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映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』あらすじネタバレと感想。ラストの結末も

  • Writer :
  • 福山京子

映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』は、生き証人である4人のユダヤ人の物語

1943年強制労働のために残されたユダヤ人が逮捕され、ナチスドイツは首都ベルリンからユダヤ人がいなくなったと宣言。

しかし実際には、約7000人のユダヤ人が”Die Unsichtbaren”(見えない存在)として潜伏し、最終的に約1500人が戦後生き延びました。

1945年ベルリン、僕らはまだ生きていた…。

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映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』作品情報

(C)2016 LOOK! Filmproduktion / CINE PLUS Filmproduktion (C)Peter Hartwig

【公開】
2018年(ドイツ映画)

【原題】
Die Unsichtbaren

【脚本・監督・制作】
クラウス・レーフレ

【キャスト】
マックス・マウフ、アリス・ドワイヤー、ルビー・O・フィー、アーロン・アルタラス、フロリアン・ルーカス、アンドレアス・シュミット、ロベルト・フンガー=ビューラー、ルーカス・ライバー、セルゲイ・モヤ

【作品概要】
10年前に別のドキュメンタリー番組を制作していたクラウス・レーフレ監督は、ベルリン出身の一人のユダヤ人女性が偽の身分証明書で生き延びていたことを知ります。

更に戦時中のベルリンで地下に潜伏したユダヤ人に関して緻密に調査を進め、戦時中のベルリン生きる希望を捨てなかった4人の若者たちの驚愕の真実に辿り着きます。

実際の生還者であるツィオマ、ルート、オイゲン、ハン二の4人の証言を基にして映画化しました。

今こそ知られざる真実の扉を開ける感動の物語です。

映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』のあらすじとネタバレ

(C)2016 LOOK! Filmproduktion / CINE PLUS Filmproduktion (C)Peter Hartwig

列車の音が響く中、薄暗い部屋で机に向かう1人の若者がいました。

彼の名は、ツィオマ・シェーンハウス。身分証明書の偽装をしていました。

ベルリンで両親と住んでいたツィオマでしたが、3人は当局から移送命令を受けました。

そして3人は集合場所に向かいました。一人ずつ名前を呼ばれます。

現在を生きるツィオマがインタビューで「一人ずづ、ユダヤ人の名前で呼ばれるんだ、担当官が鶏のような声で、罵倒するかの如く大きく」と答えます。

前日ツィオマは両親に、自分は武器を製造する技術があるからそれで戻ってみせると話していました。

「工場に戻れと言われています」と咄嗟についた嘘で、ツィオマは運よく収容所行きを免れましたが、両親と生き別れになりました。

ツィオマは20歳、一人で潜伏を始めます。

「もう(両親とは)会えないとわかっていた。」ツィオマは当時を振り返り、ゆっくりと話します。

友人宅でレコードをかけてダンスを楽しんでいた若い女性ルート・アルント。

ユダヤ人はダンスホールの入場が禁止されていたので友人宅で密かに楽しむ日々でした。

生活から一切の自由を奪われ、家族と共に潜伏を考えるようになりました。

「娘の命を救ってくれた命の恩人だから」といい、最初に匿ってくれたのは、医師であるルートの父を、娘の病気を治してくれたとして敬うキリスト教徒のゲール夫人でした。

ルートが潜伏を始めたのは20歳のときでした。

「彼女は多分、今から考えると反ナチだったと思う。そんなことを言わなくてもね」と、現在のルートが証言します。

週末だけ、バスで遠出する許可書を手に入れられるので、彼女にバスに乗って会いに行くオイゲン・フリーデ。

バスの中で、ゲシュタポ(秘密国家警察)に付きまとわれ、「許可書を持っています」と言ってオイゲンが差し出すと、「座っていい許可書はない!」と激しく言われて、すぐに立ちます。

そんな彼に近付いてそっと煙草を差し出すドイツ人女性。

当時を回想して、「多分無言の抵抗を見せてくれたと思う。そんなドイツ人もいたんだよ」と、現在のオイゲンがゆっくり言葉を選びます。

辺りを窺いながら、オイゲンが歩いていると、再びゲシュタポに声をかけられます。

無言で許可書を見せると、「黄色の星は付けていないのか?!すぐに付けろ!」と怒鳴られます。

「義父がドイツ人だったから、母親は付けなくていいけど、ユダヤ人とわかるように僕だけ付けないといけなかった」と、義父の伝手でオイゲンだけで共産主義者の一家に受け入れられ、潜伏生活が始まります。

