笑いを武器に東日本大震災と向き合う『永遠の1分。』は2022年3月4日(金)よりロードショー!
映画『永遠の1分。』は、『カメラを止めるな!』(2017)の上田慎一郎が脚本を、同作の撮影監督だった曽根剛が監督を務めたヒューマンドラマ。
主演を『コンフィデンスマン JP』(2019)の執事役で知られるマイケル・キダ、主題歌とヒロイン・麗子役をカリスマラッパーのAwichが務めます。
東日本大震災と真摯に向き合い、“笑い”がもたらす癒しの力で困難や葛藤を乗り越えていく姿を描く一作す。
映画『永遠の1分。』は2022年3月4日(金)よりロードショー!
上田慎一郎ならではのユーモア感覚と伏線回収が見事な極上エンターテイメントをご紹介します。
映画『永遠の1分。』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【脚本】
上田慎一郎
【監督】
曽根剛
【出演】
マイケル・キダ、Awich、毎熊克哉、片山萌美、ライアン・ドリース、ルナ、中村優一、アレキサンダー・ハンター、西尾舞生、渡辺裕之
【作品概要】
脚本を大ヒットコメディ『カメラを止めるな!』(2017)の上田慎一郎、監督を同作の撮影監督だった曽根剛が務めるヒューマンドラマ。
困難に立たされている世界中の人々の力になってほしいという思いで東日本大震災と真摯に向き合って生み出された一作です。
主演を『コンフィデンスマン JP』のダー子たちの執事役で知られるマイケル・キダが務めます。
主題歌とヒロイン・麗子役を務めるのはカリスマ的存在感を持つラッパーのAwich。
そのほか、毎熊克哉、ライアン・ドリース、片山萌美、渡辺裕之ら国際色豊かな実力派が顔を揃えます。
映画『永遠の1分。』のあらすじとネタバレ
「いっしょに」と誘う男に、ごめんなさいとこたえる黒髪の女。
なぜかと問われた彼女は、日本に夫がいることを告げます。
「家族を亡くしたと聞いていた」という男に、もう一度謝り、去って行く女。「レイコ!」と男が名を呼びますが、彼女は足を止めませんでした。
すると、そのタイミングで外から「動くな!」という声がします。振り返ると銃口が狙っていました。
男性は慌ててホールドアップの姿勢をとりましたが、実は外で映画の撮影をしていただけでした。
「もうちょっとこんな感じで、セリフの後で銃を撃ったら」と演技指導する監督のスティーブ。
そこにパトカーが現れます。パトカーの出番は明日のはずだと訝しがるスタッフたちでしたが、それが本物の警察だったので大さわぎとなります。
許可を取り忘れたと上司のアルに謝るスティーブたち。しかし、いつもトラブルばかり起こすスティーブにカンカンのアルは、「限界だ!」と言って自然災害のドキュメンタリーを撮る任務を与えます。
テーマは2011年の日本の大震災でした。
スティーブは了承して相棒のボブと日本行きの飛行機に乗り込みます。しかし本当は、10年も経ってもうだれも気にしていない震災の撮影は難しかったと言い訳して、ニンジャ映画を撮るつもりだったのです。
2019年7月の東京。ボブとスティーブは、通訳の小林レイナと共に街の人々にインタビューをして回りますが、だれもが震災を忘れかけていました。
風化しかけている311の撮影は難しいと考えながらも、ふたりはその後東北を訪れます。まだ続く大工事の様子をみつめながら、ネックレスを握り考え込むスティーブ。彼はドキュメンタリーを撮ることを決心します。
大地震が起き、「ジュリア!起きろ!」という叫び声がしたところで、悪夢から目を覚ましたスティーブ。
彼は広場で演劇練習をしている人々に気づきます。彼らが津波に巻き込まれるシーンを練習していることを女性記者から聞かされ、「表現が不適切ではないか」と意見すると、彼女は「じゃあぜひ観に来てください」と言うのでした。
