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のん映画『Ribbon』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。リボンの映像表現は“重苦しく、時にカラフルに降り積もり舞い踊る”彼女の心”

  • Writer :
  • もりのちこ

我慢を強いられる時代。
心だけは自由に未来を諦めないで。

女優のんが、自ら監督・脚本・主演を務めた長編映画『Ribbon』。コロナ禍で青春を奪われていく学生たちの悲しみに触れ、「世の中の擦り切れた思いを少しでも救いたい」という、のんの思いが込められています。


美大生の主人公・いつかは、卒業制作展が中止になり、1年かけて描き続けてきた作品を家に持ち帰ることにします。

色んなことが自粛、中止となり、いつかはすっかり制作意欲を失っていました。心配してくれる家族にも素直になれず当たってしまいます。

それでも、大切な人達との絆や、思わぬ再会により、いつかは自分の未来を切り開くために立ち上がるのでした。

もがき苦しみそれでも前に進んで行く少女の心境を、カラフルなリボンで表現した映像美にも注目です。映画『Ribbon』を紹介します。

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映画『Ribbon』の作品情報


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ
【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本】
のん

【キャスト】
のん、山下リオ、渡辺大知、小野花梨、春木みさよ、菅原大吉

【作品概要】
YouTubeで配信された映画『おちをつけなんせ』で監督デビューを果たした女優のん。劇場公開の長編映画第1作は、コロナ禍で歯がゆい思いを募らせる美大生にスポットを当てた青春映画となりました。

監督・脚本・主演をのんが務め、共演にはNHK連続テレビ小説『あまちゃん』以来の付き合いとなる山下リオをはじめ、渡辺大知、菅原大吉など、これまでアーティストのんと交流があった俳優たちが登場し、息の合った演技を見せてくれます。

また、『シン・ゴジラ』の監督・特技監督の樋口真嗣と准監督・特技統括の尾上克郎が特撮チームとして参加し、リボンアートによる感情表現を描き出しました。

作品は、第24回上海国際映画祭・GALA部門に特別招待作品に選出、公式出品となっています。

映画『Ribbon』のあらすじとネタバレ


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ
イチョウの木が黄色に色づく季節。美大では、学生たちが泣きながら作品を壊しています。コロナ禍の2020年、美大の卒業制作展は中止となり、キャンパスは閉鎖となりました。

浅川いつかは、美大に通う4年生。大きな絵画と重たい荷物を抱え、体中に大量のリボンを纏いふらふらと校舎から出てきました。その様はまるで怪獣のようです。吐き出された言葉は「重たいっ」。

学生たちはこの展示会に向けて大量の時間と能力を使ってきました。完成間近の作品たちは、お披露目される機会を失われ行き場をなくし、制作活動も続けられません。

持ち帰るか壊すか。学生たちはやり場のない喪失感に襲われながらも、どうすることも出来ませんでした。

帰り道に会った親友の平井もまた、卒業制作展にむけて大作を描いていました。持ち帰ることも出来ず一先ず置き去りにするということです。いつかの絵画も大きいサイズではありますが、持ち帰れるだけ良かったのかもしれません。

「こんなに誰かに見て欲しかったんだって実感した。何のために描いてたんだろ。全部ゴミになった気分だよ」。

散らかったままの部屋に持ち帰った絵を飾るも、制作意欲はすっかり消失していました。降り積もってくるリボン。「重たいっ」。

外出自粛が続き、平井ともしばらく会っていません。テレビ電話するのも少し恥ずかしい気持ちです。掃除も洗濯も、絵を描くことも、やらなけでばならないこともあるのに、暇です。

近所の公園でお茶するぐらいいいだろうと出かけますが、ベンチに座るマスクをした男性の視線が気になり足早に帰ってきました。

昼寝をしていると、母が訪ねてきます。全身カッパのフル防備で現れた母に呆れつつも、久々の人との再会で心が安らぐようでした。

しかし、母がいつかの書きかけの絵を捨てたことで大喧嘩になってしまいます。「お母さんには作品なのか分かんなかった。遊びだと思って」。母の言葉に傷ついた、いつか。

でも返す言葉もありません。鋭く突き刺さるように向かってくるリボンたち。本気で描いてない自分への苛立ちでした。

次の日、父が顔を出します。こちらもマスクにフェイスシールド、変質者撃退用の棒を携帯しソーシャルディスタンスを保ちながらやってきたと言います。警察の職務質問に合うのも納得です。

母から様子を見てくるように頼まれた父に、ますます当たってしまういつかでしたが、心配してくれる両親の気持ちも分かります。こみ上げる涙。赤と黒の金魚になったリボンが、ゆらゆらと漂います。

