ダニエル・ラドクリフが実在の脱獄囚を演じるポリティカル・スリラー
自由と平等を求めて“木鍵”使って脱獄を企てた男たちの実話
「ハリー・ポッター」シリーズ(2001~11)のダニエル・ラドクリフ主演最新作となる、映画『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』が、2020年9月18日(金)よりシネマート新宿、ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国順次ロードショーされます。
1970年代、南アフリカ共和国で反アパルトヘイト組織に加わり、刑務所に投獄されるも、木片で作った鍵を使って脱獄を図った男たちの実話を描きます。
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映画『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』の作品情報
【日本公開】
2020年(イギリス・オーストラリア合作映画)
【原題】
Escape from Pretoria
【監督・共同脚本】
フランシス・アナン
【原作】
ティム・ジェンキン著「脱獄」(同時代社刊)
【製作】
マーク・ブレイニー、ジャッキー・シェパード、デビッド・バロン、ミシェル・クラム、ゲイリー・ハミルトン
【脚本】
L・H・アダムス
【キャスト】
ダニエル・ラドクリフ、ダニエル・ウェバー、イアン・ハート、マーク・レナード・ウィンター
【作品概要】
「ハリー・ポッター」シリーズ、『スイス・アーミー・マン』(2016)のダニエル・ラドクリフ主演によるポリティカル・スリラー。
1978年の南アフリカで、反アパルトヘイト組織に参加し投獄されたティム・ジェンキンが、刑務所から脱獄を図ったという実話を映像化。
長髪で髭面のティムを演じたラドクリフが、新たな境地を開拓しました。
そのほか、ティムの相棒スティーブン・リー役を『デンジャークロース 極限着弾』(2020)のダニエル・ウェバーが、『ハリー・ポッターと賢者の石』でもラドクリフと共演したイアン・ハートが終身刑囚のデニスを演じます。
監督は、本作が長編映画デビューとなるフランシス・アナンです。
映画『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』のあらすじ
1978年6月、南アフリカ。
青年ティム・ジェンキンは、白人でありながら反アパルトヘイト組織「アフリカ民族会議(ANC)」に加わり、同胞のスティーブン・リーとともに、自ら設計した起爆装置でアパルトヘイト廃止を訴えるチラシを街中にバラ撒く活動を行っていました。
しかし、張り込んでいた警察に2人は逮捕され、白人の政治犯が集まるプレトリア刑務所に収監されます。
ティムとスティーブン、そして獄中で知り合ったレオナールの3人は、刑務所からの脱獄を計画するも、ANCメンバーでネルソン・マンデラと一緒に終身刑の判決を受けたデニスは、「脱獄など無理だ」と苦言を呈します。
それでも模索の末に、ティムは木片で鍵を作り、扉を開けて脱獄する方法を思いつきます。
無謀と思われながらも、鍵を作っては解錠を試みる日々を繰り返し、出口までの鍵を徐々に完成していくティム。
はたして、彼らの脱獄計画の行く末は?
映画『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』の感想と評価
反アパルトヘイト闘争に挑んだ白人青年たちの実録ドラマ
本作『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』は、南アフリカで政治運動家として活動したティム・ジェンキンの自伝「脱獄」(同時代社刊)を映画化したものです。
1948年にティムが生まれて2年後の1950年に、国民党によるアパルトヘイト政策により、ネイティブ・アフリカン(黒人)を筆頭とする非白人の隔離が行われます。
そんな中、白人優越の環境で育ったティムは、大学で社会学を学ぶうちに南アの現実に疑問を抱くようになり、やがて同窓生のステファン(映画ではスティーブン)・リーとともに、ネルソン・マンデラ率いる南ア最大の反アパルトヘイト組織「アフリカ民族会議(ANC)」に参加。
街中にビラ爆弾を設置して政治犯として逮捕されながらも、人種差別撤廃を求めて抗い続けました。
原作「脱獄」では、そうしたティムの生い立ちやANCに参加した後の活動、さらには脱獄後の逃走経路などについても掘り下げられています。
ちなみにティム本人は、本作でアドバイザーとして参加しつつ、囚人役でカメオ出演もしています。
参考:原作者ティム・ジェンキンとフランシス・アナン監督によるリモート対談
“木製の鍵”でのトライ&エラー
刑務所からの脱獄を描いた、いわゆる「脱獄もの」映画にハズレなし、とよく言われます。
軽く挙げるだけでも、『抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-』(1956)、『穴』(1960)、『パピヨン』(1973)、『アルカトラズからの脱出』(1979)などがあり、本作が長編映画デビューとなるフランシス・アナン監督も、これらの作品を参考にしたと語っているほどです。
「脱獄もの」映画の一番の醍醐味は、主人公がいかにして脱獄するのかという、そのプロセスにあります。
例えば『抵抗~』ではスプーンで作ったナイフでベッドをロープに仕立てたり、『アルカトラズからの脱出』ではスプーンで壁を掘りつつ紙で顔のダミー人形を作るなど、創意工夫で脱獄アイテムを作る描写が見どころでした。
そして本作では、木片で作った“鍵”が脱獄アイテムとなります。
鉄製のドアを開けるために、木製の鍵を使う…無謀ながらも、ティムは看守が持つ鍵を盗み見てその形状を記憶すれば、紙に書き起こす作業を行います。
看守の隙を突いては施錠を試み、失敗しては新たに作成するというトライ&エラーを繰り返すティム。
そうした、原作「脱獄」でも詳細に記されたDIYで脱獄を図るプロセスを、本作ではスリル度を高めた描写で映像化しており、観ていて息を呑むのに十二分な効果を発揮しています。
難役に挑み続けるダニエル・ラドクリフの新境地
なぜか頭に角が生えてしまった無実の殺人容疑者(『ホーンズ 容疑者と告白の角』)、無人島で役に立つ死体(『スイス・アーミー・マン』)、両手に拳銃を固定されるオタク青年(『ガンズ・アキンボ』)などなど、出世作「ハリー・ポッター」シリーズのイメージを払拭するかのように、キャリアを重ねるごとにバラエティに富んだ役柄を演じてきたダニエル・ラドクリフ。
本作では、実在の政治活動家にして脱獄囚のティムを演じます。
実は母方の祖父が南アフリカ人というラドクリフは、長髪でヒゲ面という風貌で臨み、劇中で喋るアフリカ訛りの英語発声は、ティム本人のお墨付きを得たほど。
少ないセリフ量ながらも、表情や仕草で脱獄に執念を燃やすティム役は、彼にとっても新たな境地へのステップアップとなることでしょう。
また、「ハリー・ポッター」では魔法の箒(ほうき)に乗ったラドクリフでしたが、本作でも意外な形で箒(ブラシ)を活用するのも見どころです。
まとめ
「脱獄もの」でありながら、金庫の鍵を開ける強盗団が主人公のケイパー・ムービーの要素を含んだ本作『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』。
しかし、ティムやスティーブンが求めたのは、金品ではなく自由。
ひいてはその自由は、抑圧されてきた非白人たちの自由にもつながります。
脱獄はアパルトヘイト体制といわゆるその合法的体制に対する挑戦的行為でもあった。それはアパルトヘイトの「法律」と「裁判」に対する否定の態度表明なのだ。
――ティム・ジェンキン著「脱獄」(同時代社刊)より
そう語るティムは、劇中で木製の鍵を握り、「これが我々が戦う方法だ」と高らかに主張します。
暴力に頼らず、忌まわしき体制と戦う男たちが到達するクライマックスは、手に汗握ること必至です。
映画『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』は、2020年9月18日(金)よりシネマート新宿、ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国順次ロードショー。