ユダヤ人の新鋭監督が自身の体験をもとに描いたZ世代のリアル
大学卒業を間近に控えたダニエルは、誰が亡くなったのも知らずシヴァ(ユダヤ教徒が親族を亡くしたときに行う7日間の喪の期間のこと)に参加します。
法科院に合格した幼馴染であり、元カノでもあるマヤもやってきて、親類から進路のことや容姿のことなど詮索され嫌気がさしていたダニエル。
そこにやってきたのは、つい先ほどまであっていたシュガーダディ(パパ活)のマックス!気まずさのなかダニエルはどうする!?
監督を務めたのは、『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』(2023)のエマ・セリグマン。長編デビュー作となる本作は、卒業制作の短編を長編化しました。
主人公ダニエル役を演じたのは、『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』でエマ・セリグマン監督と共同脚本・主演も務めたレイチェル・セノット。
ダニエルの幼馴染で元カノのマヤを演じたのは、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)のモリー・ゴードン。
CONTENTS
映画『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』の作品情報

(C)2020 SHIVA BABY LLC. All Rights Reserved.
【日本公開】
2026年(アメリカ・カナダ合作映画)
【原題】
Shiva Baby
【監督・脚本・製作】
エマ・セリグマン
【キャスト】
レイチェル・セノット、モリー・ゴードン、ポリー・ドレイパー、ダニー・デフェラーリ、フレッド・メラメッド、ダイアナ・アグロン
【作品概要】
『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』(2023)のエマ・セリグマン監督の長編デビュー作『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』は、ユダヤ系家庭で育ったエマ・セリグマン監督自身の体験をもとにした短編を長編化しました。
ダニエル役を務めたのは、『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』で共同脚本も務めたレイチェル・セノット。そのほかのキャストには、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)のモリー・ゴードン、『オッペンハイマー』(2024)のダニー・デフェラーリ、ドラマ「glee/グリー」シリーズのダイアナ・アグロン、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(2017)ポリー・ドレイパーなど。
映画『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』のあらすじとネタバレ

(C)2020 SHIVA BABY LLC. All Rights Reserved.
大学卒業を間近に控えたダニエル。しかし、卒業後の進路は決まっていません。
両親にはベビーシッターのバイトをしていると言いますが、実際はアプリを通じて知り合った「シュガーダディ」と性行為などをして金銭をもらうという、いわゆる“パパ活”をしていました。
ある日、いつものようにシュガーダディと会っていたダニエルの元に母から電話がきます。
親類のシヴァ(ユダヤ教徒が親族を亡くしたときに行う7日間の喪の期間のこと)に来るように言われていたのに、ダニエルは参加していませんでした。
「いつ来るの?」と言われ、仕方なく葬式に向かったダニエルですが、誰が亡くなったのかも知りません。
そして会場には喧嘩して避けている幼馴染で元カノのマヤが来ていました。
「どうしてマヤが?」と嫌そうな顔をするダニエルの元にマヤがやってきて、進路のことなど嫌味を言い、ダニエルも嫌味で返します。
ダニエルの母は「今日は大人しくしてて」とダニエルに口うるさく言い、ダニエルに紹介したい人がいると強引に連れて行こうとします。
親類の甥だというマックスは、なんとさっきまで会っていたシュガーダディだったのです。向こうもダニエルに気づき気まずそうな顔をしています。
そんな2人の事情を知らない母は、勝手にダニエルの専攻や仕事の話をし、インターンで入れないかと強引に娘を職に就かせようとします。
母の発言によってダニエルが法科院を受けることや、学費が必要など今までシュガーダディに言っていたことが嘘だとバレてしまいます。
それだけでなく、ダニエルはマックスが既婚者で赤ちゃんが産まれたばかりだということを知って言葉をなくします。マックスも独身だと嘘をついていたのです。
映画『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』の感想と評価

(C)2020 SHIVA BABY LLC. All Rights Reserved.
幼馴染であり、元恋人のマヤ、シュガーダディのマックス、そしてマックスの妻と子供……まるでジェットコースターのように加速する気まずさ。
ダニエルが直面する気まずさは、普遍的なものでありながら、非常に現代的な若者像が現れているといえます。
様々なコミュニティによって、程度は人それぞれであれ、私たちはそのコミュニティで顔の使い分けをしているでしょう。
それがSNS時代になり、今まで以上に私たちは仮面をつけやすくなりました。ダニエルは両親やマヤ、マックスに対してそれぞれ嘘をつき、適当にやり過ごしてきました。
そのツケが一気に回ってきた、もしくはきちんと向き合おうとせず、先延ばしにしていたことに向き合わざるを得ない状況になったのかもしれません。
将来への不安、閉鎖的なコミュニティの視線を無視してやりたいことを貫く勇気も持てずにいる、ふらふらと曖昧にしてきたダニエル。
そんなダニエルにとってシュガーダディとの時間は、時に優越感を与えるものであったと言います。しかし、それだけではなく、後ろめたさや罪悪感もあったかもしれません。
親に言えることではない、しかし、過保護な親に対して反発したい気持ちもあるのでしょう。一方で、親の期待に応えられない自分に対する不甲斐なさもあります。
簡単に説明することのできないぐちゃっとした感情を、ジェットコースターのようにスピーディーかつ生々しく描いた本作。
見ている観客にとって、それは耐え難い時間かもしれませんし、あまりのリアルさにもっとぐちゃぐちゃになってほしいと思う人もいるかもしれません。
しかし、息苦しさだけでは終わらない、最後は何とか呼吸できるような安らぎを与えてくれるのも、この映画の良さでしょう。
ダニエルは、幼馴染であるマヤとかつて恋人同士でした。しかし、狭いコミュニティにおいて2人の関係は認められず、「実験をしただけ」とダニエルの母は言い、密室でダニエルとマヤと一緒にならないよう目を光らせていました。
ダニエルの母が何と言おうとダニエルはバイセクシャルであり、マヤへの思いも性的なコミュニケーションも実験ではありません。
そのことを理解してほしいと思う気持ちと、そんな厳格さに対する反発がシュガーダディとの関係にも現れているのかもしれません。
一方でマヤはついダニエルにきついことや皮肉を言ってしまいますが、その言動の背景にあるのは、ダニエルの関心が自分に向いてほしい、私たちは特別だから普通になって欲しくないという思いです。
過保護すぎる両親に息苦しさを感じつつも、両親の愛情も分かっているからこそ、上手く話せない難しさもあります。
誰にでも心を曝け出して全てを言えるわけでもなく、詮索され悪意が全くないわけではなくても、皆が悪人というわけでもありません。
閉鎖的なコミュニティという特異さが、人のマウントや妬み、蔑みを剥き出しにしてしまうのです。その距離感もダニエルが直面しているものと言えます。
まとめ

(C)2020 SHIVA BABY LLC. All Rights Reserved.
エマ・セリグマン監督自身が経験した「シヴァでの気まずく滑稽な時間」と、シュガーベイビー(パパ活女子)の友人らのエピソードを交えた映画『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』。
表面的な会話の後に話される陰口、外見や就職など詮索される様子などの生々しさは、ユダヤ系の家庭で育ったエマ・セリグマン監督だからこそ描ける視点といえます。
また、ダニエルはバイセクシャルであり、本作はダニエルのポートレートであるとともにクィアな映画でもあります。
エマ・セリグマン監督の次作『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』(2023)は、クィアな青春映画になっており、監督は今後も「より大きな規模でクィアでユダヤ的な物語を作り続けたい」と語っています。
新たな世代の風を感じさせる監督のデビュー作です。


