泣いて抱き合い、最後まで別れを惜しむ母親の姿。

その時オイゲンは、まだ16歳でした。

両親を亡くし、知り合いのユダヤ人一家と過ごしていた孤児のハン二・レヴィ。

ゲシュタポに一家は捕まりますが、着の身着のままハン二は逃げます。

母の友人であるキリスト教徒のベルガー夫人の元に身を寄せ、潜伏生活を始めます。

現在のハンナは、「髪の毛を染めた時、名前も変えたわ。全て自分を捨てた。でももう怯えなくて堂々と道を歩けると思うと嬉しかった」は、微笑みながら当時を回想します。

美容院でブロンドの髪の毛に染めたハン二は当時17歳でした。

そして4人の潜伏生活が始まります。

以下、『ヒトラーを欺いた黄色い星』ネタバレ・結末の記載がございます。『ヒトラーを欺いた黄色い星』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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「一人で今日生きることが精一杯だった。両親のことを考える暇がなかった」

ツィオマはそう話しながら当時のことを語ります。

出征を待つドイツ兵士が空きアパートを探しにいく姿を見て、ツィオマも同じ境遇の兵士に成りすまし空き部屋を転々とします。

ルートは、「だいたい胡散がられて長居を避けてたけど、仕草でわかるんだ。この家主の女性は、ユダヤ人とわかってて優しくしてくれるって」と、いつ逮捕されるか分からない不安の中、友人のエレンとともに戦争未亡人になって外出し始めます。

