映画『左様なら』は2019年9月6日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか順次公開!
映像と音楽がコラボレーションした作品を送り出す若手作家の登竜門「MOOSIC LAB 2018」長編部門として制作された映画『左様なら』。
友人を失い、クラスで距離を置かれる存在となってしまった女子高生を中心に、多感で不安定な高校生たちの物語を描いた映画が『左様なら』です。
海辺の町を舞台にした、高校生の群像劇でもある、本作をご紹介します。
映画『左様なら』の作品情報
【公開】
2019年公開
【原作】
ごめん
【監督・脚本】
石橋夕帆
【キャスト】
芋生悠、祷キララ、平井亜門、日高七海、夏目志乃、白戸達也、石川瑠華、大原海輝、武内おと、森タクト、安倍乙、栗林藍希、田辺歩、
武田一馬、田中爽一郎、本田拓海、高橋あゆみ、日向夏、加藤才紀子、近藤笑菜、塩田倭聖、タカハシシンノスケ、こだまたいち、籾木芳仁、小沢まゆ
【作品概要】
TwitterやInstagramで活動し、若い世代の支持を受けている人気イラストレーターごめんの、短編漫画を原作にし、新たなエピソードなどを大幅に加筆した本作。
主人公の岸本由紀役に、2018年に公開された映画『あの群青の向こうへ』で『2018門真国際映画祭』最優秀主演女優賞を受賞し、大河ドラマ『いだてん』にも出演している、注目の若手女優、芋生悠。
由紀の親友、瀬戸綾役に2012年の映画『Dressing up』で、12歳で初出演を果たし話題になった祷キララ。
共演に「MOOSIC LAB 2018」でスペシャルメンション賞(個人賞)を受賞した、日高七海。
「GReeeeN」など、数多くのアーティストのMVに出演している、平井亜門。
2018年まで、メンズノンノモデルとして活躍し、現在は「THE TOKYO」のギタリストとしても活躍する俳優、こだまたいちなど、数多くの新進気鋭の若手俳優が出演しています。
映画『左様なら』あらすじ
高校生の岸本由紀は、気の合う仲間と放課後に喫茶店へ行って話をしたり、幼馴染の飯野慶太の家で、一緒に食事を作って過ごしたりと、平穏な日常を送っていました。
特に、中学生の頃からの友人である瀬戸綾とは、一緒に過ごす事が多く、由紀にとっても大切な時間となっています。
ですが、他のクラスメイトは、綾の少し大人びた雰囲気に距離を置いているようでした。
由紀は、クラスメイトから綾と仲が良い事を不思議がられますが、由紀は「しゃべったらすごく良い子だよ」と気にしていない様子でした。
ある日の放課後、いつものように一緒に下校する由紀と綾。
2人で海を眺めていた時に、由紀は綾から「新しい父親の都合で、遠くへ引っ越す事になった」と聞かされます。
「もう由紀ちゃんと会えなくなるね」という彩の言葉に動揺していた由紀は、綾からキスをされます。
次の日、綾は交通事故で亡くなりました。
綾の葬式の際に、由紀は綾の母親から、これまで仲良くしてくれていた事に、お礼を言われます。
綾が亡くなり、しばらくは由紀のクラスメイトも悲しんでいましたが、やがて「綾は自殺だった」という噂が飛び交うようになります。
綾に関する噂を、気にしない素振りで過ごしていた由紀。
ですが、クラスの中心人物である安西結花が、綾を侮辱する発言をし、それを聞いた由紀は、綾の机に飾っていた花瓶の水を結花にかけます。
教師からは軽い注意だけで終わりましたが、その日から、クラスメイトが由紀に対して距離を置くようになりました。
クラスに居場所が無くなった由紀ですが、忍野皓太という男性に出会い…。
何があっても変わらない「日常」の残酷さ
友人の死をキッカケに、複雑な感情が芽生えた高校生、由紀の姿を描いた映画『左様なら』。
本作で描かれているのは、何も特別ではない、誰もが経験した事があるであろう、普通の高校生の日常風景です。
由紀の友人、綾が亡くなり、しばらくは綾の死を悲しんでいた由紀のクラスですが、しばらくすると、何事も無かったかのうような「日常」が戻って来ます。
