映画『イン・ザ・ハイツ』が、2021年7月30日(金)より全国ロードショー。
ミュージカル『ハミルトン』で注目を集めるリン=マニュエル・ミランダによるブロードウェイミュージカル『イン・ザ・ハイツ』を映画化した本作。
変わりゆくニューヨークの片隅に取り残された街・ワシントンハイツを舞台に、4人の若者の夢と苦悩が描かれます。
『クレイジー・リッチ』のジョン・M・チュウ監督が手掛け、『アリー スター誕生』のアンソニー・ラモス、『ストレイト・アウタ・コンプトン』のコーリー・ホーキンズ、シンガーソングライターのレスリー・グレイスらが出演しています。
CONTENTS
映画『イン・ザ・ハイツ』の作品情報
【公開】
2021年(アメリカ映画)
【製作】
リン=マニュエル・ミランダ、キアラ・アレグリア・ヒューディーズ、スコット・サンダーズ、アンソニー・ブレグマン、マーラ・ジェイコブス
【原作・作詞・作曲・音楽】
リン=マニュエル・ミランダ
【脚本】
キアラ・アレグリア・ヒューディーズ
【監督】
ジョン・M・チュウ
【キャスト】
アンソニー・ラモス、コーリー・ホーキンズ、レスリー・グレイス、メリッサ・バレラ、オルガ・メレディス、ジミー・スミッツ、ダフネ・ルービン=ベガ、グレゴリー・ディアス四世
【作品概要】
ニューヨークの片隅にあるワシントンハイツで生活をするウスナビ(アンソニー・ラモス)、バネッサ(メリッサ・バレラ)、ニーナ(レスリー・グレイス)、ベニー(コーリー・ホーキンズ)は、夢を追いながらもそれぞれ厳しい現実に直面していました。真夏に起きた大停電の夜、彼ら4人の運命が動き出します。『クレイジー・リッチ』(2018)のジョン・M・チュウが監督を手掛けています。
映画『イン・ザ・ハイツ』のあらすじ
ラテン系の移民が集まるニューヨークの片隅にあるワシントンハイツには、祖国を遠く離れた住民たちが、夢や希望を持って生活をしています。
コンビニのオーナーをしているウスナビ(アンソニー・ラモス)、ウスナビの親友でタクシー会社に勤務するベニー(コーリー・ホーキンズ)、成績優秀で、ワシントンハイツの住民の期待を背負い有名大学へ進学したニーナ(レスリー・グレイス)、ファッション業界で活躍することを夢見るネイリストのバネッサ(メリッサ・バレラ)は、夢を持ちながらも将来への不安を抱いて懸命に働いています。
暑さが厳しい夏のある日、ワシントンハイツを大停電が襲い、その日から4人の運命が動き出します。
映画『イン・ザ・ハイツ』の感想と評価
音楽とダンスで魂の叫びを表現
物語は、ワシントンハイツでコンビニのオーナーとして働くウスナビ(アンソニー・ラモス)が自らの半生を回想し、子どもたちに語り聞かせながら進んでいきます。
ウスナビを中心に、ベニー(コーリー・ホーキンズ)、ニーナ(レスリー・グレイス)、バネッサ(メリッサ・バレラ)4人の若者が抱いている夢と苦悩が描かれます。
祖国・ドミニカ共和国から夢と希望を持って家族とともにアメリカへ移住してきたウスナビですが、ニューヨークでの生活は厳しく、暮らしは楽ではありません。
真面目に働いていればいつか夢が叶う…そう信じて毎日を過ごしていますが、パッとしません。片思いをしているネイリストのバネッサをデートに誘うこともできず、親友のベニーにいつもからかわれています。
幼い頃から成績優秀で必死に勉強してきたニーナは、誰もがうらやむ名門大学・スタンフォード大学へ入学。夏休みを利用してワシントンハイツに帰省していました。
街中の人々がラテン系移民の代表としてこれから世の中に出ていくであろうニーナを大歓迎します。
ニーナに想いを寄せ、遠く離れてしまい寂しい気持ちがあるベニーは、ニーナの帰省を歓迎し、久しぶりの再会に浮足立ちます。しかしなぜかニーナの表情は暗く、大学で何か大きな問題を抱えているようです。
ネイリストのバネッサは、いつかファッションの世界で活躍することを夢見ています。そのためにワシントンハイツから出ていこうとするのですが、何の後ろ盾もないバネッサが「外の世界」を目指すには、いろいろな壁を乗り越えなければなりませんでした。
