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Entry 2021/08/10
Update

『日本のいちばん長い日(2015)』ネタバレあらすじ感想と解説評価。リメイク版で原田眞人監督が描いた“家族愛”を用いた決断とは⁈

  • Writer :
  • からさわゆみこ

今日の“平和”について思いを馳せる・・・命運を分けた8月15日までの道

映画『日本のいちばん長い日』は、ノンフィクション作家の第一人者、半藤一利が、1995年に単行本として発刊した書籍、『日本のいちばん長い日 決定版』を『クライマーズ・ハイ』(2008)、『検察側の罪人』(2018)の原田真人監督が手掛けました。

第二次世界大戦の戦局が悪化の一途をたどる、1945年4月小磯内閣が総辞職し、終戦へ向けた和平交渉を水面下で工作するため、侍従長経験のある鈴木貫太郎に、内閣総理大臣の白羽の矢が立ちます。

本作は第42代鈴木内閣総理大臣発足から、1945年8月15日正午、昭和天皇が「終戦の詔書」を朗読した音源をラジオで流し、日本の降伏を日本国民に知らせる、“玉音放送”までに至るまでの、和平派と抗戦派のせめぎ合い、登場人物が心に何を抱え、行動したかを描いた人間ドラマです。

映画『日本のいちばん長い日』の作品情報

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

【公開】
2015年(日本映画)

【監督/脚本】
原田眞人

【原作】
半藤一利

【キャスト】
役所広司、本木雅弘、松坂桃李、堤真一、山﨑努、中村育二、近童弐吉、山路和弘、鴨川てんし、久保酎吉、井之上隆志、木場勝己、奥田達士、髙橋耕次郎、安藤彰則、中嶋しゅう、川中健次郎、桂憲一、田中美央、大場泰正、関口晴雄、田島俊弥、池坊由紀、矢島健一、金内喜久夫、小松和重、神野三鈴、蓮佛美沙子、三船力也、戸塚祥太、戸田恵梨香、松山ケンイチ、キムラ緑子

【作品概要】
出演は阿南惟幾役に『すばらしき世界』(2021)の役所広司、昭和天皇役に『おくりびと』(2008)の本木雅弘をはじめとする、松坂桃李、堤真一、山崎努が主要人物を演じます。

また、本作は第39回 日本アカデミー賞で、昭和天皇を演じた本木雅弘が、優秀助演男優賞を受賞しました。

原田眞人監督の脚本はノンフィクションの歴史をたどるだけでなく、昭和天皇を登場させることで、公には表せなかった天皇の真意や国民との絆、心の葛藤をリアルに描いています。

映画『日本のいちばん長い日』のあらすじとネタバレ

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

1945年4月、元海軍大将で侍従長を歴任した、鈴木貫太郎が内閣総理大臣に推薦される形でした。彼は昭和天皇からの信任が厚かったからです。

鈴木はすでに77歳と高齢で、耳も遠いという身体的な不安材料もありましたが、元海軍軍人の彼には「軍人は政治に関与せざるべし」という信念があり辞退を強く主張しました。

鈴木を呼び出した昭和天皇は、そのことも加味しつつ「頼むから」と、強く説得し組閣するよう命じます。天皇からの大命に鈴木は観念し、第42代内閣総理大臣に就任をします。

鈴木は早急に組閣を練らなくてはなりません。長男が書記官を名乗り出て父を助けます。組閣の難所は陸軍大臣を誰にするかでした。

戦時下で一番の権力を固持していたのが陸軍でした。陸軍出身の東条英機が総理大臣を務めている際に、本土防衛の主体を築いていたからです。

戦況の悪化が理由で内閣総辞職となった経緯から、口に出すのは憚れながらも、和平を望む気風が漂い始めていましたが、血気盛んな一部の軍人は“本土決戦”に備えています。

そんな士気の高い陸軍には、緩衝材となりうる人材が必要です。鈴木の頭には重任を全うできるのは、部下からの人望が厚い“阿南惟幾(あなみこれちか)”の存在がありました。

阿南は鈴木の侍従長時代に、昭和天皇の侍従を務めており、阿南の天皇に対する忠誠心と、天皇の阿南に対する信頼の強さを知っていたからです。

鈴木は陸軍の前陸相の杉山元を訪れ、阿南惟幾を陸軍大臣の入閣を求めました。和平への動きを察知していた陸軍は、強硬派の青年将校らが納得できる条件として、以下の3つを提示します。

