想と評価
「見えない背景」から見えてくる、心霊ホラーの王道
本作の大きな特徴は、「見えない背景」にあります。物語は田舎の両親の身を案じ戻ってきた二人の姉弟を中心に展開していきますが、彼らの生い立ちはそれほど明確には描かれず、物語の展開とともに顔を露わにする「恐怖」も、彼らのそれまでの生い立ちに何らか関与しているのかといえば、ほぼそういった雰囲気はありません。
かつてのホラー映画、とりわけ「心霊ホラー」では多くの場合、その恐怖が出現する原因と登場人物あるいは舞台となる空間を関係づけるための、明確な「背景」が存在しているといえます。
例えば心霊ホラーの金字塔ともいえる映画『ポルターガイスト』(1982)では、主人公一家が引っ越してきた家が建つ前にあった「何か」をはじめ、複数の「恐怖」の原因が語られていました。
こうした「恐怖」の原因が、怪現象とともに徐々に明確になっていく。つまり、サスペンスミステリー的な要素によって物語と「恐怖」が展開されていく、恐怖とともに「恐怖の正体の解明」というカタルシスをも観る者にもたらす作品こそが、心霊ホラーの王道とされていました。
より正体不明で、より純度の高い恐怖を描く
ところが『ダーク・アンド・ウィケッド』では、姉弟や両親、そして彼らを取り巻く人たちとの間にさまざまな人間関係は描かれながらも、その関係自体が「恐怖」の出現の原因となっているとは明確に示されていません。それゆえ、物語が展開していくに従って恐怖は増していくものの、その原因ははっきりせず謎は深まるばかりです。
しかしその深まる謎は、裏を返せば「姉弟や両親の前に、『恐怖』として現れたものは何か?」「恐怖の正体とは何か?」という、観る者の想像力をかき立てる原動力にも変化します。そして想像の範疇が広ければ広いほど、恐怖は際限なく肥大化してゆくことは、誰もが経験したことがあるはずです。
両親が暮らす田舎の農場へと帰った姉弟を「恐怖」が襲う……そのあまりにもシンプルな物語の設定、そしてほぼ語られることのない「背景」によって、そこで起きる恐怖の正体不明度はより強まり、より純度の高い恐怖を描き出したのが『ダーク・アンド・ウィケッド』なのです。
そして、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)のように物語や設定のディテールを考察する余地すらも与えず、ただただ純度の高い恐怖を観る者に容赦なく与えるその作りは、映画を観た人々による考察がますます活発に行われるようになったホラー作品、ひいてはエンタメ作品の世界に、ある意味では一石を投じているようにも感じられます。
まとめ
本作では、いかにも大きなインパクトを狙ったかのような、大げさな特殊効果はほとんどありません。その一方で、奇妙な怪現象やおぞましい惨殺描写などはリアリティがあるように撮られており、非常に丁寧に制作されていることが理解できます。
少しくすんだ暗い色調で統一された画面の色は、光あふれる昼間の中でも「精神的不安定」を映し出しているようであり、観る者は自身の不安感を最大限に煽られることでしょう。また効果音や音楽の緻密な構成も、物語の緊迫した雰囲気を最大限に表現。『ザ・モンスター』で閉塞空間での恐怖を存分に描き切った、ブライアン・ベルティノ監督ならではといえる演出でもあります。
またスタンリー・キューブリックの映画『シャイニング』へのオマージュも垣間見える点も見逃せません。特に死んだはずの人間の現れ方、家族を取り巻く人間関係の組み立て方など、『シャイニング』を観たことのある人なら思わず「アッ」と言ってしまう場面があるはずです。
映画『ダーク・アンド・ウィケッド』は11月26日(金)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー公開!