映画『ペイン・アンド・グローリー』は6月19日(金)TOHOシネマズシャンテ他ロードショー予定
映画『ペイン・アンド・グローリー』は、長年の体調不良もあり引退同然の状態だった映画監督が、自分の32年前の作品に触れることで、かつての輝きを取り戻すまでの姿を描いたペドロ・アルモドバル監督の作品です。
主演は長年タッグを組んで来たアントニオ・バンデラス。アカデミー賞女優のペネロペ・クルスが共演します。
ペドロ・アルモドバル監督は、この作品は、1987年の『欲望の法則』と2004年の『バッド・エデュケーション』に続く3部作になると語っています。
映画『ペイン・アンド・グローリー』劇中では32年前の映画が大きなカギとなりますが、偶然にも、現実世界でも『欲望の法則』から『ペイン・アンド・グローリー』までの間に32年の月日が経っています。
映画『ペイン・アンド・グローリー』の作品情報
【日本公開】
2020年(スペイン映画)
【原題】
Delor y Gloria
【脚本・監督】
ペドロ・アルモドバル
【キャスト】
アントニオ・バンデラス、アシエル・エチュアンディア、レオナルド・スバラーリャ、ノラ・ナバス、フリエタ・セラーノ、セザール・ヴィセンテ、アシエル・フローレス、ペネロペ・クルス
【作品概要】
『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999)『トーク・トゥー・ハー』(2003)のペドロ・アルモドバル監督の作品。第72回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞し、第92回アカデミー賞でも2部門ノミネートされました。主演は長らくペドロ・アルモドバルとコンビを組み続けるアントニオ・バンデラス。本作でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞、初めてのアカデミー賞ノミネートも受けました。共演にはアカデミー賞女優のペネロペ・クルスも。R15作品。
映画『ペイン・アンド・グローリー』のあらすじ
スペインを代表する映画監督のサルバドールは、引退同然の生活を送っていました。
背中の痛みに膝と肩の炎症、耳鳴りや頭痛などの体調不良を抱えているうえに、4年前の自分の母の死を乗り越えられずにいました。
そんなある日、32年前の作品『風味』が再上映されることなり、サルバドールは主演のアルベルトとティーチインをすることになります。
しかし、サルバドールとアルベルトは、その演技に巡って対立し、プレミア上映の後から絶縁関係にありました。サルバドールは何とか和解しようとアルベルトを訪ねます。
アルベルトは戸惑いを感じながらも彼を迎え入れます。サルバドールはアルベルトの家でヘロインを試し、抱えていた痛みが和らいでいくのを感じます。
サルバドールは幼い頃に母親と暮らし始めた頃のことを思い出していました。数日後、今度はアルベルトがサルバドールを訪ねてきます。
肝心のサルバドールはヘロインで朦朧としている状態です。その時偶然、PCの中にあった『中毒』というタイトルの脚本をみたアルベルトは、これを独り芝居で上演したいとサルバドールに訴えます。
しかし、サルバドールはかたくなに拒みます。ヘロインに溺れるようになったサルバドールは、ティーチイン当日も会場に訪れずにトラブルを起こしてしまいます。
後日、サルバドールはアルベルトへの謝罪の気持ちを込めて『中毒』の上演を認めます。『中毒』はサルバドールの自伝的な物語でした。
『中毒』は1981年の恋人たちのつらく悲しい別れの物語でした。上演された舞台を見ていた男が、サルバドールを訪ねてきます。男の名はフェデリコ。かつて、サルバドールが愛した人でした。
サルバドールとフェデリコは、フェデリコのヘロイン中毒が原因で別れてしまいました。フェデリコはその後、中毒を克服、偶然立ち寄った先でアルベルトの舞台を見ることになりました。
30年以上の時を経て再会するサルバドールとフェデリコ。フェデリコとの再会により、自分がなくした愛の“痛み”(=ペイン)と忘れていた“栄光”(=グローリー)を思い出します。
その後、改めて医師の治療を受けたサルバドールは、ヘロインと決別して新作の準備に入ります。
映画『ペイン・アンド・グローリー』の感想と評価
映画『ペイン・アンド・グローリー』の主役はアントニオ・バンデラス。彼は、90年代から00年代では『エビータ』(1996)『マスク・オブ・ゾロ』(1998)「デスペラード」シリーズなどのハリウッドアクション・娯楽作品で主役を務めてきました。
ハリウッド作品が多い彼ですが、本作を見るとやはり彼が引き立つのはスペイン映画ではないでしょうか。
彼はペドロ・アルモドバル監督の作品には、ハリウッド進出する直前までに4作品、そして2010年代から3作品に出演しています。
その間に『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999)や『トーク・トゥー・ハー』(2003)などで、ペドロ・アルモドバル監督は、一気に国際的な地位を掴みましたが、そこにはアントニオ・バンデラスは不在でした。
コンビ復活となったのはちょうどバンデラスが50代に入った頃で、それまでのギラギラ感がちょっと薄まって、いい具合に枯れてきた時期に重なります。
アルモドバル監督はバンデラスより10歳ほど年上ですが、ここ数作を見ると感性はそのままに円熟味が加わってきた感があります。
“枯れの魅力”が様になってきたアントニオ・バンデラスと円熟味が増してきたペドロ・アルモドバル。2人が本領を発揮するのはこれからかもしれません。
まとめ
映画監督を主人公にした作品は、たくさんあります。クラシックな名作フェデリコ・フェリーニの『81/2』(1965)やティウ・バートン監督の『エド・ウッド』(1995)、ウディ・アレンの『さよなら、さよならハリウッド』(2002)などなど。
ウディ・アレンでいえば『ミッドナイト・イン・パリ』(2012)は映画脚本家の話です。J・J・エイブラムスのスピルバーグへのラブレターともいえる『SUPER8/スーパー8』(2011)の主人公も8mmカメラを片手に持っています。
最近では故若松孝二監督と若松プロダクションを描いた『止められるか、俺たちを』(2018)がありました。大抵の場合、そこに登場する映画作家は映画監督の自信を投影した存在であることが多いです。
本作『ペイン・アンド・グローリー』の主人公サルバドールにも、ペドロ・アルモドバルの分身といえる部分があります。
そういう意味でも、ペドロ・アルモドバルが気心の知れたアントニオ・バンデラスに主人公を託したのは正解といえるでしょう。
そして、70歳を迎えたペドロ・アルモドバルは、今までの人生と激動のスペインを主人公サルバドールに投影することも忘れていません。
国際的な知名度をどれだけ高めようとも、スペインから離れないペドロ・アルモドバルの矜持を感じます。
映画『ペイン・アンド・グローリー』は6月19日(金)TOHOシネマズシャンテ他ロードショー予定