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Entry 2022/02/24
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映画『ナイトメア・アリー』感想評価と内容解説。悪夢小路とつく原作からギレルモ・デル・トロが描く“ショービジネスの光と闇”

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『ナイトメア・アリー』は2022年3月25日(金)公開。

シェイプ・オブ・ウォーター』で誰も真似のできない独自の世界観を極めたギレルモ・デル・トロ監督。

映画『ナイトメア・アリー』ではブラッドリー・クーパーを主演に迎え、ショービジネス界の光と闇の中で破滅への道を突き進んでしまう主人公スタンの姿を紡ぎ出しています。

トニ・コレット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラ、デヴィッド・ストラザーンといった名優も共演した本作は、人間の本性が抱える闇の深さに切り込んでいきます。

スタンは成功を手に入れていたのになぜ、道を外れてしまったのでしょうか。スタンにさまざまなきっかけを与えた3人の女性を通じて、作品を紐解いていきます。

映画『ナイトメア・アリー』の作品情報


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

【日本公開】
2022年(アメリカ映画)

【原作】
ウィリアム・リンゼイ・グレシャム『ナイトメア・アリー 悪夢小路』

【監督】
ギレルモ・デル・トロ

【キャスト】
ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ、ロン・パールマン、メアリー・スティーンバージェン、デヴィッド・ストラザーンほか

【作品概要
原作は1946年に出版されたウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』。1947年にはエドマンド・グールディング監督が、タイロン・パワー主演で『悪魔の往く町』として映画化しています。

シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でアカデミー賞を席巻したギレルモ・デル・トロ監督が脚本も担当し、サスペンス・スリラー大作として映画化しました。

野心溢れるスタンを演じるのは俳優として4度のアカデミー賞ノミネートを誇る、ブラッドリー・クーパー。スタンの前に現れる謎めいた女性精神科医を演じるのは、2度のオスカーに輝くケイト・ブランシェット。

さらにトニ・コレット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラ、デヴィッド・ストラザーンといったオスカー常連の名優に加え、デル・トロ作品に欠かせないリチャード・ジェンキンス、ロン・パールマンといった超豪華な顔ぶれが一同に会しています。

第94回アカデミー賞において作品賞・撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞の4部門にノミネート。

映画『ナイトメア・アリー』のあらすじ


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

過去と決別してバスに乗った青年スタン(ブラッドリー・クーパー)がたどり着いたのは、人間とも獣ともつかない生き物を出し物にし、華やかさと怪しさに満ちたカーニバルの世界。

見世物小屋を取り仕切る男、クレム・ホートリー(ウィレム・デフォー)に声を掛けられ、スタンは下働きを始めました。

読心術師のジーナ(トニ・コレット)と彼女のパートナーであるピート(デヴィッド・ストラザーン)からテクニックを学んで人を操る術を身に付け、頭角を現していきます。

全身に電気を流すショーで人気を博していたモリー(ルーニー・マーラ)に心惹かれたスタンは、彼女を誘って一座を離れ、身分を偽って活動を始め、富と名声を獲得します。

言葉巧みに人の心につけ入り、ショービジネスでのさらなる成功を追い求めたスタンは、ある日リリス・リッター博士と名乗る女(ケイト・ブランシェット)に出会います。

スタンはリリスに自分の手の内を明かし、彼女がカウンセリングで得た情報で大金を手に入れようと持ち掛けました。

しかし話に乗ったリリスの思惑はスタンとは別のところにありました。

映画『ナイトメア・アリー』の感想と評価


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

ジーナ・クランバインによって読心術を学ぶ

スタンが偶然、流れ着いたのはクレムが取り仕切るカーニバルでした。雑用を任されるようになり、カーニバルの中で生活を始めたスタンは読心術師のジーナが住居でやっている貸風呂に行きます。

ジーナは一目見てスタンを気に入りました。恐らく、この時点では女としての視点だったのでしょう。入浴の介助をするジーナの視線と手の動きに艶かしさを感じます。

スタンがジーナのショーを手伝うようになると、ジーナの夫で読心術のパートナーでもあるピートもスタンを目に掛けるようになりました。ピートとスタンが疑似的な父子関係を結んでいくにつれ、ジーナのスタンを見る目が変わっていきます。