若くて将来をどのようにでも思い描いていけそうな4人に共通しているのは、他国からアメリカへ渡ってきた移民であること。
それが時に物事が思い通りにいかない最大の原因となるのですが、彼らはそのうっ憤を歌とダンスで爆発させます。
ヒップホップ、サルサ、R&B、ポップなど、実にさまざまな音楽がこの作品で披露され、これまでのミュージカル映画にはない音楽の多様性に驚きます。
さまざまな音楽をバックに見事なダンスが繰り広げられ、スクリーンにくぎ付けになります。そしてバックダンサーの多さに圧倒され、ラテン系のダンスが持つ独特の熱気にあっという間に包み込まれていきます。
「移民である私たちの声を聞いてほしい」そういう彼らの魂の叫びが歌とダンスによって表現されるのですが、どんなに重い問題を抱えていても、なぜか明るく感じてしまうのはラテン系の人々の陽のオーラがなせるわざなのかもしれません。
鮮やかに彩られる映像美
ミュージカル映画の見どころとなるのはもちろん歌とダンスですが、本作では「映像として美しくみせること」に対して、とことん追求していると感じました。
冒頭の主題曲「イン・ザ・ハイツ」で披露されるダンスシーンや、ウスナビがオーナーを務めるコンビニから当たりくじが出て「自分が9万6000ドルの当選者だったら」とプールで歌い踊る「96,000」の壮大な群舞、ニーナとベニーのデュエットダンスなど、躍動感があるだけでなく、色彩や映像の美しさに目を奪われます。
シーンごとに、色とりどりの衣装に身を包む出演者たち、青い空、街の象徴ともいえるジョージ・ワシントン・ブリッジ…。
SNSで有名アーティストがこの映画の美しさを絶賛していた理由が納得できます。
ワシントンハイツに住む人々の人生模様
4人の若者以外にも、世代を超えた人生模様が丁寧に描かれているのも本作の魅力です。街の若者たちの母親代わりであるアブエラ(オルガ・メレディス)、ニーナの父親で小さなタクシー会社を経営するケビン(ジミー・スミッツ)といった、ワシントンハイツの「ベテラン勢」もいい味を出しています。
ウスナビたちの上の世代として、異国で懸命に生きてきた彼らが放つ言葉は、含蓄のあるものばかり。
「忍耐と信仰を!」が口癖のアブエラが歩んできた人生がどういうものだったのか、タクシー会社の経営が厳しいながらも、成績優秀な娘・ニーナをなんとしてでも大学へ行かせるのだと頑張るケビンがどのような考えを持っているのかが描かれます。
真夏にワシントンハイツを襲った大停電。街がパニックに陥る中、ここに住むすべての人々の人生が少しずつ動き始めます。
それは若い世代だけでなくベテラン世代も同様なのですが、移民である彼らを支えているのは、祖国への想いと誇りであることが分かります。
アブエラが、悩むニーナにかけた言葉「世界に知ってもらうのよ。私たちの存在を」という言葉にグッときます。
まとめ
ニューヨークに住む移民の人々を描いたミュージカル映画といえば、1961年に公開された『ウエスト・サイド・ストーリー』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
『ウエスト・サイド・ストーリー』では、移民の不良グループが対立し、悲劇が起きてしまう物語が描かれましたが、その背景には根強い移民に対する偏見がありました。
60年後に公開される『イン・ザ・ハイツ』でも、相変わらず差別に悩む移民の人々が描かれています。何年経っても変わらないこの問題は、一体いつ解決するのか…。素晴らしい楽曲やダンスシーンに満たされながらも、本作を観ながらそんな難しいことを考えてしまいました。
唯一救いとなったのは、さまざまな国から集まってきた人々が住むワシントンハイツでは、グループ同士の争いがないことでした。
各々の国の国旗を手に、仲良く踊るシーンからも分かるように、お互いを尊重しながら助け合って生きているのです。60年前に比べると、少しは進歩しているのかもしれません。
音楽やダンスシーンが魅力的なだけでなく、アメリカが抱える根深い問題について、改めて考えるきっかけになる作品なのかもしれません。
映画『イン・ザ・ハイツ』は2021年7月30日(金)より全国ロードショー。