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映画『アイミタガイ』原作ネタバレあらすじと結末の感想評価。キャスト黒木華のハートフルな演技力に期待

  • Writer :
  • 星野しげみ

中條ていのハートフルな連作短編集『アイミタガイ』が映画になりました!

「定刻の王」「ハートブレイク・ライダー」「幸福の実」「夏の終わり」の4つの物語が最後の「蔓草」で一つになる連作長編小説『アイミタガイ』。

作者が描き出す、気づかないほどのふれあいがそれぞれの人生を大きく動かしていくという心温まる連作短編集です。

このたび、『彼女が好きなものは』(2021)の草野翔吾監督がこの小説を黒木華主演で映画化。親友を失った女性を中心に思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇となりました。

映画『アイミタガイ』は2024年11月1日(金)に全国ロードショー!

映画公開に先駆けて、小説『アイミタガイ』をネタバレありでご紹介します。

小説『アイミタガイル』の主な登場人物

【小山澄人】
定時定刻の通勤列車を利用している生真面目サラリーマン

【樋口敦俊】
優秀な学力を持ちながら中学受験に失敗した小学6年生の少年

【稲垣範子】
ホームヘルパー。お客である小倉こみちをブライダルイベントのピアノ演奏者に推薦

【郷田優作】
事故で死んだカメラマンの娘・叶海の父親

【穐村梓】
9歳の時の両親の離婚というトラウマを抱える女性

小説『アイミタガイ』のあらすじとネタバレ


中條てい『アイミタガイ』(幻冬舎文庫)

定刻の王 

毎朝同じ電車の同じ車両に乗る会社員の小山澄人。大人しく目立たない小心者ですが、優しい男性です。同じ会社の依田順子の紹介で、穐村梓と交際を始めて5年になります。

澄人は、毎朝きっちり同じ習慣に基づいて通勤しています。行き帰りの電車内で見かける人は大抵同じメンバーです。

ある日、澄人が立っている前の座席で気持ちよさそうに座席で眠り込んでいる常連男性を見つけました。いつも自分と同じように定刻の同じ車輛に乗っている男性です。

眠っている男性が下りるはずの駅が近づき、澄人は声をかけることもできませんが、持っていた文庫本を下に落としました。

その音ではっと起きた男性はあわてて閉まりかけたドアからホームへ駈けだしました。

そして澄人はホームから自分の方へ向かって、「かたじけない」と武士のように手をあげる男の姿を見ました。

ハートブレイク・ライダー

合格確実だった英光中学に落ちてしまった樋口敦俊。塾に報告に行かねばなりませんが、「絶対合格」と言われていただけに、その口惜しさは半端ではありません。

自分よりも塾の成績が悪かった明石君が合格したと母親の連絡網で知り、ますます落胆します。夕方から行われる塾の祝賀会にも行く気がしません。

塾の先生や仲間たちにどんな顔をして報告すればよいのかわからず、とりあえず家を自転車で出たものの、猛スピードで飛ばしていたら、いきなり曲がり角で同じようにフルスピードで走ってきた自転車と衝突しました。

相手の男性は逃げ出しましたが、なんとそいつはひったくり犯でした。

偶然にも自転車が倒れた拍子に相手がひったくったバッグが敦俊の手に飛んできて、敦俊は走って追ってきたバッグの持ち主・69歳の星野政恵に返すことができました。

政恵はひったくりから助けてくれたお礼だと言い、敦俊の自転車を「岡田サイクル」に修理に出し、ファミレスでお昼ご飯をご馳走してくれました。

そこで敦俊は中学受験に失敗したことを話しますが、政恵に受験に失敗するなんて長い人生でなんでもないことだからと、慰めてくれました。

政恵の話が効いたのか、傷ついた敦俊の心はいつしか癒され、塾の祝賀会に出席することにしました。

幸福の実

トラブルメーカーのホームヘルパー稲垣範子。今回請け負ったのは、一人暮らしの90歳の小倉こみちの家での仕事です。

一週間に2日ほど訪ねて、家の清掃をします。あまり話をしないこみちでしたが、範子は家の中にピアノがあるのに気が付きました。

あとで聞いた話では、こみちは15歳の時にパリへピアノ留学していたそうです。ですが、戦争が激しくなり政情も不安になったので、2年ほどで帰国し、母の郷里へ疎開していたと言います。

こみちさん、ピアノ弾くんだと驚く範子。折しもその頃、ウエディングプランナーをしている姪の中川千香子から、来月の式でピアノを弾いてくれる人を探していると言う話を聞きました。金婚式のイベントのピアノ担当者が急に入院したというのです。

咄嗟にこみちのことが頭に浮かんだ範子。千香子に言うとすぐに連絡を入れてほしいと言います。恐る恐るこみちに相談すると、こみちは何の迷いもなく「弾きます」と言いました。

金婚式をあげる2人もこみちと同世代です。戦時中のお2人の悲しい体験などをこみちに話したので、こみちも何か通じるものがあったのでしょう。

金婚式当日、90歳のこみちは素晴らしい演奏をみせてくれました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『アイミタガイ』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『アイミタガイ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

