置いて来た夢にもう一度向かい合う大人のためのおとぎ話
名優ケヴィン・コスナー主演の、野球を通して夢と希望を追う主人公を温かな視線で描く感動作。
フィル・アルデン・ロビンソンがウイリアム・パトリック・キンセラの小説『シューレス・ジョー』を実写化。多くの人々から愛され続ける名作として知られています。数々の映画賞も受賞した秀作です。
オスカー俳優のバート・ランカスターをはじめ、エイミー・マディガン、ジェームズ・アール・ジョーンズ、レイ・リオッタら実力派が出演。
ある日トウモロコシ畑で不思議な「声」を聞いた主人公のレイ。彼に語り掛けたのはいったい誰だったのでしょうか。そして、彼が求めたものとはなんだったのでしょう。
愛とロマンに満ちた不朽の名作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『フィールド・オブ・ドリームス』の作品情報
【公開】
1990年(アメリカ映画)
【原作】
ウイリアム・パトリック・キンセラ
【監督・脚本】
フィル・アルデン・ロビンソン
【出演】
ケヴィン・コスナー、エイミー・マディガン、ジェームズ・アール・ジョーンズ、レイ・リオッタ、バート・ランカスター、ギャビー・ホフマン
【作品概要】
『アンタッチャブル』(1987)『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1991)で知られる名優ケヴィン・コスナーが主演を務める名作。
ウイリアム・パトリック・キンセラの小説『シューレス・ジョー』を原作に、長編2作目となるフィル・アルデン・ロビンソンが監督・脚色を担当して生み出しました。
父との確執を抱えて生きる主人公・レイが、不思議な声に導かれて自分のトウモロコシ畑に球場を造り、今は亡き名選手たちと交流することで見失っていたものを見つけ出していくさまを幻想的に描きます。
『エルマー・ガントリー/魅せられた男』(1961)『山猫』(1963)の名優バート・ランカスターが実在の大リーガー、グラハムの老齢期を好演。本作が劇場公開映画の遺作となりました。
エイミー・マディガン、『グッドフェローズ』(1990)のレイ・リオッタ、『スター・ウォーズ』シリーズでダース・ベイダーの声を務めたジェームズ・アール・ジョーンズが共演。
映画『フィールド・オブ・ドリームス』のあらすじとネタバレ
トウモロコシ農家を営むレイ・キンセラは妻のアニーと娘のカリンと穏やかであたたかな生活を送っていました。
彼の亡き父は元野球選手でしたが芽が出ないままで、いつもベーブ・ルースや八百長疑惑で球界を追放されたシューレス・ジョーの話としていました。
農場を買い、まじめに生きてきたレイはある日、畑で不思議な声を聞きます。
「造れば彼がやってくる」
その声はレイにだけ聞こえ、妻にはなにも聞こえません。そんなある日、畑の向こうに野球場の姿が浮かび上がって見えました。
野球場を作ればシューレス・ジョーが来ると考えたレイ。何もしなかった父親のように意味もなく年をとりたくないという夫の思いを受け止めたアニーは、野球場を造ることに賛成します。
レイは娘に、くつずれができて途中からソックスだけで試合に出たためにジョーが「シューレス」と呼ばれるようになったことや、実際に八百長はしていないことなどを話して聞かせます。
周囲から変人扱いされながらも、レイは野球場を造り上げました。「きっとなにかがおこる予感がする」と言って喜びぶものの、その後家計は苦しい状況に陥ります。
そんななか、カレンが野球場に誰かがいることに気づきました。フィールドにいたのは、1951年に亡くなったはずのシューレス・ジョーでした。
映画『フィールド・オブ・ドリームス』の感想と評価
変わりゆくものと変わらないものすべてへの賛歌
公開以来、長いあいだ変わることなく愛され続けてきた不朽の名作『フィールド・オブ・ドリームス』。
