Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ホラー映画

Entry 2024/03/04
Update

『カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』感想と考察。誰もが見る夢への恐怖を“ユングの定説した心理学”のペルソナになぞり美しく描く

  • Writer :
  • 糸魚川悟

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』は2024年2月に《未体験ゾーンの映画たち2024》封切り後、2024年3月9日(土)のみシネ・リーブル梅田にて上映、また関東地域では3月8日(金)より、あつぎのえいがかんkikiにて1週間上映

睡眠時に見ることのある、現実と錯覚する心象を指した「夢」。

日常的に多くの人間が体験する「夢」ですが、実はそのメカニズムは現代でもなお解明しきれてはおらず、いまだ多くの謎が残されています。

今回は、そんな「夢」を解明するために行われた睡眠実験の中で、想像を絶する恐怖を味わうことになる映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』(2024日本公開)。

SFホラー映画の魅力をご紹介させていただきます。

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』の作品情報


(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESEVED/Cinemago

【日本公開】
2024年公開(カナダ映画:2020年制作)

【監督・撮影・編集】
アンソニー・スコット・バーンズ

【脚本】
アンソニー・スコット・バーンズ、ダニエル・ワイセンバーガー

【キャスト】
ジュリア・サラ・ストーン、ランドン・リボアイアン、カーリー・リスキィ、クリストファー・ヘザリントン、テドラ・ロジャース、スカイラー・ラジオン

【作品概要】
ヴィンチェンゾ・ナタリが監督したNetflix独占配信映画『イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路』(2019)に、第2班監督として参加したアンソニー・スコット・バーンズが単独長編映画デビューを果たしたカナダ産ホラー映画。

トロント国際映画祭やバンクーバーで開催される「LEO AWARD」において、多くの賞を受賞したジュリア・サラ・ストーンが本作の主演を務めました。

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』のあらすじ


(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESEVED/Cinemago

家族とのトラブルを抱え、外で寝泊まりを繰り返した結果、不眠症を患ってしまった高校生のサラ(ジュリア・サラ・ストーン)は、寝る場所を求め、時給12ドルの睡眠実験に参加することになります。

しかし、実験に参加する前から「ある夢」を見続けていたサラ。

彼女は実験に参加したことで「夢」で見る「人影」の存在を知ってしまい、想像を絶する恐怖を襲われることになり……。

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』の感想と評価


(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESEVED/Cinemago

狂気の世界を描いたサイコホラー

「夢」のメカニズムは完全には解明されてはいませんが、「夢」の光景はその人が現実世界で見た映像をバラバラに繋ぎ合わせたものであると言われています。

そのため「夢」での光景は映画やドラマのように意味を成した映像になっていないことが多く、一般的な感覚で言えば「狂気」とも取れる光景が広がっていることもあります。

見ている際はその光景に疑問を覚えず、覚醒してから思い返せば意味不明の映像に少しの違和感を覚える「夢」。

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』はそんな「夢」の「狂気」を映像として再現しており、どこまでも続く迷路のような洞窟に点在する逆さまに吊られた人間など、意味を成しているのかも分からない不気味な映像が作中に差し込まれています。

本作は「睡眠中に何かにうなされて飛び起きたものの、何にうなされたかは覚えていない」という、珍しくもない日常の光景を恐怖に置き換えることに成功したサイコホラー映画となっていました。

「夢」と「心理学」


(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESEVED/Cinemago

無意識の働きを把握するための「深層心理学」において、自己を分析する方法として用いられる「夢分析」という技法が存在します。

「夢」は「心理学」と深い関係にあり、特に心理学者ジークムント・フロイトと心理学者カール・グスタフ・ユングによる分析は、現代の夢分析に強い影響を与えています。

本作にも「心理学」の要素は多分に取り入れられており、章分けされている本作の各章題はユングの定説した「心理学」の用語が用いられています

章題のひとつでありユングの定説した有名な心理学用語「ペルソナ」

私たちは人と相対する際に、自身が想うその人と相対するに相応しい振る舞いを選択して日々を過ごしているはずです。この自己の中にある外向きの顔を「ペルソナ」と呼び、日々その仮面を付け替えることで外部との摩擦を減らそうとしています。

