コンビニは異世界への扉を開く
絶賛スランプ中の若手脚本家・加藤は人里離れた山中で車が故障し、古びたコンビニに立ち寄ります。そこで彼を迎えたのは若い女性・恵子とその夫・南雲でした。ほっとしたのも束の間、加藤は恵子に言い寄られ、思いもせぬ不可思議な事態に巻き込まれていきます。
ドラマ「時効警察」シリーズや映画『転々』、『俺俺』などで独自の世界観を作り出してきた、三木聡監督が、映画評論家でプロデューサーのマーク・シリングのオリジナル・ストーリーをもとに脚本を手掛け映画化。
加藤役を成田凌、惠子役を前田敦子が演じる他、六角精児、片山友希、岩松了、渋川清彦等、個性的な面々が顔を揃え、摩訶不思議な異世界アドベンチャーが繰り広げられます。
映画『コンビニエンス・ストーリー』の作品情報
【日本公開】
2022年公開(日本映画)
【監督・脚本】
三木聡
【企画・オリジナル・ストーリー】
マーク・シリング
【キャスト】
成田凌、前田敦子、六角精児、片山友希、岩松了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、BIGZAM、藤間爽子、小田ゆりえ、影山徹、シャラ ラジマ
【作品概要】
映画評論家でプロデューサーのマーク・シリングが企画・考案したオリジナル・ストーリーをもとに、三木聡が脚本を手がけ監督を務めた。
成田凌、前田敦子をはじめ、個性的な役者が入り乱れ、現世と彼岸の境界を行き来する奇妙な味わいの異世界アドベンチャー。
映画『コンビニエンス・ストーリー』あらすじとネタバレ
スランプ中の売れない脚本家、加藤は、恋人で女優のジグザグがオーディションにでかけた際、彼女の飼い犬“ケルベロス”に餌をねだられ、仕方なく好物の缶詰「犬人間」を買いにコンビニにでかけました。
飲み物を買おうとまず冷蔵庫をのぞいた加藤は、冷蔵庫の奥に人が立っているのを見て仰天します。コンビニの店員が冷蔵庫の中に立っていたのですが、その店員はいつの間にか外に出ていて加藤は2度驚く始末に。
加藤がレジに並んでいると、突然、車が店に突っ込んできました。めちゃくちゃになった店内。驚き目を丸くしている加藤に、店員がお詫びだと言って「犬人間」を差し出しました。
家に戻ると、ケルベロスがPCのキーボードに乗っていました。あっと駆け寄りますが、予想通り、執筆中の脚本がすべて消えてしまっていました。
加藤は腹立ちまぎれにケルベロスを山奥に連れていき、そこで餌をやりそのまま置き去りにしました。
部屋に戻った加藤はベッドの下にジグザグがいてびっくりします。彼女はケルベロスがいなくなったと悲しんでいました。
後味の悪さからケルベロスを探しに戻った加藤でしたが、レンタカーが突然故障して立ち往生してしまいます。
霧の中にコンビニ「リソーマート」がたたずんでいるのが見えました。恐る恐る入ってみると、こんな山奥とは思えないほど、欲しい物がきちんと揃った店でした。
誰もいないと思っていると、冷蔵庫の奥に女性の顔が見えて、加藤は飛び上がります。もう一度見ると誰もいなくてほっとしたのも束の間、彼の直ぐ側に先程の女性が立っていて、加藤は思わず驚きの声をあげました。
女性は惠子といい、コンビニの店員でした。加藤は、ブランケットを買って、一晩車内で眠るつもりでしたが、どこを探しても車がありません。
恵子は暗くて何も見えないから一晩、うちに泊まって、翌朝さがせばいいと言いました。こうして加藤は、彼女の夫でコンビニオーナー南雲(六角精児)の家に泊めてもらうことになりました。
翌朝、もう一度調べてみましたが、車は見当たりません。身動きが取れない加藤は、恵子と南雲の家にしばらくやっかいになることになりました。
恵子の夫は毎日のように森に出かけていきました。スピーカーを大量に置き、そこでクラシックを大音響でかけて指揮棒を振っているのです。
自家発電機を使っているため、時々ガソリンがなくなり、恵子が持っていくのが常でした。その日も夫からの知らせを受けて、恵子がガソリンをタンクに入れていると、ガソリンが吹き出し、恵子は全身にガソリンを浴びてしまいました。
風呂に入って、体の汚れを落とした彼女は、バスタオル姿のまま、加藤のもとに現れて、彼を誘惑。加藤は簡単に誘惑されて2人は関係を持ってしまいます。
南雲は恵子は「江場土事件」の生き残りだと加藤に話しますが、加藤はそんな事件、聞いたこともありません。
ところが、その夜、店に、日本の凶悪事件を特集した週刊誌が置かれていて、表紙に「江土場事件」という文字が記されているのが見えました。
加藤は思わず手にとって、週刊誌を読みふけります。加藤はその記事をもとに、シノプシスを書き上げ、プロデューサーに送りました。
すると折り返し、電話がかかってきて、すごく面白いと絶賛されます。ただ、彼女は「江土場事件」というのはネットを調べても出て来ない、本当にあった事件かと尋ねます。
加藤が例の週刊誌をさがすと、なぜかその週刊誌がどこにもありません。おかしいなと首をかしげる加藤でしたが、プロデューサーはすぐに脚本を書いてほしいと依頼してきました。
