「余の辞書に不可能という文字はない」。
英雄ナポレオン1世の真の姿とは!?
『グラディエーター』(2000)以来23年ぶりの夢の再タッグ。リドリー・スコット監督×ホアキン・フェニックスでおくる、歴史スペクタル大作『ナポレオン』。
18世紀末、フランス革命の最中、コルシカ島出身の若き軍人ナポレオンは、たぐいまれな軍才を発揮し、めきめきと頭角を現します。
軍の総司令官に昇進し、一目惚れをした未亡人ジョセフィーヌを手に入れ、幾多の戦いで勝利を重ねて行くナポレオン。ついには、フランス帝国の皇帝にまで上り詰めます。
やがてナポレオンは、終わりのない戦いの中、愛する者を手放し、凄惨な侵略と征服を繰り返していくのでした。
天才的な軍事戦略で皇帝にまで上り詰めた男、ナポレオン・ボナパルト。フランス革命期の英雄と称された彼の真の姿とは。映画『ナポレオン』を紹介します。
映画『ナポレオン』の作品情報
【公開】
2023年(アメリカ映画)
【監督】
リドリー・スコット
【キャスト】
ホアキン・フェニックス、バネッサ・カービー、タハール・ラヒム、マーク・ボナー、パート・エベレット、ユーセフ・カーコア
【作品概要】
フランス革命の英雄、ナポレオン・ボナパルトの生涯を描いた歴史スペクタル映画『ナポレオン』。
24歳から51歳までのナポレオンを演じたのは、『ジョーカー』(2019)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス。
監督は、『エイリアン』(1979)、『ブレードランナー』(1982)をはじめ、ホアキン・フェニックスとのタッグでアカデミー賞作品賞受賞作品に選ばれた『グラディエーター』(2000)など、数多くのヒット作品を生み出してきたリドリー・スコット監督。
脚本には、『ゲティ家の身代金』(2018)で、リドリー・スコット監督と組んだ経験のあるデヴィッド・スカルパが担当しています。
その他、物語の重要人物となるナポレオンの妻ジョセフィーヌ役を、「ミッション:インポッシブル」シリーズにおいて、ホワイト・ウィドウ役でお馴染み、ヴァネッサ・カービーが演じています。
撮影カメラ11台。8000人を超えるエキストラ。ヨーロッパロケを敢行し、多額の製作費をかけ制作された『ナポレオン』。迫力ある映像にも注目です。
映画『ナポレオン』のあらすじとネタバレ
1793年、王妃マリー・アントワネット斬首刑に処す。長らく続いた王による絶対君主制に嫌気がさした民衆は、自由と平等を求め立ち上がりました。
世はフランス革命期。フランスの都市トゥーロンは、フランス王党派を支援する英スペイン軍によって占領されていました。
コルシカ島出身のナポレオン・ボナパルトは、砲兵将校として港の制圧を任されます。敵の隙をつく作戦で見事、勝利を手にしたナポレオンは、24歳にして一気に砲兵隊司令官へと昇進。その後も、次々と戦果を上げ名声を高めていきます。
そんな中、ナポレオンは祝宴の席で、ひとりの女性と出会います。貴族の娘で、名はジョセフィーヌ。夫をフランス革命で亡くしてからは、テルミドールクーデターの首謀者であるポール・バラスの愛人として社交界では注目を浴びていました。
ジョセフィーヌの妖艶さに、一瞬にして心を奪われたナポレオンは、彼女を妻に迎えます。女性に不慣れなナポレオンの愛は、一方的でわがままなものでした。ジョセフィーヌの欲求不満は募っていきます。
イタリア遠征でオーストリア軍に圧勝したナポレオンは、1798年、イギリスのインド進行を妨害する目的で、エジプト遠征へと出向いていました。
攻防戦が続く中、ナポレオンは、自分がいない間にジョセフィーヌが浮気をしているという噂を耳にします。居ても立っても居られず、軍を置き去りに戦地を離れるナポレオン。
一時は怒りに任せジョセフィーヌを追い出しますが、懸命な謝罪に折れ許すことに。「あなたは、私がいなければただの男よ」。憎らしいけど愛しい、縺れた関係が続きます。
政府には、遠征途中で投げ出し帰国したことを問い詰められるも、本国ではイギリスがオースリアを始めヨーロッパ諸国と対仏大同盟を組んでいることに触れ、政府の弱さを指摘します。
