映画『スリー・フロム・ヘル』は、シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020にて上映中!
1968年に創設され世界で最も権威ある、SF・ホラー・スリラーサスペンス映画などファンタジー系作品の祭典として名高いシッチェス映画祭。
そこで上映された作品の中から、厳選された話題作を日本で上映する“シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020”が、今年も実施されました。
今回その目玉というべき作品が、ロブ・ゾンビ監督作、「マーダー・ライド・ショー」シリーズ第3作となる『スリー・フロム・ヘル』。
過激なホラー映画を手掛けながらも、常に自らの映画愛を作品に織り込むロブ・ゾンビ監督。
その最新作を、ジャンル映画を語れば第一人者の高橋ヨシキ、てらさわホーク両氏が熱く語ります。
CONTENTS
映画『スリー・フロム・ヘル』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
3 from Hell
【監督・脚本】
ロブ・ゾンビ
【出演】
ビル・モーズリー、シェリ・ムーン・ゾンビ、リチャード・ブレイク、ダニー・トレホ、エミリオ・リヴェラ、シド・ヘイグ
【作品概要】
殺人一家の凶行を、極彩色で描いたスプラッター映画『マーダー・ライドショー』(2002)。
その続編で一家の逃走劇を、一転アメリカン・ニューシネマ風のタッチで、破滅の美学をもって描く『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』(2005)。
待望のシリーズ3作目が、ロブ・ゾンビ監督とオリジナルキャストの出演で完成しました。
出演はシリーズの主役、ビル・モーズリイにシェリ・ムーン・ゾンビ。そしてロブ・ゾンビ監督『31』(2016)で怪演を見せた、リチャード・ブレイクが殺人一家の新たなメンバーに加わります。
特異な風貌で個性的な脇役として活躍し、『マチェーテ』(2010)と続編『マチェーテ・キルズ』(2013)で主役を演じたダニー・トレホも出演。
そして2019年に亡くなったシド・ヘイグも、シリーズの顔、キャプテン・スポールディング役として本作に登場しています。
映画『スリー・フロム・ヘル』のあらすじ
1978年、逃避行の果てに警官隊の激しい銃撃を受け、無数の銃弾を浴び倒れたオーティス、ベイビー、キャプテン・スポールディングの殺人一家。
生き残った彼らは挑発的な態度で裁判に臨み、その姿勢が信奉者を集め世間を騒がせました。
10年後のハロウィンの時期、死刑を逃れたオーティスとベイビーは、”ミッドナイト・ウルフマン”ことフォクシーの助けを借り、脱獄に成功します。
獄中生活で狂気度を増した彼らは、殺人行脚を繰り返しながらメキシコを目指します。
死者の日に賑わうメキシコの町で、彼らにどんな運命が待つのか。血塗れのロードムービーが今、幕を開ける…。
映画『スリー・フロム・ヘル』トークショー
左から高橋ヨシキ氏、てらさわホーク氏
10月31日(土)ハロウィンの日、ヒューマントラストシネマ渋谷の『スリー・フロム・ヘル』19:05の回終了後、高橋ヨシキさん、てらさわホークさんのトークショーが実施されました。
厳しい環境で生まれ公開された続編
高橋ヨシキ氏:(以下、敬称略)今日は満席ですが、これはロブ・ゾンビに中継で見せるべきですね。
『スリー・フロム・ヘル』はアメリカでは、配信中心でまともに公開していないので、この盛況を見たら泣くんじゃないでしょうか。
『マーダー・ライドショー』と『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』は同じ予算位で作られましたが、今回はその半分、300万ドル位で作られました。
てらさわホーク氏:(以下、敬称略)それもあって汚いですね、全体的に(笑)。しかし、その汚さが実に美しいというか。
高橋ヨシキ:今回の作品が良いのは、オープニングが「チャールズ・マンソン事件」がベースになっており、それに似せて撮っています。
“ベイビー”(シェリ・ムーン・ゾンビ)が収監された牢獄か登場します。
これは実際スーザン・アトキンス(マンソンファミリーの1人で実行犯)が収監された場所で、今は撮影とかに使えるんですが、そこで撮っているんですよ。
僕にとっては、タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)より、マンソン度が高い映画です。
てらさわホーク:マンソンファミリーに対する愛とこだわりがあり過ぎる、それは間違いないですね(笑)。でも前作の『デビルズ・リジェクト』は、思えば2005年の作品なんですね。
高橋ヨシキ:『デビルズ・リジェクト』の最後で皆警察に撃たれて、観た人はガン泣きでしょ。
それを続編でどうしてくれるのかと思ったら、「悪魔的な回復力」だと説明する。その手があったかと(笑)。
“キャプテン・スポールディング”を演じた、シド・ヘイグは亡くなりましたが、この映画の撮影時には相当まずい状態で、1日だけ病院から抜け出して、撮影させてもらったという話です。
彼が抜けた穴を埋めた、”ミッドナイト・ウルフマン”を演じる、リチャード・ブレイクが実に良いこと。
てらさわホーク:間違いないです。あの人のキャラクターは、絶対に友達になりたい感じです(笑)。
高橋ヨシキ:彼と”オーティス”(ビル・モーズリー)が脱走して最初にする会話が、どっちが『必死の逃亡者』(1955)のハンフリー・ボガートに似てるか…そんな奴いないよね。
『マーダー・ライドショー』から続くシリーズで、必ず皆で飲んで騒いで、あと裸のオバさんを殺す(笑)。こういった事を毎回必ずやっている、シリーズ感が強い作品です。
こだわりのキャスティング