①飽くまでも大東亜戦争を完遂すること、②勉めて陸海軍一体化の実現を期し得る内閣を組織すること、③本土決戦必勝の為、陸軍の企図する施策を具体的に躊躇なく実行すること

鈴木はこれをあっさりと快諾し、三鷹の阿南宅に出向き、陸軍大臣としての入閣を直接要請しました。

噂を聞きつけた陸軍省の青年将校達は、阿南が陸軍大臣になれば、本土決戦の士気が上がると歓迎ムードで湧きあがります。

その頃、阿南は娘の婚約者と披露宴の話しをしていました。2人は時節柄を考え自粛したいと申し出ます。

阿南は20歳という若さで戦死した、次男惟晟(これあきら)を通し、できるときにやれるだけのしたい・・・“どんどん”やってほしいと、清々粛々な披露宴を勧めます。

鈴木内閣が発足してまもなく、当時のアメリカ大統領ルーズベルトが急逝します。

それでも日本の戦局は加速して悪化し、同盟国のドイツも降伏寸前に追い詰められ、ヒトラー総統は自死しました。

そして、5月25日の“東京大空襲”で戦火が飛び火し、皇居宮殿と海軍省が焼失してしまいます。

国務大臣らの要請で鈴木総理を囲み、陸軍大臣と海軍大臣らの戦局の見通しや時局の将来について懇談の機会が設けられますが、陸海の軋轢は深く意見はまとまりませんでした。

6月8日で行われた“御前会議”では、本土決戦による勝利をもって、戦争終結の道筋を開くと、決議しました。

しかし、理想と現実の隔たりは高く、国民も兵士も疲弊し、兵器や物資も底をついているからです。

6月22日、御文庫地下防空壕にて鈴木総理をはじめ閣僚たちと、昭和天皇が参席する懇談が行われます。この席で天皇は心中を明解に表します。

天皇は東京から地方にまで、焦土が広がった原因も知った上で、終戦に向けた具体的な努力を講じ、速やかに終結することを希望しました。

鈴木は心の中では思っていても、口に出すのは憚られることを天皇のお言葉として聞き、和平に向けて方針転換し動き出します。

ところが陸軍省に東条元首相が訪れ、青年将校たちに天皇の御言葉について、独自の解釈を広め、“初心を断行すべし”と方々の軍事施設に吹聴し、将校の士気を焚きつけます。

閣僚会議は意見がまとまらず、月例会議では“一億総決起の歌”が披露され、総理や閣僚、迫水書記官たちが、学校に展示されている武器を見学します。

鈴木はまともな兵器はもうないのだと嘆き、迫水はまともな思考が残っていないのだと、怒りをあらわにします。

閣僚の1人が阿南に600万将兵の頂点に立つ身、心してほしいと言いますが、阿南は陸軍直属の軍人ではなく、天皇直属だと言い切ります。

以下、『日本のいちばん長い日』ネタバレ・結末の記載がございます。『日本のいちばん長い日』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

7月27日、連合国よりポツダム宣言が発令され、日本に無条件降伏勧告がなされます。

閣議が開かれると鈴木は、受諾する他にないとの天皇の意向を伝えますが、阿南は“国体護持”の確証が示されないなら、断固拒否すべきだと意見します。

外務大臣は“拒否”という意見に怪訝そうにし、鈴木は政府の方針として“静観”か“黙殺”と発言しますが、“黙殺”の方が連合国側に伝わったのち、8月5日広島に原子力爆弾が投下されます。