「ベールを被ると顔が見えにくいし、映画館は暗いから丁度いいのよ」と、ルートは落ち着いた口調で話します。

ある日、道で声をかけられます。振り返ると昔の友人シュテラでした。

彼女は逮捕された時に家族の身柄と引き換えにナチスのスパイとなり、同胞を見つけては密告するという仕事をしていました。

潜伏しているほとんどのユダヤ人は、彼女のことを知っていました。

やがてゲシュタポに追われる二人は、冬の凍てつく中、路頭に彷徨います。

郊外の活動家ヴィンクラーの家に引き取られたオイゲンは、周囲に怪しまれないようヒトラーの青年団の制服を与えられました。

ある日、テレージエンシュタット収容所から脱出してきた男ヴェルナーがヴィンクラーの家に逃げ込んできました。

「皆殺しだ、翌日には全員死んでいる。ガスで殺すんだ!」と、ヴェルナーはユダヤ人虐殺の驚愕の実態を打ち明けます。

オイゲンは「後で本当のことを知ったんだ。ヴェルナーの言うことで、ヴィンクラーが煽られた。奥さんが心配していた」と、真剣な表情で訴えます。

隠れ家を逃げたハン二は、孤独の恐怖に苛まれながら放浪する日々を送っていました。

ある日ハン二は映画館で若い男性に声を掛けられます。

ハン二に好意を寄せるその男性は、明くる日に出征を控えており、映画館の窓口の仕事をしている母親にハンニを助けて欲しいと頼みます。

閉館時間に男性の母親に会いに行き、ユダヤ人であること、逃げ場がないことを伝えます。

「ユダヤ人でもなく活動家でもない普通のドイツ人の母親なのに、匿ってくれたの。もう感謝しかないわ」

静かに語るハン二。

器用な手先を生かしてユダヤ人向けの身分証明書の偽装をして生計を立てていたツィオマは、ユダヤ人を支援すカウフマンという男性に大量の偽造発注の依頼を受けます。

約束は絶対誰にも口外しないこと。

さらに友人のルードヴィヒから元アフガニスタン大使館の作業所を紹介され、多くのユダヤ人の命を救うことのできる闇の仕事に没頭します。
  
「幼い頃の夢だったヨットを買ったよ。友人は路上でもいつ見つかるか恐怖の日々なのにって言われたけどね」

少しはにかんで話すツィオマ。

ハン二は匿ってくれた女性と本当の母娘のような日々を過ごし、絆を育んでいましたが、戦争の終わりが近づく中ベルリンに侵攻したソ連兵が、彼女たちの家に入ってきます。

「私は、ユダヤ人です」

「髪の毛がブロンドじゃないか!」

「染めました。彼女もユダヤ人で、私の母です!」

オイゲンは、ヴィンクラー一家とともに、ナチスの残虐な事実を記事にしたビラ作りに没頭します。

ゲシュタポが迫る中、屋根裏部屋に隠れます。

ルートは友人とともに、ドイツ国防軍のヴェーレン大佐の邸宅でメイドの仕事に就きました。

ヴェーレン大佐は、ルートがユダヤ人と気付きながらも、掃除や子守りの仕事を与えて守ってくれました。

戦争が終わりに近づくある日、大佐は姿を消し、ソ連軍が家に入ってきました。

家の中には、数人のメイドだけ。

「私たちはユダヤ人です」ルートが話している間に、友人が偽造の身分証明書をドイツ人のメイド達に配ります。

ツィオマは、ナチスのスパイ・シュテラに声を掛けられ、カフェに入ります。

ツィオマは、美人のシュテラに惑わされ、隠れ家を見にこないかと誘ってしまいます。

隠れ家に二人で向かう途中で、シュテラは去っていきます。

ツィオマは、「僕は浮かれていた。あれはシュテラの愛だと思った」と静かに語ります。

自転車とカバンを持ち作業所から出て行きます。

「スイスまで自転車で行って逃げようと思った」と、ツィオマは振り返って話します。

オイゲンの隠れ家に、ソ連兵が入ってきます。

「僕たちは、ユダヤ人だ!」

「証明しろ、ユダヤ人の祈りの歌を歌ってみろ!」

友人と必死に歌うオイゲンを見つめながらソ連兵が近づきます。

オイゲンに抱きつくソ連兵。

「ソ連兵にもユダヤ人がいるって知らなかった」

オイゲンは、まっすぐな眼差しで伝えます。

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映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』の感想と評価

(C)2016 LOOK! Filmproduktion / CINE PLUS Filmproduktion (C)Peter Hartwig

「生き延びて!」と映画に何度も叫びたくなる

映画前半のはじめに、現在の証言者としてツィオマ、ルート、オイゲン、ハン二の4人が登場するので、彼らは生き抜いたことがわかります。

少し安堵しながら映画を辿って行くものの、どのようにしてし首都ベルリンでユダヤ人撲滅を進めていく最中生き延びてゆくのか?

4人の選んだ道は、それぞれ凄まじいものでした。

その4人の中でも20歳のツィオマに心を奪われます。

彼は、自分の技能と知能で困難を一つひとつ切り抜けて行きます。常にアンテナを張り、利用できる情報と人材を、とことんコントロールして行く。

鋼のような心を持っているかと思うと、大量の偽造身分証を燃やしてしまったり、自分の身分証明書を何処かへ置き忘れたり、意外にも抜けているところがあります。

それでいて匿ってくれた女性が犠牲になったり、美人のスパイ・シュテラに見逃してもらったり、切なさと優しさを持ち合わせています。

最後には自転車でスイスまで走り、亡命して生き延びています。

ルートという女性も、なぜかドイツ国家防衛軍の大佐の家でメイドとして働き、守ってもらえるのに驚きを隠せません。

もしかしたら大佐は反ナチスだったかもしれません。内部によるヒトラー暗殺が企てられていた事実もあるので、あくまで推測ですがあり得る話です。

17歳だったハン二は、孤児のため最終的に血の繋がりもない、偶然知り合った映画館で働く女性が助けてくれます。

夫を亡くし、息子を戦争に奪われ、戦時下で自分一人の暮らしだけでも大変な状況なのに、自分の命を危険に晒しながら一人のユダヤ人の女性を匿います。

彼女も一介の庶民であることに、愕然とします。

4人とも随所でベルリンの市井の人々に助けられます。

反ナチスでもなく活動家グループがあったわけでもないようです。

小さな地下のつながりはあったものの、ごく普通の庶民が、多くの善意のベルリン市民がいたということををこの映画は、私たちに伝えてくれます。

まとめ

(C)2016 LOOK! Filmproduktion / CINE PLUS Filmproduktion (C)Peter Hartwig

ナチス政権下では、ユダヤ人であることを隠してドイツ人になりすまし、ベルリン陥落後ソ連兵の前では、金髪の髪の毛であろうとユダヤ人だと断言し、ユダヤ人の祈りの歌を歌ってユダヤ人を証明しなければなりませんでした。

歴史の翻弄された彼らの苦しみを知り、心が痛み涙が溢れてきたとき。

今自分にできることは?

次世代に伝えていくことは?

自己のアイデンティティを見つけにく現代社会。そんな今だからこそ、歴史を振り返り、自己の存在とは何か。

映画を通して投げかけられる、ひとつひとつの問いに対して、自分なりの答えを見つけに行きませんか。

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