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Entry 2023/06/08
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【ネタバレ考察】怪物|ラストシーン/最後/結末解説。犯人の正体は誰?是枝裕和が炙り出す観客という“怪物の生みの親”

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『怪物』の意味から考察する“怪物”の正体は?

万引き家族』(2018)でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督と、『花束みたいな恋をした』(2021)の脚本家・坂元裕二がタッグを組んだ映画『怪物』。

郊外の町で起こった小学生たちの小さなトラブルが、双方の言い分の食い違いから大人たちを巻き込んだ騒動へと至る様を描いた本作。主演に安藤サクラを迎え、物語の中心人物となる少年たちを黒川想矢、柊木陽太が演じる他、永山瑛太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子と実力派キャストが揃いました。

「イジメをやっていたのは誰なのか」「ビルに放火したのは誰なのか」「“怪物”は誰なのか」……映画作中で描かれる犯人探し、そして“怪物”探しの果てに、監督たちが伝えたかったものは何だったのでしょうか。

本記事では映画『怪物』のラスト・結末における犯人探しと“怪物”探しの真相の解説とともに、その意味を考察していきます。

映画『怪物』の作品情報


(C)2023「怪物」製作委員会

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
是枝裕和

【脚本】
坂元裕二

【音楽】
坂本龍一

【製作】
市川南、依田巽、大多亮、潮田一、是枝裕和

【企画】
川村元気、山田兼司

【キャスト】
安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子

【作品概要】
花束みたいな恋をした』(2021)の脚本家坂元裕二のオリジナル作品を、『万引き家族』(2018)の是枝裕和監督が映画化。

中心となる二人の少年を演じるのは、黒川想矢と柊木陽太。安藤サクラ、永山瑛太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子ら豪華実力派キャストたちも集結しました。

本作は、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され脚本賞を受賞。また、LGBTやクィアを扱った映画を対象に贈られるクィア・パルム賞も受賞しました。さらに本作で使用されているピアノ曲2曲は坂本龍一が担当し、彼が手がけた最後の映画劇伴となりました。

映画『怪物』のあらすじ


(C)2023「怪物」製作委員会

大きな湖のある郊外の町である夜、雑居ビルが火事になりました。

自宅のベランダで火事を見ていた麦野早織(安藤サクラ)は、11歳になる息子の湊(黒田想矢)から「豚の脳を移植した人間は、人間?豚?」と奇妙な質問をされて戸惑います。担任の保利先生(永山瑛太)が、そういう研究があると話したと言います。

夫を事故で亡くしてから湊と2人で暮らす早織は、その話を聞いて以来、湊が自分でくせ毛の髪をハサミで切ったり、スニーカーの片方が無くなったり、水筒から泥水が出てきたりと、近頃の湊のことが気がかりでした。

ある夜、早織が帰りの遅い湊を車で捜し回ります。湊は廃線跡の暗いトンネルの中にいました。湊はまるで誰かと待ち合わせているかのように、スマホの懐中電灯の光をかざし、「かいぶつ、だーれだ」と叫び続けていました。

早織の車に乗り込んだ湊は走行中に突然、ドアを開けて外へ飛び降ります。幸い、軽い怪我ですみ、脳のCT検査も異常はありませんでしたが、湊は「湊の脳は豚の脳と入れ替えられた」と保利先生に言われたと涙ぐみます。

翌日、早織は小学校へ行き伏見校長(田中裕子)に、湊が保利先生からモラハラを受け、挙げ句の果てに殴られたと訴えます。しかし校長はどこか気もそぞろで、教頭と学年主任が現れると帰ってしまいます。愕然とする早織に、校長は先日まだ幼い孫を亡くし、その用件で……と教頭は説明します。

次の日学校から呼ばれた早織は、保利の謝罪を受けます。けれども、保利は明らかに嫌々という態度で、「誤解を生むことになって残念だ」と述べます。早織は誤解ではなく事実だと詰めよりますが、校長も早織の言い分をきかず、報告書を読み上げるだけでした。

数日たっても沈んだままの湊を見て、早織は再び保利と対峙します。すると保利は早織に「あなたの息子さんは、イジメやってますよ。家にナイフや凶器とか持ってたりしません?」と言います。早織は怒りに震えて帰宅しますが、湊の部屋に着火ライターがあるのを見つけて不安に駆られます。

次の日、早織は思い切って湊がイジメているという星川依里(柊木陽太)を訪ねます。星川はきちんと挨拶のできる大人しい子でしたが、彼の腕に火傷の跡があるのを見つけました。

けれども、依里は校長たちに「湊にイジメられたことはない」と証言し、さらに保利先生がいつも湊に暴力を振るっていると告げます。

数日後、小学校の集会室に保護者が集められました。保利先生が生徒への暴力を認めて謝罪し、地方新聞でも大々的に報じられました。

そして、しばらくして、巨大な台風が町に近づく朝、大雨の中突然湊が自宅から姿を消しました。

映画『怪物』の“怪物”探しが描くメッセージを考察・解説!


