岡山を舞台に『アジアの純真』(2011)の片嶋一貴がおくる孤独な人々の心の交流
心に傷を負う須佐あやめは、海の見える町の工場で変わり映えのない日々を過ごしていました。
ある日、外国人の同僚からラブレターを書いてほしいと頼まれたことで、思わぬところにラブレターが届いていきます。
孤独な2人の人生の交流を岡山を舞台に描くヒューマンドラマ。
監督を務めたのは、『天上の花』(2022)、『アジアの純真』(2009)の片嶋一貴。
主人公・あやめ役を演じたのは、本作が映画初出演となる大坪あきほ。
海沿いの町を舞台に岡山全県で撮影を行い、瀬戸内海の美しい風景を映し出しました。
映画『孤独な楽園』の作品情報
(C)2023 nobu pictures
【公開】
2024年(日本映画)
【監督】
片嶋一貴
【脚本】
吉川次郎
【キャスト】
大坪あきほ、青柳翔、忍成修吾、綿谷みずき、万里紗、林家たこ蔵、三戸なつめ、関谷奈津美、高川裕也、仲野茂、鈴木慶一、有森也実
【作品概要】
『天上の花』(2022)、『アジアの純真』(2009)の片嶋一貴が監督を務め、主人公・あやめ役を演じたのは、本作が映画初出演となる大坪あきほ。
スランプに陥った小説家役には、「劇団EXILE」の青柳翔が務め、その小説家の編集者役には、『賭ケグルイ』シリーズの三戸なつめ。
あやめの父親役に忍成修吾、叔母役に有森也実がそれぞれ演じました。
映画『孤独な楽園』のあらすじ
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瀬戸内海に面する小さな町。
叔母と暮らす須佐あやめは、町の工場で働き、変わり映えのしない毎日を送っていました。
あやめの母は、自分の楽園を見つけたのか、あやめと父を置いてどこかに行ったきり、連絡もありません。
優しい父と暮らしていたあやめでしたが、ある一件の後、父は自死します。
1人残されたあやめは、叔母と暮らし始め、叔母は「何かあったら全て話すのよ」と何かとあやめに干渉します。
ある日、外国人の同僚から自分の代わりにラブレターを書いて欲しいと頼まれます。
その手紙は、迷惑メールとして使われ、たまたまそのメールを目にしたのは、スランプに陥っている作家・津島耀でした。
あやめが書いたラブレターに何かを感じた津島は、手紙の内容を元に連載を書き始めます。
連載を目にしたあやめは、あまりにも自分の心情を映し出しているような小説の内容に驚きます。
出会うはずのない2人の人生が交錯し、孤独な人々の心、トラウマを映し出していきます。
映画『孤独な楽園』の感想と評価
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出会うはずのない孤独な女性と小説家が出会い、2人の人生が交錯していく映画『孤独な楽園』。
本作は岡山を舞台に、閉鎖的な田舎特有の逃れなさも描いています。
楽園を見つけたのか、ある日突然いなくなってしまった母。教会の祈りを信じ、誰を責めることもなく自分を責め神に祈り続けた父。
両親に対する町の目。様々な息苦しさがじわりじわりとあやめの心を殺していきます。
死んだようにただ生きていたあやめが、ラブレターを通し自分の思いを書き始め、その手紙を読んだ津島が小説を書いたことで、死んでいた心、両親への思いがあやめの中で大きくなっていきます。
素直に感情を吐露することも、ここから流れることも叶わないと閉じ込められていたあやめが、自分の感情と向き合っていくのです。
感情と向き合う苦しさに比べたら、無視して感情殺して生きる方が時には楽に思えるかもしれません。
しかし、それで生きていると言えるのでしょうか。負の感情も生きていく上で必要な感情で、逃れることはできないのです。
一方で、スランプに陥り行き詰まった津島は人を避け島で暮らしています。
発作が起きてもうこの島から逃れることはできないと思い込み、小説を書くことも諦めかけていました。
そんな津島にとってもあやめの手紙は自分の生きる力、小説を書く力を取り戻してくれるものだったのです。
まとめ
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岡山を舞台に『アジアの純真』(2011)の片嶋一貴がおくる孤独な人々の心の交流を描いた映画『孤独な楽園』。
父にとって教会が救いであったように、あやめにとって救いとなっていたのは、小説でした。
あやめの住んでいる小さな町に図書館はなく、移動図書館がやってきます。あやめはその移動図書館を楽しみにし、職員が毎度あやめのために本を選んでくれていました。
あやめはその小説を夢中になって読んでいます。津山耀の新作を読んだのも、この職員のおすすめでした。
そこで、自分が手紙に書いた内容、記憶の中の情景が小説の中に書かれていることに衝撃を受けたのでした。
手紙や小説を通して語られる心情は、詩的で心にスッと染み込んでいきます。
そのような心情とともに映し出される岡山の風景も美しく、印象的に映ります。
また、本作が映画初主演となる大坪あきほのどこか心を閉ざして生きている無気力さと、不意に溢れ出す感情、息苦しさも人々の心に訴えかけてきます。
そんなあやめを昔から知っていたような、小説家の津島の存在。
詩的でファンタジックな部分もありつつ、人々の心に訴えかけるヒューマンドラマになっています。