更にソ連を介しての和平交渉に時間を割いてきたが、ソ連が参戦に加わる裏切りがあり、日本はさらに窮地に追い込まれてしまいました。

外務大臣はもはや総辞職しかないと鈴木に迫まりますが、鈴木は毅然とした姿勢で、この内閣の中で戦争を終結させると宣言します。

鈴木は天皇にポツダム宣言に関する詳細を報告します。官邸で待つ迫水書記官は、天皇が受諾の意向を示したと確認すると、次は陸軍の扱いについて危惧します。

総理秘書が“戦争最高会議”に閣僚を招集し、抜き打ちの“御前会議”にて“聖断”を仰ぐと説明すると、迫水は憲法運用上の規範を破ることになると焦ります。

鈴木はルールを破り“大元帥命令”によって軍を抑えると告げます。これは国の方針を天皇の意思によるものし、その全責任が天皇にかかるという意味でした。

とはいえ、天皇に責任を負わせるわけではなく、最高責任者である鈴木が死をもって臨む方針だと、準備を進めるよう迫水に言い、彼は海軍省と陸軍省に走ります。

海軍省では大西海軍中将から、戦争を続ける方策を考えるよう言われ、2000万の国民を特攻で殺すつもりさえあれば勝てると言い放ちます。

陸軍省では戦争最高会議に向う阿南に、青年将校達が駆け寄り、“本土決戦”の道を血気盛んに熱望します。

戦争最高会議では無条件降伏の受諾一択か、条件付きで受諾するかが焦点となります。

阿南は“国体護持”の確約と、自国の手による武装解除がなければ、戦争は続行するしかないと主張します。

米内海軍大臣は阿南の意見に事実上、日本は敗戦しているにもかかわらず、希望的観測だと反論します。

2人が激論を交わす中、迫水に伝言が入り、長崎に2発目の原子力爆弾が投下され、広島と同様に被害は甚大だと伝えられます。

鈴木は天皇に謁見し、戦争指導者会議では話しがまとまらず、官邸にて閣議を開くが議論を重ねても、おそらく結論は出ないと思われ、その場合は天皇の助けを乞うじたいと願います。

天皇は「自分の名によって始められた戦争を、自分の本心からの言葉によって収拾できるのなら、ありがたく思う」と、静かに応えました。

案の定、官邸での閣議は平行線のまま進みます。そこに阿南に陸軍省からの緊急連絡が入り、彼は陸軍省へと戻ると部下から“決起案”がまとまったと、書面を渡されます。

それは全国に戒厳令を引き、内閣を倒し軍政権の確立を目指すというものでした。阿南はそれを読み深いため息をつきます。

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

陸軍省のクーデター計画を知った阿南には、全軍からの一挙手一投足が注視される重圧もかかります。

御前会議が始まると阿南は、「国体の護持」「保障占領」「日本自身による武装解除」「日本による戦争犯罪の処分」の4条件を満たせば受諾すると強く主張します。

鈴木は一通り意見を聞くと、意見は二分し議決できないうえ、事態の悪化は一刻の遅延も許さないため、異例で畏れ多いとしながら、天皇の意見を仰ぎ“聖断”として、本会議の結論とすると言います。

天皇はまず、外務大臣の意見に賛成した上で、自分には祖先から受け継いだ、日本国を子孫に伝える使命があり、1人でも多くの日本国民に生き残ってもらい、将来立ち上がってもらいたいと語ります。

更に「戦争を続け文化を破壊し、世界人類の不幸を招くことは、自分の望むところではない。」と、本心を語り“聖断”を下しました。

ポツダム宣言受諾の一報に陸軍は混乱しますが、阿南は皇室保全の確証が条件で、これがなければ戦争は続けると、連合軍の返答を待つよう、陸軍幹部たちに一致団結を訴えます。

東条元首相が天皇を謁見し、ポツダム宣言受諾反対の奏上をします。

天皇は東条にナポレオンの半生を例にし、前半生はフランスのために尽くしたが、後半生は自己の名誉のためにのみ働き、フランスだけでなく世界のためにもならなかったと・・・。

ところがこれで収まらないのが陸軍です。陸軍省を担ぎ出そうとするクーデター派と、陸軍省ごと内閣を倒そうとする過激派に二分したのです。

8月11日、20時半。三鷹の阿南宅に、畑中健二陸軍少佐ら軍人と、憲兵十数名がやってきます。和平派が阿南を監禁し、暗殺計画の噂が出たため、警護に来たと言います。

8月12日、連合国から日本からの条項に関する回答が届きます。その内容は正面から条件を受け入れるでもなく、かといって否定するものでもない・・・、解釈の難しい内容でした。

天皇の処遇について「連合軍最高司令官に“subject to”する」という翻訳を、外務省は最高司令官の“制限の元”に置かれるとしたが、陸軍省では“隷属する”と直訳してしまいます。

