Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/05/21
Update

映画『許された子どもたち』あらすじと感想レビュー。内藤瑛亮監督が手掛ける子どものいじめを取り上げた問題作

  • Writer :
  • 村松健太郎

映画『許された子どもたち』は2020年6月1日(月)よりユーロスペースほか全国ロードショー

映画『許された子どもたち』は、衝撃的なタイトルと内容により物議を醸した『先生を流産させる会』で長編デビューを果たした内藤瑛亮監督が手掛けました。

上村脩、黒岩よしなど、出演者の多くはこの映画のために開始されたワークショップから選ばれた若手キャストです。

複数の実際に起きた少年事件に着想を得て、いじめによる死亡事件を起こした加害少年とその家族、そして被害者家族の姿を描いたオリジナル作品。

果たして子どもを殺した子どもは罪とどう向き合うのか。周りの大人たちはそんな子どもをどう受け止めていくのか……。

映画『許された子どもたち』の作品情報

(C)2020「許された子どもたち」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【脚本】
内藤瑛亮 山形哲生

【監督】
内藤瑛亮

【キャスト】
上村脩、黒岩よし、名倉雪乃、阿部匠晟、池田朱那、大嶋康太、清水凌、住川龍珠、津田茜、西川ゆず、野呈安見、春名柊夜、美輪ひまり、茂木拓也、矢口凜華、山崎汐南、門田麻衣子、三原哲郎、相馬絵美、地曵豪

【作品概要】
映画『許された子どもたち』は、『ライチ☆光クラブ』(2015)や『ミスミソウ』(2017)の内藤瑛亮監督が、初長編『先生を流産させる会』(2011)以来、再び自主映画のフィールドで世に放つ待望の作品です。

実際に起きた複数のいじめ事件をモチーフに取り入れつつも、オリジナル作品として製作。出演者の多くはこの映画のために開始されたワークショップから選ばれた若手キャストたちです。


映画『許された子どもたち』のあらすじ

(C)2020「許された子どもたち」製作委員会

ある地方都市。中学一年生で不良少年グループのリーダー市川絆星(キラ)は、同級生の倉持樹を日常的にいじめていました。いじめはエスカレートしていき、絆星は樹を殺してしまいます。

警察に犯行を自供する絆星でしたが、息子の無罪を信じる母親・真理の説得と弁護士の戦術によって否認に転じ、少年審判は無罪に相当する「不処分」を決定します。

絆星は自由を得ますが、決定に対し世間から激しいバッシングが巻き起こり、ネット上などで吊るし上げに遭います。

そんな中、樹の家族は民事訴訟で絆星ら不良少年グループの罪を問うことになります。絆星の母親は抗議活動を行いますが、かえって火に油を注ぐようになり、一家は引っ越しを余儀なくされます。

絆星は素性を隠して住居を転々とします。そしてある転校先で、絆星のクラス内でいじめが問題になりました。

いじめの対象となっていた少女と交流を持ってしまったことで、素性が明らかになった絆星に、厳しい声が集まり、クラスでつるし上げにあってしまいます。

映画『許された子どもたち』の感想と評価

(C)2020「許された子どもたち」製作委員会

初めての長編作品の『先生を流産させる会』や、商業ベース作品の『ライチ☆光クラブ』『ミスミソウ』にしても、未成年の無慈悲な暴力を描くということでは、内藤瑛亮監督の作風は変わっていません。

映画『許された子どもたち』の元々の着想は2011年頃からあったそうです。『先生を流産させる会』の頃からあったアイデアだったようですが、事情と時代の流れから、最初に着想したストーリーもかなり変わりました。

一番最初は、山形で起きた体育倉庫マット圧死事件が企画の発端になったそうですが、その後、学校のセキュリティ事情の変化があり、少年が少年を殺めるほどの場としては学校は成り立たなくなり、映画冒頭のように河原での事件という設定になったそうです。

