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『優駿』映画原作ネタバレあらすじと結末の感想評価。宮本輝おすすめ小説“馬に夢をかける人々の人生”を爽やかに綴る

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『優駿 ORACION』原作の宮本輝の小説『優駿』のご紹介

一頭の競走馬をめぐる牧場主や馬主、調教師、厩務員、騎手などさまざまな人々の生き様を描いた、宮本輝の小説『優駿』。

仔馬の誕生からずっと見守り続けた牧場の渡海博正と、後に仔馬の持ち主となる和具久美子の触れ合いを描きつつ、仔馬の成長とともに募る人々の「馬にかける夢」を描きます。

馬に人生の夢をかける人々の姿を感動的に描いた本作は、1988年に杉田成道監督によって『優駿 ORACION』というタイトルで映画化されています。

サブタイトルの「ORACION」はオラシオン」と読み、仔馬の名前です。スペイン語で「祈り」という意味があります。

物語のコンセプトを担うタイトルとも言える、宮本輝の小説『優駿』をネタバレ有りでご紹介します。

小説『優駿』の主な登場人物

【渡海博正】
牧場「トカイファーム」の後継者。「オラシオン」を誕生から見守っています。

【渡海千造】
北海道の小さな牧場「トカイファーム」を営む牧場主。一世一代の夢をかけた仔馬「オラシオン」を生み出します。

【和具平八郎】
和具工業株式会社の社長。「オラシオン」に自らの夢を託します。

【和具久美子】
平八郎の娘。父に「オラシオン」をねだって譲り受ける。

【田野誠】
平八郎と愛人・田野京子の間に誕生した息子。久美子の異母弟。

【奈良五郎】
「オラシオン」の騎手。

【多田時雄】
「和具工業株式会社」の社長秘書。和具社長の信頼厚い部下で、「オラシオン」の名付け親。

小説『優駿』のあらすじとネタバレ


宮本輝『優駿』新潮文庫; 改 edition (November 28, 1989)

北海道の小さな牧場・トカイファームでは、渡海博正の父千造の夢の掛け合わせによる出産が迫っていました。

競走馬の長距離レース、ダービーなどは牡が圧倒的に有利とされています。ゆえにそのDNAを子孫に受け継がそうと、馬の生産者たちは、優秀な馬同士を掛け合わせ、競走馬の優れたDNAを持つ仔馬の誕生を狙っていました。

千造も一攫千金の夢を持ち、持ち馬の優秀牝馬ハナカゲにアメリカの優秀牡馬ウラジミールを掛け合わせます。

博正は、優れた牡馬の誕生をシベチャリ川に祈りました。

その頃、牧場には、トカイファームの上客和具工業の社長の和具平八郎と娘の久美子が滞在していました。博正も久美子も高校を卒業したばかりで同い年でした。

その日の夜中、ハナカゲは無事に出産しました。生まれたのは、真っ黒な身体に額に星型の白毛がある待望の牡の仔馬でした。

博正は大喜びで一生懸命に仔馬の世話をします。誰ともなしにクロとよばれるようになったその仔馬は、立ち姿も美しい、立派な競走馬の素質を持つ馬に成長していきました。

人目で優秀な馬とわかるクロには買い手も多くいましたが、千造は和具平八郎にクロを売りました。

しかし、平八郎にはその頃会社の運営とは別の問題が起こっていました。実は、平八郎には部下であった愛人との間に子どもがいたのです。

きっぱりと別れる代わりに子どもは産ませてほしいというその願いを聞き入れて、子どもが生まれてからも一度も関わりを持っていなかったのですが、15歳になるその子・誠が重症の腎不全にかかっていると知らされます。

助かる方法はただ一つ、同じ血液型の父親の腎臓移植しかないというのです。

平八郎は誠と同じ血液型でした。15年も全く放置していた我が子に腎臓を移植してやれるのか、と平八郎は人知れず苦しみます。

妻はともかく娘の久美子に打ち明けるべきかどうかでも悩みました。

久美子は平八郎の様子がおかしいことに気がつき、平八郎を突き詰めます。そして、自分に弟がいてその子が腎不全で入院していることを聞かされました。

すかさず、久美子はトカイファームでハナカゲが生んだ仔馬の馬主にしてくれるなら、母に黙っていると、交換条件を出しました。

条約は成立しました。仔馬は久美子のものになり、平八郎の秘書の多田がスペイン語で「祈り」を意味する「オラシオン」と命名しました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『優駿』ネタバレ・結末の記載がございます。『優駿』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