ストレスでおでこの真ん中にニキビ発生。公園では例の怪しい男に遭遇。家に戻ると、全身黒づくめでフードを被りサングラスをしたさらに怪しい人物が待ち受けていました。血は争えません。妹のまいでした。

「絶対になりたくないの」と除菌スプレーを振りまき、携帯する検温器で姉の熱を測る妹。めんどくさくても、気の合う妹との会話は久しぶりにテンションが上がります。

じゃあ、またね。お別れのハグも我慢しました。その日は、絵に向かい絵の具を絞り筆をとりました。でも、筆先からリボンが1本飛び出し、くるくると昇っていくだけでした。

以下、『Ribbon』ネタバレ・結末の記載がございます。『Ribbon』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ
「空っぽ」。公園でひとりおにぎりを食べるいつか。そんないつかに例の怪しい男が話しかけてきました。「浅川だよね?中学の同級生の田中だけど」。

マスクで目しか見えないし、声も変わってるし、髪型も違うし。いつかは、名前に憶えがあるも顔をいっさい思い出せません。

「不審者だと思ってたでしょ」と疑う田中に「そんなことないよ」と慌てるいつか。後ろには、父親の置いていった不審者撃退棒を持参していました。

帰り道、実家にいるまいに電話し、卒業アルバムの田中の写真を送ってもらいます。まいは、田中のことを憶えているようです。「お姉ちゃんの絵を褒めてくれたヤツじゃん」。

それで一気に思い出しました。絵にリボンや包装紙がくっついた作品を皆が変だと言った時、田中だけがカッコイイと褒めてくれたのでした。卒業の日にその絵をプレゼントした苦い思い出も蘇ります。

田中の言葉は、いつかが絵にのめり込むきっかけを作ってくれたものでした。しかし、彼は本当に田中君なのか。いつかは顔を確かめたくてしかたありません。

田中がいるであろう時間に公園で張り込みを続け、時にゼリーやメロンパンと差入れ作戦を決行。食べる姿を狙ういつかでしたが、ことごとくタイミングが合いません。

そんな中、親友である平井から久しぶりに連絡が入ります。「退学になるかもしれない」と告白する平井。

聞けば、閉鎖されたキャンパスに忍び込み絵を描き続けていたと言います。大学院に進む平井の無茶な行動に激しく怒るいつか。「みんな、我慢してんだよ」。

「なんで、書きたい絵を描いてて怒られなきゃなんないの」。いつも冷静な平井でも、不安と焦りで押しつぶされそうになっていました。

そしてその日は、いつかの内定先から就職取り消しの連絡が入る日でもありました。描きかけの絵をぐるぐるに縛り、ゴミ置き場へ運びます。擦り切れた傷口から、赤いリボンがドクドクと現れ壁に血管のように張って行くのが見えます。

次の日の朝早くいつかを訪ねた平井は、「自分の絵を持ち帰りたいから協力して」とお願いします。「どうなってもいいから」。

2人は夜の大学に忍び込みました。平井の絵が待っていたかのように佇んでいます。「世の中の人、芸術なくても生きていけるんだって」「異常だね、うちらも、みんなも」。

絵に斧を突き刺す平井。いつかもハンマーを打ち付けます。バキボコッ、破壊されていく絵。涙を流しながら破片をかき集めるいつかに、平井はどこかスッキリした表情で「ありがとう」と声をかけました。

次の日、公園で会った田中は、いつかの捨てたはずの絵を持っていました。実は同じアパートに住んでいた田中は、ゴミ置き場で絵を見つけ拾っていたのです。

「このくらい離れてればいいかな。しゃべった気がしなくて」と、マスクを外した田中は、絵を差し出し「やっぱ、この絵、カッコイイよね」と笑うのでした。

田中だと実感したいつかは、気になっていたことを聞きます。「卒業式に渡した絵ってどうしてる」。

そんないつかに田中は「あの絵の飾り方をずっと聞きたかったんだ」と答えます。当然のように持ち続けていてくれた田中の様子にあの頃の感情が沸き上がってきます。「ありがとう。私、頑張るね」。

手元に戻って来た絵に、改めて向き合ういつか。「ゴミじゃない!」。自分の身体から生み出されたリボンに筆の色が乗り、絵の中へ溶け込んでいきます。

青空が広がる気持ちいい天気の日。いつかは自分の部屋の玄関に「卒業制作展」の看板を付けました。お客さんが入ってきます。平井でした。

部屋中に張られたカラフルなリボン。レースの幕を潜り抜けると、真ん中に装飾された「いつかの自画像」が鎮座しています。平井の絵の破片たちもリボンで縫い合わされています。