阿南は戦死した次男の写真を持ち、妻の綾子に今生の別れを意味した和歌を渡し、省庁へ向います。

8月13日、阿南は天皇を逃避させようと動きますが、天皇は国体護持を確信していると、留まることを阿南に告げます。

鈴木もまた何がおこるかわからないからと、嫁の布美に子供が疎開している秋田に行くよう促します。

陸軍省では将校達によるクーデター計画が進められますが、荒尾軍務課長から実行には陸軍大臣、参謀総長、東部軍司令官、近衛団長の承認を得ることを条件にします。

将校は無理な条件だと反論しますが、理念なき逆賊となりかねないと判断し、荒尾軍務課長をはじめとする、クーデター計画の首謀者は、阿南がいる陸軍官舎に押しかけます。

14日の閣僚会議に押入り、和平派の要人を監禁したのち、陛下に受諾の変更を迫るというものでした。阿南は閣議に全力を注ぎ、経過は吉積軍部局長に伝えると言います。

ところが閣議では連合国からの回答を受諾することに賛成票があつまり、ほぼ和平派となる結果になります。阿南は迫水を呼び別室で電話をかけます。

相手は陸軍省の吉積軍部局長です。阿南は閣僚の大半は受諾に“反対”していると、噓の報告をして、自分が戻るまでジッとしているよう指示します。

阿南はその様子を迫水に聞かせ、閣議の様子を知りたいなら、迫水書記官に変わるというと、迫水は阿南の真意を理解します。

阿南は吉積に0時に省に戻り、荒尾に結審を伝えると安心させます。鈴木は閣議の内容を天皇に報告し、明日、重ねて聖断を仰ぐと宣言し散会します。

阿南は閣僚達がいなくなるのを待ち、陸軍が真実を知り暴走するのを予見して、鈴木に1日だけ御前会議を待てないか申し出ます。

しかし、1日待てばソ連が日本へ侵攻し、ドイツと同様に国が分断されてしまう、一刻の猶予もないと考える鈴木は認めませんでした。

阿南は「クーデターに訴えては、国民の協力はえられない」と、参謀総長、東部軍司令官、近衛団長のもとに、協力要請にいく将校を説得するよう根回しします。

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

8月14日、御文庫地下防空壕。天皇は「私自身はいかになろうと、国民の生命を助けたいと思う。明治天皇の三国干渉の際の苦しいお心持ちをしのび、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、将来に期待したいと思う」と言葉にすると、閣僚達はむせび泣きます。

そして、自身が国民に語りかける必要があれば、マイクの前に立つ心構えはできていると、終戦に関する詔書を至急準備するよう命じます。

阿南は陸軍省に戻ると、クーデター計画の首謀者を含む将校達に、昭和天皇の言葉を伝えると、「御聖断は下ったのだ、この上は大御心のままにすすむほかない」と、諭します。

それでも納得のいかない将校達は阿南に詰め寄ると、「御聖断は下った!納得できんのなら、まずは俺を斬っていけ!」と恫喝します。

最後まで抗戦にこだわった畑中は、近衛師団司令部へ赴きますが、師団長は不在でそこにいた、同朋数名と東部軍司令官に、クーデター協力要請するも叱責されます。

一方、宮内省では天皇が“詔書”を録音する準備が始まり、阿南は道場で1人、刀を振り精神統一します。

その頃、三鷹の阿南邸に若い復員兵が、次男の戦地での様子と、最期について伝えに来たと訪ねてきます。

陸軍省ではすでに、省内の書類整理が始められ、井田中佐と椎崎中佐も荷物をまとめだしていました。

そこに畑中があらわれ、玉音放送までの20時間を無駄できないと、計画をまくし立てると、椎崎は畑中の熱意に感化され、共にクーデター実行へと動き出します。

17時、総理官邸では“終戦の詔書”の審議が始まりますが、阿南は原案の「戦勢日に非にして(日ごとに劣勢になり)」の部分がひっかかります。

そして、「戦局必ずしも好転せず(必ずしも持ち直したとは言えない)」に変更し、“負け”ではなく、やむなく終戦するという表現にこだわります。

海軍大臣の米内は原案の方を強く推し、いったん海軍省へ帰ると官邸をでます。外では多数の兵士が不穏な動きをしていました。

海軍省へ戻った米内は一部の将校による、鈴木と阿南の暗殺計画の動きがあると情報を聞き、審議の続く官邸へ戻った米内は一転、阿南の修正案を推し、“詔書”は決定しました。

