大森南朋×鈴木浩介×桐谷健太、トリプル主演!!!
注目の監督、入江悠がオリジナル脚本で描く渾身のノワール。
『ビジランテ』をご紹介します。
以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『ビジランテ』の作品情報をどうぞ!
1.映画『ビジランテ』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【監督・脚本】
入江悠
【キャスト】
大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、吉村界人、般若、坂田聡、岡村いずみ、浅田結梨、八神さおり、宇田あんり、市山京香、たかお鷹、日野陽仁、菅田俊
【作品概要】
『SRサイタマノラッパー』シリーズの入江悠監督がオリジナル脚本で挑むのは地方都市を舞台とした本格ノワール。
大森南朋×鈴木浩介×桐谷健太のトリプル主演!!!
さらに、篠田麻里子や間宮夕貴に吉村界人、ラッパーの般若など多彩な面々が脇を固めます。
3兄弟それぞれが迎える結末とは!?
2.映画『ビジランテ』のあらすじとネタバレ
母が死んだ日に父・武雄の首を刺し、川を渡って逃げる神藤家の三兄弟、長男の一郎・次男の二郎・三男の三郎。
一郎は父を刺したナイフを箱に隠し、それを土の中に埋めます。
一郎は父に捕まるとその場にあった石で顔面を強打され、左側の額に大きな傷ができました。
家に連れ戻された三兄弟は激しい折檻を受け、堪らず一郎はその場から逃げ出しました。
二郎と三郎は兄を引き止めようとしますが、一郎はそのまま夜の闇の中へと消えて行きました。
それから30年が経ちました。
暴君であった父が死亡し、葬儀が行われます。
二郎は町の有力者であった父親の跡を継ぐかのように市議会議員となり、地元市議会の最大会派である大泉一派に加入し、出世コースを這い上がろうとしていました。
三郎は地元暴力団石部組のヤクザ、大迫に雇われる形でデリバリーヘルスの店長をしています。
二郎は父の葬儀に出席しなかった三郎を呼ぶと、父の遺骨を渡しました。
そして、二郎は大泉が進めているアウトレットモールの誘致建設計画のために父が持っていた土地の権利を自分に譲ってほしいと三郎に話します。
父を嫌悪していた三郎は二つ返事で了承し、二郎のプランは上手くいくはずでした。
しかし、そこに公正証書を持ったある男が現れ、土地相続の権利を主張。
その男こそ30年前に二郎と三郎を置いて逃げ出した一郎でした。
左額には確かに父に付けられた傷が残っており一郎に間違いありません。
二郎は顧問弁護士の飯田に相談しますが、その公正証書は法的に有効なものでした。
3.映画『ビジランテ』の感想と評価
『SRサイタマノラッパー』シリーズで注目を集め、その後は商業映画やTVドラマをいくつか手掛け、着実に日本を代表する映画監督として歩みを進めている入江悠。
『SRサイタマノラッパー』シリーズ以来、約10年ぶりとなるオリジナル脚本で挑むのは監督の故郷である埼玉県の深谷という地方都市を舞台とした本格ノワール。
ノワールとはフランス語で黒を意味し、フィルムノワールという一つのジャンルを形成しています。
真冬の深谷でロケを行ったという本作も曇天ばかりで全体的に画面は暗く、色調は統一されています。
初っ端から子どもがボコボコにされるシーンから始まるので正直万人にお薦めできるタイプの作品ではありません。
ただ私は、去年と比べると不作と言われる2017年の日本映画に遂にとんでもない傑作が現れてしまったなと思いました。
まずキャスティングが実に素晴らしい。
背景の説明などほほ皆無で一郎の背負ってしまった業を佇まいだけで表現しきる大森南朋。
一郎の女であるサオリには『風に濡れた女』で圧倒的な魅力を発揮した間宮夕貴。本作では色気は程々に幸の薄さ全開。
