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映画『狼煙が呼ぶ』あらすじネタバレと感想。松田龍平らキャストの演技力で魅せる16分の短編

  • Writer :
  • もりのちこ

火防盗賊除 枷鎖難除 魔除けの札は手に入った。
法という権力に縛られない想像力で狼煙を上げろ!

2019年4月。拳銃の不法所持で逮捕され、不起訴処分になった豊田利晃監督。その拳銃は、祖父の代から受け継がれてきたお守りでした。

豊田監督の意思の返答として描いた短編時代劇『狼煙が呼ぶ』。作品上映時間、16分。

16分に込められた監督の意思とは?誰にも罰する権力のない「想像力」を武器に、立ち上がる者たちの決意表明『狼煙が呼ぶ』を紹介します。

映画『狼煙が呼ぶ』の作品情報


(C)IMAGINATION

【日本公開】
2019年(日本映画)

【監督・脚本】
豊田利晃

【キャスト】
渋川清彦、浅野忠信、高良健吾、松田龍平、中村達也、伊藤雄和、仲野茂、MASATO、切腹ピストルズ、MIU

【作品概要】
2019年4月に拳銃の不法所持で逮捕された豊田利晃監督が、自らの体験をベースに描いた16分の短編映画。

豊田監督作品『ポルノスター』で俳優デビューをした渋川清彦をはじめ、浅野忠信、高良健吾、松田龍平など豪華キャストが勢揃い。

作品を盛り上げる音楽は、和楽器バンド・切腹ピストルズが担当。荒ぶる和楽器の爆音が、時代劇の世界に鳴り響きます。

映画『狼煙が呼ぶ』のあらすじとネタバレ


(C)IMAGINATION

少女が、蔵で古い箪笥の中身を整理しています。埃の被った服の中から、ひとつの木箱が見つかりました。蓋には「狼蘇山」と書かれたお札が張ってあります。

箱を開けると、中から錆びれた一丁の拳銃が見つかりました。YOUNG AMERICAと彫られたリボルバー。感触を確かめるように撫でる少女。

その拳銃の理由は、その昔、神社に集まった男たちが知っていました。

風が木々を揺らしざわめく森の中。腰に刀を差した農民の男が歩いてきました。

男は、狼蘇山神社の長く続く階段を上がっていきます。男の緊張を察するかのように、鳥たちの声が一層高まります。

以下、『狼煙が呼ぶ』ネタバレ・結末の記載がございます。『狼煙が呼ぶ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


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お社にはすでに、ひとり男が待っていました。笠をかぶった男の手には、2足の草鞋が握られています。

そしてもうひとり。小さな墓に手を合わせていた男が、意を決したように立ち上がります。

そしてもうひとり。やって来た男の手には、女物のかんざしが握られています。集まる男たちの前で、かんざしを落とす男。それを囲むように4人の男の視線が絡み合います。

そこに、声をあげ駆け込んでくる男たち。「来たぞ」。

続々と男たちが神社の階段を上がってきます。手には竹槍、鉄砲が握られ、地の底から響くような雄たけびを上げています。

そしてもうひとり。口元に少しの笑みを浮かべ、手には紙風船を乗せた男。

ここに集結。言葉を発する者はいません。高まる士気。神社の下からは馬の蹄の音、甲冑の擦れる音、ザッザッと行列が通り過ぎる音が聞こえます。

刀を抜く男たち。最初の男が前に出ます。懐から取り出したのは、あのリボルバーでした。

さぁ、一揆を起こそう。

蔵の前の石垣に座り、リボルバーを構えてみる少女。昔のことなど知らないけれど、今確かにここにある現実。空は変わらず青く澄み渡り、穏やかな一日です。

一方、東京の街を屋上から見下ろす、ひとりの侍の姿がありました。見据える先には国立競技場が見えます。日本はまもなく東京オリンピックを迎えようとしています。

映画『狼煙が呼ぶ』の感想と評価


(C)IMAGINATION

16分という超短編映画でありながら、1本の長編映画を見終わった後のような充実感が得られました。

一気に高まる緊張感と、想像を駆き立てる演出。映画の美味しい部分がこの時間に凝縮されています。

男たちが神社に集まってくるだけと言えばそうなのですが、集まってきた一人一人の背負ってきた覚悟、ここに来るまでの背景まで想像が膨らんでいくのです。

男たちの手にしている物から、子どもの仇なのか、愛する人の仇なのか、農民たちの強いられてきた耐えきれない怒りが想像できます。

強い眼差しからは、これから起こす一揆への強い覚悟が十分に感じられます。

映画『狼煙が呼ぶ』は、豊川利晃監督自ら経験した、拳銃不法所持での逮捕がベースになっています。

その拳銃は祖父が戦時中に自分を守るために持っていた拳銃で、父親の形見でもあるそうです。もしかしたら、受け継がれてきたこの拳銃のおかげで、今の豊田監督が存在しているのかもしれません。

「法という権力は個人の想いをいとも簡単になきものにしてしまいます」と、豊田監督は述べています。

この映画の中の男たちを通して、社会で生きる上での矛盾や不条理に黙らず、立ち上がる監督の意思表明を感じます。

法とは時に人を守り、時に人を罰します。その法もまた人が決めます。時代が急速に変わっていく現代で、自分の身を守るものはどこにあるのでしょうか。もはや無関心ではいられないのです。

映画のラストシーンで松田龍平演じる現代に現れた侍は、日本の未来を見届けにやってきた存在なのではないでしょうか。その目には今の日本はどう映ったのでしょう。

映画の舞台となった神社は、栃木県鹿沼市にある加蘇山神社です。通常、鳥居の前に狛犬はいませんが、映画では痩せた狛犬が2対います。

現代にやってきた侍は、どこかこの狛犬に似ているようにも見えました。


(C)IMAGINATION

また、16分が貴重に感じられる要因として、豊田利晃監督の上げた狼煙に集まった俳優陣の素晴らしい演技力が挙げられます。

拳銃の所持者を演じた渋川清彦。神社の長い階段を上がっていく緊迫感。懐からゆっくり拳銃を取り出すだけで、ドキッとさせられます。

若き剣士、高良健吾の凛々しさ。浅野忠信の纏う強者の気迫。現代に現れた侍、松田龍平の飄々とした佇まい。すべてのシーンから目が離せません。

そして、本作はこれなしでは語れない。和楽器バンド・切腹ピストルズの音楽の効果です。日本一揆型パンクミュージックと言われる切腹ピストルズの音楽が映画の緊張感を高めます。

尺八の哀愁漂う音色に和太鼓のリズム、男たちの士気を表現するかのように爆音で鳴り響きます。

いざ出陣のシーンでは、鳴り響いていた演奏がぴたっと止み、静寂に。覚悟を決めた男の表情が映し出され、とにかくカッコイイです。

まとめ


(C)IMAGINATION

作品上映時間、16分。豊田利晃監督の短編時代劇『狼煙が呼ぶ』を紹介しました。

豊田監督が社会の矛盾や不条理に、想像力を武器に立ちあがる意思表明的映画。あなたも、その上げられた狼煙を見ることになります。立ち上がるのか、見上げるだけか、選ぶのは自分です。

16分に込められたカクシン。鑑賞料金は通常価格。魔除けのお札とステッカー付です。

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