水族館の中で行われた芝居の本番。震災の半年後から毎年やっているという演目に、涙したり笑ったりする観客たちをみつめるスティーブ。彼の心には何かが芽生えていました。
そば屋で話し合うスティーブとボブ。311のフィクションコメディを作ると言うスティーブに、ボブは「正気か?」と怒ります。
戦争コメディもあるじゃないかと言うスティーブに、自然災害は違うと反対するボブ。
そこにそばと特大おにぎり「スマイルボール」が運ばれてきます。震災後に作られるようになったメニューで、「食べるものがなくても笑ってほしい」という思いで作ったら人々が笑ってくれたといいます。
笑顔でおいしそうにかぶりつくスティーブに、ボブは「わかった。どんな映画を作るんだ?」と聞くのでした。
リサーチに出かけた3人は、説明を聞きながらバスで被災地を回ります。厳しい事実を知るスティーブたち。
危険なのに人々はなぜまた帰ってくるのか聞いたスティーブに、ガイドは「忘れてしまうんだと思う」と答えます。
津波の映像の恐ろしさを観た3人は、涙を流さずにいられませんでした。「命はたったひとつだから」というガイドの声が響きます。
いろいろな人たちからの話を聞くスティーブたち。
部外者が映画を作ることについてどう思うか聞くと、「興味を持ってくれるだけありがたい。でも精神的にしんどくなる映画を積極的に観ようとは思わないかも」という答えが返ってきました。
「なんども死のうと思ったが、カレーのいい匂いがしてやめた」という男性。再度死のうとしたけれど、足元で寝ぼけた少年が側で立ちションするのでまたも諦めたと言い、その少年は命の恩人だと笑います。
おもちにわさびをつけたという思い出話に大笑いする人たちもいました。そうでもしないと気持ちがめいっちゃうからだったと話します。
笑いの大切さに気付いたスティーブは、「これだよ!復興に奮闘する人々のコメディを作るんだ!」と奮い立ちます。
しかし、いくつも制作会社を訪問して回ったスティーブたちは、どこからも冷たく断られてしまいます。
レイナを頼るのはここまでにしようと決断するスティーブ。
言葉も通じずに苦戦するふたりのもとに、以前出会った女性記者・マキから連絡が入ります。
映画に賛同するマキは、記事にしてもいいかと聞きます。ボブは炎上を恐れましたが、事実を書くという彼女を信じてスティーブは承知しました。
徹夜で仕上げた記事を、上司の近藤に渡したマキ。しかし彼女が仮眠している間に、近藤が勝手にスキャンダラスな記事に書き直してしまいます。
被災地の人間だった近藤は、マキをはじめ、部外者が震災に触れることを忌み嫌っていたのです。
発売された中傷記事を見て「最悪だ」といって傷つくスティーブ。ボブはひとりで先に帰国します。
スティーブも帰国しようと、空港にタクシーで向かいます。ラジオから聴こえる女性の歌声について、運転手と話し始めるスティーブ。アメリカ在住だという彼女は311の地震で息子を失い、仕事で留守していたためひとり生き残ったといいます。
彼女の名はレイコといいました。
映画『永遠の1分。』の感想と評価
震災に向き合う意味と難しさ
本作を生み出したのは『カメラを止めるな!』(2017)の名コンビの上田慎一郎と曽根剛です。
国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得した実力者の上田は同作で劇場長編デビューし爆発的ヒットとなりました。
撮影監督を務めた曽田は第42回日本アカデミー賞優秀撮影賞を受賞しています。
企画が持ち上がったのは2013年頃。監督を務めた曽根は被災者でもない自分が3.11を描くことに関しては、正直後ろめたい気持ちが少なからずあったといいます。
曽根剛から「3.11を題材にした映画の脚本を書いて欲しい」と依頼を受けた上田も自分は部外者だという感覚があったそうです。
しかし、3.11を書く資格はなくとも、「3.11を題材にしたコメディ映画を創る人の話」であれば書けるかもしれない思い直したそうです。
