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映画『ギターはもう聞こえない』あらすじと感想。フィリップ・ガレルおすすめの愛の記憶を巡る究極の“私的映画”

  • Writer :
  • 加賀谷健

映画『ギターがもう聞こえない』が2019年4月27日より東京都写真美術館ホールにて公開

フランス映画界で現在も尚、ヌーヴェル・ヴァーグの精神を受け継ぐ孤高の映画作家フィリップ・ガレル。

ガレル監督の膨大なフィルモグラフィーの中期を代表する『ギターはもう聞こえない』(1991)は、日本初公開となる『救いの接吻』とともに2019年4月27日から公開されます。

“愛の記憶”を巡り、これまで絶え間ない創作を続けてきたガレル監督のひとつの集大成をなす『ギターはもう聞こえない』は、フランス映画の豊かさを雄弁に物語っています。

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映画『ギターはもう聞こえない』の作品情報

【公開】
1991年(フランス映画)
*日本公開は1994年、2019年公開

【原題】
J’entends plus la guitare

【監督】
フィリップ・ガレル

【キャスト】
ブノワ・レジャン、ヨハンナ・テア・ステーゲ、ヤン・コレット、ミレーユ・ペリエ、ブリジット・シィ、アヌーク・グランベール、フィリップ・モリエ=ジュヌー

【作品概要】
フランス映画の巨匠フィリップ・ガレルの中期を代表する作品。亡き妻との愛の記憶をなぞるかのように製作された本作は、フィルモグラフィー中でも特に自伝的な要素が強い作品です。

「トリコロール」3部作(1993〜1994)のブノワ・レジャン、『ザ・バニシング-消失-』(1988)のヨハンナ・テア・ステーゲが共演。

1991年の第48回ベネチア国際映画祭では銀獅子賞を見事受賞しています。

フィリップ・ガレル監督プロフィール

参考映像:『夜風の匂い』本編映像(1999)

1948年、フランス・パリ生まれ。16歳で学校を辞め、短編映画『調子の狂った子供たち』(1964)を発表し、批評家のジョルジュ・サドゥールに激賞されます。

19歳の時に監督した『記憶すべきマリー』(1968)がイェール映画祭で名優ミシェル・シモンに絶賛され、ヤングシネマ賞を受賞。翌年、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」の歌姫ニコと出逢い、1972年の『内なる傷跡』から彼女を主演に据え、私生活を共にしながら7本の作品を製作しています。

ニコとの破局後は、アンヌ・ヴィアゼムスキーを主演にした『秘密の子供』(1979)で商業復帰し、1982年のジャン・ヴィゴ賞を受賞。

モーリス・ピアラ、ジャック・ドワイヨンらとともに「ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ」の旗手として精力的に作品を発表し続け、1983年には、父である名優モーリス・ガレルを主演に据えた『自由、夜』で第37回カンヌ国際映画祭のフランス映画の展望部門にてグランプリを、前妻ニコの事故死に捧げられた『ギターはもう聞こえない』(1991)では第48回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞をそれぞれ受賞。

第62回ヴェネツィア国際映画祭で2度目となる銀獅子賞を見事受賞した『恋人たちの失われた革命』(2005)から息子ルイを俳優として本格的に起用し始め、その後も私小説的な作品製作を続けています。

映画『ギターはもう聞こえない』のあらすじ

海辺ののどかな町で共同生活を送るジェラール(ブノワ・レジャン)とマリアンヌ(ヨハンナ・テア・ステーゲ)、マルタン(ヤン・コレット)とローラ(ミレーユ・ペリエ)の二組のカップル。