阿南が陸軍省へ帰ると、将校や憲兵の誰もいません。阿南は“辞職願”をしたため、自宅へ電話をしますが話し中でつながりません。

荒尾が大臣室に来ると、中央幕僚の役割について不安を口にします。阿南は日本の復興を固く信じ、平静な終戦処理を進めるよう、葉巻箱から2本取り出して彼に渡し託します。

その頃、近衛師団司令部では陸軍将校が集まり、“近衛師団命令”を偽装し同朋を募ると、宮城内警備司令所へ行き、畑中は司令官にクーデターの全貌を話します。

椎崎と畑中は井田を呼び戻し、森師団長を説得するため、近衛師団司令部へと行きますが、森師団長は接客中です。

畑中の元に所在が不明だった、竹下中佐がみつかったと報告が入り、彼を呼び戻しにいきます。

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

官邸では“詔書”に関する閣僚達の署名が終わり、阿南は鈴木が控えている部屋へ行くと、“国体護持”を死守するためとはいえ、強硬な意見をしたことを詫びました。

鈴木は彼の国を思う気持ちを讃えると、阿南は持参した葉巻箱を鈴木に献上し、一礼して去ります。

鈴木は阿南の様子を察し“暇乞い(いとまごい)”に来たのだと、迫水と秘書の息子に言います。阿南は陸軍官舎に帰ると遺書をしたためます。

23時25分、昭和天皇は宮内省に到着し、玉音放送の録音を開始し、8月15日未明終了し、2枚の玉音盤は侍従に預けられます。

森師団長との面会をとりつけた、井田と椎崎でしたが、森は彼らの話しを引き伸ばしながら、陛下の意思に反する行為は許されないとたしなめます。

深夜1時20分、畑中が近衛師団司令部に戻ると、事態が一変します。畑中の苛立ちと怒りは、制御ができない精神状態でした。

畑中は森師団長の執務室へ入ると、井田と椎崎の制止をふりきり森を銃殺し、同席していた白石中佐を窪田少佐が斬殺し、指令書に師団長の印を捺印します。

1時37分、捺印のある近衛師団命令を確認した、城内警備司令所は各部署に、省内から出る、玉音放送関係者を拘束し、捕虜にするよう通達します。

陸軍官舎を訪ねた竹下は、畑中の様子を見て反乱の気も覚めたと話します。阿南は自死の決意を話すと、竹下は淡々とその言葉を受け入れ、2人は別れの盃を交わします。

放送局では録音された玉音盤の捜索、宮城(皇居)では放送関係者を拘留し、尋問が始まりました。

井田は東部軍事司令部で、自らを反乱軍と名乗り、森師団長が暗殺されたと報告します。高嶋参謀長は井田に畑中を説得するよう命じます。

2時、警備司令所の隊長にも森師団長の死が伝わると、阿南大臣の到着なしに以後の発令はしないと、畑中と椎崎に言います。

説得に戻った井田は、東部軍事司令部は白けた空気が流れていると伝え、夜明けまでに撤収するよう諭します。

椎崎は竹下が阿南の説得に向ったと話しても、井田は自ら確認すると出て行きます。

そこに玉音盤はまだ、宮内省内に残されているという情報が入り、近衛兵が捜索に向います。

阿南は次男の命日(8月20日)に合わせて、自決しようと考えたがそれでは遅く、日は明けたが、遺書の日付は父親の命日14日にしたと竹下に話します。

竹下は阿南の“家族ありき”な理由を聞くと、楠正成の真の教えは“家族を大事に思うこと”だと、自分の心中にあるものを語りました。

4時過ぎに訪ねてきた井田に「2人の介添え人か」と言いうと、彼はあとからお共すると言います。阿南は彼の頬を殴り、「死ぬのは俺1人だ!いいか!?」と激高します。

警備司令所に電話した、東部軍司令部は聖断に従う意向を伝え、投降するよう説得します。

それでも畑中は玉音放送の前に、思いの丈をラジオで話させてほしいと、悪あがきをし拒否されます。

阿南は軍服に次男の写真を置き、自死の準備を整える中、軍から使いが宮城での事件を伝えにきます。竹下が対応し、井田は所払いされ、阿南は1人で切腹をします。

椎崎中佐と畑中少佐は、二重橋の見える広場で自決します。

御文庫の皇后宮に保管されていた玉音盤は、無事に放送局に運ばれ、正午に国民へ向けラジオで流れます。

阿南の亡骸に綾子が到着すると、綾子は部下から言い伝えられた、上官としての次男の姿を耳元で話します・・・。

映画『日本のいちばん長い日』の感想と評価

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

クーデターの首謀者は「陸軍省」のエリート将校達が企てました。その将校のほとんどが軍人家庭の出身でしたが、最後まで決起にこだわり続けたのは、普通の家庭から士官学校へ進み将校となった、畑中と椎崎です。

