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Entry 2020/04/20
Update

映画『君がいる、いた、そんな時。』感想レビューと評価。ロケ地の呉市で俳優オーディションで大抜擢された演技未経験者

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『君がいる、いた、そんな時。』は2020年5月29日(金)に呉ポポロシアター、6月6日(土)横川シネマにて先行上映、6月13日(土)より 新宿K’s cinemaほかで全国順次ロードショー!

フィリピン人のルーツだけでいじめられ、希望を失っていた少年。そんな彼は一人の少年と、もう一人の女性と気持ちを通わせていくことで、人生を大きく変えていくのでした。

ハーフであるがゆえいじめを受けている少年と一人の破天荒なクラスメイト、そして一人の女性との出会いと心の交流のさまを描いた映画『君がいる、いた、そんな時。』は、本作で長編映画初チャレンジとなった迫田公介監督の故郷である広島県呉市で撮影されました。

本作では本人もフィリピンと日本のハーフであるマサマヨール忠と、地元のオーディションで選ばれた小学生・坂本いろはという演技未経験の二人をメインキャストとして起用、さらに小島藤子、横山雄二といった面々が出演者リストに名を連ねています。

映画『君がいる、いた、そんな時。』の作品情報


(C)とび級プログラム

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本・プロデューサー】
迫田公介

【キャスト】
マサマヨール忠、坂本いろは、小島藤子、阪田マサノブ、おだしずえ、末武太、アイリン・サノ、横山雄二

【作品概要】
中編『父の愛人』(2012)を手掛けた迫田公介が企画・脚本・プロデューサー・監督を担当、監督の出身地である広島県呉市で撮影された初長編作品。

日本人の父とフィリピン人の母という両親を持ったことでいじめに遭遇するハーフの少年と、小学校の校内放送に情熱を燃やす明るい一人の少年との友情を、図書室の司書を務める女性との交流を絡めて描きます。

主人公・岸本正哉を演じるのはマサマヨール忠。また放送室の少年・香山涼太役を坂本いろはが担当。いずれも演技初経験で、地元・呉市よりオーディションでキャストに選ばれました。

また図書室の司書教諭を務める山崎祥子役を『馬の骨』(2018)などに出演した小島藤子が担当。他にも阪田マサノブやRCC(中国放送)アナウンサーの横山雄二、おだしずえ、末武太、アイリン・サノらが共演を果たしています。

映画『君がいる、いた、そんな時。』のあらすじ


(C)とび級プログラム

自身がフィリピン人と日本人の間に生まれたハーフであることをからかわれ、いじめに遭い早くも人生に失望している小学6年生の正哉(マサマヨール忠)。

そんな彼は図書室で司書を務めている新任の祥子(小島藤子)との他愛のない話だけを心のよりどころとして、毎日を過ごしていました。

一方で学校では、正哉のクラスメイトで放送室に入り浸り、そこで「DJカヤマ」を名乗って校内放送に情熱を燃やす、クラスでは空回り気味な少年涼太(坂本いろは)がいました。

涼太は正哉がハーフであることから、「正哉は英語がしゃべれる」と思い込み何かと正哉にまとわりつき、いつしか図書室の正哉と祥子との関係の中に入り込んでいました。

ある日、涼太は正哉が話したひらめきでとんでもない企画を発案し、二人を巻き込んで特別放送の実現に乗り出します。

いやいや付き合わされる正哉と興味津々の祥子。彼らとの日々を送る中、涼太はある日祥子の一つの秘密を知ってしまうのでした…。

映画『君がいる、いた、そんな時。』の感想と評価

広島・呉という場所での撮影の意義


(C)とび級プログラム

映画『君がいる、いた、そんな時。』は呉市の全面協力により実現したプログラムで作り上げられた作品であります。

けれども、当初より迫田公介監督は地域に協力を乞う際に、地域に根付いた作品は作れないと公言した上で了承を受け、作品作りに辿り着いたといいます。

作品では、特徴的な作りである港町小学校の校舎以外に「広島らしい」「呉らしい」という明確に場所を特定できる画はありません。

また登場人物の会話にも広島弁など訛りは一切使われておらず、地域性を問うたものというよりは作品のテーマを重視したものを描いています。

そして物語は心に傷を持つ二人の小学生、そして同じく傷を持つ一人の女性教諭という三人が織りなす、どの地域においても存在する可能性があるものであり、その関係の中から見えてくるものを主題として描かれています。