毎日のように愛について語り合い、お互いの人生観を常に確認し合っている4人でしたが、そんな関係もある日破局を迎えます。

パリに戻り、それぞれの暮らしをまた再開していると、ジェラールの元にマリアンヌが戻ってきます。

よりを戻した二人は再び共同生活を始めますが、次第に生活は困窮していき、ドラッグに溺れてしまうが……。

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映画『ギターはもう聞こえない』の感想と評価

フランス映画の誘惑

フランス映画と言えば、オシャレなイメージがすぐに想起されますが、なぜ人はこれほどまでにフランス映画に惹かれるのでしょうか。

ルノワール、フェデー、カルネ、デュヴィヴィエ、それにコクトーとヴィゴ……。その名を連ねていくだけでもフランス映画が官能の歴史を歩んできたことがすぐに分かります。

そうした官能性が画面の隅々に脈々と流れ、先行するヌーヴェル・ヴァーグの意志を継承しつつも現代的な感覚で画面に定着させているのがフィリップ・ガレル監督です。

あの艶やかな画面の連鎖と忘れがたいショットの数々。ガレル監督の作品は、フランス映画の伝統として、いつでも映画をみることの純粋な喜びに気付かせてくれます。

ガレル監督の画面を支えるカロリーヌ・シャンプティエのカメラにも注目です。

今やフランス映画界を代表する名撮影監督であるシャンプティエのカメラは時に被写体が放つ一瞬の煌めきを逃しません。

それがあまりに生々しいのです。

人物がいる空間ごとひとつの画面の中に捉えてしまう桁外れたフレーミング感覚の持ち主で、ジャック・リヴェット監督やジャン=リュック・ゴダール監督の撮影監督も務めてきた彼女ならではの初仕事となりました。

監督とカメラマンの感性がこれほどまでに合致した作品も他にないでしょう。

集大成としての“私映画”

参考映像:『内なる傷痕』(1972)

ガレル監督は、その膨大なフィルモグラフィーで一貫して私小説的な作品を撮り続けています。

しかし重要なのは彼にとって映画は、自分を語るための手段ではない点です。

映画を撮ることによって実生活での相手を理解したいという願望が、映画と人生をほとんどイコールにしています。もはや映画が現実そのもので、人生が虚構なのかも定かではありません。

それはちょうど、自分たちは映画の中でしか生きられないと明言する『アメリカの夜』(1973)のフランソワ・トリュフォー監督さながらです。

映画によって人生の謎が少しでもときほぐされるのなら、カメラの前に立つことも厭わないガレル監督。

この度同時公開される『救いの接吻』(1989)には自分の妻と子ども、名優である父親をキャスティングし、主人公の映画監督を自ら演じています。

そうしたことを踏まえながら、ガレル監督が本作『ギターはもう聞こえない』を製作した動機を考えてみます。

まず、ある女性との出逢いがありました。

ガレル監督の場合、常によきパートーナーとの関係性がその作家性を保証しています。

アンディ・ウォーホルのミューズでもあった歌姫ニコとの結婚生活は決定的なもので、『内なる傷跡』(1972)にはじまるニコ主演の一連の作品群はフィルモグラフィー中でも重要な位置にあります。

彼女との破局がさらにガレル監督を映画へと向かわせていったことも見逃せません。

それほどまでの存在を得た作家の強さは言うまでもなく、ニコが1988年に事故死した時の衝撃は一人の芸術家の想像を超えていました。

彼女と過ごした短い共同生活の記憶が身体中を駆け巡り、そのひとつひとつを大切にたぐり寄せるうちに気付けばカメラのフィルムを回していて、記憶が鮮明になりながら、ひとつの映画作品が形づくられていきます。

映画が人生そのものであるガレル監督にとって本作『ギターは聞こえない』の製作は当然の作物だったのです。

まとめ

人と人の関係には、ちょっとした行き違いによって崩れてしまうもろさがあります。

ガレル監督が愛について考える時、そうした人間関係のずれにある“真実”を見落としません。

実生活での彼は、愛し、愛されという感情の摂理にある程度は従順でありますが、彼が自身の人生を顧みながら、いざカメラ回していく瞬間には一切の妥協も見当たらないでしょう。

ふたたび、愛とは何か。

孤高の映画作家の頭上をかすめる、ただそのひとつの問いだけが、その映画と人生を貫いているのです。

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