(C)2023「怪物」製作委員会

少年たちの“かけがえのない”関係性

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した映画『怪物』。なおクィア・パルム賞とは、性的マイノリティ、ひいてはLGBTという既存の性のカテゴリの当てはまらない性的指向や性自認を持つ人々「クィア」について描いた映画を対象に贈られる賞です。

静かな日常生活の中に潜む悪意を知らしめようとする本作の物語は、実力派キャストたちの怪演も相まって脚本賞を獲得するに相応しいものとなっています。そして悪意がはびこる物語の中で、泥に塗れながらも光を放っていたのは、湊と依里の関係性でした。

いじめられっ子の星川を湊は気にかけますが、それがいつの間にか、友情を超えた特別な気持ちに変わっていきました。

少年たちの関係性が一体どういうものなのかは最後まで明確には描かれていませんが、お互いの悲しみも怒りも憎しみも共有し得る、両者にとって“かけがえのない”関係性が少年たちに芽生えていたのは間違いありません。

“怪物”だらけの世界と、線路の先の“人間”の世界


(C)2023「怪物」製作委員会

映画のキャッチコピー「怪物だーれだ」による誘導から、『怪物』を観る人間は誰もが「“怪物”は誰なのか」という疑問とともに作中の登場人物たちを探ることになります。

しかし、観客は“怪物”探しを進めてゆくうちに、そもそも“怪物”とは結局「“非人間的”とも時に呼ばれる、人間性の負の側面」であり、作中の登場人物の多くはどこか“人間離れ”していることに気付かされます

喜怒哀楽のはっきりしない、幽霊のような校長先生。保身に走って保護者からのクレームに謝罪ばかりする教師たち。「自分の子どもには豚の脳みそが入っている」とまで言い、子どものことを理解しようとも寄り添おうともしない父親。“ケンカ”と称する別の何かが起きても、素知らぬふりをする同級生たち……。

「“非人間的”と時には批判する一方で、そんな人間性の負の側面を克服しようとする者は滅多におらず、ただ黙認を続けている」という人間の社会の現実を、是枝監督と脚本の坂元裕二は映画前半に詰め込みました。そして、いよいよ謎解きが始まる後半になって、お互いを憎からず思う湊と星川の本当の関係性が明かされます。

廃駅の奥に置き去りにされた廃線電車は、二人の秘密基地でした。胸の奥に家族はもちろん誰にも言えない秘密を抱える湊と、そんな湊の気持ちが同じような境遇だからこそ理解できた依里にとって、この秘密基地は心休まる場所だったのに違いありません。

一連の騒動の犯人探しを続ける周囲の大人たちに背を向け、「星川の転校」という形で終止符を打たれそうな結末に抵抗するかのように、二人は嵐の夜に秘密基地へ集まります

嵐の去った後、雨上がりの清々しい風景が広がります。廃電車から出た湊とは、水びたしの廃墟の狭い通路を抜け、橋にかかる線路に向かって笑いながら草むらを走ってゆきます。楽しそうに走ってゆく二人からは「今の瞬間だけでも“自由”でありたい」という純粋な気持ちが溢れていました。

線路はどこまでも続いていきますが、その先には何が待っているのでしょうか。少なくとも、お互いが持っていた人間性の負の側面を共有し、受け入れることで克服できた湊と依里には、自分たちが求める世界……“怪物”などどこにもいない、真の“人間”の世界がその先にあるのではと感じていたのかもしれません。

まとめ


(C)2023「怪物」製作委員会

映画のキャッチコピー「怪物だーれだ」や映画作中で描かれる「怪物だーれだ」の遊びによって、『怪物』を観る人間は“怪物”探し=物語の中で起こった諸々の事件の犯人探しへと誘導されます。

そして“怪物”探しを続ける中で本作における“怪物”という言葉の本質について気付かされる一方で、観客は同時に「人間に“怪物”を求める自分……人間が持つ“非人間性”を求める自分こそが、人間の社会に“怪物”をはびこらせている最大の原因であり、自分こそが正真正銘の“怪物”の正体なのではないか」という疑問へとたどり着くのです。

「怪物だーれだ」……その言葉はあくまでもただの問いであり、映画を観る観客に対して「怪物を探せ」とは一言も言っていません。しかし、観客は何のためらいもなく、映画を観るにあたって“怪物”探しを始めてしまいます。

人間性の負の側面……“怪物”を求めてしまう人間。それは映画のような創作物の世界だけでなく、現実の人間の社会においても同様であることは、映画『怪物』によって“怪物”を求める心に気付いた人間であり、「現実の人間の社会を生きる人間」でもある観客自身が証明することになります。

“怪物”を探す物語ではなく、観客に自身が人間に“怪物”を求める人間であり、自身こそが「“怪物”の生みの親」であることを気付かせる物語。それこそが、映画『怪物』が描いたものだったのです。






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