Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/04/21
Update

映画『ルース・エドガー』感想レビューと評価。人権問題の闇に棲む青年ルースの正体

  • Writer :
  • 山田あゆみ

サスペンスフルなヒューマンドラマ『ルース・エドガー』が日本に上陸

アメリカ社会の根深い人権問題を炙り出すサスペンスフルなヒューマンドラマ『ルース・エドガー』が公開されます。

主演は『イット・カムズ・アット・ナイト』(2017)で注目されたケルヴィン・ハリソン・Jr.が務め、オクタヴィア・スペンサー、ティム・ロス、ナオミ・ワッツら豪華俳優陣が、圧巻の演技で物語を盛り上げます。

完璧な青年と思われるルースの本当の姿とは? 人間の本質に迫り、アメリカの歴史や政治をも取り込み、その理想と現実をあぶり出した映画『ルース・エドガー』は、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて2020年6月5日(金)より全国公開。

映画『ルース・エドガー』の作品情報

 
(C)2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
 
【監督】
ジュリアス・オナー
 
【キャスト】
ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ナオミ・ワッツ、ティム・ロス、オクタヴィア・スペンサー

【作品概要】
17歳の高校生ルースの知られざる内面に迫り、人間の本質とアメリカ社会に切り込んだヒューマンサスペンス。青年ルース役には『イット・カムズ・アット・ナイト』のケルヴィン・ハリソン・Jr.が務め、教師ウィルソンを『ドリーム』のオクタヴィア・スペンサー、養父母をティム・ロスとナオミ・ワッツが演じています。演出は『クローバーフィールド・パラドックス』などで知られるジュリアス・オナー監督。

映画『ルース・エドガー』のあらすじ


(C)2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

アメリカのバージニア州の高校に通う黒人青年ルース・エドガー(ケルヴィン・ハリソン・Jr.)。

彼は、アフリカの戦地で生まれ育ち、7才の時に養子として白人夫婦のエミリー(ナオミ・ワッツ)と、ピーター(ティム・ロス)の元へ迎えられました。

成績優秀かつ品行方正で校内一の優等生として学校からの期待も厚いルースでしたが、ある日彼が書いたレポートの内容を問題視した教師ハリエット・ウィルソン(オクタヴィア・スペンサー)が母親を学校に呼び出します。

その日を境にルースの知られざる一面が少しずつ明かされていきます……。

映画『ルース・エドガー』の感想と評価


(C)2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督とキャストの背景

映画『ルース・エドガー』は、2019年のサンダンス映画祭で正式出品され高い評価を集めたのをはじめ、インディペンデント・スピリット賞で監督賞、主演男優賞、助演女優賞にノミネートされた注目作

監督、製作、共同脚本を務めたのは、ジュリアス・オナー。ナイジェリアで生まれ、本作の舞台となったバージニア州アーリントンに移住してから、長期に渡る移民手続きに悩まされた過去を持ちます。

オナー自身の経験と、原作であるJ・C・リーの戯曲「Luce」にインスパイアされた映画『ルース・エドガー』。黒人のアイデンディティに深く切り込んで制作。また、オナーは、Netflix配信のSFスリラー映画『クローバーフィールドパラドックス』(2018)の監督も務め、JJ・エイブラムスとコラボレーションするなど、新鋭監督という一面も持っています。

主演のケルヴィン・ハリソン・Jr.は『イット・カムズ・アット・ナイト』での演技で、第27回ゴッサム・インディペンデント映画賞のブレイクスルー演技賞にノミネートされました。

米国で2019年公開の『WAVES/ウェイブス』と本作『ルース・エドガー』でも活躍し、その繊細な演技力に注目が集まる若手俳優のひとりとなっています。

物語のカギを握る教師役を務めたのは、『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(2012)でゴールデングローブ賞助演女優賞とアカデミー賞助演女優賞をダブル受賞したオクタヴィア・スペンサー。

アカデミー作品賞の『シェイプオブウォーター』(2018)や『グリーンブック』(2018)など名作映画の常連女優です。ほかにはない彼女ならではの存在感が光っています。

夫婦役のナオミ・ワッツとティム・ロスは『ファニーゲームU.S.A.』(2007)でも夫婦役を演じています。それぞれの長年のキャリアから見せる高い演技力と息の合ったやりとりが絶妙です。

立場によって姿を変える真実


(C)2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画『ルース・エドガー』は、緊張感の中にリアリティ溢れる心理描写が織り交ぜられた見応え十分なヒューマンドラマです。

