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Entry 2018/08/22
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ゾンビ映画の開祖ロメロの発明と『カメラを止めるな!』の革新性と情熱とは

  • Writer :
  • 白石丸

公開前から試写や各国の映画祭で話題沸騰、6月23日に公開されて以来は映画ファンの枠を超えて一大ムーブメントとなっている作品『カメラを止めるな!』。

本作はわずか300万円で作られた超低予算映画。本作の上田慎一郎監督がTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」に特集ゲストとして呼ばれた際に、同時期に公開されたハリウッド大作の『ハン・ソロ』を2秒も撮れないと思うと言ったことも話題になりました。

本作はなぜここまで話題になり評価されているのか。この記事では独自の解釈で考察していきます。

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ゾンビジャンルの歴史の上に成り立った革新性


(C)ENBUゼミナール

このポスターを最初に見たとき、あなたはどんな印象を受けたでしょう。

「プロットはわからないけど低予算ゾンビ映画なんだろうな」でしょうか。

一般的に多くの人たちは、思いっきりポスターにゾンビが載せらてるし、主演っぽい人がカメラを持ってるから映画撮影中に、本物のゾンビ映画に襲われる映画なんじゃないかという感じでしょう。

それは本作の前半だけ語るなら正解です。しかし、実際には本作は「ワンカットゾンビ映画を作る作り手たちの奮闘」を描いた映画です。

しかもこの作品は、ゾンビを扱った映画の中でも、今まで誰も思いつかなかった手法で成功を遂げた作品です。

ゾンビ映画の父、開祖ジョージ・A・ロメロの影響

参考記事:『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)

ロメロ監督の発明①「ゾンビ」

ゾンビ映画の歴史を一度振り返ってみると、モダンゾンビの映画というのは、ジョージ・A・ロメロ監督が作り始めてからずっと一貫性があるジャンルです。

1968年に公開した『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』では以下の特徴が見られます。

・ゾンビは何らかの異常現象で甦った死体
・ゾンビは人間を見つけると襲い掛かり人肉を食らう
・ゾンビは知能はほぼなく条件反射的に行動する
・ゾンビに噛まれると噛まれた人間もゾンビ化する
・ゾンビは頭をつぶさない限り行動を停止しない

このように、ゾンビ映画の基本ルールをジョージ・A・ロメロ監督は発明したと言ってもよいでしょう。

ロメロ監督の発明②怖いのはゾンビではない

参考映像:『ゾンビ(Dawn of the Dead)』(1978)

この作品はカルト的人気を集め、さらに10年後の1978年に作られた『ゾンビ』が世界的に大ヒットし、ゾンビというモンスターとロメロ監督の名は誰もが知る存在になります。

ロメロ監督が作った基本ルールは、その後のゾンビ映画でもほぼ共通で使われており、『バイオハザード』などにも多大な影響を与えました。

昨今ではテレビドラマシリーズ『ウォーキングデッド』が世界的に絶大な人気を誇っています。

しかもロメロ監督は自身が発明したアイデアに対して、著作権を取らず、後続の作家たちがそれを二次利用するのをどんどん推奨していきました。

ロメロ監督が著作権を所有していれば、莫大な富を手にしていたでしょうが、それよりもゾンビというジャンルが発展すること、そこから新たなクリエイターが生まれていくことを望んだのです。

だからこそ、ゾンビ映画というジャンルはここまで発展したのでしょう。

またゾンビの基本ルールを作った以外に、ロメロ監督の功績がもうひとつあります。

ゾンビという存在を通して、人間の本質やその時代性の社会問題を描くという手法です。

彼の映画ではゾンビが万延している極限状況で人間の本性がむき出しにされ、“本当に恐ろしいのはゾンビよりも人間だ”というメッセージを突きつけてきます。

また、劇中で“ゾンビとして描かれている存在は本当は何を指し示しているのか”という問題提起も常に付きまといます。

現代を無気力に生きる庶民たちのメタファー、あるいは出る杭を叩く集団心理の象徴、または身近な人間がある日突然変わってしまうことかの恐怖、その他にも、いずれ必ず訪れる人類滅亡の具現化など、様々な解釈ができる要素を含んでいます。

このような社会性を盛り込むことで、ゾンビ映画はただのホラーではなく、社会性にアプローチした深みのある作品になっています。

ロメロ監督自身もゾンビの可能性を模索

参考映像:『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005)

ゾンビ映画は映画ファンに広く愛され、ロメロ監督の後続の作家でゾンビ映画を撮って成功した作家も多々います。

彼らは皆ジョージ・A・ロメロを非常に尊敬していますし、彼が作ったゾンビ映画の精神性を作品に盛り込むことを強く意識してきました。

本当はロメロに対してアイデアの使用料を払わなければならない所を彼は許してくれているのだから、せめてリスペクトは払うべきという考えもあるでしょう。

しかし、ロメロ監督は2005年のゾンビ作品『ランド・オブ・ザ・デッド』では、「ゾンビが意思を持って人間に良いようにやられている現状に怒りを覚え、徒党を組んで人間社会に攻め込んでくる」という新しいゾンビ映画の境地を切り開きました。