クロ改めオラシオンは、北海道で順調に育ち、育成のため小さなトカイファームから大牧場の吉永ファームに移送して育てられていました。

馬体には気品が漂い、競走馬として申し分ない骨格が表す通りによく走ります。3歳馬になるとデビュー戦を迎え、勝ち鞍を重ねています。

博正は、トカイファームを小規模でも日本有数の牧場にしようと夢を抱きました。そのために10年単位での目標を立て、まず餌となる草づくりから始めました。

博正が懸命に牧場を大きくしようと計画し出して、まもなく千造が病気になり余命宣告を受けます。

一方、和具工業も経営が危うくなり吸収合併され、社長の平八郎が失脚しました。平八郎を欺いた形で会社に残った多田は存続の危うい部署に配属されました。

オラシオンがまだ手元に残った平八郎は、廃業する牧場を入手し、共有馬主システムの会社設立を構想しています。

オラシオンのダービー出走が決まりますが、渡海千造が亡くなりました。その前には、久美子の腹違いの弟の誠やオラシオンの母馬ハナカゲも死んでいました。

千造の葬儀の翌日、平八郎は会社設立の計画と協力を博正に切り出しますが、その成功のためにはオラシオンのダービー優勝が外せない条件でした。

彼は、オラシオンが仔馬だったころ、何度も何度も話しかけた言葉を思い出します。

「俺も父ちゃんも、お前が走るダービーを観に行くからな」。

一方、オラシオンに乗る騎手の奈良五郎は、自己の妬みから発した一言で、ライバル騎手とかつての愛馬の落馬死亡事故を引き起こしたという負い目を抱えていました。

奈良は、命知らずと言われるほど、昔と比べて変貌していたのですが、彼自身も自分の再起をかけてレースに臨みます。

新緑の5月、観衆12万余の府中東京競馬場で、23頭立て2400mの大レースがスタート。オラシオンの関係者はそれぞれの思いを抱いてレースを見守ります。

オラシオンは激走してトップでゴールするも、走路に斜行があったと審議されます。

会社設立の夢がかかる平八郎と博正ははらはらして見守ります。けれども、神が味方したのか、入着順で確定し、オラシオンはダービー優勝馬に輝きました。

「生産者」と書かれた台の上に、渡海博正が直立不動で立っているのを、多田はみつめていました。それは、博正が自分の夢を成就させた瞬間でした。

その姿を見て多田は、オラシオンのレースの勝敗について、本当に勝ったと言えるのは、トカイファームの青年だけだ、と思います。

そして、風の渦巻く夜のトカイファームが多田の心に広がり、人間の深い一念の力にひれ伏したい思いに捉われました。

小説『優駿』の感想と評価

物語の始まりは、主役となる仔馬の誕生です。牧場主の渡海千造は借金をしてでも自分の成し得たい夢をかけて、素晴らしい駿馬を生み出そうとしていました。

母馬父馬とも申し分ない駿馬でそのDNAを受け継いで誕生したのが、クロことオラシオンでした。

小説のオラシオンは、黒毛に額にだけ星型の白毛がある馬で、仔馬の頃から立派で美しい体型をしていました。千造をはじめ息子の博正たち牧場の人々は、オラシオンに「ダービーの優勝馬」になる夢を託します。

特に博正は、牧場を卒業しレース馬としての訓練を受け、走る馬の宿命を全うするオラシオンに大きな夢と期待、そして愛情を注いできました。

物語の最後で、オラシオンの生産者として誇らしげに台上に登る博正を見て、多田が感じた「人間の深い一念の力」こそ、本作の核心になるものでしょう。

黒毛で額に星型の模様のあるオラシオン。颯爽と走るその姿は、漆黒の宇宙にはしる流れ星を連想させました。

流れ星に願いをかけるということを、この小説のモチーフにしているのかも知れません。人は「願い」を叶えようと努力します。そして時には自身の一念を増すために「祈り」ます。

「祈り」が通じて「願い」が叶ったときの達成感はたまりません。本作のラストはまさにそれです。

小説『優駿』は、競走馬の世界と人の夢を絡ませて描いた心温まる物語でした。

映画『優駿 ORACION』の見どころ

一馬の駿馬をめぐる人々の人生模様を描いた原作を取りまとめたのは、杉田成道監督です。

映画『優駿 ORACION』は、後にテレビドラマ『北の国から』を手がけることになる杉田監督ならではの、心温まるヒューマンドラマとなりました。

キャスト陣も久美子と博正を演じる斉藤由貴と緒形直人というフレッシュな顔ぶれをはじめ、吉岡秀隆、加賀まりこ、吉行和子、林美智子、平幹二朗、石坂浩二らが脇を固めました。

キーマンとなる「オラシオン」は小説では黒毛で額に星型の白紋が入った馬となっていますが、映画では栗毛の馬となりました。

1987年のダービーを撮影したのですが、実際に優勝したのは、栗毛の馬体と顔に四白流星の白斑を持つ「メリーナイス」でした。この馬に似た仔馬を捜して撮影をしたそうです。

当時「メリーナイス」に騎乗していたJRAの騎手・根本康広が、オラシオンの奈良五郎騎手役で出演しているのも注目です。

本作の最大の見せ場は、実際のレースシーンを使用したラストのダービー!「オラシオン」が走る姿に自らの夢を託す人々のアツい思いが伝わってきます

馬との触れ合いはそのまま久美子と博正との淡い恋へと繋がりますが、ただのラブストーリーで終わらないのがこの作品の面白いところでしょう。

何かに夢を託すということは、生きる希望にもなるということを実感できる作品です。

映画『優駿 ORACION』の作品情報

【公開】
1988年(日本映画)

【原作】
宮本輝『優駿』新潮文庫; 改 edition (November 28, 1989)

【監督】
杉田成道

【脚本】
池端俊策

【キャスト】
斉藤由貴、緒形直人、吉岡秀隆、加賀まりこ、吉行和子、林美智子、平幹二朗、石坂浩二、加藤和宏、掛田誠、水野なつみ、餅田昌代、当山マイラ、松野健一、早川純一、モハメッド・シリマン、石橋凌、根本康広、下絛正巳、田中邦衛、三木のり平、緒形拳、仲代達矢

まとめ

映画『優駿 ORACION』は、1988年代の競馬界を反映するような作品で、レース馬に興味を持たれた方も多いことでしょう。

牧場側の渡海父子と馬主側の和具父娘とオラシオンについての話が中心の映画と比べ、原作小説では、オラシオンを囲む人々の生き様や人生の悩みがより深く描かれています。

久美子の腹違いの弟・誠の病で腎臓移植をするかしないかで悩む父・平八郎や、会社の経営難から社長を裏切る部下・多田、騎手という職業の人々の半生など、さまざまな社会的問題も登場します。

苦労も悩みも心に抱えながら、駿馬が駆ける一瞬の勝敗に一喜一憂する人々

自らの夢をかけそれが叶うかどうかを祈る姿からは、「生きる希望」を見出せると言える作品です

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