ちょうど、構想を変更をしていた頃に川崎で似たような少年犯罪が起きていて、監督も大きく内容を改めたそうです。防犯カメラの映像が証拠になったり、SNSのやり取りが頻繁に行われたりする部分はここからきています。

子どもたちの間で起きる無慈悲な暴力についての映画ということでは過去作と変わりませんが、今作『許された子どもたち』では、大人の介在を大きく取り上げています。

まずは被害者少年の家族、次に刑事・司法側の人間、さらにマスコミやインターネットの中の住人、そして物語で大きなウェイトを占める主犯の少年の母親です。

半ば盲信気味に、息子の無罪(無実というより無罪)に固執する母親を演じる黒岩よしの怪演は、強烈なインパクトを残しています。

まとめ

(C)2020「許された子どもたち」製作委員会

映画『許された子どもたち』において、内藤監督の容赦ない暴力描写、肉体的なものだけでなく精神的なものも含めた描写はあいかわらず健在です。

ストーリーとしてよりリアルになった『ミスミソウ』といった趣です。ですが、それ以上に多くの大人の視線が介在したこともあって、作品の印象が大きく変わり、内藤瑛亮監督の新境地といえる作品になりました。

内藤監督は、これまで少年少女の世界を主に描いてきましたので、事件が起こってもどこか閉鎖的な世界の出来事のようでした。

しかし、今回の『許された子どもたち』で、加害者家族、被害者家族、マスコミ、審理に加わった人間、そしてインターネットなどのアイテムが物語に加わることで、事件が外の世界に大きく解放され、圧倒的なリアリティを与えてくれました。

これは、内藤監督が問題提起している圧倒的な不寛容の象徴的な存在でもあります。

謝らずに許された者がすべきことは何なのか? 監督が問いかけるモノはとても重いものになっています。

『許された子供たち』は自主製作に近いステージで製作され、キャスティングもワークショップからという、無名の布陣で作られています。このこともまた、映画に強いリアリティを与えています。

映画『許された子どもたち』は6月1日(月)よりユーロスペースほか全国ロードショー





関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』あらすじネタバレと感想。ラストの結末も

映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』は、生き証人である4人のユダヤ人の物語 1943年強制労働のために残されたユダヤ人が逮捕され、ナチスドイツは首都ベルリンからユダヤ人がいなくなったと宣言。 しかし実際に …

ヒューマンドラマ映画

【映画ネタバレ】イチケイのカラス|感想解説とラスト結末あらすじ評価考察。ドラマ最終回続編が黒木華/千鶴の決意によって描く“誰もが持つカラスの心”という真実

今度は、国を怒らせちゃった? 令和の人気“裁判官”ドラマがついに映画化! 「イチケイ」こと東京地方裁判所・第3支部第1刑事部を舞台に、どこまでも自由で型破りな裁判官・入間みちおの活躍を描いた連続ドラマ …

ヒューマンドラマ映画

映画『お茶漬の味』あらすじネタバレと感想。小津安二郎代表作で夫婦のすれ違いを描く

「夫婦とはお茶漬の味のようなものだ」 小津安二郎の1952年の作品『お茶漬の味』(1952)は、1951年の『麦秋』と1953年の『東京物語』の間の作品で、脚本の野田高梧とともに、小津の円熟味が増した …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】東京タワー オカンとボクと、時々、オトン|あらすじ感想と結末の評価解説。リリー・フランキーの自伝小説をもとに描く

永遠に続く母と息子の強い絆 リリー・フランキーのベストセラー自伝小説を、オダギリジョーと樹木希林共演で実写映画化。 第31回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、数々の映画賞を受賞した感動作で、女手ひ …

ヒューマンドラマ映画

『アディクトを待ちながら』感想評価とあらすじ解説。高知東生らキャスト陣が“当事者となった者”として伝える依存症との“真の対峙”

映画『アディクトを待ちながら』は2024年6月29日(土)より新宿K’s cinema他で全国順次公開! 依存症からの回復を題材とした衝撃作『アディクトを待ちながら』が、2024年6月29 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学