夏の終り

カメラマン娘・叶海を事故で亡くした元学芸員の郷田優作のもとへ、叶海が借りていたアパートから郵便物が転送されてきました。

差出人は山梨県の児童養護施設「サンシャインハウス」。中には子どもたちが書いたと思われる手作りのカードが入っていました。

優作は養護施設へ連絡いれ、養護施設の理事・羽星と話すことができました。

それによると、撮影の仕事で養護施設を訪れた叶海が撮った、何でもない日常生活のワンカットの写真が子どもたちの心を開いてくれたと言うのです。

以来、クリスマスと子どもの日に叶海は施設にケーキや柏餅を送っていたのだそうです。

優作の家を訪問して、子どもを喜ばせた叶海が撮った写真を見せてもらい、自然な振る舞いの中でこんないい笑顔があるのかと、優作と妻の朋子は感動しました。

その後優作と朋子は、叶海が残した写真をまとめて施設に預けてギャラリーを作ってもらいました。また、叶海の遺産も施設に寄付しました。

蔓草

小山澄人の恋人の穐村梓は、9歳の時の両親の離婚が傷になり結婚に踏み切れないでいました。

梓は毎年夏のお盆の頃に自分が9歳まで暮らし、現在は祖母が一人ですんでいる実家を訪れます。子どもの頃に住んでいた町は変わらないようでいて少しずつ変化していました。

今年も祖母を訪れた梓。そこへ異母弟の圭吾が祖母に頼まれたお使い物を持ってやって来ました。梓の父は梓が小さい頃に不倫をし、圭吾が相手に出来たため、梓の母と離婚したのでした。

梓は相手に罪がないとは知りながらも、圭吾がどうしても好きになれません。大きくなってから事情を知った圭吾も同じような思いなのでしょう。

祖母から食事を勧められて食卓を囲みながらも「あっちの子」「そっちの子」とお互いに気まずい呼び方をする2人に、祖母は「あなたたちは姉弟なのよ」と、たしなめます。

盛り上がらない食事中、隣の家の住人が「火事だ」と駆け込んできました。

火事騒ぎのドタバタでなんとなく話すようになった梓と圭吾。その後、一冊の絵本の話になり、梓も自分の幼少期を思い出します。

圭吾と触れ合うことが出来た梓。放りっぱなしの恋人・澄人に対して温かな気持ちが蘇ります。

祖母の家から帰宅する途中、澄人に連絡をとり、彼が駅まで迎えにきてくれることになりました。

小説『アイミタガイ』の感想と評価

2014年に斎藤緑雨文化賞長編小説賞を受賞した中條ていによる小説『アイミタガイ』は、5つの小さな物語が最後に一つになる短編集

それぞれの物語の主人公は、みな些細なことで悩んだり落ち込んだりして、人生の迷子になっています。

一見平穏に暮らしているようですが、自分の悩みを抱えたまま前進できず、一歩を踏みだす勇気もなく、立ち止まったまま……。

ですが、いつしか見知らぬ人の思いが巡り巡って、主人公たちの硬く閉ざされた心を叩き、彼らは進むべき道を辿り始めます。

気づかないほどの細やかなふれあいが誰かの心をそっとゆらし、それぞれの人生を大きく動かしていきます。大きな奇跡は起こりませんが、今自分たちが出来る最高作を彼らは自分の手で見出していきました。

素朴だけれどポジティブな5つの物語を読むと、温かな気持ちになります。それは、きっと主人公たちのその後が明るいものと思えるからに違いありません。

最後の「蔓草」の主人公・梓が生まれ育った故郷の町には、それまでの物語で登場した人物たちが住んでいました。

噂話で名前が出て来るご近所さん的な登場の仕方ですが、それでも人と人との繋がりは、こんな小さなところでもあるのだと思えることでしょう。

映画『アイミタガイ』の見どころ


(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

小説では5つの物語からなる『アイミタガイ』ですが、映画では登場人物の関係をまとめ、主として「夏の終り」と「蔓草」、それに「幸福の実」を加えて作られています。

主役の梓を演じるのは、『せかいのおきく』(2023)『イチケイのカラス』(2023)などで圧倒的な存在感を示した黒木華。

梓の職業はウエディングプランナーという設定で、その親友として藤間爽子演じるカメラマンの叶海が登場します。

また、梓の恋人・澄人を中村蒼、叶海の母朋子を西田尚美、父優作を田口トモロヲが演じ、草笛光子が高齢のピアニスト・こみちと、実力派のキャスト陣が勢ぞろいしました。

予告動画では、風吹ジュン扮する梓の祖母が「アイミタガイ」と言いますが、果たしてそのような人生模様が展開するのでしょうか。

原作と作品の構成を少し変えても、タイトルの「アイミタガイ」の意味は変わりません。‟一期一会の連鎖で繋がる温かな出会い”を、草野翔吾監督はどのように演出するのかと、期待は高まります

映画『アイミタガイ』の作品情報


(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

【日本公開】
2024年(日本映画)

【原作】
中條てい『アイミタガイ』(幻冬舎文庫)

【監督】
草野翔吾

【脚本】
市井昌秀、佐々部清、草野翔吾

【製作総指揮】
堤天心

【キャスト】
黒木華、中村蒼、藤間爽子、安藤玉恵、田口トモロヲ、風吹ジュン、草笛光子

まとめ

中條ていの連作短篇集『アイミタガイ』を、草野翔吾監督がベテランの黒木華を主人公にして、5つの小さな物語から一つの映画にまとめ上げました。

映画『アイミタガイ』は2024年11月1日(金)に全国ロードショー! 

短編の物語一つ一つは、どれも平凡に生きてる人々の細やかな悩みや戸惑いが描かれています。

最後の章で以前に登場した人物たちがご近所さんとして出てきたりと、人はどこかで繋がっているという演出が巧みな小説でした。

「アイミタガイ」は「相身互い」。タイトルに使用されている言葉の深い意味がしみじみと伝わってきます。

小説のコンセプト‟人と人との温かな繋がり”は、映画になってもほのぼのとした思いを抱けるだろうと期待します



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