しかし、由紀はクラスの中心人物である安西結花へ、水をかけた事により、クラスメイト全員からハブられてしまいます。
由紀にとっては、これまでとは違う「辛い環境」が訪れますが、他のクラスメイトからすると、「由紀をハブる」という新たなルールが加わっただけの、平穏な日常が続くだけなのです。
本作に登場する教師も、生徒たちの問題に積極的に踏み込もうとせず、自身の業務をそつなくこなしているだけのように見え、由紀も教師には最初から何も期待していないように見えます。
高校生というのは、これまでと違い、大人扱いされる事が増え、今後自分たちが生きていく「社会」の存在を意識しする年齢です。
そして自然と社会にも似た、何とも言えない教室内の力関係ができあがり、その力関係を覆す事は難しいように感じます。
本作の監督、石橋夕帆は高校時代を「息苦しさを抱えながらも、輝かしく、代え難い大切な時間だった」と表現し、その頃の空気を教室ごと描く事に、本作で挑戦しています。
クラスメイトの誰かが亡くなっても、無視されるようになっても、ただただ続く日常生活。
そして、その「日常」に潜む、おそらく誰もが感じた事があるであろう残酷さと、平穏に過ごさなければならないという強要、そこから生まれる息苦しさ。
映画『左様なら』では、決して輝かしいだけではなかった、高校生の日常を描いています。
10代という多感な時期をどう過ごすか?
本作では、主人公の由紀を中心に物語が進んでいきますが、由紀のクラスメイト全員にスポットを当てた、群像劇でもあります。
「好きな女子に想いを寄せる生徒」
「バンド活動に励む生徒」
「クラスの中で自分の存在感を出そうとして、空回りする生徒」
「人とのコミュニケーションが苦手で、引っ込みがちな生徒」
「人のいいなりになってばかりの生徒」
など、さまざまな生徒が登場します。
特に、クラスの中心人物である安西結花は、平穏な日常生活に退屈しており、非常に気だるそうな雰囲気で毎日を過ごしています。
逆にクラスでハブられてしまった由紀は、忍野皓太と出会い、価値観が少し変わり始めます。
由紀と結花、この2人を取り巻く環境の変化が、中盤以降の物語の軸になっています。
本作は、高校生活の日常の残酷さを描いているのは前述した通りですが「多感な時期である、高校生活の大切さ」を、さまざまな登場人物により描いた作品でもあり、決して気分が沈んで、暗くなるだけの作品ではありません。
由紀のクラスメイトの中に、かつての自分や、心当たりのある人など、いるのではないでしょうか?
由紀の本心は?
本作の特徴の1つとして、主人公である由紀の本心が、観客にハッキリと伝わらないという部分です。
由紀がハブられる理由となった、結花へ水をかけた理由も「おそらく、綾を侮辱されたからだろう」と感じますが、教師には「何となく」と答えており、真相は分かりません。
クラスメイトにハブられて以降も、学校に行く事を嫌がる素振りは見せず、自分の立場を受け入れているように感じます。
作品全体の、過剰ではない静かで抑え目の演出が、由紀の本心を更に分かりにくくしており、効果的な演出と感じます。
ただ、作中で何ヶ所か、由紀の本心に触れる場面がありますが、由紀の人物像は、観客によって変わるのではないでしょうか?
まとめ
高校生という、多感で不安定な時期を描いた本作。
主人公の由紀は、観客によって印象の変わる人物像となっていますが、そもそも高校生の時期は「自分がどういう人間か?」なんて、分からなかったと思います。
ですが、周囲の人間から一方的とも言える、いわゆる「キャラ付け」をされて、気が付けば教室内の見えない力関係に取り込まれ、例え不本意でも覆す事は難しい状態になっていた気がします。
『左様なら』を観賞し、個人的にその頃のことを思い出しました。
現在、高校生活を送っている方には、いろいろと考えるキッカケを与えてくれる作品だと思いますし、高校生活を遠い昔の思い出にしている大人も、自身の原点を思い出させてくれる作品ではないでしょうか?
映画『左様なら』は2019年9月6日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか順次公開となります。