映画『グリード ファストファッション帝国の真実』は2021年6月18日(金)より全国順次ロードショー
映画『グリード ファストファッション帝国の真実』は、アパレル業界の裏側を痛烈に描いた問題作です。
人気ファッションブランドTOPSHOPを擁しながら2020年に経営破綻したフィリップ・グリーン卿をモデルにした一作ですが、ドキュメンタリーではなくギリシャ悲劇の引用や資本主義社会の闇に鋭く切り込んだ内容になっています。
マイケル・ウィンターボトム監督による皮肉が利いたストーリーに、スティーヴ・クーガンをはじめ『グランドイリュージョン』のアイラ・フィッシャーや、『24アワー・パーティ・ピープル』のシャーリー・ヘンダーソンなど実力派が揃ったキャスティングです。
CONTENTS
映画『グリード ファストファッション帝国の真実』の作品情報
【日本公開】
2021年(イギリス映画)
【監督】
マイケル・ウィンターボトム
【キャスト】
スティーヴ・クーガン、アイラ・フィッシャー、シャーリー・ヘンダーソン、エイサ・バターフィールド、デヴィッド・ミッチェル
【作品概要】
監督のマイケル・ウィンターボトムはイギリス出身の映画監督です。過去には、アフガン難民の少年によるロードムービー『イン・ディス・ワールド』(2003)でベルリン映画祭にて金熊賞を受賞。
他には、『日陰のふたり』(1996)、『ひかりのまち』(1999)、『めぐり逢う大地』(2000)など数々の作品を監督して数々の映画祭で評価されている人物です。
本作の主演のスティーヴ・クーガンとは『24アワー・パーティ・ピープル』(2003)ほか、『スティーヴとロブのグルメトリップ』(2010)、『イタリアは呼んでいる』(2014)、『スペインは呼んでいる』(2017)のグルメ取材シリーズなどでタッグを組み、本作で7作目の出演作となります。
スティーヴ・クーガンはBBCラジオのコメディ番組で人気に火をつけ、英国アカデミー賞やブリティッシュ・コメディ・アワードを受賞している実力者です。
テレビ番組や映画作品で幅広くその実力を評価され、共同脚本と製作に関わった『あなたを抱きしめる日まで』(2013)は英国アカデミー賞の脚本賞を受賞。米アカデミー賞では、作品賞にノミネートしています。
リチャードの元妻サマンサ役を演じたアイラ・フィッシャーは、俳優のサシャ・バロン・コーエンの妻であり、ガイ・ピアースやナオミ・ワッツ、ヒース・レジャーらが出演したテレビドラマ「HOME&AWAY」で知名度をあげました。
他出演作はマーク・ラファロやジェシー・アイゼンバーグと共演した『グランドイリュージョン』(2014)、レオナルド・ディカプリオ主演の『華麗なるギャツビー』(2012)、エイミー・アダムスとジェイク・ギレンホール主演の『ノクターナル・アニマルズ』(2016)など多数の出演作を誇る人気女優のひとりです。
他にも、母役のシャーリー・ヘンダーソンは「ブリジット・ジョーンズの日記」(2001-2016)シリーズや『ハリーポッターと秘密の部屋』(2002)、「トレインスポッティング」2作品など、大作に出演する人気女優として活躍中の人物です。
息子のフィン役を演じた、エイサ・バターフィールドはアカデミー賞5部門受賞の快挙を成し遂げた『ヒューゴの不思議な発明』やNetflixの人気ドラマ「セックス・エデュケーション」に出演している注目の俳優です。
映画『グリード ファストファッション帝国の真実』のあらすじ
ギリシャのリゾート地であるミコノス島でリチャード・マクリディ卿(スティーヴ・クーガン)の60歳の誕生日を祝う盛大なパーティの準備が行われていました。
リチャードはファストファッションブランドの経営者として成功をおさめた人物でしたが、脱税や金融取引、労働搾取などの問題で世間からの信頼やイメージが急落のピンチに立たされています。
イメージアップのために古代ローマ帝国風の闘技場のセットを作らせたり、豪華セレブを招待するなどして必死になっていたリチャードでしたが、なかなか上手くは行きません。
元妻のサマンサ(アイラ・フィッシャー)は、思春期の息子フィン(エイサ・バターフィールド)とリアリティショーに出演中の娘リリー(ソフィ・クックソン)を連れてミコノス島にやってきたものの、リチャードは家族とコミュニケーションを取るのも束の間パーティの準備に追われていきます。
リチャードの強気な母親マーガレット(シャ―リー・ヘンダーソン)はリチャードの自伝執筆のために雇われた作家ニック(デヴィッド・ミッチェル)に必ず良い物を書き上げるよう圧力を掛けていました。