あれほど煮詰まっていたのが嘘のように筆が進むことに驚きを隠せない加藤。
その頃、オーディションに合格し、体当たりで映画の撮影に挑んでいたジグザグは、撮影所を出た途端、ある黒い車に乗り込みます。
喫茶店でなにやら怪しげな男たちと席を共にしているジグザク。どうやら彼女は彼らに何かを依頼しているようです。
怪しげな男は「『やっぱりやめます』は無しですよ」と忠告し、ジグザグは決意したように彼らに大金を払いました。
恵子と加藤の仲は深まり、恵子は、ここから逃げ出したいと語り、どこかに一緒に行こうと加藤を誘うようになりました。
そんな矢先、車が見つかります。盛んに返却しろと連絡してくるレンタカーの会社にあと3日延長したいと伝える加藤。恵子は、自分をおいてひとりで東京に帰るのかと尋ねました。
自分で車を修理し、ようやく動くようになったと思った矢先、南雲が車を貸してほしいと言います。恵子との間に子どもを作ることにしたから、病院で悪いところはないか検査してもらうと言うのですが、恵子は子どもを作りたくないようです
南雲はふたりの関係を怪しんでいるらしく、不穏な雰囲気が漂い始めていました。また、加藤は恵子がコンビニの店内に拳銃を隠していることを知らされます。
南雲が車に乗って出かけると、加藤は恵子に誘われるまま歩いて、山を抜け、ポツンとたたずむバス停で、来るか来ないかわからないバスを待っていました。
恵子は、バスは温泉地に行き、そこには大勢の人がいるらしいと噂で聞いたと語ります。やがてバスがやってきて、2人は乗り込みます。
誰もいないコンビニに、ジグザグに依頼された男たちがやってきました。彼らの狙いは加藤を殺すことなのでしょうか?
噂通り、バスは温泉に着きましたが、予想以上の人出で、地元の人々から歓待を受けました。旅館で、恵子が湯につかっている間にも加藤は脚本を執筆していました。
すると、やたら赤い着物を着た仲居が入ってきて、窓を開けます。外では祭りが行われているようでした。
脚本を書き終えた加藤のもとに、恵子が来て、「南雲がいた」と言います。加藤がプロデューサーと電話で話をしている間に恵子はいなくなり、彼は恵子を探しに出かけました。
映画『コンビニエンス・ストーリー』感想と評価
うだるような暑苦しい夏に、ちょっとしたひんやり感を届けてくれる「怪談」と表現するのがふさわしい作品です。
主人公の脚本家・加藤は、いつの間にか異世界に入り込んでしまうのですが、その入口がどこにでもあるコンビニエンス・ストアであるのがまずユニークです。
飲み物がずらり並んでいる冷蔵庫の奥に人がいてこちらをじっと見ているシーンには思わずドキリとさせられます。実際、こんな経験をしたら、驚いて腰を抜かしてしまうでしょう。
後に家に戻った加藤が、ベッドの下に恋人を発見して声をあげますが、いるはずのないところに人がいることの怖さがバリエーションを変えて描かれています。ただ、とても恐ろしいのですが、その中にくすっと笑えるような可笑しさが漂っているのは、三木聡監督の持ち味のひとつでしょう。
加藤が迷いたどりつくコンビニは、都市にあるチェーン店ではなく、アメリカの田舎の古びたガソリンスタンドに併設されているようなショップです。彼はこの店でも冷蔵庫に女性がいてこちらを見ているのを発見して飛び上がります。
車が故障してしまうと身動きできないような山奥で足止めを食らう加藤。妖艶な女性とその夫の何か怪しげな雰囲気など、アメリカの田舎ホラーが展開しそうな雰囲気でもあり、泉鏡花の小説のような古風な怪談の予感もします。
恵子と共にバスに乗った加藤は知らぬ間に三途の川を渡っていて、着いた先は、遊郭のような綺羅びやかな場所で、宿の人間も派手な赤い衣装を身に着けています。
アメリカの田舎ホラーかと思えば、ファム・ファタールが登場するフィルム・ノワールの赴きもあり、それが突如、日本の怪談へと変容していくのですが、それらが不思議と違和感なく調和していて、和洋折衷の独特の世界観が映画的興奮をかきたてます。
終盤は猛烈なスピードで、謎を謎として遺したまま、序盤のコンビニのシーンでさりげなく提示されていた献花へと帰還していきます。
廻転する迷宮のような構成は実に鮮やかです。
まとめ
艶めかしく加藤を誘惑する恵子に扮するのは前田敦子です。
コンビニ店内に銃を隠しているなど、フィルム・ノワールのファム・ファタール的な存在にも見えますが、儚げな佇まいは、まるで円山応挙が描く怪しげで美しい幽霊画のようでもあり、その姿を観客に強烈に印象付けます。
一方の成田凌は、個性的な登場人物に囲まれながら、常に受け身の加藤という主人公をひょうひょうと演じていて、実にいい味を出しています。
また、加藤の恋人で女優のジグザクに扮する片山友希は、一見、片山とはわからないような派手なメイクで登場し、彼女自身も不思議な体験を重ねていきます。まるで「映画制作という地獄めぐり」をしているかのようです。