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Entry 2020/06/04
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映画『ドンテンタウン』感想レビューと内容評価。佐藤玲×笠松将W主演「MOOSIC LAB 2019」長編部門の準グランプリ受賞作

  • Writer :
  • 山田あゆみ

映画『ドンテンタウン』は2020年7月17日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

音楽×映画の祭典「MOOSIC LAB2019」にて、長編部門準グランプリを受賞した映画『ドンテンタウン』が公開されます。監督は本作が初の長編映画作品となる井上康平。

日本の「団地」を舞台に、曇り空ばかりのまちで出会ったふたりの男女の記憶と現実が交差する青春映画です。

若手実力派女優の佐藤玲が透き通った歌声を披露し、注目度ナンバーワン俳優の笠松将が彼ならではの存在感を見せています。

映画『ドンテンタウン』の作品情報


(C)2019 osampo/MOOSIC LAB

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
井上康平

【音楽】
菅原慎一

【キャスト】
佐藤玲、笠松将、山本亜依、牛尾竜威、岩崎咲、森田ガンツ、安楽涼、伊藤こうこ、笈川健太、鶴岡千聖、松浦祐也

【作品概要】
監督は本作が初の長編映画作品となる井上康平。2018年に短編映画『ドキ死』でMOOSICLAB短編部門でグランプリほか3冠に輝いています。

音楽を担当したのはロックバンド、シャムキャッツのギタリスト菅原慎一。自身初のソロデビュー作として、本作のサウンドトラック全編を手掛けています。

ソラ役の佐藤玲は、中学生の頃から劇団に所属し演技を学び、2012年蜷川幸雄脚本の舞台『日の裏姫物語』でデビュー。坂本悠花里監督の映画『おばけ』(2014)で初主演を務めMOOSIC AWARDS2014女優賞を受賞。

マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙サイレンス』(2015)や、小林啓一監督の映画『殺さない彼と死なない彼女』(2019)など話題作にも出演している実力派女優です。

また、映画のドラマ版『架空OL日記』にも出演、リクルートリクナビネクストやサランラップなど数々のCMをはじめ、ミュージックビデオにも出演しており、今後の活躍に注目を集める女優のひとりです。

トキオ役の笠松将は、中川俊監督の映画『カランコエの花』(2018)やふくだももこ監督の映画『おいしい家族』(2019)、山田孝之プロデュース、藤井道人監督の映画『デイアンドナイト』(2019)など注目作に多く出演し、『花と雨』(2020)では主演を務めた今最も期待の若手俳優です。

他にもTVドラマシリーズ「有村架純の撮休」や「黄昏流星群」、ネットフリックスドラマ『Followers』など多数に出演しており、さまざまな役どころを見事にこなしその演技力に注目が集まっています。

映画『ドンテンタウン』のあらすじ


(C)2019 osampo/MOOSIC LAB

作曲の仕事に行き詰ったシンガーソングライターのソラ(佐藤玲)は、団地へと引っ越してきます。

前の住人のトキオ(笠松将)の持ち物が多く残った部屋に住むことになった彼女はある日、カセットテープを見つけます。

そこに入っていたのは贋作画家をしながら母親との関係や人生に迷うトキオの日常のつぶやきでした。

ソラはそのテープを聞きながら、トキオの心の揺れ動きに想い馳せる日々をおくるようになります。

映画『ドンテンタウン』の感想と評価

(C)2019 osampo/MOOSIC LAB

さえない日々に差し込む“光”

本作は、タイトルにもあるように「曇天(ドンテン)」のようなもやもやした人生の迷いの中にいる若者にスポットライトが当たった作品です。

監督曰く本作はSF映画だそうで、夢と現実をふわふわ行き来するような不思議な感覚が漂うのが特徴といえるでしょう。

61分という短尺ながら、ソラの夢の中にトリップするような展開は観るものを惹きつけます。

曇り空しかない団地というシチュエーションに加え、カセットテープの存在が懐かしさを漂わせ、だれもが経験しうる人生の挫折や閉塞感を記憶のなかで見つけたような感覚を覚えるかもしれません。

その隙間から希望をみつけた彼女が、透き通った歌声で歌い、眩しい光に包まれるシーンに心がほどかれていくような気分になるでしょう。

不安や迷いに心が閉じ込められてしまった人々をそっと癒すような作品かもしれません。

佐藤玲×笠松将ダブル主演

本作の大きな魅力のひとつは、主演俳優ふたりの演技です。

ソラ役の佐藤玲はほどよく力の抜けた自然体の雰囲気を纏い、本作の世界観ぴったりのやわらかい歌声を披露していました。その透明感溢れるシーンは必見です。素朴ながらも彼女にしかない存在感が光っていました。

トキオ役の笠松将に関しては、まずカセットテープから聞こえる声からその独特な魅力が感じられます。

そしてトキオの「アロハシャツを着た贋作画家」という少し奇抜な設定に、どこにでもいる人生に迷う青年として命を吹き込み、彼だけの味わいを出しています。

アドリブと思うような少年との自然なやりとりは、団地でのひとコマとして非常に印象深いシーンです。

役を自分のものとして消化し、さらに進化させる彼の才能は今後も様々な作品で観ることになるでしょう。

まとめ

(C)2019 osampo/MOOSIC LAB

井上監督はインタビューでこのように話しています。

言葉だけじゃ伝わらない空気や温度、団地の匂いや、人々のやりきれない想い、その全てを眺めるようにこの映画に詰め込みました。
今は曇りでも、次の晴れ間を信じる人に届くことを願って。

まさに社会の状況が日に日に変わっている今、「次の晴れ間」を信じる人は多くいるのではないでしょうか。

映画『ドンテンタウン』は2020年7月17日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


 

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