大地震、大雨や台風、感染症。世界で起きる様々な困難を乗り越えるためには、前を向く力、ユーモアが必要だと信じている上田は、この映画が困難に立たされている世界中の人々の「力」になればと願って書いたと語っています。
同じ葛藤が作中でも描かれます。3.11を題材にドキュメンタリーを撮ろうとする完全な部外者であるアメリカ人のスティーブ。
部外者が震災に触れる行為を憎んでいる被災当事者の近藤は、スティーブに敵意をむき出しにして、躊躇なく中傷記事を書くのです。
スティーブに取材された男性にも印象的なセリフがありました。部外者が映画を作ることについてどう思うかと聞かれたときの言葉です。
「興味を持ってくれるだけありがたいけれど、精神的にしんどくなる映画を積極的に観ようとは思わない」と。
被災地のジレンマをくっきりと浮かび上がらせるセリフです。
コメディだからという理由で、スティーブは配給会社から全部断られてしまいます。コメディなんてとんでもない、シリアスならいいですよ、と。
その気持ちはよくわかります。しかし、それではもしかするとずっと腫物扱いされるばかりなのかもしれません。
「なぜ危険とわかっていてまた帰ってくるのですか?」と聞いたスティーブにガイドが答えます。「忘れてしまうんだと思う」と。
あまりにも悲しい答えです。戦争と同様、私たちは震災についても語り続けなければいけないということがよくわかります。一番大切なのは「風化」させないことではないでしょうか。
人間にとって、笑いと涙は両方ともとても大切なものです。どちらも苦しいときに心の圧を抜いてくれる大きな効果があります。
日本人は人前で涙をみせるのが苦手かもしれません。でも一緒にみんなで笑うことはきっとできます。
突然現れたニンジャを見て一斉に咲いた人々の笑顔には、明るい未来を期待させてくれる力がありました。
上田と曽根のふたりからの強いメッセージが感じられる大切なワンシーンとなっています。
魂を震わせるAwichの圧巻の歌声
笑いで困難にある人たちを力づけたいというはっきりしたコンセプトを持つ本作ですが、それでもやはり、人々の心にはずっと変わらぬ深い哀しみが存在し続けることでしょう。
だからこそエンディングには、レイコの歌うレクイエムが必要でした。
レイコを演じているのは、カリスマ的存在感を放つラッパーのAwichです。自ら脚本・監督を務めた短編映画『Aimer』やヒップホップドキュメンタリーへの出演もしています。
息子を震災で亡くしたレイコは、ひとりアメリカで暮らし始めます。しかし、放射能がうつると誤解する人々から差別を受け、ウェイトレスとして働くことも難しい状況です。
優しいオーナーの「歌は人を殺さないが、人を救うことはできる」という言葉や、地震で家族を亡くしたスティーブの「忘れなきゃ、前に進めない」という言葉が、歌うことを拒絶していた彼女の背中を押します。
彼女がその後披露する歌声は圧巻です。
「君なしでは息ができない この胸の中へ戻ってきて ほかには何も要らないから」
と切々と訴えかける歌声に、初めは冷たかった聴衆も思わず心からの拍手を送ります。
ラストで、10年ぶりに新曲を配信で披露するレイコ。先にいってしまった愛する息子に向かって語りかけます。
「でもあなたは その美しい羽を広げ 飛び立ちなさい」
亡き人を見送り、自分はもう少し「ここに残る」ことを受け入れること。
そこからやっと心の再生は始まるのだということについて、改めて考えさせられる一作です。
まとめ
『カメラを止めるな!』の上田慎一郎と曽根剛がタッグを組んで生み出したハートフルなヒューマンドラマ『永遠の1分。』。
被災地の復興を願うとともに、あらゆる苦難に向き合っている人々に笑いで力を与えたいという思いから生み出されました。
パンデミック、戦火、自然災害など数多くの困難に直面している今だからこそ、多くの人に観てほしい珠玉の一作です。