ニックはリチャードの過去を知る人物らのインタビューや彼の商品が作られるスリランカの縫製工場に取材を行う中で、リチャードの知られざる横暴なビジネススタイルを目の当たりにしていきます。
そして、パーティスタッフであるスリランカ出身のアマンダ(ディニタ・ゴーヒル)から、彼女の母親の過去について知ったニックはさらなる憤りを抱えるようになり……。
映画『グリード ファストファッション帝国の真実』感想と評価
本作はファストファッション業界の闇をひとりの男の人生から暴くという物語ですが、ギリシャ悲劇の引用や、予想だにしないクライマックスからは、まさにブラック・エンタテイメントとしての毒気を感じられる映画になっています。
リチャードを通して描かれるアパレル業界の闇
本作は前半こそ、型破りながらもビジネスで大成した男の武勇伝を描くようなドキュメンタリータッチなものの、自伝執筆のために雇われた作家の視点が入ることで、アパレル業界や資本主義国家が抱える大きな問題が次々に明るみになっていきます。
そういう意味でいうと主人公はリチャードではなく、彼の自伝を書いていたニックだと言うこともできるのかもしれません。そして、この物語に欠かせないのはスリランカ出身のサマンサという女性のキャラクターです。
サマンサの母は、縫製工場で働いていた過去を持ち、その実情についてサマンサはニックに伝えることになります。そしてニックは、そのあまりに過酷な生活環境や不当労働について知っていく中でリチャードへの不信感を募らせていきます。
しかし、このニックのキャラクターが決して正義感に溢れるキャラクターではないというのが本作の持ち味だと感じました。彼は正すべき問題に直面していながらそれを変えようと行動に出るわけではありません。
それは、無知で無関心な消費者の姿を映しているようにも感じられます。ニックの視点でこの物語を観ることで、これは他人事ではないと改めて考えさせられるでしょう。
本作を観るときっと買い物をするのがおっくうになるかもしれません。しかし物が溢れるこの時代に、誰もが知っておくべき内容であり、気づきを与えてくれる映画だと言えます。
演技を引き出すための特殊な撮影方法
本作のキャストたちは、撮影方法について口々にその斬新さについて称賛しています。
アドリブ歓迎で、台本にあるセリフが終わってもカメラを回し続けるスタイルなので役者の自由な発想やその場の空気をそのまま映像に納めることを可能にしました。
ニック役のデヴィッド・ミッチェルは、唯一無二の体験をしたと語っています。
「もちろん必要なシーンを撮りながら撮影は進んでいくんだけど、同時に現場に入ると、いつも自分が何かのシーンに写りこんでいる。だから、常にアドリブで演技をしないといけないし、自分の役として過ごさなくちゃいけない。それって、役者にとってすごく楽しいことだし、開放感がある。そのシーンのセリフが終わってもカメラを止めずに、役者がアドリブするまで余白を残してくれる。」
この言葉を感じさせるシーンは本作を鑑賞していて、いくつかありました。朝食会場のシーンの、ある意味での狙っていないような写り込みや、映画全体を通して感じられるいい意味での「ゆるさ」がこういった撮影方法からくるものだと考えられます。
また、サマンサ役のアイラ・フィッシャーは、キャスト毎の控室がなく全員同じ部屋で着替えやヘアメイクを行っていたことについて、「まるでアドリブ強化合宿に参加しているみたいだった」と語っています。
このことからも、監督の撮影へのリアリティと自然体を映し出すこだわりを感じることが出来るでしょう。
そしてぜひ注目してもらいたいのが、リチャードの誕生日パーティにビデオメッセージを送った豪華セレブたちの登場です。お金のために自分の魂を売るセレブという立ち位置で自分自身を演じています。
しかし、実際は彼らは監督の作品のファンだという理由から、わずかな出演料で出演してくれたのだそうです。このビッグな顔ぶれから監督の人望の熱さが伺えます。
彼らの出演シーンはほんの数分ですが、ぜひ注目してみてください。
まとめ
本作にとって必要不可欠な登場人物だと言えるのがシリアの難民たちですが、実際の難民が出演しています。また、スリランカの縫製工場や従業員たちの住居も実際のものを撮影しており、あきれるほどの豪華絢爛なパーティ会場とのギャップを大いに感じられるはずです。
ストーリーは創造性に富んだ内容ですが、観る人に他人事と感じさせないリアルな現実を映した作品となっています。
映画『グリード ファストファッション帝国の真実』は2021年6月18日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開です。