特に畑中には同じ将校でも、生まれながらの軍人に対する、憧れや羨望があり、それが幻滅や失望に変わった瞬間、暴走に駆り立てたように感じました。

『日本のいちばん長い日』は1967年にも、岡本喜八の監督で映画化されています。

2015年版はそのリメイクではなく、阿南惟幾の魂の葛藤を丁寧に描き、昭和天皇への忠誠心を軸に、軍人としての自分、士官たちの気持ちが複雑に絡みながら、和平へと託されている鈴木貫太郎への尊敬と、2人の信頼関係がより忠実に描かれています。

また、“自決”という現代では理解されにくい行為は、悲壮感を強く、美談として大袈裟に演出されがちですが、本作では武士社会の延長線上にある慣習が、あたりまえに残っていた様を淡々と描いていました。

昭和天皇の「聖断」に込められた思い

「聖断」とは、天皇の意向を政治に反映させることです。そして、後にも先にもポツダム宣言に対する「聖断」が、日本や世界の運命を左右させた、最も大きな意味を持ちました。

明治に制定された大日本帝国憲法には、天皇の立場を守る「神聖不可侵」があります。

天皇に対する不敬行為を許さぬこと、天皇に政治上の責任を負わないこと、天皇に国法の適応しないこと、皇位廃止は不可能であること、この4つが定められていました。

ポツダム宣言受諾に慎重だった、阿南大臣の心中には天皇と共にある国が、異国の手によって汚されることを最も嫌ったからです。

作中によく登場した“国体護持”とは、「天皇が永久に統治権を統御する日本」を示していて、日本はこの言葉に呪縛されていました。

昭和天皇が無条件降伏を受諾するという「聖断」は、天皇が自分の身を呈して、国民をこの呪縛から解放したともいえるのです。

“家族を思いやる気持ち”が、平和への道

原田眞人監督は昭和天皇、鈴木総理大臣、阿南大臣の姿を通し、“家族愛”を表現したかったとも語っています。

皇居外苑の広場には作中にも登場する、“楠木正成”の銅像があります。正成は鎌倉時代、後醍醐天皇に仕えた武将です。

鎌倉幕府の制圧に苦しむ民衆を憂いだ天皇が、倒幕の任を与えたのが楠木正成で、数十万の幕府軍に対し、わずが500足らずの兵で倒幕した、という逸話が残っています。

名もなき武将だった正成は以後、政権を掴んだ後醍醐天皇から絶大な信頼を得て、正成は忠義を捧げます。しかし、足利尊氏の裏切りにより戦へと出陣します。

その途中、長男の正行に大阪河内に戻って、母を守り、父に代わって天皇を助け、最後まで護るよう諭し、のちに楠木軍は敗北し正成は自決します。

この楠木正成の家族愛と生き様は、阿南大臣と重なり合い、家族や家臣を思いやる人物像をより強調していました。

日本という国を“家族”に見立てた時、昭和天皇は主君(父)として、国民(家族)を守るために身を呈したと見れます。その天皇の真意を汲み成し遂げた鈴木総理も、父を慕い尊敬の念から端を発したといえるのではないでしょうか。

まとめ

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

映画『日本のいちばん長い日』は、終戦の歴史を伝えるだけでなく、“世界平和”というものは、身近な家族や知人を大切にするところから始まることを、教えてくれた映画でもありました。

世界の中でも日本の平和は、類まれなる理想の姿です。世界が日本の様になれば、戦争は起きないのではないかと思うほどです。

「聖断」に綴られた昭和天皇の決意を今の言葉で表すならば、「どんな困難が待ち受けていようとも、あまんじてそれを受けジッと耐えよう、未来に平和の道を開くためなら・・・」と、なるでしょう。

8月15日の「終戦記念日」は、今日の日本の平和について、1人1人が思いを馳せる日にしていきたいです。

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