ロメロ監督自身も自分が作り出したゾンビというジャンルの可能性を模索していたのではないでしょうか。

ロメロ監督の死と『カメラを止めるな!』誕生


(C)ENBUゼミナール

開祖ロメロ監督は道半ばで2017年7月16日に肺がんで他界し、多くのホラー映画やゾンビファンが悲しみました。

遺作は2009年公開の『サバイバル・オブ・ザ・デッド』で、8年にも渡り作品が撮れていなかったことになります。

2017年8月号の雑誌映画秘宝でロメロ追悼特集が組まれ、「ゾンビ論」などの著書で知られる日本のゾンビ研究・ロメロ研究の第一人者の伊東美和氏は、「ロメロはゾンビ映画のゴッドファーザー。彼の死はゾンビ・ジャンルの大きな節目になる」と執筆しています。

時を同じくして、2017年の夏に『カメラを止めるな!』の撮影が行われていました。

6月後半、強行スケジュールで撮影を終え、7~10月で編集作業という流れだったそうですが、その間の7月にロメロが死去し、上田監督はそこで「偉大な先人たちに後押しをされている気がした」とインタビューなどで答えています。

10月に映画は完成。作り手たちは不安を感じていたそうですが、最初の関係者試写から映画は大評判になります。

2018年4月からはイタリアのウディネ映画祭でも上映が行われ、ミッドナイト上映で観客が5分間のスタンディングオベーション。シルバー・マルベリー(観客賞第2位)を獲得しました。

その後は南米最大級のファンタスティック系映画祭「ファンタスポア2018」で最優秀作品賞を受賞。続く各国の映画祭に招待されて大評判を呼びます。

そして同年6月に国内公開されると、周知の成功を収めています。

上田監督は夢のような体験だったと語っていますが、まさしく彼もロメロのように低予算から映画史を更新する作品を生み出したのでしょう。

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上田慎一郎監督の新たなゾンビ発明


(C)ENBUゼミナール

『カメラを止めるな!』は、上記したようなゾンビジャンルの軛から解放されています。

それは以下の新たな特徴を付け加えました。

・ゾンビ映画を撮る舞台裏のストーリー
・ゾンビという存在自体には象徴的意味を持たせていない
・誰一人死なず、ストーリーにしっかり決着をつけて超ハッピーエンド

これは今までになかった要素で大勝利を収めましたといえます。

ロメロ監督の影響下で、いわば手垢のつきまくったゾンビジャンルのみならず、映画ジャンル全体に大きな風穴を開けたといえるでしょう。

『カメラを止めるな!』を見て、「映画ってまだまだ可能性いくらでもあるじゃん」と勇気をもらった作家は多いはずです。

溢れ出る映画愛と無名の先人たちへのリスペクト


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映画『カメラを止めるな!』はゾンビという存在に、意味を持たせていないと先ほど述べました。

ゾンビというジャンルは低予算映画の代表格で、なおかつそれを1ショットで撮るという設定がより斬新に見えるから使われているだけかもしれません。

映画を鑑賞した人はそういう印象を受ける方が多いでしょう。

しかし、この映画のゾンビにもロメロ監督が生み出した型のように実は象徴性があります

何を象徴しているかというと「今まで低予算映画で夢を叶えようとしてきた作り手たち」です。

かつて作られ続けた有象無象のゾンビ映画たち

ゾンビに限らずホラー映画というのは、低予算で一山当てる可能性が高いジャンルです。

有名な俳優を使う必要もないですし、1つのアイデアを広げて作れて、シチュエーションが限定的でも撮れる。演出力があればいくらでも勝負できる映画の作り手としてはチャンスのある土俵です。

完成度が映画ファンから認められば、話題が広がり、大ヒットする事も珍しくありません。

近作では『イットフォローズ』(2014)や『ドントブリーズ』(2016)、『ゲットアウト』(2017)などの作品の予算に対しての驚異的なヒットぶりも記憶に新しいでしょう。

そしてその中でもゾンビ映画というのは低予算で作れるホラーの定番です。

かつてロメロ監督は「ゾンビは労働者階級のモンスターだ」と語りました。

古典ホラーに出てくるモンスターの吸血鬼や狼男は、ヨーロッパの古城や満月の夜といった特殊な舞台建てが必要ですがゾンビは要りません

また貞子のようなその人特有の特殊能力や、ドラキュラ伯爵やジキル氏のようなカリスマ性も必要ないのです。

ゾンビはゾンビに噛まれれば誰でもなれるし、誰にでも噛み付いたり食べたりする敷居の低い平等なモンスターなのです。

衣装は何でもいいし、メイクも顔色を悪くして血糊を付けるだけでも最低限ゾンビっぽくなります。

ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』も『ゾンビ』も地元の人や、知人に協力してゾンビをやってもらって撮影したという逸話があります。