アメリカが長い間抱えている社会問題を浮き彫りにすると同時にその危険性を私たちに問いかけています。

物語の発端は、主人公のルースと教師であるウィルソンの衝突です。

2人とも同じアフリカ系アメリカ人ですが、社会における黒人または有色人種のアイデンティティについて考え方が違い、激しくぶつかりあいます。

2人の攻防戦ともいえるやりとりは張り詰めた緊張感があり、特にルースの一見冷静に見えながら、底知れない怒りをちらつかせる様子にひやひやせずにはいられません。

黒人差別問題は、日本人の私たちにとって実感しにくいことですが、この映画からはルースが抱える苦悩が生々しく伝わってきます

白人社会で生きる黒人は優等生でいなければ認められません。血の滲む努力をして優等生になったとき、黒人社会からは「どうやったら特別扱いされるのか」と疎まれます。

そんな板挟みの中で、本当の自分は何なのかと悩む青年ルース。その姿から、人間の“価値”とは何によって決定されるのかと、考えさせられることでしょう。

母親の決断


(C)2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

母親エミリーがルースを養子に迎えたのは、ただ子どもが欲しかっただけではありませんでした。

自分の人生の大部分である「苦労した子育て」を否定したくない気持ちと、息子を疑わなければならない現実に揺れ動く様子は心をざわつかせます。

また、彼女に寄り添う夫は違った視点で息子を見ていました。夫婦それぞれの視点と行動から、観客は「自分だったらどうするか」と考えさせられるはずです。見どころの一つは、母親役を演じたナオミ・ワッツの緊迫感溢れる演技。苦悩の末に辿り着いた母親の決断に注目です。

まとめ


(C)2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

称賛される少年の“知られざる真実”をめぐって展開するサスペンスフルなストーリーの『ルース・エドガー』

この作品は、観る者の好奇心をかき立てるだけでなく、内面にある潜在意識を揺さぶり先入観を根底から覆します。

人の本質は何が決めるのでしょうか。国籍、血筋、環境などが複雑に関係して人をかたち作っていますが、果たしてそれだけでしょうか?

私たちは無意識のうちに固定概念で他者を決めつけているのではないでしょうか。

映画『ルース・エドガー』は、最初から最後までハラハラし、観終わった後も心の隅に問いが残る骨太な一作です。

映画『ルース・エドガー』は、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて2020年6月5日(金)より全国公開。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ゴッドファーザー3』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の解説。最終章でコッポラが描きたかったマイケル・コルレオーネの最期

ドン・マイケル・コルレオーネの苦悩が明らかとなる最終章 フランシス・フォード・コッポラ監督による傑作『ゴッドファーザー』3部作の完結編。 マフィアのドンとして君臨するマイケルの苦悩と孤独、そして老いが …

ヒューマンドラマ映画

映画『ライド・ライク・ア・ガール』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。実話感動おすすめ!女性騎手ミシェル・ペインをテリーサ・パーマーが演じる

女性騎手として初めての栄冠を手にしたミシェル・ペインの半生を映画化! レイチェル・グリフィスが製作・監督を務めた、2019年製作のオーストラリアのヒューマンドラマ映画『ライド・ライク・ア・ガール』。 …

ヒューマンドラマ映画

韓国映画『聖女Mad Sister』あらすじネタバレと感想。結末のクライマックスに姉妹を待つものとは⁈

『聖女 Mad Sister』は「のむコレ3」にて上映! 2019年11月15日(金)よりシネマート新宿・シネマート心斎橋にて開催されている「のむコレ3」。 「のむコレ3」にて、妹を守るため立ち上がっ …

ヒューマンドラマ映画

『優駿』映画原作ネタバレあらすじと結末の感想評価。宮本輝おすすめ小説“馬に夢をかける人々の人生”を爽やかに綴る

映画『優駿 ORACION』原作の宮本輝の小説『優駿』のご紹介 一頭の競走馬をめぐる牧場主や馬主、調教師、厩務員、騎手などさまざまな人々の生き様を描いた、宮本輝の小説『優駿』。 仔馬の誕生からずっと見 …

ヒューマンドラマ映画

映画『グッバイ、リチャード!』感想と考察評価。ジョニーデップが終活ヒューマンドラマに挑む

映画『グッバイ、リチャード!』は、2020年8月21日(金)ヒューマントラスト渋谷ほか全国順次公開! 映画『グッバイ、リチャード!』は、ジョニー・デップ演じる余命180日と宣告された大学教授が、残され …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学