また迫田監督はこの作品を作るにあたり、「(見た人)全員にわかってほしい」「全員に感動してほしい」という思いを込めて作ったと語っています。

その意味では、シンプルな筋書きで、非常にストレートに物語を感じられる作品として仕上がっています。

一方で、これが例えば首都圏などの都会の地域で撮られたものということであれば、「都会だからこそ」の事象として地域性に縛られる印象もあります。

けれども、それが広島県呉市という首都圏から離れた場所で作られたというバックグラウンドがあるからこそ、作品の普遍性は大きく広げられました。

また主人公・正哉はハーフの小学生男子という設定ですが、そういった特殊な設定がこの地で撮影できたということも大きく影響しています。

地元の子どもである二人の小学生が伸び伸びと演技していることも重なって、物語を映像化する意義と物語から受けるメッセージ性がより鮮明に受け止められるものとなっています。

才能、センスあふれる役者陣


(C)とび級プログラム

何より物語の共感性を強めているのは、役者陣の力によるところが大きく関与しています。特に呉市でのオーディションにより見出した役者陣は、素人ながら非常に魅力的な演技と存在感を見せており、大きな可能性すら醸し出しています。

主人公の正哉はフィリピン人の女性を母に持ち、ハーフであるというアイデンティティをコンプレックスとして持つ少年。非常に繊細な役柄で、あまり感情を大きく表情に出さない性格であり、子役としてはとても演じにくい役柄です。

その役を務めたマサマヨール忠は全般的に抑揚感の少ない演技の中で、印象的なシーンの際にかすかな表情を見せ、正哉の複雑な心情をしっかりと表しています。

一方、正哉の友達となる涼太は全く正反対の役柄で、大きな表情や動作を見せながらも、心の奥底に何らかの闇を抱えた少年。この役を演じたのは坂本いろはという女の子です。

全く演技経験がないということを疑ってしまうくらいに堂々と伸び伸びした演技を見せ、才能の片りんすら感じさせています。

特に上記の写真にある涼太が涙を流す物語り中の一シーンでは、マサマヨールと坂本それぞれの演技が非常に強く干渉し合っており、実力のある演技者同士の様相を醸しています。

そしてその二人の間に立つ女性教諭・祥子役を演じた小島藤子も、心に不安な要素を持ちながらも明るく生徒に接するという役柄でありますが、非常に演技力を試される役目を安定した演技で務めています。

ここぞと決まったところでパッと強い感情を出すような部分は、演技より、まさしく物語を生きていくことが要求される役柄です。

迫田監督は俳優陣それぞれに対して、役柄のバックグラウンドを考えてくることを課していたといい、その中で祥子という役は物語の展開から考えると非常に複雑な背景があったことが推測されます。

そしてかつ二人の子役とのバランスをとらなければならない難易度の高い役柄ですが、そこで「小島ならでは」の考えに基づいた祥子の人間像をしっかりと表現し、見る側にアピールしてきます。

さらに正哉の両親役を務めた、全くの演技未経験者であるアイリン・サノ、そして横山雄二の自然ないでたちも印象的です。

特に横山は同じく呉市でも撮影された『孤狼の血』(2018)など近年話題作への出演を重ね知名度を上げる一方で、今回の出演に際しては迫田監督から「見た人が横山雄二とわからなければ成功なんです」と演技に対しての要求を伝えられていました。

横山は、その要求に沿った飛び出し過ぎない演技を披露、的確な演技で世界観を描いています。

まとめ


(C)とび級プログラム

映画『君がいる、いた、そんな時。』は、あくまで地元で集めた役者を主体とした素人の役者がしっかりと物語を引っ張った魅力的な作品となっています。

演技の質としては粗削りに感じられるところもありますが、それが逆に作品から伝わるメッセージを非常に強くしています。

物語の舞台となる広島県呉市の港町小学校は実在の場所で、この地域の重要な交通路線であるJR呉線のすぐそばを通る、ある意味非常に象徴的な場所でもあります。

その姿は、この地域より普遍的な作品を発信するということ自体の意味をさらに強めています。

映画『君がいる、いた、そんな時。』は2020年5月29日(金)に呉ポポロシアター、6月6日(土)横川シネマにて先行上映、6月13日(土)より新宿K’s cinemaほかで全国順次公開されます!

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