かつてジーナとピートは独自の暗号を編み出し、それをトリックにした降霊術を行って一世を風靡しました。しかし2人の霊媒能力を信じる人々を騙す罪悪感からピートが酒に溺れていきました。

その技を教えてほしいと頼むスタンにピートは暗号システムを書いた手帳を見せるものの、使い方によっては危険だとノートを渡すことはしません。そんな2人を見守るジーナ。

野心あふれる息子が道を踏み外さないように心配する父母のようです。

しかし、ピートの死をきっかけに、スタンは手帳を手に入れました。その死は偶然だったのか、スタンが意図したものだったのか。

観客の判断に委ねられますが、これをきっかけにスタンの人生は大きく舵を切っていきます。

このジーナを演じたのがトニ・コレット。「ジーナ役は最初からニトしか頭になかった」と監督に言わしめるだけの読心術師としての妖しさとカーニバルで生き抜いてきた気骨、そしてスタンに対する母性を感じさせています

上を目指すきっかけを与えたモリー・ケイヒル

獣人など不気味なものがあふれたカーニバルの世界で唯一、無垢で清らかな魅力を放つモリー。スタンが惹かれていくのも無理はありません。

彼女のショーを見応えのあるものにする舞台装置を作るなど、少しずつ距離を縮めていきます。

カーニバルの中で頭角を現し始めたスタンは、カーニバルを出てもっと大きな舞台でショーをやろうと、モリーに持ち掛けました。

読心術はパートナーが必要で、人から信用されやすい素直な雰囲気を持つモリーはうってつけの存在だったのです。モリーを演じたルーニー・マーラが可愛らしい魅力を存分に発揮しています。

やがて2人は一流ホテルで読心術を披露するようになります。ここから作品の雰囲気ががらりと変わります。前半は薄汚れた歓楽街のような感じですが、色合いは素朴でどこか人間味を感じさせました。

一方、後半はアール・デコの贅を凝らし、上流階級社会を表現。登場人物の衣装も華麗になっていますが、空虚感が漂い、物語の方向性も大きく変わったことが伝わってきます。

モリーも見た目は洗練されていましたが、スタンの止まることを知らない野心に戸惑いを感じ、期待に応え切れません。

2人の気持ちのずれが見えてきます。ルーニー・マーラの瞳に浮かぶ悲しみが印象を残します。

破滅はリリス・リッターがもたらす

精神分析を専門とするリリス・リッターは登場早々スタンとモリーの読心術を見破り、スタンと対決します。ケイト・ブランシェットが演じたリリスの圧倒的な存在感はスタンの行く末を案じするかのよう……。

リリスはモリーよりも頭が切れ、度胸が据わっていると判断したスタンはリリスがカウンセリングで知りえた情報で大金を得ることを提案。リリスはスタンのカウンセリングを交換条件に契約を結びます。

カウンセリングくらい何てことない。その判断がスタンを破滅への道に誘いました。リリスの策略に嵌り、自分が舵を取っているつもりのスタンが実は操られてしまうのです。

まとめ


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

3人の女性がスタンにきっかけを与えてきましたが、そこに真実味を加えたのはスタンを演じたのが爽やかさとセクシーさを併せ持つブラッドリー・クーパーだからこそ。

こんな息子や恋人がいたら嬉しくなるだろうし、カウンセリングもしてみたくなるはず。

過去と決別してカーニバルに辿り着いたスタンは人生を変えるチャンスに恵まれました。しかもスタンを受け入れ、認めてくれる人たちに出会います。

自分の幸運に気づき、それを大事にしていれば、明るい未来が切り開かれていったかもしれません。

前半に描かれたカーニバルの世界は社会の底辺のように見えますが、そこにはお互いの信頼関係があり、支え合いの気持ちがあったのです。

ところが自信過剰が災いして、更なる上を求めてしまった結果、他人を顧みずに暴走。自分が仕掛けた罠にはまり、運命の歯車が狂っていき、運からも見放されてしまいました。

後半に描かれた上流社会は損得勘定で繋がっている冷たい社会でした。

ギレルモ・デル・トロ監督はスタンの人生を通じて人間が心の奥に抱える闇を描きつつ、人が生きていくうえで幸せな社会の在り様を浮かび上がらせていたのです。

人間はより上の世界で生きたいと望みがちですが、それが幸せに繋がるというわけではないのかもしれません。




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