1799年、ブリュメール18日のクーデター。ナポレオンは、総裁政府を倒し、統領政府を樹立。自ら第一統領となり、協力な中央集権体制を確立。これを持って、フランス革命は幕を閉じたのでした。
英国王へと平和の申し出、アミアンの和約を締結し、1804年にはナポレオン法典を公布。国民投票で圧倒的な支持を得たナポレオンは、フランス帝国の皇帝へと上り詰めます。
映画『ナポレオン』の感想と評価
フランス革命の「英雄」と評される一方、「食人鬼」「コルシカの悪魔」とも呼ばれるナポレオン・ボナパルト。英雄か、悪魔か。
本作は、フランス革命において頭角を現し、革命を終わらせたその後も戦い続けたナポレオンの没落までを描いた作品となっています。
ナポレオンが生涯で率いた戦いは61戦。一説では38戦35勝という戦績も語られています。その数多い戦いの中から、映画では主となる6戦が描かれています。
1793年、ナポレオンの名を知らしめるきっかけとなった戦い「トゥーロンの戦い」。高ぶる気持ちを抑えきれず駆け出し、馬の首を吹っ飛ばされるシーンは衝撃です。
1798年「エジプト遠征」、1800年「マレンゴの戦い」。1805年「アウステルリッツの戦い」では、氷上に敵を誘導し砲撃を持って鎮めるという地形をいかした戦略にナポレオンの才覚を見るも、冷淡さにゾッとします。
続いて、1812年「ボロジノの戦い」。そして、「ワーテルローの戦い」です。ナポレオン最後の戦いは、運にも見放され、かつての味方にも裏切られ、屈辱の負け戦となりました。
騎馬隊が花形であった時代において、砲兵隊出身のナポレオンは大砲を使った戦略を得意とし、次々に勝利を収めていきました。破壊力がある大砲を用いることで、犠牲者の数が増え続けたことも頷けます。
これらの戦闘シーンは、『グラディエーター』(2000)を彷彿させる大迫力ながら、よりリアルで息遣いまでも感じる緊迫したシーンとなっています。
これらの戦シーンではナポレオンの戦いの才能に感心するも、普段の彼はどうだったかというと、悪口を言われキレてかかったり、エジプトのミイラにビビッたり、口先だけで上手くごまかしたり、元妻に他の人との子供をみせにいったり、実に短気で滑稽な人物でもあります。
さらに最悪なのが、夫としてのナポレオン。妻の浮気を知り憤怒し追い出したり、相手を思いやらない一方的な性交渉をみせたり、子供ができないと非難したり、マザコンの甘えん坊。
一方、ジョセフィーヌも妖艶な魅力でナポレオンを翻弄します。浮気をして猛反省し許しを請うも、「あなたには私が必要よ」と女王様ぶりを発揮。
実際、ジョセフィーヌの存在がナポレオンにとって、高みを目指す原動力になっていたことは間違いありません。
互いを罵りあい、傷つけあってもなお執着しあう2人。別れてもなおジョセフィーヌに送り続けた手紙の数々が、その深い絆を現しています。
ナポレオン最後の敗戦、ワーテルローの戦いは、ジョセフィーヌ亡きあとのことでした。勝利の女神ジョセフィーヌがいなくなり、ナポレオンの命運も尽きたのではないかと思われます。
「余の辞書に、不可能という文字はない」。英雄ナポレオンの残した名言の数々からは想像もつかない、実に人間臭いナポレオンを見ることができる作品です。
そして、この人をおいてこの作品を語ることはできません。24歳から51歳までのナポレオンを演じきったホアキン・フェニックスです。
普段は、空虚な表情で感情を表に出さないナポレオンが、戦闘中にみせる高揚感や、カッとなり怒り狂うさまを見事に怪演。ホアキン・フェニックスの無表情の怖さが、もはやホラーです。
まとめ
英雄か、悪魔か。英雄ナポレオンの栄華と、その後の没落までを描いた史実戦記『ナポレオン』を紹介しました。
圧倒的な軍才とカリスマ性をもって英雄と呼ばれた男・ナポレオンの別の顔。生涯愛し続けたジョセフィーヌとの、いびつな関係。その姿は、英雄とはかけ離れたヤベー奴でした。
祖国に戦に、愛に情熱を燃やし、激動の時代を生き抜いたナポレオン。カッコ悪いけどカッコイイ、魅力的な人物であることは間違いないことでしょう。