「キレイ」。2人の顔には笑顔があふれていました。いつかの足元から黄色のリボンが1本飛び出し、まるで踊っているかのように青空へと飛び出していきました。

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映画『Ribbon』の感想と評価


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ
女優のんが監督・脚本・主演をつとめた映画『Ribbon』。コロナ禍で卒業制作展が中止になった美大生の「自分の作品がまるでゴミのように思えてしまった」というインタビューを見て衝撃を受けたのんが、「人々の擦り切れた思いを救いたい」という思いで製作した作品です。

突然世界を襲ったパンデミックで、町はロックダウン、日常生活が脅かされ、外出自粛が余儀なくされた2020年。先の見えない状況に、映画やライブ、演劇やアート展などエンターテイメントは軒並み中止、不要不急なものとされました。

今作はそんなコロナ禍で、行き場のない苛立ちを抱えストレスに耐える学生にスポットをあて、芸術を生み出すアーティストの目線で描かれています。

全体的にナーバスになりそうな題材でありながら、映画自体はユーモアが散りばめられ、前向きで明るい印象が残ります。

コロナ禍に限らず、人生には自分の力ではどうしようもない事柄が起こるものです。そんな時の乗り越え方、ヒントを与えてくれる作品でもあると感じました。

主人公のいつかは、卒業制作展が中止になり絵を持ち帰りますが、目標を失くしたことで制作意欲も失っていきます。

だらだらと時間が過ぎて行く中、不安と焦りで家族に当たってしまったり、疑心案義になってしまったり、現実から目を逸らしてしまったり。

いつかの心情の変化に合わせて登場する「リボン」は、時に重苦しく、時にカラフルに、降り積もり、舞い踊り、彼女の心を表現します。

そのリボンの様子に、見る者は共感したり心配になったり、いつかの心に寄り添うことができます。1本のリボンというツールで気持ちを表現する手法にアートを感じます。

そして、最後にいつかが自分の作品ともう一度向き合う時に言う台詞「ゴミじゃない」どんなものでも、やりたいことに費やした時間はムダではないし、自分が心を込めて制作したものは、決してゴミではない。監督の熱いメッセージが伝わる台詞です。

自分と重ね合わせて生み出したであろう主人公いつかを、監督自ら演じるのんの演技は、等身大そのもので、まるでドキュメンタリーを観ているかのようです。


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ
また、映画『Ribbon』の登場人物は誰もが魅力的です。いつかの親友・平井を演じたのは、のんと『あまちゃん』で共演した山下リオ。『あまちゃん』ファンにはたまらない「GMTメンバー」の再共演に胸アツでした。

平井は、オシャレでクール、自粛中も早起きを続け生活を乱さないタイプです。いつかとは正反対の性格のようで、実はいつかが驚くほどの情熱を胸に秘めています。

平井が本当の心の内を吐き出すシーンは痛々しく、誰もが感じた行き場のない悲しみを体現してくれます。

いつかが公園で出会う謎の男性・田中。物語の重要人物であり、癒しの存在でもあります。いつかと田中のソーシャルディスタンスがどう変わっていくか注目です。

演じるのは、のんが以前フェスで共演し、ぜひ映画に出て欲しいとオファーをした渡辺大知。クセの強い役柄が続く彼の、久々となる素朴な青年役にほっこりします。

そして映画全体の雰囲気を明るくしてくれる、いつかの家族の面々。密を避けるために1人づつ訪ねてくるも、父、母、妹と揃って過剰なコロナ対策をほどこし、スペシャルな出で立ちで登場します。

その姿は滑稽ですが、この時代を生き抜くたくましさを感じます。どんな時も、互いを心配し、励まし合い、支え合う家族の姿に安心感を憶えます。

どんなに辛い時でも必ず誰かは見ているし、新しい絆は生まれ、努力は報われる。そう信じられる作品となっています。

まとめ


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ
コロナ禍で、中止を余儀なくされたエンターテイメント。その悔しさを乗り越え前に進む若者の姿を描いた映画『Ribbon』を紹介しました。

女優のんが、アフターコロナにおいて、エンターテイメントの重要性を再確認してもらいたいという気持ちを込めた渾身の作品です。

主題歌は、のんの熱烈なオファーで実現したサンボマスターの書き下ろし曲「ボクだけのもの」。「君の翼は消えていないよ」と歌う温かみのある歌詞が、この作品を見事に表現し心を打ちます。

やってきたことは決して無駄じゃない。ましてやゴミなんかじゃない。頑張ってきた者の背中を押してくれる映画です。




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