サスペンスフルなヒューマンドラマ『ルース・エドガー』が日本に上陸
アメリカ社会の根深い人権問題を炙り出すサスペンスフルなヒューマンドラマ『ルース・エドガー』が公開されます。
主演は『イット・カムズ・アット・ナイト』(2017)で注目されたケルヴィン・ハリソン・Jr.が務め、オクタヴィア・スペンサー、ティム・ロス、ナオミ・ワッツら豪華俳優陣が、圧巻の演技で物語を盛り上げます。
完璧な青年と思われるルースの本当の姿とは? 人間の本質に迫り、アメリカの歴史や政治をも取り込み、その理想と現実をあぶり出した映画『ルース・エドガー』は、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて2020年6月5日(金)より全国公開。
映画『ルース・エドガー』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【監督】
ジュリアス・オナー
【キャスト】
ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ナオミ・ワッツ、ティム・ロス、オクタヴィア・スペンサー
【作品概要】
17歳の高校生ルースの知られざる内面に迫り、人間の本質とアメリカ社会に切り込んだヒューマンサスペンス。青年ルース役には『イット・カムズ・アット・ナイト』のケルヴィン・ハリソン・Jr.が務め、教師ウィルソンを『ドリーム』のオクタヴィア・スペンサー、養父母をティム・ロスとナオミ・ワッツが演じています。演出は『クローバーフィールド・パラドックス』などで知られるジュリアス・オナー監督。
映画『ルース・エドガー』のあらすじ
アメリカのバージニア州の高校に通う黒人青年ルース・エドガー(ケルヴィン・ハリソン・Jr.)。
彼は、アフリカの戦地で生まれ育ち、7才の時に養子として白人夫婦のエミリー(ナオミ・ワッツ)と、ピーター(ティム・ロス)の元へ迎えられました。
成績優秀かつ品行方正で校内一の優等生として学校からの期待も厚いルースでしたが、ある日彼が書いたレポートの内容を問題視した教師ハリエット・ウィルソン(オクタヴィア・スペンサー)が母親を学校に呼び出します。
その日を境にルースの知られざる一面が少しずつ明かされていきます……。
映画『ルース・エドガー』の感想と評価
監督とキャストの背景
映画『ルース・エドガー』は、2019年のサンダンス映画祭で正式出品され高い評価を集めたのをはじめ、インディペンデント・スピリット賞で監督賞、主演男優賞、助演女優賞にノミネートされた注目作。
監督、製作、共同脚本を務めたのは、ジュリアス・オナー。ナイジェリアで生まれ、本作の舞台となったバージニア州アーリントンに移住してから、長期に渡る移民手続きに悩まされた過去を持ちます。
オナー自身の経験と、原作であるJ・C・リーの戯曲「Luce」にインスパイアされた映画『ルース・エドガー』。黒人のアイデンディティに深く切り込んで制作。また、オナーは、Netflix配信のSFスリラー映画『クローバーフィールドパラドックス』(2018)の監督も務め、JJ・エイブラムスとコラボレーションするなど、新鋭監督という一面も持っています。
主演のケルヴィン・ハリソン・Jr.は『イット・カムズ・アット・ナイト』での演技で、第27回ゴッサム・インディペンデント映画賞のブレイクスルー演技賞にノミネートされました。
米国で2019年公開の『WAVES/ウェイブス』と本作『ルース・エドガー』でも活躍し、その繊細な演技力に注目が集まる若手俳優のひとりとなっています。
物語のカギを握る教師役を務めたのは、『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(2012)でゴールデングローブ賞助演女優賞とアカデミー賞助演女優賞をダブル受賞したオクタヴィア・スペンサー。
アカデミー作品賞の『シェイプオブウォーター』(2018)や『グリーンブック』(2018)など名作映画の常連女優です。ほかにはない彼女ならではの存在感が光っています。
夫婦役のナオミ・ワッツとティム・ロスは『ファニーゲームU.S.A.』(2007)でも夫婦役を演じています。それぞれの長年のキャリアから見せる高い演技力と息の合ったやりとりが絶妙です。
立場によって姿を変える真実
映画『ルース・エドガー』は、緊張感の中にリアリティ溢れる心理描写が織り交ぜられた見応え十分なヒューマンドラマです。
アメリカが長い間抱えている社会問題を浮き彫りにすると同時にその危険性を私たちに問いかけています。
物語の発端は、主人公のルースと教師であるウィルソンの衝突です。
2人とも同じアフリカ系アメリカ人ですが、社会における黒人または有色人種のアイデンティティについて考え方が違い、激しくぶつかりあいます。
2人の攻防戦ともいえるやりとりは張り詰めた緊張感があり、特にルースの一見冷静に見えながら、底知れない怒りをちらつかせる様子にひやひやせずにはいられません。
黒人差別問題は、日本人の私たちにとって実感しにくいことですが、この映画からはルースが抱える苦悩が生々しく伝わってきます。
白人社会で生きる黒人は優等生でいなければ認められません。血の滲む努力をして優等生になったとき、黒人社会からは「どうやったら特別扱いされるのか」と疎まれます。
そんな板挟みの中で、本当の自分は何なのかと悩む青年ルース。その姿から、人間の“価値”とは何によって決定されるのかと、考えさせられることでしょう。
母親の決断
母親エミリーがルースを養子に迎えたのは、ただ子どもが欲しかっただけではありませんでした。
自分の人生の大部分である「苦労した子育て」を否定したくない気持ちと、息子を疑わなければならない現実に揺れ動く様子は心をざわつかせます。
また、彼女に寄り添う夫は違った視点で息子を見ていました。夫婦それぞれの視点と行動から、観客は「自分だったらどうするか」と考えさせられるはずです。見どころの一つは、母親役を演じたナオミ・ワッツの緊迫感溢れる演技。苦悩の末に辿り着いた母親の決断に注目です。
まとめ
称賛される少年の“知られざる真実”をめぐって展開するサスペンスフルなストーリーの『ルース・エドガー』。
この作品は、観る者の好奇心をかき立てるだけでなく、内面にある潜在意識を揺さぶり先入観を根底から覆します。
人の本質は何が決めるのでしょうか。国籍、血筋、環境などが複雑に関係して人をかたち作っていますが、果たしてそれだけでしょうか?
私たちは無意識のうちに固定概念で他者を決めつけているのではないでしょうか。
映画『ルース・エドガー』は、最初から最後までハラハラし、観終わった後も心の隅に問いが残る骨太な一作です。
映画『ルース・エドガー』は、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて2020年6月5日(金)より全国公開。