てらさわホーク:今回ビックリした事があって、モーテルの親父、どっかで見たな、誰だろうと思いました。
エンドロール見て声を上げました。ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)の、リチャード・エドソンなんですね。
気付いて感動しました。俳優としてTVやインディーズ映画に出ていたんですが、こんな所で大フィーチャーされているとは。そこにロブ・ゾンビのインディーズ映画魂を感じました。
高橋ヨシキ:ロブ・ゾンビはタランティーノとは違う形の目利き感というか、奥ゆかしい俳優の使い方をするんです。
ナレーションが『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)の、バリー・ボストウィックなんて言われなきゃ判らないし、クリント・ハワードも最初は誰か判らず、やっと気づきました。
鬼のような女看守役は、『E.T.』(1982)や『クジョー』(1983)のお母さんを演じた、ディー・ウォレスだし。
この女看守の名前が”グレタ”という…ここで”イルザ”にしないのが、ロブ・ゾンビの奥ゆかしさ(笑)。
“イルザ”だと(ダイアン・ソーンが演じた)ナチの女収容所所長映画モノそのままだから、ジェス・フランコ監督の同じコンセプトの映画に出てくる、”グレタ”の名を使ってくる。
ロブ・ゾンビの映画愛が詰まった作品
高橋ヨシキ:ロブ・ゾンビは本当に古い映画好きです。
“ベイビー”が見る、猫の仮面のバレエダンサーのシーン、あれはミケーレ・ソアビ監督の『アクエリアス』(1986)のフクロウの仮面の男そっくりです。
だけど今日見直して、そのシーンの舞台や背景を見ると、ジョルジュ・メリエス(映画草創期のフランスを代表する監督)をやりたかったんだなぁと気付きました。
ロブ・ゾンビは『ロード・オブ・セイラム』(2012)でも、ビジュアル的にメリエスに言及していますからね。
本作で劇中に、TVに映る映画は『ベラ・ルゴシのジャングル騒動』(1952)。人間をゴリラに改造するマッドサイエンティストが出てくる、誰も知らない映画です(笑)。
次に出てくるのが『美しき生首の禍(死なない頭脳)』(1962)の、ラストのシーンなんですよ。
それだけでもお腹いっぱいなのに、最後にロン・チェイニーの『ノートルダムのせむし男』(1923)が出てくる。
てらさわホーク:大事なところですね。そこから”ベイビー”と、”セバスチャン”のエピソードにつながる。リリシズムがありますね。
高橋ヨシキ:この映画はメキシコで撮影する予算は無くて、ハリウッド周辺の大手スタジオ以外のバックロット(撮影所近くの野外撮影場)で撮影したんです。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に登場する、マンソンファミリーの住むスパーン牧場も同じような性格の場所。
そんな場所でメキシコを撮ったんですが、狭い感じになるかと思いきや、それっぽく見えました。
てらさわホーク:最初に汚いと言いましたが、画面の細部まで汚い、そこに感動したんですよ。
中々無いでしょ、絵になる汚さというのは。見ている内に段々落ち着く感じになります。
高橋ヨシキ:ロブ・ゾンビの「汚くたっていいじゃないか」イズムは感じますね。今回良かったことは一杯あるんですが、”セバスチャン”が現れ、最後の戦いの前にかける曲。
てらさわホーク:ああ、「ガダ・ダ・ヴィダ(In-A-Gadda-Da-Vida)」という、ロック・バンド”アイアン・バタフライ”の名曲ですね。
『悪魔のいけにえ2』の中でかけろかけろ、って言ってた曲です。
高橋ヨシキ:こういった発見の他人に伝わらないもどかしさ、こういう嬉しさがありますね(笑)。
今回、日本でハロウィンの晩に、こんな大勢で『スリー・フロム・ヘル』が見られる状況は嬉しく、皆さんの思いは時空を超えて、絶対にロブ・ゾンビに届くと思いますよ。
てらさわホーク:本日はありがとうございました。
まとめ
前作を見ずとも、凄惨なシーンに酔いしれる映画『スリー・フロム・ヘル』。前2作をご覧になれば、より深く楽しめます。
殺人映画でありながら、シド・ヘイグが病を押し出演した遺作と知ると、そのシーンに感動すら覚えました。
流血シーンに注目が集まりますが、重度の映画マニア、ロブ・ゾンビ監督のこだわりが詰め込まれた映画です。
それを高橋ヨシキ、てらさわホーク両氏がトークショーで詳細に語ってくれました。映画を楽しむ手引きにして下さい。
映画の始まる1978年。チャールズ・マンソン事件の発生した1969年から時間が経過しています。
しかしこの年、カルト教団人民寺院が集団自殺を行い、世界に衝撃をあたえます。映画のオープニングは、そんな時代の空気も再現しています。
10年後、彼らが脱走し凶行を繰り返したのは、1988年のハロウィン~死者の日の時期です。
それはレーガン政権が終わりつつあり、そして後継者のブッシュ大統領の誕生を決める、大統領選挙の最中でした。
アメリカが保守化に動き、それが盤石のものとなった時期。60~70年代とは全く異なる空気が支配する時代です。
そんな世の風潮に逆らうように、前作より過激な凶行を繰り返す殺人一家たち。
この姿には、体制や世間の良識を物ともしない、ロブ・ゾンビの反骨的な姿勢が反映されています。
高橋ヨシキ、てらさわホーク両氏はトークショーで、その過激な部分も「適切な」言葉で語ってくれました。
余りに「適切な」言葉だったので、トークショーレポートでは控えたものもあります。
この文字に出来ないヤバさは、映画を見て感じ取って下さい。『スリー・フロム・ヘル』、シリーズ3作目に相応しい作品です。
映画『スリー・フロム・ヘル』は、シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020にて上映中!