父と息子の確執と雪解けや、自身の生活の糧であるはずの畑をつぶして球場を造るというロマンが、多くの観客の胸に熱い思いを呼び起こしてきました。
主人公は、元野球選手だった父に野球を教わり、シューレス・ジョーの話を聞かされて育ったレイ。『アンタッチャブル』(1987)や『ボディガード』(1992)などでタフガイを演じてきたケヴィン・コスナーが、等身大の男性を好演しています。
レイは14才で野球をやめ、17才で父に悪態をついて家を出ます。彼が父に投げつけたのは「犯罪者のシューレス・ジョーを敬うのは最低だ」という言葉でした。
幼かったレイはジョーが八百長したと思い込んでいました。しかし、大人になり八百長ではなかったことを理解した彼は、父への罪悪感を抱いており、謝りたい気持ちを持っています。
この後悔の念が物語の核となっていきます。しかし、この気持ちが彼自身にもはっきりわかるようになるのは、終盤にテレンスと自宅へ帰る途中のことです。
最初に球場を造る決心をしたとき、レイはこう言います。「父のように何もしないまま意味もなく年をとりたくないのだ」と。
父への反発心を強く持っていた彼でしたが、実際にジョーに出会い、テレンスと話して心の奥にあった本当の気持ちに気づいたことで、「痛みを癒せ」「最後までやれ」という不思議なメッセージの声が自分自身のものであることに気付きます。
最後に若き日の父と遭遇した時のレイのことばは、残酷な真実でした。彼は妻に言います。
「生活に疲れた父しか知らない。見てくれ。前途洋々とした独身時代の父だ」
本作は特に男性たちから大きな支持を得ていますが、もっとも胸に突き刺さったシーンのひとつではないでしょうか。
若き頃には誰もがなにかしらの夢を抱いて生きています。身ひとつだったら追えた夢もあったことでしょう。しかし年を重ねれば自身の限界を知るようになります。家族ができれば、彼らの生活を守るための苦労は生半可なものではありません。
変わっていったレイの父のジョン・キンセラは極めて普通の父親だったといえるのですが、若くして家を飛びだしたレイには、自身をすり減らしていくように生きる父の姿を見ることは耐え難いものだったにちがいありません。父が変わらざるを得なかったことをレイが理解するには、長い年月が必要でした。
作家のテレンスのことばは、それらの事実と対照的です。「変わりゆくアメリカの中で、変わらないのは野球だけだ。野球は時を超えて残った。だから人々は本能に導かれて、この球場へやってくる。」とテレンスは断言するのです。
一方で、「変わりゆくことにもすばらしさがある」と教えてくれるのは名優バート・ランカスター演じる老グラハムの存在です。
彼はたった一回与えられたメジャーの試合で結果が出せず、野球をやめて医師となりました。一度でいいからメジャーの投手と対戦したいという夢を抱き続けていたものの老齢を迎えた彼は医師としての生活と妻を心から愛しています。若返って打席に立ち夢を果たした彼は、笑顔で自分のいるべき場所へと帰っていくのです。
変わらねばならないものの悲しみ。変わっていくことのすばらしさ。そして変わらずにいてくれるものへの感謝と愛。そのすべてが美しく交じり合い映し出された稀有な一作といえるのかもしれません。
まとめ
大人になった人々の背中をそっとあたたかく押してくれる、愛と夢にあふれた名作『フィールド・オブ・ドリームス』。
若きころの夢は素晴らしいものですが、年を重ねたからこそ踏み出せる夢もあるのかもしれないと感じさせられます。
自分自身のなかに存在する、変わってしまったものも、変わらずにあるものもすべて抱きしめて生きていきたくなる、そんな作品です。
トウモロコシ畑の中から出てきて夢をかなえていくたくさんの選手たち。あの中に入っていった作家のテレンスも、いつかきっとすてきな作品を抱えて出てくることでしょう。
この作品は、「みんなどんな夢をあきらめずに持ち続けていればいいんだよ」とこれからもずっと語り掛け続けてくれるに違いありません。