そんな「ペルソナ」は「夢」とも強い相関関係にあり、ユングは人が「夢」の中で自身の持つ「ペルソナ」が正しいものかを判断していると定説

本作の主人公サラが抱える家庭内のトラブルが「夢」にどのような影響を与えているのか、考察もはかどる作品です。

現実でも行われる睡眠実験


(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESEVED/Cinemago

日常生活の改善や人間のメカニズムの解明、治療困難とされていた病気の特効薬や副作用の少ない薬の開発など、世界では常に多くの臨床試験が行われています。

その中には本作に登場した「寝るだけ」の睡眠実験も多く存在しており、「寝るだけ」でそれなりに高額な対価を得られる臨床試験に興味を惹かれる人が多く、たびたび大きな話題となっていました。

いつもとは異なる環境下での睡眠は人によっては大きなストレスとなることもあり、そのストレスを利用した試験もあればストレス負荷に弱い人の参加を拒否する試験まであり、「睡眠」が人間に与える影響の強さを窺い知ることができます。

本作でサラが参加した試験は果たして何を目的としたものなのか、お金と寝る場所を求めるサラは試験に参加し何を感じるのか。

「睡眠」に恐怖を覚えることで奪われる日常を描く物語としても目を離せません

まとめ


(C)2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESEVED/Cinemago

夢に恐怖を覚え「明日から夢を見ない!」と決意しても、実際にそれを実現することは出来ません

生きる上で避けることの出来ない「睡眠」を奪われる恐怖と「夢」という狂気の世界を描いた本作は、映像面においても心理描写面においても「夢」を描いた類似作と一線を画す内容となっていました。

映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』は2024年2月に《未体験ゾーンの映画たち2024》封切り後、2024年3月9日(土)のみシネ・リーブル梅田にて上映、また関東地域では3月8日(金)より、あつぎのえいがかんkikiにて1週間上映

狂気の「夢」の世界を大きなスクリーンで鑑賞できるチャンスをぜひお見逃しなく!



関連記事

ホラー映画

【ネタバレ】ヴァチカンのエクソシスト|あらすじ結末感想と評価解説。実在の神父役にホラー映画初出演ラッセル・クロウが挑む!

ラッセル・クロウが実在したヴァチカンのチーフエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父を演じたホラー大作 チーフエクソシストとしてローマ教皇に使え、生涯で数万回の悪魔祓いを行ったガブリエーレ・アモルト神 …

ホラー映画

映画『ぼくのエリ 200歳の少女』ネタバレ感想と考察評価。吸血鬼ヴァンパイアとのラブストーリーは美しくも残酷な純愛

映画『ぼくのエリ 200歳の少女』は永遠の12歳エリと孤独なオスカーとの怪しく美しい関係を描く 1920年代から現代まで、ヴァンパイアを題材にした映画は数多く制作されてきました。きっとどの世代の人にも …

ホラー映画

ネタバレ映画『牛首村』感想考察とあらすじ結末の解説。犬鳴村の遼太郎の姿も!実在の舞台モデルにリンクする“震えを聞く”という恐怖の根源

実在の最恐心霊スポット×伝説の怪談「牛の首」 恐怖の村シリーズ第三弾『牛首村』! 九州に実在する心霊スポットを題材にした『犬鳴村』(2020)、自殺の名所として有名な富士の樹海を舞台にした『樹海村』( …

ホラー映画

映画『妖怪人間ベラ』ネタバレ感想と結末まであらすじ。emmaがリブート版で女子高生のベラを演じる

テレビアニメ『妖怪人間ベム』のリブート版は、ベラ中心の実写作品 映画『妖怪人間ベラ』は、テレビアニメ『妖怪人間ベム』に登場するキャラクターの女性妖怪人間ベラに焦点を当て、女子高生という新たな設定で描く …

ホラー映画

サスペリア(2018)あらすじネタバレと感想。ホラー映画リメイク版が全米を恐怖の淵に

「決してひとりでは見ないでください」そんなキャッチコピーと共に、1977年に公開されたイタリア映画『サスペリア』。 2018年に一世を風靡したホラー映画の傑作がリメイクされてスクリーンに戻ってきます。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学