映画『ブラック・クランズマン』は2019年3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
1970年代後半、アメリカコロラド州のコロラドスプリングズで黒人として初めて警察官に採用されたロン・ストールワース。
彼が自身の体験を基に執筆した書籍『Black Klansman』を原作に映画化。
1979年、白人至上主義団体“クー・クラックス・クラン(通称KKK)に黒人とユダヤ人警官が潜入した衝撃の実話を、スパイク・リー監督がユーモアを交ぜて描いていきます。
主人公ロン・ストールワースを演じるのは名優デンゼル・ワシントンの息子のジョン・デヴィッド・ワシントン。
ユダヤ人警官フリップ役には『スター・ウォーズ』のカイロ・レン役でおなじみのアダム・ドライバー。
ロンと親密な仲になる女性、パトリス役は『スパイダーマン:ホームカミング』で注目された新星ローラ・ハリアー。
映画『ブラック・クランズマン』の見どころを監督スパイク・リーという人物に焦点を当てて掘り下げてご紹介します。
CONTENTS
映画『ブラック・クランズマン』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【製作】
ジョーダン・ピール
【脚本・監督・製作】
スパイク・リー
【キャスト】
ジョン・デビッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、ヤスペル・ペーコネン、コーリー・ホーキンズ、ライアン・エッゴールド、マイケル・ジョセフ・ブシェーミ、ポール・ウォルター・ハウザー、アシュリー・アトキンソン
【作品概要】
実在の黒人刑事が白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」潜入捜査した実話を基にしたノンフィクション小説をニューヨーク派の映画監督として知られるスパイク・リー監督が映画化。
主人公ロン役を名優デンゼル・ワシントンの実子ジョン・デビッド・ワシントンが務め、相棒フリップを「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバーが演じています。
第71回カンヌ国際映画祭でプレミア上映され審査員特別賞を受賞。第91回アカデミー賞では作品、監督など6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞しました。
スパイク・リー監督のプロフィール
参考映像:『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1985)
スパイク・リーは1957年3月20日生まれ、アメリカ合衆国・アトランタ出身。
ブルックリンの高校を卒業後、モアハウス大学やニューヨーク大学のティッシュ・スクール・オブ・アートで映画を学びました。
1985年に商業映画に挑戦した『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』は、翌年のカンヌ国際映画祭で上映され、新人監督として世界中から注目を集めます。
1989年の『ドゥ・ザ・ライト・シング』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされ、1997年のドキュメンタリー映画『4 Little Girls』では長編ドキュメンタリー賞にノミネートされました。
その後、これらの功績が認められ、2015年にはアカデミー賞名誉賞を獲得しました。
現在もニューヨーク州のブルックリンを拠点に、製作会社「40 Acres and a Mule Filmworks」で活動。
スパイク監督の母校で終身教授として、映画や芸術の講義をに立っています。
参考映像:『マルコムX』(1992)
主な監督作品には、『スクール・デイズ』(1988)、『モ’・ベター・ブルース』(1990)、『ジャングル・フィーバー』(1991)、『マルコムX』(1992)、『クルックリン』(1994)、『クロッカーズ』(1995)、『ガール6』『ゲット・オン・ザ・バス』(ともに1996)、『ラストゲーム』(1998)、『サマー・オブ・サム』(1999)。
2000年代以降には、『25時』(2002)、『セレブの種』(2004)、『インサイド・マン』(2006)、『セントアンナの奇跡』(2008)、『オールド・ボーイ』(2013)などがあります。
映画『ブラック・クランズマン』のあらすじ
1979年、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署。
ロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、初の黒人刑事として採用されました。
しかし、ロンは同僚であるはずの白人刑事たちから冷遇されてしまいます。
そんな中、捜査に燃えるロンは情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に勢いのまま電話をかけます。
自ら黒人でありながら、電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返しながら、入団の面接までこぎつけて話を進めてしまいます。
そのできごとに署内が騒然として思うことはひとつ。“KKKに黒人がどうやって会うんだ?”
そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立ちます。
電話はロンがおこない、KKKとの直接対面はフリップが担当。二人で一人の人物を演じることになりました。
そんなロンとフリップの任務は、過激派団体KKKの内部調査と潜入操作の行動に出たのですが…。
映画『ブラック・クランズマン』の感想と評価
置きに行った2019年のアカデミー賞
第91回アカデミー賞の結果を受けて、やはりというべきか、怒った人がいました。『ブラック・クランズマン』の監督スパイク・リー監督です。
いわく、「誰かが誰かを乗せて運転する」と負ける。
これは自身が初めてアカデミー賞にノミネート『ドゥ・サ・ライト・シング』が『ドライビング・MISS・デイジー』に敗れたことを揶揄した発言です。
2019年のアカデミー賞は結末でミソをつけました。
Netflixの配信作品『ROMA』、かつてスパイク・リーが“百合のように白い”と語った人種問題を経てノミネート作品に名を連ねた『ブラック・クランズマン』『ビールストリートの恋人たち』、そしてアメコミ映画という枠を越えてアメリカ映画史に名を残す作品となった『ブラックパンサー』。
これらの作品を抑えて最終的に『グリーン・ブック』がアカデミー作品賞に選ばれたのです。
参考映像;『グリーン・ブック』(2018)
『グリーン・ブック』もまた、黒人差別の問題、LGBTの問題を抱えた作品でしたが、監督が白人でした。
リベラルにリベラルにと回っていたアカデミー賞が最後の最後に置きに行ったというか攻めの姿勢を忘れてしまったと見えてしまう選択をしてしましました。
更に残念なのが『グリーン・ブック』自体は大変すばらしい、多幸感に包まれた良作だということです。本来なら、間違ってもこんな言われ方をする作品ではないというところです。
実に哀しく、残念な流れとなってしまいました。
そして、早速、スパイク・リーが怒ったわけです。
反骨のニューヨーク派監督スパイク・リー
参考映画:『ドゥ・サ・ライト・シング』(1989)
今は亡きプリンスをオマージュした紫のスーツに身を包み、『ドゥ・サ・ライト・シング』で登場させ、LOVE&HATEの指輪(映画『狩人の夜』が元ネタ)をはめてやってきた、(意外にも)小柄の黒人の男。
同じく黒人としてアカデミー賞脚色賞を受賞したことを興奮気味に発表したプレゼンターのサミュエル・L・ジャクソンに抱き着いた男。
その男こそ、反骨のニューヨーク派監督であり、黒人監督でもあるスパイク・リー。
ブレイク作は『ドゥ・サ・ライト・シング』、そしてデンゼル・ワシントンに伝説的な黒人活動家を演じさせた『マルコムX』でしょう。
その後も『サマー・オブ・サム』『25時』等々攻めを感じさせる作品を続けてきました。
ところが最近では少し丸くなったというか、そうしないと作品が作れなくなったというか(実際にここ10年の日本劇場未公開作品は5本もあります)かつての切れというや言動の過激さのわりには安定志向の作品が続きました。
直近では確かに向いている題材ではありましたが、『オールド・ボーイ』のリメイク版などを撮っていました。
そんなかつての攻めの映画作家が、以前のような切れ味を復活させたのが『ブラック・クランズマン』でした。
白人優位原理主義過激派「クー・クラックス・クラン(KKK)」に潜入捜査した黒人警官の実話を自由自在に脚色した本作。
現在のトランプ政権に対してもにらみを利かせるバリバリの社会派であると同時に、ブラックな笑いにブラックエンタテインメントネタをたっぷりと振りかけた娯楽作品に仕上がりでした。
結果としてカンヌで審査員特別賞(『万引き家族』の次点)受賞、そして、スパイク・リー監督に初めての正式な部門でのアカデミー賞受賞(脚色賞)を受賞という大成功を収めました。