そうやってすべての人がなれるモンスターだからこそ、人間社会全体を象徴させられる題材でもありました。

それゆえに駆け出しの作り手たちがまず手を出す題材になりやすいのですが、しかしそこから成功できるのはほんのひと握りです。

『カメラを止めるな!』の劇中作のタイトルは、『ONE CUT OF THE DEAD』ですが、『~オブ・ザ・デッド』というタイトルの映画は巷に溢れかえっています。

みんなゾンビに夢を託して、ロメロ監督のようになりたくて作品を作ってきたのです。

もしくは金儲けしか考えてないプロデューサーや、スタジオのいいなりになって作らされた不本意な作品も多いでしょう。

一握りの成功したゾンビ映画の影に、それこそ死屍累々の駄作の山ができていきました。

粗製濫造されてきたジャンルの積み重ねがあるからこそ、『カメラを止めるな!』は面白い映画になったといえます。

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ジャンルの積み重ねが生んだ面白さの仕掛け


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『カメラを止めるな!』の前半37分ワンショットのゾンビストーリーは、映画ですらなく専門チャンネルの中継ドラマです。

おそらく見てる人間なんてほとんどいないでしょうし、ソフト化なんて夢のまた夢でしょう。

ワンショットという斬新さはありますがそれもグダグダですし、内容は今まで粗製濫造されてきたゾンビ作品の典型みたいなもので、はっきり言って面白くはないです。

後半でそのゾンビ映画パートをどう撮ったのか解明されていくにつれ、映画はどんどん面白くなっていきます。

観客に「うわ、これ今まで見てきたような新鮮味ないゾンビものをワンカットでやってるだけじゃん」と思わせておいて、後半に「こういう背景があってこうなったのか!面白れ~!!」となるのがこの映画のキモです。

前半をつまらなく感じさせることに貢献しているのは、映画上の演出だけでなく、これまで作られたおびただしい数のゾンビ映画の積み重ねの歴史という要素があります。

『ONE CUT OF THE DEAD』という劇中の微妙な作品、登場するゾンビたちは今までのゾンビ映画、そしてそれの作り手たちの象徴なのです。

しかもこの過去の粗製濫造されてきたゾンビ映画という要素は、ただの前振りではありません。

クオリティは関係ない!作り手たちの熱い思い


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『カメラを止めるな!』が映画ファンも同業者の作り手たちも虜にしているのは、「どんな作品にも作り手の情熱と思いと工夫が詰め込まれている」ということをハッキリと描いているからです。

お金がなくても、
プロデューサーやお偉いさんにあれこれ言われても、
キャストの注文がうるさくても、
トラブル続きでも、
そもそもが無謀な企画であっても、
見てくれる人がほとんどいなさそうでも、
それでもいい作品が作りたい!
自分がかつて憧れたあの名作たちに近づきたい!

そんな作り手の思いを形にした作品です。

それは上田監督やスタッフやキャストたちの本当の思いでしょうし、かつて映画作りを志した人たちも皆んな持っていたものではないでしょうか。

トラブル時プロデューサー古沢に「そこそこでいいですから。誰も見てませんよ。」と言われて、「見てるでしょうが!」と怒鳴ってしまう主人公の日暮。

ただのドラマの1シーンでも子役が目薬で泣きの演技をするのが許せない娘の真央。

役者は引退したと言いながら台本をついつい読み込んでしまい、スイッチが入ると熱演のあまり周りが見えなくなる妻の晴美。

この家族3人を中心にバラバラだったスタッフやキャストが、最後には一丸になって、トラブルを乗り越えてその段階でのベストの作品を作り上げる。

もがきながら映画を作る様子そのものを、本作『カメラを止めるな!』は最高のエンターテイメントに昇華させました。

出来上がった作品がどんなものであれ、それにかけた情熱には無条件で価値が有る、そんなことを感じさせてくれる映画です。

まとめ

本作『カメラを止めるな!』でも当たり前のように使われているゾンビ映画の基本ルールは、ジョージ・A・ロメロ監督が発明したものです。

ロメロ監督はゾンビを愛し、映画を愛し、ジャンルの発展を望んで後進の作家たちが自分のアイデアを利用することを推奨してきました。

成功作、失敗作様々なものを生み出した功罪のあるジャンルですが、開祖ロメロ監督の死から1年、そして1968年にモダンゾンビが誕生した『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』制作から奇しくもちょうど50年後、こんな映画そのものの歴史を動かすような作品が生まれたのです。

ロメロもこんな作品の誕生を待ち望んでいたでしょうし、きっと天国で喜んでいるでしょう

本作は表向きの映画史には残っていないような作品の作り手たちの情熱も、それこそゾンビのように甦らせて、観客たちにどんどん感染させているのです。

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