本当は優しい人間のはずなのに、地元で生きていくためには狡賢くならざるを得なかった二郎を演じる鈴木浩介。ドラマのイメージが強い俳優さんですが、今回の演技を観てもっと映画にも出て欲しいと思いました。
物語の重要な鍵を握る二郎の妻の美希には篠田麻里子。病院のお見舞いで石原に果たして何を吹き込んだのか。確かな気品を感じさせ、実に説得力たっぷりに演じています。
自警団の若者・石原には今注目の若手俳優、吉村界人。TVドラマ『ワニトカゲギス』でも似たような役回りを見事に演じ切っていました。閉塞感の漂う地方都市で石原が見た光とは一体何だったのか。
『フリースタイルダンジョン』によって人気も知名度も大きく高まった般若が演じるのはヤクザの大迫。ラッパーの方が演技をすると素晴らしいというのは田我流やYOUNG DAISがすでに証明済ですが、多才な人は本当に何をやっても上手いなと改めて思いました。
そして、本作の演技で間違いなく役者として大化けしたなと思わされたのが、三郎を演じた桐谷健太。
癖のあるキャラクターを演じ、助演において素晴らしい働きをする印象で、彼が出ていれば大体良い作品というくらい安心感を持って見ていられる俳優でした。
しかし、今回は主演で圧倒的な存在感を放ち、まさに役が憑依したといっていい程の熱演を見せています。しかも従来の日本映画に多い大声で泣き叫んだり感情を大きく爆発させるシーンはほぼ皆無です。
全体的に抑えた演技で三郎の苦しみを表現。僅かな瞳の揺れや表情の変化、色気すら漂わせていました。
出てくるだけで人の良さや温かみを表現できる俳優はなかなかいません。パッと思いつく限りだと他にはマハーシャラ・アリくらいでしょうか。
今年の映画賞関連で受賞することは間違いありません。
そして、この映画は演技面だけでなくテーマ性も素晴らしい。
地方都市を舞台にした作品で思い出されるのは富田克也監督の『サウダーヂ』、この作品も傑作なので本作が刺さった方にはぜひ観ていただきたい作品です。(残念ながらパッケージ化はされませんが)
入江監督は『SRサイタマノラッパー』ではそこから出て行く3人の若者たちの物語をコミカルに描いていましたが、本作はその閉塞感やしがらみ、そこに血縁や土地や移民問題まで混ぜて、三兄弟を絡めとります。
三兄弟にはそれぞれ大きな決断を迫られる場面が訪れます。
一郎は30年前に一度、二郎はどちらも美希がいる時に二度、三郎は幾度も選択の機会があったはずなのにあまり躊躇せずに選んでいきます。唯一悩んだ場面が一箇所ありますが、その決断が辿る運命の切なさはまさにノワールそのもの。
そして、その決断は入江監督自身の立場を反映させたものではないかと思いました。
商業映画には制約が多く恐らく完璧にコントロールすることは不可能とは分かっていますが、ある2本の作品の出来には正直ガッカリさせられた思い出があります。
しかし、二郎のように悔しい想いをしたとしても結果的にその仕事を引き受けたことが後の作品に繋がることはあるでしょう。
三郎のように這いつくばってでも待っている観客に届けたい想いがあるでしょう。
小規模でもオリジナルにこだわってこの作品を取った意味はとんでもなく大きいと思います。
大ヒットは無理かもしれませんが、一人でも多くの方にこの想いが届いて欲しいなとそう思いました。
まとめ
いくとこまでいってしまって後戻りできない暴力的な世界を観て連想したのは、韓国映画です。話の設定や展開的には特に『チェイサー』や『アシュラ』。
国が援助したおかげで今の韓国映画の質の高さは本当に目を見張るものがあり、次から次へと面白い作品が生まれています。
私は映画ファンとして純粋に楽しみつつも、心のどこかでは憧れとともに悔しさを抱いていました。日本映画だって同じようにバイオレントかつ心を抉るような作品が生み出せるのではないかと。
その期待通りの作品がついに日本映画から生まれました!
作品を観る前にたまたま入江監督をお見かけし、握手までしていただいてしまったただのいちファンとして、監督のこれからの活躍に大きな期待を抱いています。