正式なと書きましたが、実は演技部門が白人で独占され“百合のように白い”と語った2016年のアカデミー賞で、彼は功労賞を贈られています。
もちろんと言うべきか抗議のために授賞式には出席しませんでした。
そんなことから見れば、2019年のアカデミー賞の授賞式に、まずスパイク・リーがいること自体、かなりレアなことでありました。
ニューヨーク派の映画監督
アメリカの映画界にはニューヨーク派と呼ばれる映像作家たちがいます。
文字通り、ニューヨークを拠点にする監督たちで、西海岸のハリウッドのアンチテーゼ的な存在となり、その独自の立ち位置から発信される作品は多くの映画ファン、そして映画人を魅了してきました。
もともと、ニューヨークはアメリカのエンタテインメントの発信源でもあり、映画以外の音楽やテレビ、そしてブロードウェイに代表される舞台などからは多く作品が生み出されていきました。
そんな土壌を持つニューヨークから映画監督が登場するのは自然な流れで、シドニー・ルメット、ジョン・カサヴェテス、マーティン・スコセッシ、ブライアン・デ・パルマ、そしてウディ・アレンです。
彼らはハリウッドから程よく距離をおき、スタジオの干渉を避けながらニューヨークを舞台にした作品を作り続けました。
アカデミー賞を筆頭に彼らの才能に評価を与える者は多かったのですが、それに対してもどこか醒めて、一歩引いた立場をとっていました。
通算で24回のアカデミー賞ノミネートを受けたウディ・アレン。そんな彼が『アニー・ホール』で作品賞・監督賞を受賞した際にも彼は授賞式には訪れず、いつもの店でクラリネットを吹いていました。
9・11直後の授賞式でニューヨーク関連作をまとめた特別プログラムの紹介役として、彼がアカデミー賞授賞式に登壇した時は驚かされました。
そんな独自の立場を持つニューヨーク派の監督であると同時に、“黒人”でもあるスパイク・リーはより一層の独立心、反骨心を更に持つようになりました。
それまでの黒人映画監督は今以上に狭き門でしたが、スパイク・リーは80年代にデビューすると着実に実績を拡げ、彼らの居場所を開拓し続けました。
『ブラックパンサー』『クリードチャンプを継ぐ男』のライアン・クーグラーや『ゲットアウト』のジョーダン・ピールの成功もスパイク・リーが築いた実績あってのものと言っていいでしょう。
まとめ
2008年の『セントアンナの奇跡』以来10年間で日本公開作品が『オールド・ボーイ』だけと寂しい状況が続いていいたスパイク・リーでしたが、アカデミー賞の中心作品となった『ブラック・クランズマン』で復活の兆しを見せました。
原作は主人公のモデルとなった人物が自身の体験談を意外な程に淡々と語っているのですが、これを文字通りブラックな笑いとサスペンス、そして映画ファンならくすっと笑ってしまう小ネタを交えて大きく映画用に脚色しました。
黒人だけでなくいわゆる非白人全体への差別を敢えて黒人監督が描くことで、そこにある根源的なものを露にしました。
エンディングでは一転して現代の映像のコラージュが始まります。
特に人種差別を訴えるデモに白人至上主義者の運転する車が突っ込んだ事件の映像をたっぷりと盛り込み、その後にトランプ大統領の“中には良い人もいる”という発言を交えました。
トランプ政権に対しての痛烈なNOというメッセージです。
アカデミー賞での“メキシコとの壁にお金は出さない”発言や、『記者たち』『バイス』などに込められたアメリカ第一主義を揶揄する表現でなどなど、ハリウッドは明確に現体制にNOという立場をとるようになりました。
ある意味、トランプ政権という敵対するに十分な存在が登場したことでアメリカ映画人の反骨心に火が着いたのかもしれません。
実際に黒人大統領のオバマ政権時代とスパイク・リーの苦戦した時期は重なっていますから…。